人間呪殺特化型映画をネコちゃんが観ちゃったニャン モヒカン荒野闘争編

砂漠生物

呪いの映画ニャン

 ここはとあるワンルームマンションの一室。

 カーテンで窓を覆われた暗黒の居間には最早電灯一つ灯らない。

 いや、元より電気代をカス同然のものと軽んじていた男(モヒカン)があるじだ。

 闇夜と言えど――単三乾電池三つで動くLEDランプをワンルームの部屋中に設置するだけで彼は十分に満足していた。

 寝床さえありゃいい、と。

 その安息の地のド真ん中。

「ブクブクブクブブブブ……ブゲッ」

 男は悪霊におもっくそ絞め殺されていた。

 ポータブルDVDプレーヤー(単三乾電池式)の液晶が、とある場面を映し出した。

 観た瞬間。

 モヒカン男の背後に出現したセーラー服姿の悪霊は……非情の一言だ。

 悪寒に震え振り向いた獲物は、中古DVD店から拝借した呪いの映画DVDを面白半分で視聴した屈強な男。

 彼が恐怖の叫びを吐く間も与えず、瞬く間に悪霊は見事なネックハンギングツリーでモヒカンを仕留めてしまった。

「グゲボゲピ」

 冴えない遺言を残し絶命するモヒカン男。

 鎧姿が凜々しい。

 その死に様を冷めた様子で見下ろす血まみれの悪霊女。

「…………」

 黒い乱れ髪で隠され、その表情は伺いしれず。

 背の低いテーブルから落下し、不快な音を発し続けるのはポータブルDVDプレーヤー。

 砂嵐のみが記録された暗黒の映画。

 タイトルは『あ い ど  お る』。

 これを視聴した人間には死あるのみ。

 此度もまた、その惨劇が繰り返された格好だ。

 これにて、この部屋の生存者は全て――。

『まさかニャン。あぁも物理的な手段を選択するとはニャン』

 否、だ。唯一残されし者が荒い呼吸を続ける。

『メタクソやばいニャン』

 彼の名はブラックちゃん。

 今年で生まれて二年目の黒猫ちゃんである。

 毛は逆立ち、口の中が乾く。

 ソファの隣でのんびりキャットフードを食べていた先ほどの彼は……ビックリ仰天。

 数秒前まで日本酒を楽しんでいた飼い主が――突如として悲鳴を発した。

 お、ジャンク品のDVDプレーヤーが爆発したか? 液漏れしていたのか?

 当初ブラックちゃんはあくび交じりにそう思った。

 古い電化製品及び乾電池の取り扱いには注意を要すると、学習済みのブラックちゃんだ。

 さして驚きもせず――それでも避難経路だけは思考しつつ、飼い主を仰ぎ見る。

 結果は先に述べたとおり。

 地獄である。

『なんてこったニャン。俺もモロに観ちゃったニャン』

 憎むべきはさっき逝去した飼い主。

 黒猫ブラックちゃんの一族は往々にして不吉の象徴と揶揄されることもあり――元来彼はオカルトめいた物事を嫌悪していた。

 だが、よりにもよって現飼い主のアホが斯様な訳の分からん品を持ち帰るとは。

 そして嫌な予感は的中した。

 結果としてモヒカンは死に、ブラックちゃんもまた……。

 首を軋ませた悪霊がブラックちゃんを眺める。

『ド畜生ニャン』

 彼は頑張って二本立ちし、攻撃態勢をとる。

『来るなら来いニャン。ニャンパンチでぶっ殺すニャン』

 果敢に両の腕を振り回し威嚇する。

 言うまでもないが、傍に転がっている飼い主――名はヤマダ、もしくはサトウだった気がするが覚えていないし興味もない。なので合せて「ヤトウ」とブラックちゃんは仮称する――に対する感傷など、髭一ミリほどもない。

 モヒカンのヤトウにはキャットフード目当てで昨日から飼われてやっただけであり――そもそも臭いし騒がしいし臭い男だったので嫌いだった。

 その上、このモヒカンヤトウの道連れで呪殺だと?

 ブラックちゃんにそのような理不尽は到底看過できない。

『悪霊め、もたつくなニャン。俺はただではやられんニャン』

 ならば闘いの中で死んでくれよう。

 嫌いなモヒカンのヤトウ。嫌いなオカルト。

 嫌いな連中に黙って殺されるならば、ブラックちゃんは喜んで茨の道を――。


「あ、あのう」


 弱々しい声が聞こえた。

 声の持ち主は、小さく挙手した悪霊だ。

『ビックリニャン』

 まさか、猫に通じる言語でコンタクトをとってくるとは。

「あ、あの……ごめんなさい。ちょっと問題が」

 しかもその声はメチャ若く可愛かった。

 だが、油断はできない。なおもブラックちゃんは両腕を大いに振るう。

『なんニャン。かかってこいニャン。俺はいくつもの修羅場をくぐり抜けた強いネコちゃんニャン』

「あ、やっぱりあなたネコちゃん、ですよね」

『だったらにゃんニャン。この俺を舐めるなニャン』

「あ、う、えと……お、落ち着いてください」

 悪霊は自らのボサボサした長髪に手をかける。

「よいしょ」

 ずり下ろした。

『むむニャン』

 どうやらウィッグらしい。

 その下にあるのは、金色のショートヘア。

 頬は薄らと紅潮し、瞳は碧眼。

 黒いリボンチョーカーも似合う。

 鼻筋は通っており――。

『キュートな姉ちゃんだニャン』

「あ、ありがとう」

『本気ニャン。……おっと』

 心からの言葉を口にしたブラックちゃんだが、すぐさま我に返る。

『油断させようとしても無駄ニャン。俺にネックハンギングツリーを仕掛けてみろニャン。俺の恐ろしさを――』

「そ、そのことなんですけど」

 悪霊セーラー少女は、その場で正座した。

『ニャン?』

 つられてブラックちゃんもお座りする。

「わ、私って人間呪殺特化型映画に潜む悪霊なんです……」

『ニャン』

 なおも床に転がるDVDを指さす。

「能力は……映画の砂嵐を一秒でも観たを確実に絞め殺すってのなんですけど」

『大体理解してるニャン。かかってこいニャン』

「でも、あなた人間じゃないです」

『ニャッ』

「ネコちゃんじゃないですか」

『…………』

「人間用にある呪いの映画をネコちゃんが観ちゃったってワケで……呪い殺していいのかなぁって』

『……ニャン……』

 ブラックちゃんは肉球を舐めた。

『じゃあ……どうするニャン』

「どうしましょう」


     <続くニャン>


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