決着ニャン

 もちろんブラックちゃんは、渾身のニャンパンチによる抵抗は試みた。

 だが――日々のお手入れとして、爪を切っていたのは悪手だ。

 一撃を顎で受けた虹色モヒカンは、下品な苦笑で返したのみ。

 観念した瞬間だった。

(これまでかニャン)

 いつの間にやらナプキンを装着し、ダンスするモヒカン共へ諦めの視線を向ける。

 思えば思うほど……過酷な日々であった。

 己のキュートボディを生かした疲れなき優雅な日々を送るという夢は誕生の初日から崩れた。残されたのは文字通りゴミを漁る毎日。

 風呂にはちょくちょく入れたが……。

『ぐすんニャン』

 先ほど、リョウちゃんにかけた言葉を思う。

 あの子の涙に影響されたか。 

 センチなセリフだ。

 だが。

(悪くないニャン)

 ブラックちゃんは目を瞑る。


「ブラックちゃん! ブラックちゃん!」

『ニャ!』

 耳元でがなりたてる少女に反応! 目をひんむく。

「奥歯! 奥歯! 奥歯のビーフジャーキー!」

 すぐ傍!

 ブラックちゃんの頭を撫でるリョウちゃんが謎の言葉を叫ぶ!

『な、何のことニャン』

「奥歯! さっき、ゾンビモヒカン野盗さんに押し込まれたビーフジャーキーだよ! まだ挟まってる!?」

『ニャンという。でもちょっと声のボリューム下げてニャン』

 手を押し込み、口の中を探る。

『ムムム、あったニャン』

「それ! 彼の口に投げて食べさせるの! 投げぇー!」

 彼女が指さすは、仰向けのゾンビモヒカン野盗!

「そしたら私! 彼にDVD起動を命令できる! DVD再生したらこいつら呪い殺せる!」

『ニャニャニャ』

 距離はさほど離れてはいない。

 このダンス中の馬鹿共の視線を逃れての投擲――ブラックちゃんのニャンパンチパワーならば不可能ではない。しかし。

『不安ニャン。ドジったら死ぬニャン』

「スマイルだよ! 言ってくれたじゃないか!」

『俺、笑えんニャン!』

「だったら心でニッコリいこうよ! ブラックちゃんだってねぇんだよッ!」

『ニャ』

「不幸とか! スマイルでぶっ飛ばせるんでしょ!」

 頬にキスする。

「私も、悪霊として生きる。どんな世界だろうと……」

 嬉しいと思った。

「だから君も優雅に暮らせるはずだよ」

『…………』

「気楽に暮らそうよ」


     ○


「ドゥアハハハハハヒィ~ッ!」

「喜びの舞終わりィ~!」

「食えぃ~ッ!」

「ヒハ~ッ!」

 一際目立つ大声を響かせるのは虹色モヒカン!

 彼は喚きながら黒猫を床に叩きつけるべく勢いよく振り回し――。

「ん?」

 何か、猫の手からすっぽ抜けたものが。

 よく見えない。

 それは先ほど殺した出来損ないモヒカンの口へ落下。

 奴は。

「ドブヒヒ」

「おい! 生きてんぜぇ~!」

 意外な生命力である。

 口を上下に動かした男は床を這い――。

「ドヒヒ」

「「「ぐわははは」」」

 全員大笑である。

 目を回した猫と同じだ。

 蘇ったはいいが意識は朦朧としているらしい。

 袂にポータブルDVDプレーヤーをたぐり寄せ、電源ボタンを押下する。

「うおい! 売り物だぜぇ~! ぶっ殺して奪え~!」

 赤モヒカンの言葉に青モヒカンが応じる。

「おうおう! ん?」

 ふと、画面に気づく。

「?」

「エロか?」

 虹色モヒカンらも画面に注目。

 映し出されたのは砂嵐。


 青モヒカンの首がへし折れた。


「「え」」


 室内に出現したのは、血塗られたセーラー服を着た金髪の女。

 細い両腕で吊り上げられた同僚は、即死し――。

「んだテメェああぁああああああああああああああ」

 赤モヒカンは怒号と共に立ち向かう。

 廊下へ青モヒカンを投げ飛ばした女は、死体の破裂音を背に腕を振るった。

「かあああッ!」

 赤モヒカンの斧は空振りに終わる。

 代わりに、目にも止まらぬ早さで繰り出されたクローは彼の首を掴み――捻じ切った。

 女は、悠々と虹色モヒカンへと向かう。

「ぁぁあああああ――」

 黒猫をソファに投げ捨てた虹色モヒカンは、己のバイクを担ぐ。

「死ぃあああああああッッ!」

 女の頭めがけ叩きつけ――叩きつけ――。

「え」

 感触がない。

 すり抜ける。

 首。触れる指。


「ちゅめたい」


     ○


『恐ろしいニャン』

「うん」

『まさに、悪霊そのものの活躍ニャン』

「うん」

『ちゃんとできるニャン』

「…………」

『とりあえずあのポータブルDVDプレーヤーだニャン。電力を永続的に――』

 リョウちゃんはブラックちゃんを抱いた。

『やれやれ。優雅に暮らしてやるニャン』

「ドブヒヒ」

 ゾンビモヒカン野盗は無傷の自転車にキスした。


     <続くニャン>

 

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