第159話 選ばれし玩具たちです



 レイアに初めて玩具を与えた時、僕はちょっと考えたことがあった。

 (※「第154話 受け継がれる子供の音色です」)



「殿下、準備が整ったそうなのですよ」

 エイミーがメイドさんを伴って僕を呼びに来た。


「そうですか、では早速えらびましょう」

 二人と一緒に別室へ移動する。そこには大小さまざまな玩具が並んでた。

 木製のものが多いような気がするけど、この世界の玩具事情かな?


「(まぁ、ビニールとかブリキとか、そういうのは絶対ないだろうし、当然といえば当然か)」



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『オモチャ……なのです?』

『はい、あの音のなるボールを与えてからというもの、レイアはご機嫌な時が多いようですし、やはり子供を育てるのにああいった玩具は有効かなと思いまして』

 僕がエイミーに持ち掛けたのは、父上様の離宮の敷地内に設けられた孤児院に寄与する玩具の話だ。

 (※「第45話 クーデター予防接種です」参照)


『エイミーの経験や知恵をかしていただきたいんです。孤児院にいる子供達は年齢が幼い子から10代前半までと様々ですからね、僕一人では贈る品を選ぶのがなかなか難しくて』


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 そんなこんなで実際に玩具を取り寄せ、厳選したものを孤児院に贈ることにしたんだ。

 一応、事前にヘンな仕込みや危険性がないかチェックが必要で、僕は別室でお茶2杯をゆっくり嗜めるほどの時間、待機してた。



「危険なモノは紛れていなかったんですね?」

「はい殿下。怪しいモノ、御身に危害を加えるモノはございませんでした、ご安心ください」

 事前検分したメイドさんが自信たっぷりに言う。中級メイドだけどかなり若い雰囲気―――下級メイドから昇格したてでやる気が有り余ってるって感じだ。


「分かりました。では一つずつ確認していきましょうか」


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「こちらは積み木ですね、シンプルですが角を丸く滑らかにしてあるので安全そうです」

 何気なく手に取ってみた木製の積み木の一つ。形状は三角錐だけど角や尖った部分は全部削られて、綺麗に仕上げられてる。

 しっかりと安全に配慮してる造りなのはちょっと驚きだ。


「(色が塗られてない……すべてそのままなのは塗料の関係かな?)」

 積み木は比較的小さな子供が遊ぶ。中には口に入れたりしようとする子もいるだろうから、あえて塗ってないのかもしれない。


「この枕人形、良い絵柄なのですよ。こっちは戦士で……あ、あっちはゴブリンなのです。魔物討伐シリーズですね」

 エイミーが検分してるのは、ただの長方形のシンプルな枕。だと思っていたら、どうやらこの世界における小さい子が遊ぶ用の人形らしい。


 表面に絵が描いてあって、それでお人形ごっこをするんだとか。


「(確かにきっちりと人型ひとがたでなくても出来るし、お気に入りはそのまま枕として一緒に寝れるから、ありっちゃありなのか……にしてもシリーズ化されてるってことは、売れ筋カテゴリーなのかな?)」

 考えながら僕は次の玩具を手に取る。

 今度も木製で、横棒で串刺しになってる玉が3つ並んだ、パッと見だと何をどうするのかよく分からないモノ。


「これは……この玉を回転させるのでしょうか?」

 よく見ると串刺しになってる玉には数字が掘られてる。色がない上に掘りが浅いから最初、近くで見るまで気付かなかった。


「それは " スリー・スリー ” なのですよ殿下。玉を回転させて、同じ数字を揃えるオモチャなのです。小さい頃は数字のお勉強をかねて、玉を回転させて遊ぶだけなのですが、ルールを覚えるお年頃になってくると、お友達と勝負もできるのです」

「へぇ……それはなかなか良いですね。幼児から少年まで幅広く遊べる上に、知育玩具でもあるんですね」

 クルクル回転させてみるとすべての玉で表面で、0から9までの数字が確認できた。これを回して止まった時の数字を揃えて競う、と。


「名前からしますと、もしかして一番強いのは “ 3 ” を揃えた時ですか?」

「はいなのです。基本は999が一番強いのですが、3が3つ揃った333は唯一、999以上ってなるルールなのですよ」

 ちなみにエイミーの説明によるといくつかローカルルールがあって、3つ揃わないと無効にするっていうルールと、3つ揃わなくても出た数字を足した合計で争うルールが有名らしい。

 他にも一番左の玉の数字が強くて一番右の玉が弱いだとか、交互に玉を1つだけ選んで回していって、自分の手番で数字を揃えた方が勝ちだとか、いろいろなゲームルールがあるみたいだ。


「(思ったより奥深い玩具なんだ。……よし、これを10ほど用意させて孤児院に贈らせよう、……第一号っと)」

 僕は発注・贈与リストに “ スリー・スリー  10個 ” と記すと、次の玩具に手を伸ばした。



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 なんだかんだで検分は半日仕事になった。たかが玩具、されど玩具。


「エイミー、お疲れ様でした。全部で8種、それぞれ10~30で手配は150コ以上になりましたが、それなりには絞れましたね」

「ですね。子供たちの喜ぶ顔が思い浮かんで、とっても選びがいがあったのですよ」

 玩具の内容だけじゃなく、ちゃんと安全面を考えたり、取り合いなんかのケンカになるようなものじゃないかとか使われる時の状況も想像しながら、しっかりと選んだ。


 ―――正直に本音を言うと、最初は孤児院に王室から玩具を寄付することで、国民ウケを良くする一助にしよう、なんて考えもあった。


 だけどエイミーの言う通り、子供達の喜ぶ顔を想像しながら選んでると、とても優しい気持ちになれた。

 きっとレイアっていう娘ができたからかも。


「では発注と手配をお願いしますね。品物の準備ができましたら、もう一度実物を検分して、問題ないことを確認します。なので孤児院ではなくお城に納品させるように。そこを間違えないよう、気を付けてください」

「はい、かしこまりました殿下。お任せください!」



 この時、 " 発注先には目立たないように納品するよう注意を " って言い忘れたことを、ちょっと後悔することになる。



 後日、納品する時に発注先の商人が、" 玩具を王城に納品する ” ということでヘンな気を利かせてしまった。

 すなわちレイア宛だと勘違いしたわけで、やたら綺麗なラッピングで玩具と一目でわかる荷物が大量にお城に運び入れられていったものだから、国民の間でレイア姫はとても愛されていると盛り上がってしまった。


 それならまだよかったんだけど、怪我で静養なされている御父上の王弟殿下が、病床にあって接する事ができない娘に親バカを発揮したみたいなウワサも流れてしまったんだ。


 僕は、どこの世界でも報連相ほうれんそうはキッチリしないとダメだと痛感した。




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