襲撃だニャン

「クスン。ヒック」

『よしよしニャン』

 三十分が経った。

 その間、ブラックちゃんは彼女の膝に乗り、少女をあやし続けた。

 狼狽していたリョウちゃんも目は赤いものの、少しは冷静になった。

「ドビヒヒ」

 ゾンビモヒカン野盗は、室内に持ち込んだ自転車をタオルで丁寧に拭いている。

「ど、どうりであの世が満杯のはず……タップリ人間が壊滅状態に……」

『俺は何やかんやの後に生まれたから詳しくは知らんニャン」

「どうしよう……ブラックちゃんニャンさん。私、人間呪殺特化型映画の悪霊なのに……呪い殺す人間がいないなんて……」

『目覚めた時代が悪かったニャン』

「目論見が……クスン」

 ブラックちゃんを抱きつつソファから離れ、彼女は哀しき犠牲者の背中をさする真似をした。

「ぎゅひひ」

「ゾンビモヒカン野盗さんが死んで、警察沙汰になったら……たぶん色々来るじゃないですか。警察の方とか。近所の野次馬さんとか」

『昔だったら来たかもニャン』

「そういう方たちに、まとめて再生しっぱなしの映画を観せて芋づる式に呪い殺すっていう算段で……」

『なかなか凶悪で痺れるニャン』

「クスン。どうしよう……この仕事……頑張るって決めたのに……また駄目に……グスン」

『……俺も偉いことは言えないニャン』

 リョウちゃんに頬ずりしつつブラックちゃんは独りごちる。

「え」

『俺、なかなか可愛いだろニャン』

「うん。可愛い」

「生まれた瞬間こそ、可愛さを武器に効率よく食料を得ようと思ったが……まさかまさか、崩壊後の世界ニャン」

「うん」

「食うものも食えぬ辛い世界ニャン」

 リョウちゃんは答えず、ブラックちゃんの額にキスをした。

 ブラックちゃんは、なんだか嬉しく思った。

「あぐひーぐひひ」

「思えば……このゾンビモヒカン野盗も哀れニャン」

 元・飼い主は自転車の前輪に抱きつく。

「見ての通り自転車好き男だったけど……世界がエラいことになったが為にモヒカンのパシリと化したニャン。それでもなお、人肉抜きでは生きられぬ哀れなボディニャン」

「にくーにくー」

『ぐげニャン』

 何を思ったか。食いかけのビーフジャーキーをブラックちゃんの口に押し込むゾンビモヒカン野盗。

『ばっちぃからよせニャン。あ、くそ……奥歯に挟まって取れんニャン』

「……私たち、不幸になるしかないのかな」

『ニャン……?』

 ふと、リョウちゃんは口にする。

「世界が終わったら、私たちも終わらなければいけないのかな」

『よせニャン』

「…………」

『リョウちゃん。お前はまだニャン』

「悪霊だよ」

『ぬくいニャン』

「ぐひへひ」

『モヒカンめ、お前は臭いニャン。えんがちょニャン』

「ぷっ」

『笑うところに福来たるニャン。不幸はスマイルで吹き飛ばせニャン』

「……うん」

『俺は猫なので笑えんがニャン』

「ん……」

 涙もろい子だ、とブラックちゃんはしみじみ思った。

 彼女が悪霊の道を選んだ経緯――詮索はよした。

 ブラックちゃんは冷徹な猫だが……リョウちゃんの笑顔を見たいと思った。

「ところで、リョウちゃんニャン」

『ん』

「実はまだ人間は――」


「「「ヒッハハ~~!!!」」」


 突如破壊されしワンルームマンションの壁!

 現れたのは三台のバイク!

 乗り手共は――!


「オラ~ッ! 食料食料食料オラ~ッ!」


「いるか居住者~! 命もろとも差し出せぇ~いッ!」


「ヒッハハ~ッ!」


 赤色のモヒカン!

 青色のモヒカン!

 虹色のモヒカン!


 崩壊寸前の建造物にて叫ぶは――この世界に生息する残忍なモヒカン共である!


     <続くニャン!>

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます