第1173話 安全圏にいる敵


 ヨッシさんが毒魔法Lv10に出来る目処は立った。だけど、その前に今いる峡谷エリアの安全圏に誕生している他のエリアへの移動を妨害しているボスを倒す事になった。

 現在は戦闘中のPTがいるのと、それが終わるのを待ってるPTが1PTいる状態。今なら無茶苦茶混んでる訳でもないから、待ってる人達に軽く挨拶をしてから順番待ち!

 倒すべきボスはゾンビな大きなトカゲかー。サイズ的には……1メートルくらいあったから、相当デカいよな。ゾンビ的な要素としては、表皮が妙にボロボロになってて部分的に肉が抉れてたような感じか。


「これで風音さんに借りてた分の刻印石も返せるよね? 多分、1stと2ndで1個ずつ確定で入手だろうし」

「おぉ、確かにそうなのさー!」

「あ、そうなるのかな? それなら返すのは私とアルだね」

「使ったのは俺とサヤだから、返すのも俺らがやるべきとこか」

「確かにそれはそうだなー」


 俺らのPTが借りたという事にはなるけど、刻印石が各自2個ずつ手に入るのならその方がいい。刻印系スキルを3種類セット出来てるのは俺とサヤとアルの3人だし、ヨッシさんとハーレさんには残り2種類の登録をしてもらいたいとこだしさ。


「……返すのは……すぐじゃなくても……いいよ?」

「風音さん、ここは受け取ってくれ。そうじゃないと俺らの方が気にするからよ?」

「アルの言う通りかな! 返せるのに借りたままなのは、流石に気になるし……」

「……そういう事なら……分かった。……手に入ったら……受け取るね」

「おう、それで頼むぜ!」

「その為にも、全力で倒すかな!」


 おー、サヤの気合いが入りまくってるなー。まぁこれで未登録の刻印系スキルは全部セット出来るようになるはずだし、余ったのは成熟体用の進化の軌跡の上位変換に使用出来る。

 多分、風音さんが刻印石を4個手に入れる事になるだろうし、上位変換には刻印石を2個消費だったから、纏土用の進化の軌跡が作れるかもね。どうも斬雨さんの纏属進化の使い方を見てたら、一時的な属性でも応用複合スキルは取得出来そうな感じだし、同じ手段で応用魔法スキルも取得出来そうだもんな。


「あ、風音さん、元の大きさに戻っておいた方がいいんじゃないかな。今なら1人の時みたいに声をかけられる事はないと思うよ?」

「……それも……そうだね。……小型化……解除」


 サヤに言われて、風音さんの黒い龍が元の大きさに戻っていく。アルが大きくて目立つんだし、俺らと一緒にいる時なら変に声をかけられても対処は出来るしね。

 何かをする為に小さくなってるならいいけど、目立たない為に行動値を半減させておく必要はなし! ……目立つのが好きじゃないサヤが言うのは、なんだか不思議な気分だけど。


「それはそれ、これはこれかな! むしろ、風音さんの気持ちはよく分かるからね!?」

「あ、また声に出てた!? あー、でもそれを聞くとちょっと納得」

「今はそうでもないけど、囲まれたら逃げるのは大変かな……」

「……それは……よく分かる」


 悪気は無いんだろうけど、まぁ確かに逃げるのは大変だよなー。思い返してみれば、いつだったかサヤだけ他の人達に囲まれて逃げ切れずに捕まってた時があったりしたっけ。あれは……割と始めたばっかの頃だったはず。

 サヤは風音さんほど人付き合いが苦手な訳じゃないだろうけど、それでも見知らぬ人に囲まれたら大変だよなー。飛べる今なら、そう簡単に囲まれはしないけども!


「ボスの順番待ちって、ここでいいですか?」

「あ、はい。そうですよ」

「それじゃ並ばせてもらいますね」

「はい、どうぞ」


 そうやって雑談してる間に俺らの後に並んでくるPTがやってきて、ヨッシさんが対応してくれたね。なんだか転移してきてる人が増えてる気もするし、混雑し始める前に動いておいて正解か。

 あ、いつの間にやら戦闘してたPTは倒し終わって、次のPTも終えて、俺らの前のPTがボスの出現待ちになってるね。このPTが倒し終われば俺らの番だし、今のうちにどうやって倒すかを考えておいた方がいいか?


