第164話 ジャストフィットが困難です




 とても物々しい一団が王城から出立するのを、僕は上層階のバルコニーから眺めていた。



「さて、マックリンガル子爵はどうでてくるでしょうね」

「王様直属の正式な詰問団ですから、キチンとした理由がありませんと罪に問われますし、下手な誤魔化しや言い逃れはできないはずですわ」

 隣で一緒に眺めていたクララが、大丈夫ですわよと言わんばかりに微笑む。


 今日ついに、マックリンガル子爵をはじめとして、王弟ぼくが重篤の床にあった際に、何の動きを見せなかった貴族達への攻撃が開始された。


 攻撃といっても政治的に責めるという意味で、軍でドンパチするわけじゃない。だけど今回は重みが違う。場合によっては捕縛と処罰が行われる。



「一筋縄ではいかないでしょうけど、兄上様達が本腰を入れる以上、抗いきれないでしょうね」

 何だかんだで王国で一番のお偉いさんは王様だ。そして内政方面では次いで宰相。なので貴族達は全員、兄上様達よりも身分・立場とも下になる。


 さらに身分だけでいえば、僕よりも下だ。そんな上位者ぼくが瀕死の怪我を負ったというのにお見舞いの意を伝えてくるでもなく、ずっと自領に篭りっぱなしなど、さすがにもう放置という選択はない。



「せめて快気祝いのパーティーに出席して一言……でもあれば違ったはずなんですけど。ここまで頑なに引きこもり続けている理由は一体何なのでしょうね」

 頑固にもほどがある。ここまでくると逆に理由が知りたくなってしまう。色々悪だくみしてたから、それが嗅ぎつけられないようにというにはちょっと頑張りすぎてる。


「そうですわね……単純に王家が嫌いとか、そういった事ではさすがにないでしょうし。もし恨みつらみがあったとしても長い年月の間、まったく自身のご領地からも出てこないというのは異常すぎますわね」

 僕より貴族社会や政治的な人間関係に詳しいクララでも、さすがにマックリンガル子爵の心中は読めないようで、頭を悩ませてた。




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 その日の午後。


「殿下、こちらがご依頼の鎧でございます」

 そう言って小謁見の間で片膝ついているのは、武器商人のクーガー氏。隣にはディスプレイ用の木にかけられた金属鎧がある。


「ありがとうございます。急なお願いで大変だったかと思いますが、よく聞き入れてくださいました」

「なんの。殿下のご所望とあらばすぐさま、何なりとご用意いたします」

 クーガー氏が代表を務める商会は彼の専門である武具を始め、所属する商人によって幅広い品の調達に定評があった。


 王室とも四代前からの付き合いで、量を用意するのは苦手だけど一点ものや少数で良い品を仕入れるのが得意らしい。


「(これがこの世界のライトアーマーかぁ……)」

 瀕死の重傷を負ったことで、僕は自分の・・・防具というのを本格的に考え始めた。




 この世界にも様々なタイプの防具が存在してる。たとえばアイリーンやヘカチェリーナが用いてるビキニアーマーもその一種。

 もっともビキニアーマーといっても色々装甲パーツが付属してて、金属ブラとパンツだけってワケじゃない。


 まぁそれはともかくとして、僕が装備して使えることを考えた時、現状でもっとも現実的な選択肢を考えた時にいきついたのが軽装の鎧だ。


 まずは実際に現物を見てみようと思ったんだけど……


「(うーん、やっぱり軽装っていっても装甲はそれなりに厚みあるし重そう)」

 当たり前のことだけど、やっぱり鎧ってなるといくら軽装でもそれなりの重量はある。

 クーガー氏が持ってきた今回のライトアーマー、胸部装甲は鎖骨下からみぞおち上まで金属装甲部分をかなり絞ってるタイプに見える。

 腹部は、胸部装甲の内側から生えるように、みぞおちをカバーする別パーツで装甲がついてる感じで、お腹を完全に保護するような面積はない。

 肩装甲はないから、全体の形状は袖のない夏のシャツの上半分だけっぽい感じだ。


「(バトルジャケ―――ううん、あっちは伸縮性あるし、そもそも金属装甲とかついてないから、鎧っていうより服に近いもんね)」

 機能面でいえばアレが理想的。

 王族としてはイザという時のために、服の下に着こんでおけるようなのが最良だ。


「(うーん、鎖帷子チェインメイルとかも、実際はかなり重いって聞くしなー)」

 結論から言ってしまえば、ショタっ子非力な僕でも楽々着れて、しかもそれなりに防御力がある……なんて都合のいい鎧は存在しないし、作れない。


 どんなに軽量な金属や合金でも、戦闘に耐えられる防御力を保ったままってなると、どうしても相応の重量になっちゃうみたいだ。


「いかがでしょう? 実用に耐えうる最軽量の品でございますが、お気に召していただけたでしょうか?」

「そうですね……悪くはないかと思います。ただ残念ですが、これでも僕にはまだ重いでしょうね。しかしながら、後の公務などで外に出る機会もありますし、身の安全を考えますと―――とりあえずこの鎧は買い取らせていただきましょう。僕も家族に心配をかけたくはないですから」


 納得いく品ではないけど仕方ない。

 今から何か新しい防具を模索したって完成まで時間がかかるし、直近ですぐ使うモノは必要だ。


「(とりあえずは護衛の皆さんに頑張ってもらうしかないかー)」

 鎧の件はあくまで念のため。僕には常に護衛がつくんだから、護衛が抜かれさえしなければ襲われたって問題ない。


 けど、魔物や……それこそ人間同士の戦争とかが起きた時のことを考えると、やっぱり僕自身の武具の問題は、のんびりと取り組むわけにもいかない。



 なるべく早い内に、何か解決策を見出さなくっちゃ。




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