第30話 統率者の功績を仕込みます



「あ、あっ、それ以上はいけませ―――……で、殿下ぁぁぁっあーーーんっ♪♪♪」



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 王都近郊の砦。僕は再びお泊りでここにやってきた。


 それでつい先ほどお風呂から上がった。一緒に入ったセレナをバッチリ可愛がってあげたので、身も心もまさにホクホク。



「(本番なしで僕が一方的に弄ぶだけだけど、とってもいい声で鳴いてくれるからついしつこくしちゃうんだよね)」

 僕の方のたぎりは、今回は同行しているアイリーンにぶつければいいので問題なし―――うん、奥さんがいると色々はかどる。


 ちなみにそのアイリーンはというとまだ砦の練兵場にいる。せっかくなので兵士さん達に稽古をつけてるんだけど、僕とセレナは浴場が官兵共用という事もあって、身分的に一番風呂をいただくことになり、先に上がったんだ。


「……さて、お風呂でいろいろサッパリできたし、やる事やろうっと」

 セレナものぼせる直前だったからまだ更衣室で熱をさましてるはず。一緒にいるとこっそりとした動きが取りづらいから、あえてセレナがすぐ上がってこれないギリギリのところまで攻めた。

 けどフリーでいられるのはそう長くないだろうから、素早く行動しなくっちゃね。







「なるほど……そのようなやり方が」

「ええ、だから一つお願いしておきたいのです。セレナーク准将のためにもなりますので」

「かしこまりました、他ならぬ殿下のお頼みとあらばぜひとも頑張らせていただきましょう」

 まずは砦の事務の最適化。この辺は前世の記憶を頼りに、この世界ではまだ考えすらされてない、今よりも効率的な事務仕事のノウハウ―――その一部を彼らに伝授。


「(ここはこれで良しっと、次は……)」


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「話は分かりました。出来るかどうかは自信ないですが、とりあえずその方法で一つ作ってみましょう」

「お願いします。くれぐれも内密に……新しいことを簡単に知られてしまいますと、利権の対象になって睨まれてしまいますから」

 僕の言い回しに砦の鍛冶担当の工兵が察してくれたようで、一瞬だけ険しい表情を浮かべた。

 兄上様たちを忌々しく思ってる一部の貴族大臣たち―――政敵には優れた知識にしろモノにしろ、出来るかぎり知られないようにしなくちゃいけない。


「かしこまりました殿下。注意を払いながら進めてみます」

 やはり前世の知識を引用しての、新しい鍛冶加工技術の伝授だ。

 上手くいけば、この砦の兵士さん達が使う武器や防具は、今までよりいいものになると思う。



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「へぇ、こうすりゃ時間が経っても臭みが出ないのか……いや殿下は物知りですねぇ、まったく知りませんでしたよ」

 そして料理番。兵糧の保管についての知識を伝授だ。



 前に来た時に、各部署でどの兵士さんがセレナや僕たち王室に対して忠義があるのか調べておいた。

 その人たちにだけ、この世界の技術や常識を1歩上へと引き上げ、レベルアップしてもらう術を伝えていく。


「(反王室派の送り込んだ兵士さんの間引きは順調だって言ってたし、ここまで慎重にならなくてもいいかもしれないけど、念には念だよね)」

 王都から近いから、それこそ貴族の一部がいつでも兵士さんに紛れさせて、いわゆる手のもの・・・・を送り込んでこれる。


 ううん、ただでさえセレナは女将軍として出世争いで遅れをとってる仕官から目の敵にされてるんだ。きっとそういう悪意のある人は紛れ込んでるものだと思わなきゃね。





「(僕の狙いは、将軍としてセレナの功績や声望を高めること)」

 前に、セレナのお供で一緒にいたオーツ三尉を見てこのことを思いついた。


 冷遇され、比較的平和な王都近郊の砦の守将じゃ滅多に前線に立てない。それってセレナ自身が手柄を立てる機会が少ないってことでもある。


「(前みたいに、比較的近いところで魔物の被害とかあるなら別だけど、早々そんなことは起こらないみたいだし。だったら―――)」

 だったら砦を守る将として優れているって、統率する人間としての評判を上げる。


 小さなことかもしれないけれど、兵士さん達の間で評判が広まれば、彼女の人材としての将官に在る価値は高まるはずだ。



「(でも補足的なものでしかないから、やっぱりどこかでセレナには手柄を……とくに武功を立てて欲しいんだよね)」

 彼女が僕のお嫁さんになっても今のまま軍籍を維持する―――今は絡め手を固めてるような感じ。


 なので何か決定打が欲しい。

 たとえ王室の妃位に入ったとしても、将軍職に居続けられるような決定打が。



「(うーん、なんだろう? いくつか案は考えられるけど、どれも現実的じゃない気がするし……)」

 兵士さん達の間で理想の上司として評判を固める。これは少し気の長い話。


 今回の砦を守る部隊の質の向上は結果が出るまで時間が必要だ。なのでもう一つ、インパクトの強い何かが欲しい。


「(インパクト……かぁ)」

 アイリーンのジャイアントキリングとかインパクトあるけど、まずそんなレベルの魔物は滅多に出現しない。

 もし出現しても、国の奥深い王都守りの砦に縛られてるセレナに出番が回ってくるとは思えない。

 そんな事があるとしたら、たぶん王国存亡の危機になってるよ。


「まてよ……向こうからじゃなく、こっちから・・・・・出向くとしたら?」


「殿下っ、やっと見つけました。……もう酷い御方です、あんなにされた私をそのまま放っていかれるなんて」

 すっかり慣れた、後ろからオッパイに抱かれる感覚―――どうやらセレナが追いついてきたみたいだ。


「熱を冷ますのにしばらくそっとしておいた方がいいかなって思ったんですよ。それよりこれからアイリーンを迎えに行きます。そろそろ陽が傾いてきましたし、何より兵士さん達が限界をむかえている頃でしょうから」

 セレナは成程と僕からオッパイを放した。

 アイリーンの訓練の手ほどきの様子を一緒に見てたので、そのスパルタ加減も彼女は理解してる。


 なので僕たちは、気持ち急ぎ目に練兵所へ向かった。そして予想通りの光景を目にする。




 死屍累々とした兵士さん達の中、一人だけ立っているポニーテールの女性。僕の姿を認識して、笑顔でこちらに手を振ってる、元気いっぱいな僕のお嫁さんの姿がそこにあった。



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