第1194話 協議を終えて


 予想以上に協議に時間がかかっていたけど……終わってから時間を見てみればもう17時を過ぎていた。まぁあれだけ色々とやり合ってたら、そりゃ時間もかかりますよねー。

 ただ日程を決めるだけだったのに、対戦中だとこうも駆け引きが増えてくるのか! あー、もう本当にジェイさんもウィルさんも、どっちも厄介だなぁ。


「あ、ケイ! シュウさんが、競争クエストが終わったら例の検証の続きをしないとって話をしてたぜ!」


 おいこら、待てや、馬鹿フラム!? 刻浄石や刻瘴石の共同検証の件なんだろうけど、それを青の群集……しかもジェイさんがいる前で言うな!?

 くっ、しかもこれを言葉に出して注意する事も反応する事も出来ないじゃん!? 


「おーい、ケイ? 無視すん……ぐふっ! ちょ、ウィルさん!? いきなり――」

「いきなりも何もあるか! さっさと戻るぞ!」

「おわっ!? なんで引っ張って――」

「……フラム、静かにしとけ」

「ルアーさんまでなんで怒ってんの!?」


 特大な爆弾情報を放り投げて帰るなー! ウィルさんが反応した事で、青の群集に知られたくない内容があるって事を示してるし、厄介事を作って残していくのは勘弁してくれない!?


「……何やら、面白い事が聞こえましたね? ケイさんとシュウさんで、何を検証しているので?」


 そりゃジェイさんが反応しない訳がないよなー! くっ、今の状況で迂闊に話せるような内容じゃないんだけど!?

 競争クエストが終わった後に青の群集も交えて共同でやるって事も出来なくはないだろうけど、それは俺の独断で決めるべき事じゃない。……後で、赤のサファリ同盟に苦情を入れとくか。でも、今はまずこっち!


「さーて、急いで帰るぞ! 群集のみんなへの通達は、ベスタ経由でいいんだよな?」

「あぁ、その辺は俺の方でやっておく」

「アル達にも急いで伝えないとかな!」


 という事で、強引に話を打ち切って撤退! もう既に色々遅いような気もするけど、これ以上の情報戦をやってられるかー! ベスタもサヤもそれに合わせてくれてるし、ここはサッサと立ち去るのみ!


「……まぁいいでしょう。今の状況で赤のサファリ同盟と共同で検証する必要があるのはあれくらいでしょうし、その話は後ほどという事で……」


 後ほどって、このままスルーしてくれる気は欠片もなさそうだな!? いやまぁ、ここで大人しく引き下がるのもジェイさんらしくはないけど……内容自体には察しがついてるっぽい!

 ……ジェイさんに瘴気魔法を吸収された結果での検証だから、推測されて当然な気もするけど。ここで思いっきり追及してこないだけ、マシなのかもなー。ともかく、今は青の群集の安全圏から撤退!


<『群雄の密林・青の群集の安全圏』から『群雄の密林』に移動しました>

<『群雄の密林・青の群集の安全圏』への立ち入りが禁止されました>


 安全圏を守るバリアを通り抜け、戻ってきたぜ! あ、移動すると同時に立ち入りの承認が消えたね。これは……入る度に承認を貰わないとダメなやつか。そりゃ承認が有効なまま残り続けるとかはないよなー!

 とりあえず安全圏の中からこっちが見えてても困るから、移動はしながらで! 


「とりあえずアルマース達がいる場所まで移動するか。これからどうするかの話は、それからでいいだろう」

「ほいよっと。みんな、そっちの様子はどう?」

「ん? あぁ、協議は終わったのか。……随分と時間がかかったな?」

「……まぁ色々とあってなー。とりあえずこれからそっちに戻るわ」

「おう。PT会話越しで聞いてもいいが、戻ってから内容は聞かせてもらう」

「了解っと」


 もう誰も彼もが何かしらを狙っていて、油断も隙もあったもんじゃなかったし、その辺の話はじっくりとしておこうか! 色んな人にとって1番厄介だったのはフラムの存在のような気もするけど……。

 まぁそれは戻ってからでいいとして、ヨッシさんの強化の方は――


「ヨッシは目標は達成出来たのかな?」

「あ、うん。同族統率Lv6にはなったし、『強化統率』の取得も出来たよ。ただ……」

「……何かあったのかな?」

「あはは、まだ同じ対戦形式で続けてるんだけど……任意で解除しても再生成が可能な時間に制限があるから、今の状況では全然使えてない状況なんだよね」

「あ、そういえばそういう仕様だったかな!?」


 そっか、確か同じ進化階位の統率個体を生成出来る『強化統率』は、今までの『同族統率』とは仕様が違うんだった。そもそも通常スキルと応用スキルという違いもあるし、その辺は当然か。

 えーと、確か任意で解除しても再生成に10分だっけ? ちょっとこの辺の仕様は自信がないから、後で改めて確認しとこ。具体的な運用方法も考えたいから、ヨッシさんに実際に見せてもらいたいしね。


「まぁその辺は戻ってきてから詳しく話すね」

「わっ!? 今回は4体なのさー!?」

「……会話……しながら!?」


 おー、まさかの会話中でも容赦なしの統率個体の生成か。でも4体って……あぁ、そういや同族統率Lv6になったら生成数が増えるんだったな。確かその効果が出るのが昇華に相当する『同族増加Ⅰ』だっけ?

 そういや風音さんって、土の操作はLvいくつだ? 同時操作数が4つになるのはLv7からだから、土の操作がまだLv6なら同時に4発は狙えない状況になってそうだよな。これは……勝敗に変化が出てるかも?


「というか、随分と呑気な感じだが……総力戦は何時になったんだ? 準備を急がなくてもいいのか?」

「あー、そこだけ軽く伝えておいた方がいいか。ミヤ・マサの森林での対決は、今日の22時からになったぞ」

「……随分遅めだな? まぁ、そういう時間帯になったなら焦る必要もないか。どういう流れでそうなったのかは後で聞かせてもらうとして……まぁゆっくり戻ってこい」

「ほいよっと」


 開催時間が遅くなったから、無理に焦って戻る必要もないからね。戻ってからお互いの状況を伝えたらそこで時間切れになりそうだけど、まぁそれはそれで問題なし。

 ベスタはずっと黙ってるけど……連結PTにしてる訳じゃないし、隣にいる俺とサヤとしか会話が出来ないから配慮してくれてる? あ、違う。これ、多分だけど情報共有板とかに報告を上げながら走ってるだけだ!? ……平然と移動しながらやるもんだなー。


「……それにしても、フラムさんがいたのはびっくりしたかな」

「あー、そういやあの馬鹿はどうしてくれようか!」

「……おい、冗談抜きで協議中に何があった?」

「それも後で話す!」

「あー、決まった内容だけ聞きたい気分になってきたぞ……」


 何を言っている、アルめ! その辺のややこしい色々な状況も含めて、全部話すに決まってるじゃん! どれだけ色んな事を仕掛けて――


「ケイも割と無茶を吹っ掛けてなかったかな?」

「サヤも結構切り込んでなかったっけ!?」

「私は気になった部分を聞いただけかな。ケイみたいに脅してはないよ?」

「うぐっ!?」

「……おいおい、本気で何があったんだよ」


 今のはまた声に出てたっぽい……。てか、ここでサヤにツッコまれるのは少し納得はいかないけど、反論の余地がない! 赤の群集に対して『卑怯者』か『風見鶏』のどちらで呼ばれたいかの2択を迫ったのは事実だし……。


「まぁそれは戻ってからで! ……本気であいつはどうしようか」


 最後の最後でフラムが余計な事を言ったから、まともに挨拶も出来ずに解散になったけど……あの件はクレームを入れとくか。この場合、誰にクレームを入れるのが最適だ? 赤のサファリ同盟に対してなのか、フラム個人に対して水月さんになのか……。


「えーと、弥生さんか、シュウさんか、水月さんの誰に言うべき? クレーム入れておいた方がいいよな?」

「……あはは、やっぱり最後のはスルーは出来ないかな?」

「そりゃなー。……どうしてくれようか、あの馬鹿フラム!」

「ケイ、そこは自由にしてくれて構わんが……程々にしておけよ? どうせ、あの様子なら戻ったら怒られるだろうしな」

「あー、ベスタの言う通りか……。クレームを入れたら入れたで妙に気疲れしそうだし、もう放置でいいか」

「ケイ達は協議に行ったんだよな!? なんでクレームなんて言葉が出てくる!?」

「色々あったとしか言いようがないんだよなー」

「……あれは、うん。本当に色々あったとしか言いようがないかな?」

「あー、もうPT会話じゃ埒が開かんな。合流するまで、聞くのはやめとくか……。どうせ結果だけを伝えるつもりもなさそうだしな」

「まぁそりゃなー! 色々聞いてもらうぞ!」

「……どんな内容が出てくるのやら」


 なんだかんだで色々と精神的に疲れる協議だったし、その内容の愚痴くらいは聞いてもらおうか! ちょっと八つ当たり的な意味合いもあるにはあるけど、俺らが相当警戒されている事も伝えておく必要もあるしさ。


 てか、ベスタが普通に会話に混ざってきてたけど……報告は終わったっぽい? まぁ日程を伝えるだけなら、そこまで時間もかからないか。

 んー、速度を上げれば早めにみんなのとこに戻れるけど、そこまで焦らなくてもいいし、今のうちにベスタにこれを聞いとこ。


「なぁ、ベスタ。協議がある時って、毎回あんなのをやってんの?」

「いや、普段はここまでじゃないが……今回は相当警戒されているようだ。ウィルが出てきた事で、警戒レベルを上げるしかなくなっていたぞ」

「……みたいだなー」

「今までどうだったのかな?」

「そもそも赤の群集との協議自体が少ないからな。青の群集とはジェイとやり合う事も多いが……全部の群集が揃って対人戦ともなれば、意図する部分のすり合わせが難しくなる」

「……なるほど」


 今まではさっきほどではなかったけど、ウィルさんが赤の群集の作戦参謀として出てくるようになったからこその変化かー。うーん、やっぱり競争クエスト中だからって事と、3つの群集が揃ってたからこそのやり取りなんだな。


「そういう意味では、よく引っ掻き回してくれた。お陰で、俺としては意見を通しやすかったからな」

「それって今日の時間の件かな? 思ったより遅めだったのが意外だったんだけど……」

「……すまんな、あれは地味に俺の個人的な都合も少し入っている。今日の20時〜21時だと、俺がログイン出来るか少し怪しくてな」

「あれ、ベスタの都合だったのか!?」


 まさかの理由だったよ! でも、ベスタがいない時に青の群集との総力戦は確かに厳しいかも? あんまり特定個人の都合に合わせて時間を決めるべきじゃないんだろうけど……総指揮が出来るベスタの場合は別と考えるしかないか。

 とはいえ、ベスタがそれだけの理由で決めるとは思えない。実際に要望として、22時の時間帯がいいって意見も結構あったんだろうなー。


「一応言っておくが、22時からの希望が多かったのもちゃんとした理由の1つだからな」

「そこは疑ってはないけど、実際のとこの割合ってどんなもんだったんだ?」

「今回に限ってだろうが、相当多かったぞ。変更に次ぐ変更になるし、午前中にも赤の群集相手に一気に動いたからな。気を休める時間が欲しいという意見や、全群集の総力戦が今日にならないように調整して欲しいって意見が多かったぞ」

「あー、そういう理由か!」

「その気持ち、なんとなく分かるかな!」


 今日は、今の時点では何一つとして予定通りの状況にはなっていない。さっきの協議だって、いつから始まるかも未知数だったんだし……協議が終わってすぐに開催という可能性だってあったんだ。

 その辺を考えると、ずっと気が抜けない状況が続いていた訳だもんな。可能なら、少し気を緩めても大丈夫なまとまった時間が欲しいという気持ちは分かる!


「さて、一応決定した時間帯は通達したが……問題は、どういう流れで動いていくかだな。成熟体の奴を主体に防衛するか、それとも未成体以下で『浄化の守り』を強化して防衛するか……」

「あー、そういや成長体と未成体で特殊なバフが貰えるんだっけ」

「それで群集支援種を守りながら、浄化の要所の占拠を狙うんだったかな?」


 前に確認した時から間が空いたから、その辺の勝利条件とかから把握し直していく必要もあるんだな。ベスタだけに任せていいものでもないし、今回の再戦エリアの方は成熟体にまだ進化してない人達も重要な役割もある感じだった。

 とりあえずはみんなに協議の内容を説明する必要はあるけど、その後は群集の方で作戦立案も必要になりそうだね。というか、その占拠の内容でまだ終わらずに済んでるのも凄いもんだ。


「ベスタさん、群集支援種を放置してたら勝手に占拠を終わらせているとかはないのかな?」

「あぁ、それか。その辺はお互いの群集で、自由に動く奴らが潰し合ってて成立しないぞ。新たに来ている群集支援種のカトレアは未成体だから、防衛戦力が揃ってなければ、あっという間に死ぬだけだ」

「え、新しい群集支援種って未成体!? あ、でもマサキがここで成熟体に進化したんだし、変な事でもないのか」

「あぁ、そうなるな」

「……確かにそれなら、中々厳しそうかな」


 プレイヤーは俺らもそうだけど成熟体に進化した人が相当増えてきているし、未成体の群集支援種なら倒すのも楽勝だろうなー。倒せば勝ちじゃなくて、占拠する場所に行って占拠が完了するまで守りきったら勝ちなんだから、攻めるのと守るのが揃ってなければどうにもならないか。


「俺は直前の時間帯にはログインしていない可能性が高いから、そのつもりでいてくれ。可能であれば、18時台にでも作戦会議はするつもりではいるがな」

「その辺は了解っと! その時間帯なら、俺は参加出来そうだな」

「……私は無理そうかな」

「まぁ、その辺はそれぞれ都合があるだろうから、無理はするなよ」

「ほいよっと。お、そうしてる間にもう少しで到着だな!」


 なんだかんだでベスタと話している間に、アル達が特訓してる場所へ戻ってこれた。さーて、みんなに協議の内容を伝えて、ヨッシさんの強化状況も聞いていこう!

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