第52話 悔悟

「全く、私を守るんじゃなかったのですか……?」


 ベッドに転がった獣の頭を撫でる。


「まさか……玉ねぎが食えないとは思わなかった……この身体になってからは……まともな食事は……取っていなかったからな、食ってしばらくして、突然……頭痛と目眩が始まったのだ」


 本人曰く、玉ねぎにあたって倒れたらしい。命に別条は全くなかった。いろいろ心配して損した気分。


 酔っ払い達の手まで借りて、大慌てで宿に運び込んだのが馬鹿らしくなってくる。


「なまにくが、くえるのだ、なかみも、おおかみに、ちかいのだろう、きをつけねばな。われはなんでもくうが」


 毛玉は何か丸いものを齧りながら、言う。


 狼や犬には、玉ねぎが毒なのは知ってはいたけど、まさか獣の中身も、見た目どうりだったとは。


「それは皿だ。食い物ではないぞ毛玉よ」


 アトラが呆れたように指摘する。


「……む、さらか。どうりでな」


 そのままお皿を食べ続ける。


「皿とわかって食うのをやめんのか……」


「どくを、くらわば、さらまで……だ!ところで、ばんめしはまだか?」


「……同盟者よ、余はこのボケ老人に晩飯を食わせて来る。もう大丈夫だな?」


「はい、驚きすぎて酔いも覚めました」


「ゆくぞ!あとら!めしだ!さけだ!」


「お前だけで行っても害獣と間違われるだけだろうが!待て!走るでない!」


 毛玉を追ってアトラは部屋を出て行った。



◆◆◆◆◆◆◆◆



「全く、忙しない奴らだ」


「貴方が言いますか?それを」


「ぐぅの音も出ないな」


「……丁度良い機会です。聞きたいことがあるのですが、お話をする元気はありますか?」


「お前こそ大丈夫なのか?先程までかなり酔っていたようだが」


「お前じゃ、ありません。……クララです」


「……クララ……こそ、大丈夫なのか?……これでいいか?」


「私はとても偉い聖女だったのですから、契約が無くとも、もう少し敬いなさい」


「……かしこまりました、元聖女様は素晴らしいお方だ」


「なんか、変です、却下。元に戻しなさい」


「……やはり酔っているのか?」


「いないと行っているでしょう。……いえ、そんなことより」


「……なんだ?」


「ありがとうございました。玉ねぎ中毒で、フラフラなのに、駆けつけてくれたのでしょう?」


「声が……聞こえたからな……」


「そうですか。それで……玉座の間で言っていた事は、どういう意味だったのですか?」


「どういう……?そのままだが」


「"もう二度と"って言ってましたよね」


「ああ……そうか……そうだったな、妹がいた話は覚えているか……?」


「聞きました。二人で国を作ったと」


「俺は…その妹を殺したのだ」


 獣はうわ言のように、ゆっくりと語り始めた。

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