第62話 最胸ママの子授かり術だそうです




 この日は歓待されて、ファンシア家にお泊りすることになった。のだけれども……



「いやー、殿下のは “ お世話 ” しやすくていいわー、掴みやすいし。はい、今日のおやすみ所はこちらでーす」

 そう言ってヘカチェリーナが寝室まで案内してくれた。


「(なんなんだろう?? ヘカチェリーナ、前もそうだったけど……)」

 アイリーンとエイミーが待つ寝室にいく前の入浴時に乱入してきて " お世話 " された時と同じように、今日の僕もすっかり臨戦態勢・・・・に仕上がった状態で部屋まで送られた。


 特に悪いことでもないし咎めはしないけど、これから落ち着いて就寝するには悶々としすぎてて困る。

 けど仕方がないので僕は、ため息を深くついて少しでも気持ちを落ち着けながら、案内された寝室の扉をくぐった。


「じゃ、おやすみなさいませー、ごゆっくりぃ~♪」

 ヘカチェリーナの声が遠くなって扉が閉ざされる。

 静かになった室内を見回すと、ひときわ大きなベッドの傍に、温かみを感じる明かりが一つだけあって―――


「あ……え、えと……い、いらっしゃい、なんて……」

 シャーロットがいた。


「え、シャーロット……?」

 ベッドの中で恥ずかしそうに布団をまとって、僕を待っていたような素振りでこっちを見てる。

 そして僕は気づいた。彼女は寝巻を着けてない。くるまってる布団の中は……


「―――~~~っ」

 意識した瞬間、ただでさえ臨戦態勢になってた僕の頭は沸騰してしまった。







 そしてこの夜、僕はシャーロットを愛した。でるんじゃなく、しっかりとあいした。

 何度も何度も、何十回も頑張った。


 最初の子供はアイリーンに産んでもらわなくちゃ―――そう考えて調整していたことなんかも全部忘れてシャーロットを全力で愛し尽くした。


 いきなり限界までたかぶっていた僕は、最初っから全力で愛した。シャーロットも答えてくれた。涙を流しながら嬉しそうに何度も何度も抱きしめてキスしてくれた。


 そして何かのタガが外れたように僕は、今までアイリーンにもしたことがないような事まで、この夜はやり尽くしたんだ。









 そして、ヘカチェリーナによる “ 僕のお世話 ” は、この日から日課となってしまう。


 ・

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「はーい、殿下。今日も " お世話 " しましょうね~」


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「つっかまえた~。ふふんっ、逃げらんないわよ、このヘカーチェちゃんからはねっ」


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 ・

「うりうり~、ここかここか? ここがええのんか~? なーんて、ふっふーん♪」



 お風呂の時間をズラしても、ヘカチェリーナが他のメイドを会話してる隙を狙っても、必ず僕の就寝前のタイミングでどこからともなく “ お世話 ” に現れる神出鬼没っぷり。

 おかげで毎日、ベッドに入ると全力の夜になる。アイリーンとエイミーは大悦びだけれども。





 そして、そのおかげなのかどうかは分からないけど、ついにある日―――――


「……んぷっ、うう? な、なんだろ……何だか、気持ち悪い……?」

 アイリーンが、夕食の席で魚料理を口にした時、気分の悪さを訴える。使用人達は料理に問題があったのではと慌てたけど、前世の知識がある僕はすぐに分かった。



「いえこれはもしかして……アイリーン、今すぐ侍医のところへ!」

 そしてすぐにお城の侍医に見てもらったところ、やはりだった。


「おめでとうございます殿下、奥方様。ご懐妊でございます、数週間は診なければ確定とは言い切れませぬが、ほぼ間違いないでしょう」

 その一言から、城内でお祭り騒ぎが始まる。


「最近の旦那さまは特に凄かったですから、きっとそれでデキたんですねっ」

 何てアイリーンが言うものだから、瞬く間にメイド達の間で、夜の営みについての僕の凄さを想像しての世間話が盛り上がる。


 憶測から話が飛躍していって、いつの間にか子作り名人扱いする人まで出てくる始末―――まだ一人目だというのに。



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 ・

 ・


「ふっふーん、アレはね、ママがアタシを作る時にパパにやってた子授かりの秘術なの。もっともアタシが生まれた後、パパは種無しになっちゃったワケだけどー」

 僕は少しだけ納得した。

 ヘカチェリーナのあの “ お世話 ” はあの超胸部な母親譲りだったんだ。でもそれはそれでいいんだけれど、疑問がある。


「どうしてそれを毎日僕にしてくれるんですか?」

「殿下も欲しいかなーって、赤ちゃん。そんな凶悪なのもってるんだしぃ、1人や2人作って終わりじゃもったいないっしょ?」


「きょ、凶悪……」

 酷い言われようだけれども、どうも僕の僕は、この世界の男性の標準的なところを越えてるみたいなので否定しずらい。


 背が欲しいのだけど、その代わりだと言うかのように逞しくなってるのは、僕自身の目から見ても事実だった。



「これからも増えるんでしょ、奥さん? ならさ、赤ちゃんだって10人や20人じゃすまないっしょどっちみち。いーじゃん、どんどん作っちゃえば♪」

「あ、あははは……どんどんって……」

 でも一理ある。


 私的な領地を得た今、僕の血を引く子供をたくさんもうけるのは悪くない話だ。

 お嫁さん達との仲も深まるだろうし、将来的にも王室にしろ貴族社会にしろ僕自身の勢力という形で拡大することになるから、それこそ貴族達は無視できない存在になる。

 反王室派な貴族達に対しても牽制になるかもしれない。



「(何より僕も、エイミーやシャーロット……今はまだだけどセレナやクララにも赤ちゃん産んで欲しいもんね)」

 でも、一気にはちょっと問題があると思う。そもそもアイリーンにしても、これからお腹が大きくなってくれば僕に付いている事は出来ない。

 絶対的な護衛者が戦線離脱するからこそ、僕は赤ちゃんに関しては慎重姿勢だった。


 アイリーンが赤ちゃんを産み終えて復帰するまでの間、僕の周囲からは戦力が落ちるわけだから、危険度の高い行動はこれからは取りづらくなる。



「(兄上様達も、アイリーンが妊娠中は僕の行動もなかなか許可してくれない事が増えるだろうし、しばらくは大人しくしてなくちゃいけないかも)」

 アイリーン1人の評価は兵士1000人以上だ。もしも今まで通り、多少の危険もあるかもしれないような行動を取るとなると、きっと常に数百人レベルで兵士さん達を伴わないといけなくなるだろう。


 なのでアイリーンの出産とか色々落ち着いてくるまでは、なるべく王城の中でやれることに集中して―――





 なんて考えている時に限って、舞い込んでくるんだ。嫌なしらせっていうのは。



『ヒルデルト准将負傷。魔物の軍勢は王都に向かって距離を詰めつつあります』

 

 


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