第135話 暗殺の走駆者です
――――――数日前。
「……王弟を殺る。それが
プロの暗殺集団として暗がりの世界で名をあげた彼らは、窮地に立たされていた。
「妃ではなく?」
「失敗続きだから、狙いを変えるんだろ」
「あるいは最初から妃狙いと見せかけ、こっちが本命だった可能性とか?」
多少のザワつきはあったものの、すぐに落ち着きを取り戻す。仲間達の様子を見て、リーダーであるラルバスはひとまず安堵した。
「(ただでさえ失態が重なっている上に相手が相手だからな。しかも次のターゲットは当代王族の一人……厄介な大仕事だ)」
普段の仕事は、貴族が対立する貴族の暗殺を依頼してくるケースが多い。
権力者絡みなので普段なら仕事に参加するかどうかは、個々で判断して良い事にしている。
しかし今回のターゲットは貴族ではなく王族。となれば話は大きく違ってくる。
ことがあまりに重大ゆえ、仕事に就かない者は殺さなければならない。だが一人の反対者もパスする者もいなかった。
「失態続きの上に囚われた奴もいる。この大仕事を成功させねば、我々の信頼は地に落ちる……勝負どころだ。全員、心してくれ」
「
「子爵の狙いはシンプルに王室の力の低下だろ?」
「ただでさえ現王と宰相で王族の兄弟が占めてる。先代の時代も、王妃が手強い人物で切り崩せなかったようだしな」
「権力を欲する反王室派の連中からすりゃ、軍トップまで王族に居座られちまうのは困るってか」
「どうだか。そもそも子爵は中央の利権には関心がないとも聞く」
「権力者の考えることなんざどうでもいい。俺らは殺しを完璧にこなして、名誉回復しなけりゃならない―――ターゲットが王弟だ? 上等、それだけで十分よ」
仲間達の仕事への意欲は前向き。ラルバスは今回こそはいけると確信した。
王都のとある街角。
「(これが王弟の公務スケジュール。こっちが王都圏防衛軍の巡回についてだ)」
ラルバスは、みすぼらしい恰好の男からそっと紙を受け取る。代わりに金貨3枚手渡し、互いにすぐさまポケットに収めた。
「(上々だ。王城内に伸びる根は健在のようだな)」
「(かなり厳しくなっていやすがね。今後も確かな情報を獲得できる保証はありやせん。ある日突然、ぷっつり切れちまうなんてのも覚悟しといてくだせぇ)」
先々代より少しずつ伸ばした仕事を円滑に進めるための情報網。それは現在、あの巨大な城内にさえも及んでいる。
報酬さえはずめば王のスケジュールすら入手可能……のはずだったが、当代王に代替わりしてからというもの、彼らの ” 根 ” はどんどん枯らされていく一方だった。
「(分かっている。だが今度の仕事を完遂させれば、少なくとも裏社会での名声は天にものぼるだろう。時間こそかかるが再び張り直せるはずだ)」
「(へへ、頑張ってくださいよ旦那。
そう言ってみすぼらしい男は路地の奥へと消えて行った。
「初動は魔法、馬車を動けなくする……か」
「そこからは強襲だ。野盗の類を装い、貴族の馬車を狙った強奪者を装う」
「暗殺者がゴリ押し……嫌な世の中になったもんだ」
「王弟はほとんどの時間を王城内で過ごしている。ただでさえ城に忍び込むは難儀を極める上に、先の失敗で警戒はさらに強まっている。機会は、数少ない外出時を狙うより他ない」
暗殺者としてはかなり屈辱的だが、結果としてターゲットを殺害することこそ何よりも重要。
仲間達に理解を促すように、ラルバスは視線を巡らせた。
「だが護衛連中はどうする? 護衛の兵士を無理矢理こじ開けるのはかなりキツい話だぞ?」
暗殺者は基本、相手の隙をついて仕留める戦法だ。なので真っ向から対峙してとなると、鍛えた正規軍の兵士には戦闘力で遠く及ばない。
「心配いらない。既に手は回してくれているそうだ……王室派貴族の私兵がつけられる事になっているらしい」
私兵。その言葉を聞いた途端、全員が余裕の表情を浮かべる。
私兵はあくまで雇われ者で、武装こそ正規軍の兵士に匹敵するが、日常的な訓練などロクにしていない粗雑な者が多く、金で雇われているだけで仕事への情熱も義理も薄い。
民間人に毛が生えた程度の敵―――暗殺者たちからしてみれば、私兵とはその程度の存在であった。
「準備は整った。あとは
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