友と書いて取り巻きと読む1
そんなこんなでやってきた、私の誕生祝。
一番最初に位の高い人の誕生祝を行うのは、それを超えるような飾り付けをしないようにということらしい。そのため、飾り付けられた大広間は十分豪奢ではあるものの、王子様のときに比べたら見劣りする。
王族の誕生祝を超えるだけの飾りつけなんて早々できないだろうけど。金銭的にも、人員的にも。
ただ私の服装だけは王子様のときよりも豪華だ。今回は主役だから、他の子に見劣りしないようにと派手なドレスを着させられている。
フリフリだし、リボンもいくつかついているし、真っ赤だしで中々目に痛い。
「本日は私の誕生祝に来てくれてありがとうございます」
笑みを崩さないようにしながら、祝辞を述べに来る人たちと言葉を交わす。王子様の誕生祝で顔を合わせた人が大部分を占めていたので、新たに覚えることが少ないのは幸いだ。
私はひそかに今日を楽しみにしていた。王子様と踊るのはいまだに億劫だけど、今回はなんと、私の友人を見繕うことになっている。
つまり、私に取り巻きができる。
取り巻き――なんて悪役令嬢らしい響きだろうか。どの子がいいかな、あの子なんていいんじゃないか、とひっきりなしにやってくる親とその子どもを見ながら物色している。王子様の誕生祝では退屈でしかたなかった挨拶回りも、目的があると前向きになれる。
にやにやと笑いそうになるのをこらえるのが大変だ。
「今日はお招きに与れて光栄です。先日の装いも素敵でしたが、本日のは前にもましてあなたの美しさを際立たせていらっしゃいますね」
「本日は私の誕生祝に来てくれてありがとうございます。シモン様の誕生祝にもぜひうかがわせていただきますわ」
よし、次次。何度も言ってるおかげでもはや無心で常套句を言うことができる。思考はもちろんあちらこちらにいる女の子に向いている。
今日が私の友達選びの日だということが知れ渡っているのか、付き添いの大人は一歩下がって、子ども同士の挨拶を暖かい目で見守っている。
王子様のときには十をとっくに超えている人もそれなりにいたが、今回は同じぐらいの年の子ばかりが集められていた。
可愛い女の子ばかりで、目移りしてしまう。
次に挨拶にやってきた女の子は、初めて見る顔だ。茶色い髪がくるくるして、真ん丸のお目々が小動物みたいでかわい――
「お初にお目にかかりますマドレーヌ・ルジャンドルですわ。先日はご挨拶できませんでしたのに、こうしてお招きいただけて、私とても感激しておりますの」
「本日は私の誕生祝に来てくれてありがとうございます。先日は慌ただしく帰ってしまって、申し訳ないですわ」
――美味しそうな名前をした小動物の正体は、宰相子息の未来の婚約者だった。
ぎゅっと胸の前で手を組んでいる姿は、死骸を学友の机に忍ばせるような子にはとても見えない。朱色に染まった頬に、うっとりとした瞳――焼き菓子の名前を持つこの子は、私に傾倒しているようだ。
人前に出たのなんて、この間の誕生祝ぐらいだし、彼女とは顔も合わせていない。王子様と踊ったら即座に帰ったのに、一体何が焼き菓子ちゃんの琴線に触れたのか、見当もつかない。
その後はビシバシと突き刺さるような、熱のこもった視線が向けられた。ちらと視線のほうを向くと、案の定焼き菓子ちゃんが見ていた。目が合うと嬉しそうに笑って、小さく手まで振ってくる。
そりゃあ、仲間意識を持ってはいたけど、さすがにここまで好かれるのは予想外だ。宰相子息ルートで焼き菓子ちゃんが私と一緒にヒロインを苛めてたのは、私に好かれたくて、というのもあったのかもしれないと勘ぐってしまう。
その結果が死骸とか虫とかなのは、令嬢としていかがなものかと思うけど。
「遅れてしまってすまないね。本当は一番最初に来たかったんだけど」
「本日は私の誕生祝に来てくれてありがとうございます。来ていただけただけで、光栄ですわ」
言い終わったところで、頬をつねられた。あれ、たの数多かったか?
いただけただけでって喋っているとどこまで言ったかわからなくなる。
「あのさ、お礼の言葉は目を見て言おうよ」
じっとりとした目つきの王子様が睨んでいた。人目があるのに頬をつまむのはいかがなものでしょうか。
「あら、嫌ですわ。私ってば殿下を敬愛しすぎるあまり目をそらしてしまいましたのね」
「……まあ、そういうことでいいけど」
ちゃんと笑顔も作ってた――思考は外を向いていたけど――目も合わせていたはずだ。
王子様のときだけ無意識で逸らしてしまったのだろうか。そうだとしたら、それは王子様の普段の振る舞いのせいなので、私のせいではないと思う。
どうやら王子様で招待客は最後だったようだ。挨拶を終えるとすぐに、お父様の乾杯の音頭によって、誕生祝が始まった。
騎士様も挨拶に来たけど、常套句に常套句を返しただけなので割愛。
今回はダンスよりも先に歓談の時間が設けられている。
真っ先に、まるで飛びこむようにやってきたのは、焼き菓子ちゃんだった。
「ああ、さすがはレティシア様ですわ! ルシアン殿下とあんなに親しげで……私、レティシア様とルシアン殿下の距離感がとても素晴らしいと思っておりますの。私も婚約者が出来たらあれほど親しくなりたいと、そう願ってますのよ」
「や……マドレーヌ様なら、きっと素敵な関係が築けると思いますわよ」
相手が宰相子息だと難しいかもしれないけど、そこはまあ、努力次第ということで。
「ええ本当、親しそうで、思わず妬けてしまいます」
頬に手を当てて焼き菓子ちゃんに同意したのは、伯爵家令嬢のアドリーヌ・バルビエだ。砂色の髪と緑色の目をした、大人しそうな子。
そういう意味では焼き菓子ちゃんは
もっとこう、気が強そうで、私を食わない程度にアクの強い子はいないものだろうか。
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