第298話 城を包囲する体制の完成です
本格的な攻城戦が始まった。
「いかにヴェオスが強力な魔物と化したとはいえ、どうやらあの魔物どもを駆逐するは骨が折れるようだ、今が好機ぞ!」
メイレー侯爵が兵達に檄を飛ばす。城の南側を半包囲する形で展開し、城壁のあちこちを破壊。
各所で突入路を広げつつ、城という建造物そのものを破壊していくかのように、工作部隊が立ち回るのを、突入部隊が支援する。
『グギギギッ、うっとオしイ人間どもメ!』
魔物たちが迎撃してくるも、先刻までの連携力や勢いはない。城外の魔物達はもちろんのこと、城内もまた大混乱の極みにあったからだ。
最初の崩落で瓦礫の下敷きになった魔物も少なくない上に、指揮官であるはずのヴェオスが手下をまとめるための行動をとっていない。
魔物たちは完全にまとまりを欠いていた。
「片っ端からぶちのめせ、今がチャンスなんだぞっ」
「「「おおおーっ!!」」」
オフェナが兵達の士気を鼓舞し、自らも次々と襲い掛かる魔物を吹っ飛ばす。城内に突入した隊に援軍を送りつつも、南の包囲が解けないように気を使う。
単なる一兵卒ではなく、隊長であるがゆえのもどかしさを感じながらも彼女は上手く戦闘と指揮を両立していた。
「壁が薄くならないよう、注意しつつ展開を! 今のうちに城の外に出ている魔物を駆逐しますよっ」
「「「おおうっ!」」」
北陣のハバーグが小まめに隊形を変更しながら、城外部に出ている魔物達を潰していく。基本は殴って退がるの繰り返しだ。城には近づきすぎないようにしつつ、確実に削っていく。
「前進! 城との距離を狭めよ。無理に突進はするな、敵を押し、城と挟んで潰すような距離感を意識せよっ」
「「「ははーっ!」」」
メイレー侯爵の本陣が1歩1歩距離を詰めていく。一気に前進するのではなく、魔物達を駆逐しながらのジリジリとした前進だ、相手からしたらさぞ嫌な感じだろう。
実際、迫る軍勢のプレッシャーにあてられて、焦れた魔物が単騎で無防備に突撃をかけてくる。そうした迂闊なものを確実に駆逐しながら、メイレー侯爵本陣は城正面へと迫った。
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「―――以上が各地の状況です、殿下」
「ありがとうございます、いずこも優勢なようで何よりです」
伝令の話を聞きつつ、メイレー侯爵が南経由でこちらに回した戦力およそ300の兵士さん達を眺める。
これで一応は、北東から城正面、南半分、そして城裏手の西側まで包囲した形になる。
北と北西は必要ない。その方角から大型の魔物達を突っ込ませたのだからヴェオス側はそちら方面に抜けることはしばらくはできない。
なので実質、ヴェオスの小城は完全包囲された状態にあるといってもいい。だけど……
「可能であれば、速やかな城の南側制圧が望ましいところですね……」
頭の中で描いた現在の各配置状況。それを考えると、ヴェオス側があの大型の魔物達への対応を終える前に、崩壊した北側に追い詰める形まで戦力を詰めたい。
北側は、シェスクルーナの血に興奮した大型の魔物達が散々に暴れてくれたおかげで拠点としてはもはや使い物にならない状態だ。
それどころか、瓦礫が散乱して身動きのとりづらい状態になってる。ここにヴェオス達を追い詰め、改めて兵士による完全包囲を行えれば……
「(ううん、それは人間相手の戦略だ。ヴェオス達は魔物……包囲するのがどこまで有効か分かんないな)」
人間の軍勢を相手にした戦いじゃない。敵は魔物だ、考え方をもっと柔軟にしないと。
「旦那さま~」
僕が頭を振って一度思考をリセットしていると、アイリーンが走ってくる。送られてきた兵のとりまとめをお願いしていたけど、どうやら終わったらしい。
「アイリーン。どうです、戦力の方は?」
「うん、配置も陣の設営もだいたいできましたよー。騎兵80、歩兵270で全部あわせて350人です」
350……数としては少ないけど、まだアイリーンがいる事を考えれば戦力としては問題ない。
だけど包囲網全体から見たら、僕達のところが一番手薄なのは事実だ。
「意見を聞かせていただきたいのですが、もし魔物達が大挙してこちらに押し寄せてきたとしまして、アイリーンを除く兵士さん350名で、どれほどの規模でしたら対応可能でしょう?」
「うーん……決して弱くないとは思うんですが……100ちょっとが限界だと思います。ヴェオスのような、頭一つ抜けてる強い個体が混ざってたら持ちこたえるのは無理だと思います」
ヴェオスクラスに関してはしょうがない。万がいても兵士さんだけでどうにか出来る気がしないもん。
それに、アイリーンが遠目から見たヴェオス以上の魔物が事実なら、メイレー侯爵軍を全て集結しても敵うかどうか……
「……現状ではこちらの増員は難しいでしょうし、何か手を打つ必要がありそうですね」
正直、350人という戦力は、” こっちにも敵の手が回ってる、包囲されてる! ” っていう存在感を相手に与えるだけが限界だ。
ヴェオスが城を放棄してなりふり構わない撤退を決めたら、確実に一番手薄な僕達を突破しようとしてくる。そしてそれを食い止められる兵力はない。
かといって、アイリーン一人に頑張ってもらう事になるのはちょっと嫌だ。やっぱり僕のお嫁さんなわけだし、戦闘の負担をできればあまりかけたくない。
「うーん、何か手を……ですかぁ……うーん……―――あ、でしたら旦那さま。こういうのはどうですか?」
何か思いついたらしいアイリーンは、少ししゃがんで僕に耳打ちする。
その作戦は、今よりもっとヴェオス側を困らせてやろうというものだった。
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