第311話 現場で試す新たな魔術の可能性です




 魔法に関して僕は、戦闘時の即応性に欠けるといっても、やっぱり気になる要素だから、ずっと勉強は続けてきた。


 だから知識的には、これから試みることは決して不可能じゃないと分かってる。けど―――




「(本当に可能なのかな?)」

 理論上は可能でも、現実に出来るかどうかは別だ。むしろ不可能な事の方が多い。


 ただでさえ難しいのに、簡単な魔法でさえこれまで試してきて上手くできた事のない僕が、こんな大変な時に思いつきだけでやっていいんだろうか……?


 ジージッ


< ~……~…~、~…… >


 ジジジッ


「(まただっ。何か断片的な……これって前世の記憶?)」

 まるでやれと急かすかのように脳裏に浮かぶ、不鮮明な映像。


 断片的だけど―――見えるのは魔法使いのようなキャラクター? 中世風な感じの世界風景?? 何かのゲームのワンシーン???


 ……浮かんだ映像から、前世で中世ヨーロッパ風なMMORPGを思い出す。そういえば何作かプレイしたっけと思い出す。



 だけどゲームと現実じゃ全然違うはずだ。ゲームでの知識なんてアテになるはずもない。

 なのに―――


 ジジジッ


< ……~、~……、……~… >


 ジジッ


「(弱気になったり、否定的な事を考えるたび、かしてくるように浮かんでくる……それにこの感じ、頭が焼けそうっ!)」

 僕はわかったから!やればいいんだろう! と、誰にだか分からない答えを頭の中で念じた。

 すると途端に浮かび上がってこなくなる。それでよしと言われてるような気がして、何だかとってもに落ちない気分になった。


 だけどまた頭が焼けるようなあの感覚は、正直気分のいいものじゃないから、僕は腹をくくって、閃いたやり方を実行しようと決めた。



  ・


  ・


  ・


「そ、そのような事が可能なのですか殿下!??」

 シールド魔法を張っている魔術兵さん達が驚く。現職にして現場で魔法を使う人達でさえ、にわかに信じられない僕の案―――そりゃそうだよね、僕だってまだ上手くいく自信なんてないもん。


「やってみる価値はあると思います。上手くいかなくとも、現状に大きなマイナスはありませんし、逆に上手くいけばアイリーンの負担も軽くなります。特にヴェオスの配下の魔物達への対抗には十分な効果が得られるでしょう」

 僕の言葉に、難しい顔をしながらもしばし考え込み、まだ完全に納得はいってなさそうながら、魔術兵さん達は殿下の御発案には逆らえない、と言う諦めにも似た様子で折れたようで、互いに意志を確認・統一するように頷きあった。


「分かりました、やってみましょう。ですが、敵に気取られる可能性もございます、万が一の際、殿下は速やかにこの場から離脱を」

「ええ、もちろんです。ハバーグさん、撤退準備はしておいてください」

「はっ、はい。了解しました殿下」


 僕はゆっくりと小さな瓦礫の山をのぼると、そっと戦場を覗いた。


 ヴェオスはまだアイリーンと一騎打ち状態。しかも他の魔物達も全員、アイリーンの方に注意が向いていて、こちらには背を向けいる状態。


「(状況は文句なし……後はコレを成功させられるかどうかだ)」

 僕は皮袋の口のあたりをしっかりと握って、瓦礫の山を滑り降りる。


 魔法陣のところまで来ると、魔術兵さんが準備してくれていて、あとは実行あるのみの状態だった。


「詠唱は済みましたが、こんなに短い詠唱では……」

「いえ、それで十分です。今回行うことそのものは、原理上さほど複雑なものではありませんからね」

 僕は魔法陣を見下ろす。そこに兵士さんの一人が杖を持って来て、差し出してきた。


「魔力が宿っております。これで殿下の御発案通り、書き足す・・・・ことが出来るかと」

「ありがとうございます。では、あまりモタモタしていて状況が変わってはいけませんから、早速やってみましょう」

 そう言って、僕は杖の先端を地面に置いた。そのまま引きずり、魔法陣の中に線を加えていく。


「(既に発動してる魔法陣……ここに後から書き足して、キチンと狙い通りになるかどうか………)」

 書いた線の輝きが既存の部分の輝きと違う。これが同じ輝き方にならなくっちゃ、書き足した線が魔法陣に組みこまれたとは言えない。



「ここから……どうしたら??」

 困った。いきなり失敗?



 ジジジジッ


< ~~……、…~……~…… >


 ジジッ


「(~~!! 分かったから、それやめてっ)」

 一体何だというんだろう? 分からないけれど、おかげで解決方法が判明した。


 僕は杖の先端を、線と線が繋がり交差してる箇所へとにじりつけ、グリグリと回してハッキリとした 点 を追加した。すると―――


「!! おぉおっ、まさか??」「ほ、本当に??」「これは、完全に組み込まれているっ」


 驚く魔術兵さん達。魔法に詳しくない他の兵士さん達は、何が何やらと困惑気味の様子だ。


「これは……上手くいくかもしれません。僕がコレ・・を入れましたら、詠唱をお願いします」

「「「ハイッ!!」」」




 魔術兵さん達の返事を待って、僕は早速皮袋の栓を開き、中身を魔法陣の上へと落とす……落ちていくは赤い液体―――それは他でもない、シェスクルーナの血の残りだった。




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