第1203話 重要な役割を担う者達


 なんだかんだで時間は経って、もう少しで21時というところ。ミヤ・マサの森林での青の群集との総力戦まで、あと1時間か。

 俺らの割り振られた浄化の要所を押さえにいくグループの集合時間はそろそろだけど、パッと見た感じでは意外と人はいる。知ってる人もチラホラいて、話もしているところ。


「これ、結局何人くらい集まってるんだ? レナさん、その辺って知らない?」

「えーと、今は50人くらいだねー。連結PT3つ分を上限にするって言ってたし、最大で54人ってとこかな?」

「あー、なるほど」


 1つの連携PT18人を、3つまでで54人の部隊か。多いと考えるか、少ないと考えるか、なんとも言い難いところ。この辺、種族の大きさにもよるからなー。


「え、でもそれより多くないかな?」

「70人くらいはいる気がします!」

「およ? そんなはずは……って、そっか! 推進力作成班もこっちに来る事になってたっけ。ごめん、ごめん」

「あ、その辺はどうするとかと思ってたけど、別枠で用意するんだね?」

「大きい種族の人に乗って強襲なのは、峡谷エリアでの件と同じだからねー!」

「まぁそりゃそうか……って、推進力作成班?」

「なんかスチームエクスプロージョン以外の他の手段も使いそうな感じだね?」


 あ、ヨッシさんも俺と同じ事が気になったっぽいね。別に高速で移動出来ればいいんだから、昇華魔法に拘る理由もないのか? まぁそれならそれで問題ないか。


「それは拙者、知っているのであるよ! スチームエクスプロージョンで吹っ飛ぶのと、投げられて行くのと、風や水流で流していくなどの手段である!」

「固定役も一応用意はするけど、可能なら自前で用意してくれって話だったか。まぁ俺のサンゴみたいに、固定向きの種族を呼んでいるみたいだが」

「ジンベエさん、固定役なんだ?」

「サンゴの増殖で覆ったり、サンゴそのものにしがみついてられるからな。他にも何人かサンゴは来てるぜ」

「へぇ、そうなのか」


 ジンベエさん以外のサンゴの人……って、どこだ!? パッと見じゃ分からないんだけど、何か他の種族と共生進化や支配進化でもしてる?

 あ、キリンの人の頭の上に緑色の角みたいなのがあるけど……もしかしてあれがサンゴか? 何人かいるっぽいし、そういう感じで身体の一部として混ざっているのかも。


「おぉ! 確かにそれっぽい人は何人かいるのです!」

「キリンの人と……あのコンブの人もかな? 大きな飛んでるカメの人も、ちょっと怪しいかも?」

「え、そうなの? ハーレ、サヤ、その辺はどういう基準でなの?」

「キリンの人はなんとなく分かるが……」

「そこは俺も分かったけど、コンブの人とカメの人は分からん!」


 相変わらずの観察力のサヤとハーレさんだけど、何がどうすればそういう判定になるのかがさっぱり不明! というか、あのカメの人……ちょっと名前にツッコミを入れたい!


「あぁ、スザクなら甲羅を持ったサンゴとカメの融合種だな。ジンベエさんと同系統な進化だぞ」

「富岳さんの言う通り、あの空を飛んでるカメのスザクは、俺と同じサンゴメインの融合種だな」

「あー、そういう組み合わせか。……名前についてはスルーでいい?」

「ははっ! まぁカメなのにスザクって名前にはツッコミたくなるとこだよなー! ま、あれは2ndと3rdでの融合種だから、1stは火属性のタカなんだぜ?」

「おいこら、ディール! 俺はわざわざツッコミ待ちをしてんだから、そこでネタバレすんな!」

「おー、悪い、悪い!」


 あ、こっちの話題に気付いたっぽいスザクさんが、ディールさんに怒ってる。1stが火属性のタカなら確かに名前負けはしていないけど……根本的にツッコミ待ちだったんかい!

 まぁサンゴなカメでゲンブって名前とかだとしても、ツッコミたくはなるけど……その辺は気にするだけ無意味か。種族由来の名前だと、全枠共通な名前にはならないもんなー。


 というか、スザクさんは1stがタカで、ディールさんや富岳さんと普通に知り合いみたいだし、草原エリアが拠点な人か。ジンベエさんとは同じサンゴ繋がりでの縁がありそうだ。


「あ、ベスタさんが来たねー。みんな、ミヤビの前まで集合! 作戦会議、始めるよー!」

「あぁ、レナか。聞いての通りだ! 時間ギリギリにはなったが、これから浄化の要所を押さえる具体的な手順を決めていく。声をかけて来てくれた人は集まってくれ」

「「了解だ、ベスタ!」」


 ん? 真っ先に返事をしたのが風雷コンビだったけど、前は『ベスタの旦那』って呼んでなかったっけ? いつの間にやら、普通に呼び捨てに変わってるんだな。あの呼ばれ方はベスタが嫌がってたし、その辺が伝わったのかも? 

 まぁ今はそれはいいや。ある程度は知り合い同士で集まってた状況だったけど、みんな動き出してるし、俺らも動かないとなー。


「アル、移動は任せた!」

「おうよ。まぁここなら、全員普通に移動で済みそうだがなー」

「いや、だって乗ったままだし……?」

「ま、今更か」

「そうそう、今更だぞー」


 わざわざここで降りて向かうのもなんか違う気がするしなー。サヤとヨッシさんはゾンビなヘビを倒す時の都合上、降りた状態だけど。

 そういや特に気にしてなかったけど、風雷コンビに限らず成熟体の龍ってアルのクジラの背の上まで頭が届くサイズだよなー。全長は流石にクジラの方がデカいけど、龍も結構な大型種族か。……龍も移動に使えるのかも?


 まぁその辺はベスタが考えてるだろうし、俺らの意見を無視する事もないだろうし、何か必要があればその時に言えばいいだけか。その為にも、みんなが話せるように集まらないとなー!



 ◇ ◇ ◇



 という事で、少しの距離の移動は終了! 群集全体の総力戦としては決して大人数とはいえないメンバーだけど、人数自体はそれなりにいる。

 他の人がまだ移動中だから、少し待ちか。うーん、少し雑談でもして待ってようっと。


「レナさん、今回って推進力は用意してるみたいだけど、一緒に乗り込む感じ?」

「えっと、そういう予定のとこもあるけど、細かくはこれから決める感じだね。割り振ってからじゃないと、誰がどういう風に乗って移動するかが決められないからさー」

「あー、まぁそりゃそうか」


 俺らのPTでも、風音さんの移動はどうするかって問題もあるしなー。小型化すれば乗るのは簡単だけど、行動値半減というデメリットは大き過ぎる。……上手く制限をかけてくるもんだよな、ここの運営。


「拙者は投げられるつもりでいるのであるが、ジンベエ殿は吹き飛ばされるのでござったか?」

「可能な限り増殖した上で、色んな奴を乗せてってとこだな。レナさん、これは確認しとこうと思ってたんだが……乗せるのは同じPTか連結PTになった奴だけか?」

「ううん、そこは特に縛る予定は今のところはないよ。まぁまだ何も決まってないだけだけどねー。まぁ乗せられる人に、乗せられるだけ乗せていけばいいんじゃない?」

「その手段を増やす為にも、増殖で広げやすいサンゴの要素を持つ海の実力者が多めに呼ばれてるってとこか」

「ベスタさんの意図としてはそんなとこだろうねー!」


 ふむふむ、海の実力者ってあんまり知らないけど、サンゴは割と強いのか? そういやサンゴってコケと同じでHPを持たない種族だし、その辺の特異性が今回の作戦に活かせられるんだろうなー。

 その上で、突っ込んでいっても戦えるだけの人をベスタが選んで声をかけてるのか。ただ強ければいいって選定基準でもないんだろうけど……俺らが呼ばれてるのはそもそもの作戦の大元になる行為をやってたからだろうなー!


「レナさん、質問です!」

「んー? 作戦に関係してる内容ならあんまりここで質問を答えてばっかよりは、後で作戦の詳細を詰めてからの方がいいかもよ?」

「作戦自体には関係ないから、今で問題ないのさー!」

「およ? それじゃどういう内容?」

「推進力作成班の選定は誰がやってたんですか!? まだ全然、移動の手段は決まってないんだよね!?」


 あ、それは確かに気になる内容ではあるね。俺の知ってる範囲ではその役割の声かけも募集も聞いてないし、こう言ったらあれだけど……重要だけど裏方で地味な内容だもんな。

 可能性としては灰のサファリ同盟の人か、その経由で集まってる人なんだろうけど……今回は灰のサファリ同盟の人が少ないんだよな。全くいない訳でもないけどさ。


 パッと見ではどの人が推進力作成班なのかは……正直、分からん! ゴツいゴリラの人とかいるけど、絶対にそうだとも言えないしなー。投擲じゃなくて近接での打撃メインと区別が出来ないし……。


「そこを引き受けてくれたのは、えーと、ミズキの森林を拠点にしてる『モンスターズ・サバイバル』みたいな共同体がミヤ・マサの森林の方にもいるんだけど、そこなんだよね。『森林守り隊』って共同体なんだけど」

「おぉ、そんな共同体があったんだ!?」

「知らないだけで、色んな場所に色んな共同体がありそうかな!」

「あはは、多分そうなんだろうね」


 ミヤ・マサの森林を拠点にしている共同体『森林守り隊』か。なんか環境保全活動とかしてそうだし、『守りたい』って駄洒落も少し入ってるような共同体の名前だけど、まぁそこは気にしても意味はないか。

 モンスターズ・サバイバルみたいな共同体って事は、共同体機能が実装される前灰のサファリ同盟の一員として動いてた人達か? いや、そうとも限らないな。戦闘もガッツリやるサファリ系プレイヤーって集団だから、方向性としてはそっちが似てるのかも。


「強い人も多いんだけど、今回の鍵になるとこの支援に回るって感じで動いてくれてるよー。人数がそれなりにいるから融通は利きやすいし、ある意味1番切実かつ必死なとこだし?」

「自分達の拠点の防衛になるなら、そりゃ必須にもなるか」

「そりゃそうだよなー」


 俺だって1番行く頻度の多いミズキの森林が再戦エリアになっていれば、今よりも気合が入って……って、そういやそういう人達がいるのはあんまり考えてなかった!?

 ちょっとマズい事をした気がしてきたんだけど……えぇい、気にするならちゃんと聞いておくまで! 怒ってる人がいたら、そこは素直に謝ろう!


「あのー、レナさん……?」

「およ? ケイさん、申し訳なさそうな声でどうしたの?」

「……その人達って、俺がミヤ・マサの森林を放棄するって青の群集に突きつけたの、怒ってない?」

「あ、その事! うーん、わたしが答えてもいいんだけど……」


 って、あれ? レナさんが、思いっきりさっき見てたゴリラの人の方へと視線を振ってる? もしかして、あのゴリラの人……名前は『森守り』さんで……てか、共同体『森林守り隊』のリーダーがこの人じゃん!?

 この人はどう考えても森が好きな人だよなー!? あー、もう完全にやらかしてる気がしてどうしようもないんですけど!?


「おう、おう、おう? なんかうちの名前が出てると思ったら、なんだ? 俺らがあの一件をどう思ってるのか、気になるって話か? あぁん? コケの人よー?」

「えーと、まぁそうなります……」


 近くにいたんだから、そりゃ聞こえてるよねー!? あー、せめてアルの上から降りて、レナさんの横まで行って小声で聞くんだった……。今のは無神経に聞き過ぎだ、俺!

 ベスタ、すまん! なんかゴリラの森守りさんは怒ってるような威圧感が出てきてるし、変に気まずい状況を作り出す事に――


「がっはっは! んなもん、気にしちゃいねぇよ!」

「……はい? え、でも、今のってそんな感じじゃ……」

「悪りぃ、悪りぃ! 今ので開き直ってくるなら流石にキレてたが、そうじゃねぇって分かったしな! 最悪、本気で明け渡す気だったとはベスタから聞いちゃいるが、あの時に青の群集を食い止めた事には感謝してるぜ」

「ちょ!? ハッタリがメインだったとはいえ、本気で明け渡すのも考慮してたを承知の上で頭を下げられると困るんだけど!? ミヤ・マサの森林を拠点にしてた人達の事まで、しっかり考慮しての案じゃなかったし!?」


 多少は悪いとは思いはしたけど、それでも当人達の確認は取らずに勝手に俺が仕掛けた手段だ。……それで感謝をされるのは、何か違う気がする。それこそ、勝手な真似をするなって怒られても仕方ないはずなのに……。


「いいや、ここは感謝させてもらうぜ。そもそも、あの時はメンバーの8割がログイン出来てなかったんだ。青の群集の作戦を退けて勝てていたとしても俺らとしちゃ納得もいかねぇし、結果論としては仕切り直しの状況が俺らにとっては最善の結果でな?」

「……え? あ、そう……なのか?」


 そっか、自分が拠点にしている場所の防衛戦に大半が参戦出来ずに決着が決まる事こそ、1番避けたい状況か。万が一もあるとは思ってはいたけど、青の群集がすんなり引くとも思えなかったからこそやった事でもある。……ここは結果論に過ぎないから、偉そうには言えないけど。

 でも、その機会を作り出した事こそに感謝されてるのか。ははっ、まさかそういう形で感謝されるとは思ってもみなかった。


「自分らの拠点は、自分らで勝ち取るって事だ! まぁ自分達だけでってのは傲慢だし、現実的じゃねぇのも分かってるからよ。だから、この1戦の始めは全力でサポートさせてもらうし、その後は全力で青の群集を叩き潰して守り通すのみだ!」

「という感じだよー。ケイさん、これで納得?」

「……納得した。おっしゃ、意地でも守り切りますか!」

「もちろんだ!」

「良い意気込みだ、ケイ、森守り。さて、呼びかけに応じてくれた者は全員揃ったし、守り抜く為に動いていくぞ」

「「「「「「おう!」」」」」」


 あ、思いっきりベスタに聞かれてたっぽい。というか、どこかのPTが凄い気合いの入った返事をしてたな!? でも、その気持ちはよく分かる。


「これより、浄化の要所の制圧班とその推進力生成班の割り振りと、初めの動きを決定していく。重要な役割だ、気合いを入れていけ!」


 そのベスタの声と共に、緊張感が広まっていく。確かにここは今回の総力戦の要となる部分だもんな。これの成否によって、大きく動きが変わってくるはず。

 青の群集がどう動いてくるかは分からない。場合によっては、同じような手段で大規模な戦闘が最初から始まる可能性もある。他の役割だって重要じゃないところなんて無いけども、俺らに任される役目は負けると一気に不利になるのは間違いない。だからこそ、勝つ為に全力を尽くすまでだ!

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