第180話 味方が弱いので敵を強くします
まずクワイル男爵にそれなりの戦力を率いてもらう。男爵も領地持ちの貴族だから、警護や治安維持の手持ちがあるので、それでことに当たってくれるように仕向ける。
「一人として逃がさないよう、隅々まで包囲警戒をせよ!」
気質や性格から荒事に不向きな人だけど、そうは言ってられない。
僕の説得で、自分が知らないうちにどれだけ危うい状態になってたか理解した男爵は、大々的に戦力を動員。自分でも陣頭指揮をとって、いまいち締まらない声をあげている。
「とりあえず、これで表向きはクワイル男爵が率先して動いた風になるでしょう」
僕は仮設天幕の中でとりあえずホッとした。
説得は僕が行ったけど、准将のセレナがそうするよう差し向けたような言い回しを含めている。
これで王弟殿下じゃなく、ヒルデルト准将が怪しい連中に気付いて、王弟殿下に男爵を説得するよう働きかけた
加えて、敵の規模が大きいので王弟殿下の名で王都にも密かに助力を求めておいた、って事で話を通してる。
なので父上様と母上様たちが各所の ” 連中 ” の拠点を潰しまわっていっても、その王都からの援軍になるから、活動の事後承諾も楽になる。
「でもさー、そうなると結局、クワイル男爵は他人から助力を受けたーって話になるんじゃないの??」
ヘカチェリーナの疑問はもっともだ。
けど、一番重要なのは ” 連中 ” の拠点を完全に潰すこと。そこをしくじったら意味がない。
でもなるべく男爵以外の人間が目立たないようにしたいのも事実。
「そこで逆転の発想です。" 敵 ” を大きくしようと思ってます」
「大きく?? ご飯をいっぱい食べさせて太らせるとかですか??」
うん……アイリーン、面白いけどもそれはないですよ。
「もっと早い段階でしたら、相手組織をワザと肥え太らせるというのも選択としてはあったかもしれないでしょうけどね」
アイリーンのボケが、比喩や隠語表現だったかのように返す。さすがに自分がとんちんかんな事を言ってたと気付いたみたいで、僕のお嫁さんは少し恥ずかしそうに目を泳がせた。
「……つまり ” 連中 ” は、とてもクワイル男爵お一人の手に負えるような相手ではなかった、と
さすがセレナは分かっている。
そう、クワイル男爵が情けなくも " 連中 " の活動に気が付けず、対応にも助力が必要だというのなら、 ” 連中 ” の方をそれだけの相手だっていう事にすればいい。
「なーるほどっ。援軍をもらわないととても太刀打ちできない、でっかい組織ってことにしちゃえば、男爵が不甲斐ないっていう声が小さくなるワケね」
「そうです。そこでヘカチェリーナには一つお願いがあります。メイドさん達を上手く使って―――」
「―――噂話を広げろってことっしょ? おっまかせー」
中級以上のメイドさんの中には貴族の四女五女といった女性が混ざってる。
ただでさえ女性侍従はうわさ話が大好きだ。あっという間に広がって、超巨大な悪の組織っていう虚像が " 連中 " にかぶせられる。
「しかも僕こと、王弟一家が静養のために訪れた地で、密かに怪しく大きな動きを画策していた―――はい、アイリーン。何も知らないでそういう風に誰かからお話を聞いたとしましたら ” 連中 ” の企んでいたことを、どう想像しますか?」
「ふえっ!? え、えーとえーと……」
ちょっと意地悪だったかな。指名してクイズっぽく質問してみたけど、アイリーンはレイアをあやしていたから話半分しか聞いてなかったっぽくて慌ててる。
「―――あっ、もしかして……旦那さまに危害を加えるため、とかですかっ?」
「正解。先の僕への襲撃の件をそれとなく匂わせておけば、連中が僕を再度狙って静養地に先回りし、潜伏していた……という方向にウワサをもっていくことも可能です」
「もしそうすることができましたら、王都からの援軍にも正当性が帯びます。前後関係などを上手く誤魔化す事ができましたら " 巨大な闇の組織が再び王弟殿下の御命を、静養に赴いた地に先回りして狙っていた。これに気付いたクワイル男爵が殿下を御守りし、組織を潰すべく王都に助力を求めた――― " ―――そのような筋書きに見導けますね」
セレナがまとめてくれたのはあくまで最適解。ウワサ話は背びれ尾びれがつくものだから、きっちりとそういう感じで広まってくれるかは分からない。
けど、そういった方向性であればいい。
クワイル男爵のみならず、多くの貴族達でも1人じゃ手に余るくらい相手は大きな犯罪者組織だった―――最低限これだけ広まってくれれば良しだ。
「根回しの結果としてはそれが一番です。ヘカチェリーナが流すウワサに信ぴょう性を出すためにも、まずはしっかりと ” 連中 ” を潰すのが先ですね」
クワイル男爵が戦力をまとめて " 連中 " に当たるので、僕達もついてきてる。
賓館に留まっていても自分達に随行している護衛が約500人。それなら " 連中 " の拠点潰しに同行してしまう方が安全だ。
「(向こうさんは何が何だかわからないでパニックになってるかな)」
魔物を使役してくることも考えられたから、とにかく奇襲をかける形でないといけない。
父上様達はその辺大丈夫だろうけど、クワイル男爵はイマイチ不安だったので、セレナにお願いして、軽く指揮の取り方や軍略なんかを事前に男爵側にレクチャーしてもらった。
なのでとりあえずは奇襲は成功したみたいだけど、まだ油断はできない。
「(“ 連中 ” が用いようとしなくっても、魔物が自発的に暴れる可能性だってあるし)」
僕はレイアを受け取って抱っこする。
アイリーンはビキニアーマーを装着してる。
セレナも鎧を装着―――っていうか、なんかセレナも以前の鎧よりビキニアーマーに寄せたデザインのに変わってるような??
なんて事を考えてた矢先、予想通りの出来事が起こった。
「うわああっ、ま、魔物がっ、魔物が暴れ出したぞぉおーーー!!」
兵士さんの叫び声がこだます。
僕達の位置からもハッキリ見える、暴れてる魔物の影。
だけど次の瞬間、アイリーンとセレナがお互いに頷き合って、すぐに飛び出していく。
戦闘はものの数分もしないうちにおさまって、二人の攻撃にダメージを受けた魔物は、すっかり静かになっていた。
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