第194話 使えなかった切り札の処分方法です
『ギャオオォオオ……ッ……』
せっかく地上にでてきたのに、自分がぶち明けた穴に下半身を滑り落として、這い上がろうとするように前足をうごかしてる。
けどアイリーン達に受けたダメージが深刻らしくて動きが鈍いし何もないところをかくばかり。もう視界の焦点もあってなさそう。
結果は完全に決まった。
「どうやら、あちらも何とかなりそうですね」
「はい、さすがはアイリーン様です」
賞賛の言葉は述べてもやっぱりセレナも軍人。アイリーンの個人の強さには嫉妬するところもありそう。
握る拳に少し力をこめてるのが、見なくてもわかった。
「殿下おまたせー。あのコの後処置、終わったよっ」
「ヘカチェリーナ、ご苦労様です。どうですか様子は?」
「んー、とりあえず眠ってる。呼吸も安定してるし、今んとこ大丈夫じゃないかなー」
今のところ―――あれだけの重傷じゃいつ変調するかもわからないし、もう問題はなし、って言いきることはできない。いわゆる予断を許さないっていう意味として受け止める。
「そうですか……とりあえずは一息つけそうです。現場も決着がつくまであと少しでしょうから」
けど、安心しかけたところで舞い込んでくるんだ、さらなる一報っていうのは。
「きゅ、急な御目通り、失礼いたします!! 殿下、閣下、広域警戒にて展開中の小隊が、隠されていた敵アジトへの別入り口とおぼしき地下へと続くトンネルを発見! 迂闊に調査するには人手不足ゆえ、増援を要請したいと!」
「!」「!」「マジ?!」
ずっと不思議に思ってた答えだ―――あの地下2階、縦横には広いけど天井は低いし、出入り口の大きさとあの
それに大量に並んでいた鉄の檻にしても、あの出入口じゃ出し入れは不可能だ。何せ地下1階との行き来すら、人一人やっとのハシゴ1本だけなんだから。
どこかに別の出入り口がある可能性は高いとは思ってたけど、どうやらビンゴらしい。
「セレナ、兵士さん達を取りまとめて現場に急行してもらえますか? この件に関しましては僕の一存で指揮権を完全に委任いたします」
「! ありがとうございます殿下。ご期待にお応えいたします」
アイリーンは個人としての強さはケタ外れだ。けど、こういった組織の力が必要なところには不向き。
セレナが生徒会長ならアイリーンは部活のエースって感じだし。
「(何よりあの大きな魔物を討伐したばかりだ。一度戻らせて、休憩させたほうがいい)」
「殿下、殿下、アタシはー?」
「ヘカチェリーナは、アイリーンが戻ってくるまでここにいてください。その後、兵士さん10名ほどを連れてこの指揮所からセレナ達の現場までの導線に配置を。精度は落ちますが、素早く円滑な連絡が可能になります。セレナもそのつもりで」
「「はっ、仰せのままに」」
地下2階にあった
あの
「(………―――っ!!)―――誰か、書き物を」
「はい、こちらに」
僕が要求すると、メイドさんの一人がすぐに紙とペンを用意する。僕はご苦労と片手をあげるジェスチャーだけで労うと、すぐに文面をしたため始めた。
「(大量の飼われていた魔物の消失。それがどこへ行ったのか? ここは王都の西隣、これまでの情報を全部まとめると行きつく答えは……嫌な予感しかしないっ)」
僕は即行で書き上げた手紙を持って、兵士の一人に向き直った。
「貴公、お名前は?」
「! は、ロギュエールと申します!」
「ではロギュエール。貴公にこれから、至極重大な任務を申し付けます。その早馬番の証たる腕章を身に着けし者として、全力で遂行してもらわなければなりません。1秒の差が、王の命の是非たる命運に関わりかねない一大事であると心得て、取り組んでいただきたい」
僕の言葉に辺りがザワつく。
「お、……へ、陛下の!?」
「はい、この手紙を1秒でも早くお城の兄上様―――陛下の下へと届けてください。間に他人を挟むことは許しません」
「! こ、これは王印っ」
王家を担う僕達3兄弟だけが現在用いることのできる封印だ。それが意味することは至極重い。
「もし、陛下よりも先に宰相閣下に届くのであればそちらでも構いません。とにかく1秒でも早くこの手紙が陛下、または宰相閣下に届くこと、それが最重要です。頼みましたよ、ロギュエール」
名前を聞かれ、そして王弟が自ら王印で封をされた手紙を託す。
この意味は国家機密レベルに重い。最重要命令であり、任される者は何十年と仕えても1度あるかないかの栄誉だ。
早馬伝令のロギュエールは突然の、そしてあまりの栄誉ある任務に身震いしながら、僕から手紙を受け取った。
「……我が命にかえても、この手紙をしかと陛下のもとにお届けいたしまする」
「お願いします。……では行けっ!」
「ははぁっ!!!」
ロギュエールを見送る。
屋上から飛ぶように出て行った彼は、1分としなうちに町中を馬で駆けていった。
「(大量の魔物を飼っていた。けど組織の他の拠点が一気に潰されて、この拠点でも混乱が生じていた……もし、もしも破れかぶれになったら? 元から計画していたことを前倒しにして、強引に実行に移したとしたら?)」
何せ " 連中 " は、王城内にすら魔物を入れ、そして襲撃してきた前例ある相手だ。捕らえたあの拠点の残党の人間の中に、中心人物と思われる者はいなかった。
……組織が完全につぶれる前に一矢報いてやる―――そんな風に考えて行動を起こしていたっておかしくない。
散る前に少しでもデカい花火をあげてやる。そのデカい花火が今、この場にいる僕達を除いた時、もっともそれに当たる人物っていったら……
「(王都の王城にいる当代の王様と宰相……つまり兄上様達の命だ!!)」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます