第55話 ヘカチェリーナの御両親です
――――――翌日、ルクートヴァーリング南部。ウァイラン領。
「ここここ、この度はおおおお、王弟殿下におかれましては、わわわ我がウァイラン領におお、おこしいいい、いたいた、いただきっ……ま、真にありがとうごごご、ござ、ござっ」
「あなた、落ち着いてくださいな。……申し訳ございません殿下、主人は昔からとてもあがり症なものでして。改めまして、このウァイラン領にようこそお越しくださいました、妻のエルネールでございます」
すごく丸っこい旦那さんの両肩に手を添え、落ち着くように促した貴婦人が丁寧にお辞儀してくる。
この二人がヘカチェリーナの両親。
「もー、パパったら相変わらずなんだからー。しっかりしてよね」
実家に帰ってきてメイド服から迎賓用のドレスに着替えたヘカチェリーナが、呆れながら応接室に戻ってきた。
「(なんかいいなぁ、こういうの……)」
ウァイラン家も貴族家、だけど下流の地方貴族だ。上流階級な人々と比べてもどこかアットホーム感がある。
堅苦しい礼儀作法が充満してる世界で生まれ育った僕としては、すごく落ち着く雰囲気に、とっても好感が持てた。
ウァイラン家は両親と一人娘のヘカチェリーナの3人だけ。
―――まず、この家の現当主であるコロック=マグ=ウァイラン卿。
とにかく丸い。見た目もそうなんだけど、雰囲気とか印象とかを聞かれたら、すぐに “ 丸 ” って答えてしまうくらい色々丸っこい雰囲気の男性だ。
家長だとか領主だとか、そういった威厳がまるで見当たらない。
女性としては背のある奥さんと並ぶと、奥さんのお気に入りのぬいぐるみと紹介されても、違和感はいずこ? と言うぐらいにしっくりくる。
―――その奥さんこと、エルネール=オリヴ=ウァイラン夫人。
パッと見ただけでも確実に180cm以上はありそうな長身。この世界に生まれて今まで見てきた貴族社会の女性の中で、間違いなく最高身長だ。
嫋やかで穏やかそうだけれど、母上様と違って本当に優しいだけの、のんびりとした雰囲気と包容力たっぷりの貴族女性な雰囲気だ。
何より目立つのはその胸。今まで見てきたオッパイの中で最大記録だったセレナを飛び越え、さらに何段も先にいったような美爆乳。
驚愕というよりも胸愕のモノをお持ちだ。
同性で、十分に巨美乳なアイリーンでさえその迫力から、視線を釘付けにしてしまって思わず フォォォ??! なんて奇声を発したほど。
―――そして一人娘のヘカチェリーナ=エナ=ウァイラン。
頼りない父と嫋やかな母を持ったからなのだろうか。二人と比べるとどこか自分がしっかりしないと、っていう意志を持ってるように見える。
けど、そこは二人の娘。第三者の僕達から見ると、十分にこの二人の娘だと納得できるだけの、両親と共有する特徴や雰囲気を持ってる。
強いて言えば、貴族令嬢にしてはちょっとギャルめいている感があるところなんかは両親に見られない、彼女独特の個性と言えるかもしれない。
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「パパってば、
一通り、必要はお話を終えてウァイラン家で一泊する事になったその夜。
世間話に華を咲かせてたところ、兄弟姉妹はいないのかという何気ないアイリーンの質問にしれっと爆弾発言で答えたヘカチェリーナに、僕は思わず吹き出しそうになった。
「た、種無し……って。それってつまり」
質問した手前、バツが悪そうに恐る恐る聞くアイリーンだが、ヘカチェリーナは何てことはないと言わんばかりに平然としたまま答える。
「そ。子供はアタシ一人だけ。ママとパパは仲いーけど、これからも家族増える見込みはゼロってワケ」
貴族家として、それはかなり致命的だ。
何せ後継の男児がいない。女児でも後継になれない事はないけれど、下領のウァイラン家じゃ、婚姻などの圧力に押し負けて、ヘカチェリーナごと全て他貴族に飲まれてしまう未来しか見えない。
「なるほど……だからヘカチェリーナは夜会の招待に応じ、出向いたのですね」
「え、え? どういうことですか旦那さま??」
「このままではどのみち、いつか他の貴族に家も領地も飲み込まれてしまう……でしたら少しでも格上で、かつ自分の目で見て納得のいく殿方を……といった考えだった、違いますか?」
運命が変えられないのであれば、出来るかぎり自分自身で納得のいく相手を選びたい―――ヘカチェリーナはそういう女の子だ。
もっともあのお父さんは、彼女が既成事実を作って男を連れてきたら、ショックで寝込んでしまうかもしれないけれども。
「そーよ。無理矢理あてがわれてぜーんぶ奪われるとか最悪でしょ? だったらせめて、自分の男は自分で決めたいじゃない。……というわけでぇ、ねー殿下ぁ、アタシも殿下の女にして欲しいなぁ~」
ササッと素早く寄ってきて、スリスリと僕に密着してくるヘカチェリーナ。
正妃であるアイリーンの目の前なのに、まるでお構いなし。胸元を少し開いて性的なアピールまでかけてくる。
風呂上りに僕とアイリーンの客室に乗り込んできた時から予想はしてた。ヘカチェリーナの抱える事情からしたら、確かに王弟の僕に嫁ぐのはそこらの貴族男性をぶっちぎりで追い越す、一番望ましい道だ。
隙あらばアプローチしようと思うのも理解はできる。
僕としても、ヘカチェリーナをお嫁さんの一人に迎えられれば、ウァイラン家とその領地を完全に僕の味方に付けられるので、本音じゃ彼女の望み通り歓迎したいんだけれども。
「ちょっ、ダメです! 旦那さまから離れて、はーなーれーなーさーいってばぁ!」
アイリーンが、僕からヘカチェリーナを引き剥がそうとしてる様子が可愛い。
「やーだーぁ、殿下と一発ヤるまで離れないもーん♪」
相変わらず憚らない物言いのヘカチェリーナも、どこか楽しそうだ。
「(うーん、やっぱり難しいなぁ。どんなに考えてみてもヘカチェリーナを僕のお嫁さんに迎え入れるための良い道筋が浮かばない……)」
最大の難関は家格。
地方の、それも下流貴族の令嬢というのがかなり厳しい。なまじこっちは王家の人間なだけに、身分差がありすぎる。
「(ウァイラン家がいきなり高位に出世―――なんて事は不可能だし。そうなると、考えられる方法は……認められるだけの功績?)」
僕の頭へ左右からオッパイを押し付け合ってきながら、仲良く(?)口ゲンカしてる二人。
何気なくアイリーンの方を見る。といっても僕の今の状態じゃ、見えるのは彼女の胸の谷間の下の方だけだけど。
彼女が僕こと王弟の第一妃になれたのも認められるだけの功績を持っていたから。
つまり、ヘカチェリーナか彼女の実家が大きな功績をあげれば―――
「(―――って、その方法が思い浮かばないんだよ~、うーん……本当にどうしよう?)」
悩む僕のそばで、二人の女の子のケンカはいつの間にか枕投げに発展していた。
ボフンッ!!
そのうちどっちが投げたか分からない一投が僕の顔面に当たって、この夜は強制的に眠らされる事になったのだった。
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