第54話 相談-2
真夜中のお祭り騒ぎが一旦止み、常闇の中の静かな朝はとっくに過ぎて、暗い空の下、俄かに人で賑わい始める街の昼頃。
「……あの……本当にこれで上手くいくんですか……?」
「(心配するな、余の策謀に失敗は……ない!)」
肩に乗った群青色の蜘蛛からアトラの声が聞こえる。
「(この程度の脚本作りは朝飯前だ!よいか、簡潔に誘うのだ!台詞は大丈夫だな?)」
脚を上げて、よくわからないポーズをする蜘蛛。
「だ、大丈夫です!じゃ、じゃあ……行きます……!」
部屋の扉を開く。
「……クララか……?昨日はすまなかったな」
獣はもう起きていたのか、ベッドに座っていた。
「け、獣さんっ!……その!」
あれ、なんて言うんだっけ……!?
ダメだ、もう訳が分からなくなってる。
「ど、どうしたそんなに詰め寄って、何か重大な──」
「重大です!あ、貴方が必要です!で、ですからっ!一緒に来て下さいっ!」
「あ、ああ」
「(……同盟者よ……打ち合わせ内容が一つも反映されておらぬぞ……即興ならもう少し気の利いた台詞をだな……)」
蜘蛛が耳打ちする。
そんな事言われても、仕方ないじゃない。
こちとら、人生で初めてのことなのですもの。
◆◆◆◆◆◆◆◆
事の発端はアトラに相談した……いや、してしまったことだった。
「……余にはわかる……わかってしまうのだ……同盟者が感じているのは……それは……」
「なるほど、しょくよくだな」
毛玉は即答する。
「お前と一緒にするでない……お集まりの皆は集められた理由はわかるであろう?」
アトラは酒場に集めた面々を見る。
「おいちゃんにはさっぱりだねぇ」
カエルのような、巨大な目のお爺さんはかぶりを振る。
「私達はもう知ってますわ、ふふ」
顔が変異しているご婦人方はしたり顔だ。
「酒が出るって聞いたんだが、違うのか?」
巨大なザクロから手足を生やしたような物体は果実酒を飲みながら聞く。
「友よ、恋する者と酒飲みは、地獄に落ちるという、もし娘が酒飲みでないなら、あとは言うまでもない、──この世はとっくに地獄なのだから!」
詩人は六弦を鳴らしてそう言う。
「……恋?……私が……?え?」
「全く、野暮な詩人よ。答えは緩やかに誘導するものだろうが」
アトラが咎めるような目をした。
「遠慮せば、花も散り、草も枯れよう、早くせよ。天の車がいつ土に組み敷く身とも知れぬ。花を手折れ、あの世には持っていけないのだから」
詩人は知らぬ顔で酒を呷る。
「……のんびりしている暇があるわけでもないか、一理はある。まあそう言うわけだ、同盟者よ、そのよく分からない感情の名を教えてやろう、──それは恋というものだ」
アトラはニヤリとしてそういった。
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