【FREEDOM × HELL】―全てがタスク化された世界で―

作者 音乃色助

自由と引き換えに手にしたもの

  • ★★★ Excellent!!!

クオンタムと呼ばれるAIが統治する未来。

人類はクオンタムが選定したTodoリストによって、予めその日の行動が決定されていた。

服装、振る舞い、感情表現。何もかもがクオンタムの意志によって決められ、それに反する者は”ある残酷な刑”に処されることになる。

そんな世界で生きる主人公の男は、ある日クオンタムから逃れようとする一人の女性と出会う。

しかし、それが彼の人生を大きく狂わせてしまうことに……。



以上が本作の大まかなあらすじです。AIによって自由を束縛される未来。まさに現代の我々からすれば、恐ろしいディストピアであると言えるでしょう。

「自由」。これほど人類が古来から憧れる言葉はありません。人類が農業を始めたのは狩りのリスクから自由になるためですし、革命は圧政者の支配から自由を勝ち取るために行われてきました。それだけ、人類は自由と言うものにこだわりを持ち、逆に「不自由」というものを忌避してきました。

しかし、SFとはそうした従来の当たり前の価値観に疑問符を突き付ける文学でもあります。

本作『【FREEDOM × HELL】―全てがタスク化された世界で―』は、まさに「自由」というものの価値に疑問符を突き付ける作品なのです。



自由であることは、どのように行動するかを自己責任をもって選択することでもあります。自己責任と選択は切っても切り離せるものではありません。

ところが、人はそんな自己責任を負うことからも自由になりたがることがあるのです。

私は元来意思決定というものが苦手で、恥ずかしながら誰かに指示を出すよりは、誰かの指示に従う方が楽に感じることがあります(もちろん、ろくでもない指示であればその限りではありませんが)。

おそらく、そうした人は一定数いるでしょう。自らの意志による選択とは、選択した結果の責任を負うことであり、誰もその肩代わりはしてくれません。

しかし、本作では高度に発達したAIが肩代わりしてくれます。それも絶対に正しい選択までしてくれるのです。

これは考えようによっては、選択に伴う自己責任からの開放……究極の「自由」を手にしたユートピアであるかもしれません。



自由とは麻薬に等しいものです。一度手にした自由は、簡単に手放すことはできません。

AIがすべてを決める未来がもしユートピア……究極の「自由」な世界だとしたら、そこからもし追い出されるようなことがあったら……?



本作のラスト。主人公の運命への嘆きとそれに対するAIの回答は、誰もが納得すると同時にひきつった笑みを浮かべざるを得ないでしょう。「そりゃそうだよな」と。


自由とは何か? 束縛とは何か? 選択とは何か?


作者からの幾多の問題提起に、あなたは答えられますか?

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