第170話 "連中” の糸を手繰り寄せます




 ヴァウザーさんをはじめ、魔物を操っていた “ 連中 ” のことが少しわかったって、宰相の兄上様から呼び出しを受け、僕はすぐに王様の執務室にいった。




「―――結論から言うと “ 連中 ” に出資していたのは幾人かの貴族だ。しかし調べによると、どうやら “ 連中 ” は資金集めのために嘘を吹聴して回っていたようでな。出資者たちは本当のところを知らなかったようだ」

 宰相の兄上様が資料の束をめくりながら説明してくれる。だけど僕がわざわざ呼び出された理由は、単に " 連中 " のことが気になっていた弟に進展を聞かせるため……なんていうわけじゃないはずだ。


「その出資者の貴族の中に、エイルネスト家と取引をしていた人がいたんです。おそらくエイルネスト卿はご存じなかったのでしょうが、その人に探りを入れるため、エイルネスト卿を通じて接触を図りたいのですよ」

 兄上様おうさまの言い分からすると、僕に断わりを入れる必要はないはずだ。エイルネスト卿に直接打診すればいい。


 だけど僕を呼んだ、ということはたぶんクララが関係してくるんだろう。ということはつまり―――


「その、“ 連中 ” に出資し、エイルネス家と取引をしていたというお相手の貴族はもしかして御令嬢・・・ですか?」

「うむ……どうやら " 連中 " は商人を偽り、最先端の化粧品開発という名目で令嬢に出資の話を持ち掛けたようでな」

 普通に貴族同士の取引なら、その貴族家の当主同士のやり取りのはずだ。


 なのにクララが関係してくるというと、その “ 連中 ” に出資をしていたという貴族はその家の当主ではなく、貴族家御令嬢―――それも当主である父親に内緒で勝手なことをしている可能性が高い。


 もし、その家の当主を呼びつけて事の次第を説明し、娘を問いたださせようとすれば大事になるし、貴族社会で情報が回って別の問題が発生するかもしれない。



 家同士が取引していた間柄なら、その子息同士も面識がある。


 なのでクララ経由でその御令嬢にのみ接触を図り、事情や情報を聞き出すことで穏便に済ませる―――兄上様達が期待しているのはそういう流れに違いない。


「その令嬢から話を聞き出すんですね? わかりました、ではその取引と令嬢の詳細を教えてください」


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 兄上様達からの要請をうけて僕はクララに協力を取り付けると、ヘカチェリーナを補佐につけてその御令嬢が参加するっていう社交界パーティーに出席した。



「まぁクルリラ様、お久しゅうございます!」

 僕が参加している貴族の男性陣と挨拶を交わしている中、クララに近づいてきた女性がいた―――目的の御令嬢、オリヴィ=スーサ=フアンフット。


 第二位爵といって、男爵よりもさらに下の貴族フアンフット家の長女で、僕達より2歳下。

 礼儀作法は一通りなってはいるけど、対面してるクララに比べたらやっぱり脇が甘い感じだ。

 鼻の近くに薄っすらとそばかすが見える顔。濃い亜麻色の、大きく編み込んで肩口に流してる髪が、シャンデリアの光で良い光沢を放っていてなかなかに目立つ。


 体型はいい意味でのスレンダー。幼ないというよりはスラリとしたラインを追求したような、美体型の一種だ。

 

 外見はなかなかにハイレベルでチャーミングな令嬢だと思う。ただ性格に少し芯が足りなさそう―――言葉巧みに話をされたら、簡単に詐欺に引っかかるタイプかな。


「本当にお久しぶりですわオリヴィ。お元気にしてらして?」

 クララは素知らぬふりで、いかにも意外なところで旧友に遭遇したといった態度で挨拶を返してる。さすが頼もしい。




「(あっちはクララに任せて大丈夫そうだ―――)―――ヘカチェリーナ、挨拶は一通り回りましたが、どうでした・・・・・か?」

 実は兄上様たちに頼まれたのは、オリヴ嬢のことだけじゃない。


 僕は僕で別の目的がある。それはこの会場内に来てる " 連中 " を特定すること。


 どうやら ” 連中 ” は、こうした社交界にもしれっと来ているらしい。そしてやはり有力な商人と偽って他の参加者を品定めし、良さげな獲物に出資話を持ち掛けることで金を集めている。


「(上手いやり方だ。一時的に金だけ出させて、自分達の真には触れさせない。何ならお金だけ持ってその後ドロンしちゃえば、ただの詐欺か何かの犯罪組織なのか、金を出した方も分らないから、さらに足がつきにくい……)」

 特に貴族は、騙されたとわかっても面子や世間体の観点から、詐欺にあったこと自体を隠そうとする事も多い。

 身元のチェックが比較的ゆるい、こうした下位貴族なんかが参加する社交場パーティは潜入のしやすさもあって、“ 連中 ” にはまさに狙い目のはずだ。


「んー……、殿下。ちょいちょい」

 何か長々と考えてたヘカチェリーナが困り顔で僕にこっちこっちする。周囲から不自然に見えないよう、それとなく自然に壁際まで移動した僕に、ヘカチェリーナは声をひそめた。




「……ヤバそうなの10人はいたんだけど、どうしよ?」

「!?」

 会場内には30人少々。僕らや使用人なんかも含めれば50人いるかどうかだ。

 そのうちの10人―――実に5人に1人が怪しいというのは、さすがに予想外だった。



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