「ケイさん! ケイさん!」

「ハーレさん、どうした?」

「弥生さんとシュウさんを倒した時の手段を使って戦ってみたいです!」


 あれを、ハーレさんが? 流石に自分自身が跳ねまくるのはあの時の自分でもビックリするくらいの集中力が必要だと思うけど、リスを跳ねさせる事自体は出来るはず。

 出来るとは思うけど……それを十全に発揮させるのは、ハーレさんじゃ厳しくないか? それこそ、向いているのはレナさん辺りな気がするけど……。


「それ自体は別にいいけど……ハーレさんで意味があるか?」

「別に私が跳ねまくる訳じゃないのです! 投擲した弾を、ケイさんの水で跳ねまくらせたいのさー!」

「そういう使い方か!」

「それ、魔力集中を使うとケイの魔法を破壊するんじゃねぇか?」

「はっ!? そういえばその危険性はあるのです!」

「あー、確かに……」


 全然考えてなかった方向性だから良さそうに思ったけど、思いっきり欠点が浮かび上がってきた。跳ねさせるので操作時間が削られるのは当たり前の話だったから気にしなかったけど、味方の魔法も魔力集中で破壊出来るんだもんな。魔力集中じゃなくて自己強化なら……いや、自己強化でも通常攻撃で破壊出来るようになるんだから怪しいか。

 うーん、発想自体は良いと思うんだよな。あ、スキルを使用して自己強化でなら破壊されずに……いや、ちょっと待てよ? 少し可能性を思い付いたけど、こっちはどうなんだ? よし、すぐに試せるなら自分で試すけど、今はそれが出来ないからアルに聞いてみるか。


「アル、ちょっと意見をくれ! 今のハーレさんの提案を実行に移せるか試してみたい内容が出来た!」

「……ほう? どんな内容だ?」

「『白の刻印:守護』で、生成した水を破壊されるのを防ぐ!」

「……なるほど、そうきたか。守護はスキルのキャンセルを防ぐ効果だから、チャージ以外に生成した水が破壊されない可能性は確かにあるな」

「そう、そういう事!」

「おぉ、可能性が見えてきたのです!」

「それはもう、実際にやってみるしかないんじゃねぇか? 場合によっては『黒の刻印:剥奪』の防止にも使えるかもしれんしな」

「あー、やっぱりそうなるか」


 まとめを確認すればこの辺の情報は……内容的にあるかどうかは怪しいな。まぁそんなに強いボスとは思えないし、ゾンビには火が有効って話はあったし、今は風音さんもいる。


「そういえば、ゾンビってどうすれば完全に倒せるのー!? 纏浄や火が有効とは見たけど、HPが尽きても死なないって内容も見たのです!」

「……戦ってる人もいるし……参考にする?」

「実際に倒せてるみたいだし、それが良いかもね」

「それもそだなー。ただ待ってるだけなのもあれだし、倒し方は見ておくかー」


 自分達で試行錯誤してもいいけど、どんどんと順番待ちの人が増えてきているからね。変に討伐に時間はかけ過ぎない方がいいだろ。


 という事で、少し見学タイム! えーと、今戦ってるPTの人達は……全然知らない人達だな。種族としては、杉の木、キツネ、イノシシ、ネズミ、タカってとこか。さて、どんなもんだろうね? 地味にゾンビな敵を倒す光景を見るのは初めてだしなー。


「今は普通にHPを削ってるだけかな?」

「そうみたいだね。とりあえずHPは削り切らないと駄目なのかも?」

「その辺は様子を見ていくのです!」


 今の時点では、特に普通の敵を倒すのと変わらない感じで戦ってはいる。ボスのゾンビな大きなトカゲも、少し動きは鈍い気はするけど、極端に動きが通常の個体と違う感じはしない。違うのは、ゾンビ的な特徴と瘴気を帯びているってとこくらいかー。


「『連突衝破』! おら、おら、おらー! って、吹っ飛び過ぎじゃねