手懐けてるよね
ここ数日、茶髪ギャルの祐美が俺に何度も相談をしてきた。
俺は面倒臭いとは思いながら、祐美の話を聞いてあげていた。
一度、「お前、この前まで俺をバカにしてたし、喧嘩売ってきたじゃん」と言うと、祐美は「その節はごめんなさい」と謝ってきたので許した。
祐美が近くに来ることが増えると、クラスメイトたちからは珍しいものを見るような視線を向けられることが増えた。
彼らがそれぞれ何を思っているのかはわからないが、俺には関係ない。だって元々友達がいないから。
何度か祐美の相談に乗っていると、彼女は段々と俺の意見を素直に聞き入れるようになった。
俺が言ったことが百パーセントの確率で当たっているらしい。
いや、一般的なことを言っていただけなんだけどね。だってこいつの彼氏、分かりやすいんだもん。
「それでですね、涼くん」
「……」
彼女もまた俺を「涼くん」と名前で呼ぶようになっていた。
「聞いてます?」
「聞いてない」
「いや、聞いてくださいよ! お願いです。涼くんしか頼れないんです」
祐美はいつの間にか俺に敬語を使い、頼りきりになっている。
こいつは占い師とか信じて頼っちゃうタイプなんだろうな。
最近だと話すときは俺の前の席に座り、距離も近い。
「わかったよ。何?」
「彼氏のことなんですが」
「わかってるから」
だって毎度そうだから。
こいつの彼氏が浮気をしていたのはほぼ確定。友人たち数人から証言も取ったとのこと。
祐美は彼氏と別れようとは思っているが、いまいち踏ん切りがつかないらしい。
「彼は自分にだけ優しくしてくれたんです。そこが好きだったのですが……」
「バカめ」
「えっ……!?」
祐美は目を丸くして驚く。
「すみません、どこがバカなのですか? 教えてください!」
こちらに身を乗り出して懇願する祐美。
余程俺の一言が気になるらしい。
「いいだろう。あとで昼飯のパンを二つほど買ってきてくれるか?」
「お安い御用です! なので教えてください」
マジかよ。ラッキー。めちゃくちゃ言うこと聞くじゃん。
「では教えてやろう」
「はい!」
祐美は真剣な眼差しを俺へ向ける。
何かもう弟子って感じ。
「まず、お前にだけ優しいというのはお前の勘違いだ」
「え!? で、でも……」
「今、『彼は他人には冷たくしているのに』とか思ったな?」
「は、はい。思いました。すみません」
祐美はしゅんとなって俯く。
本当に以前と同一人物か?
「それはいい。何故ならそいつは本当に冷たくしているからだ。男や老人、子供、そこらの太ったおばさんとかにな」
「えっと、つまりどういうことですか?」
「お前に優しくしたのは体目当てだったり下心があるからなんだよ。つまり顔が可愛くて、エッチなことをしたいと思う女なら誰にでも優しくしてるってことだ。そしてそれ以外には冷たいし、何なら暴力も振るう。あいつらマジで最低だよ」
「え、マジですか……?」
「ああ。今度よく観察してみろ」
「は、はい! わかりました」
祐美は素直ないい返事をした。
もう全然反論とかしてこない。結構怒りそうなことを言ってるんだけどな。
「あの、涼くん」
「ん?」
「……えっと、つまり私は可愛いってことですか?」
祐美は何やら頬を赤らめ、もじもじとしながら尋ねてきた。
「ああ。お前は可愛いし、普通にエッチなことをしたいとは思われるだろな」
「本当ですか……? 光栄です……」
「え?」
マジ? 今光栄って言った?
もしかして俺でもいけちゃうのかな。一回頼んでみるか?
「ちょっと」
「ん? 何だよ」
隣を見ると、金髪ギャルの玲華がジト目でこちらを見ている。
「別に。このままじゃ祐美が危ないと思っただけ」
「な、何のことかな?」
マジかよ。心を読まれたのか? こいつ本当に怖いんだけど。
「何かあんたに騙されて体を許しちゃいそうだし」
「いや、騙してはないだろ」
また前方の祐美に視線を向ける。
「涼くんは騙さないですもんね?」
「まあな」
祐美は相変わらずキラキラとした目で俺を見ている。
結構可愛いなこいつ。
「ですよね! あ、もう戻りますね。あとでちゃんとパンを買ってきます」
「おう」
祐美はたたたっと廊下側の自分の席へ戻って行った。
あいつの変わりようが凄いな。
まあ最初よりは全然こっちのほうがいいので、とやかく言うつもりはない。
パンも買ってきてくれるみたいだし。
しかし、ただ単にあいつが変わったのかと言えばそうではなく、俺に対する態度だけが変わっている。
他の男子にはきつい態度を取っているのを目にする。
「あんた、完全に祐美を手懐けてるよね」
隣にいる玲華が呆れたように言う。
「そうか? まあ今のうちだけだろ」
「これはこれで面白いしいいけど?」
あ、こいつ面白がってるんだ。何か悪魔の匂いがする。
「なあ。あいつってお前の友達なんだよな?」
「うん。多分、そうなんじゃない?」
玲華はにこっと笑顔を向けてきた。
多分って何? 違う可能性があるの?
にこにこと微笑む金髪ギャル。
顔は可愛いんだよ。マジで。
まあこいつらが友達だろうがそうでなかろうが、俺には関係ない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます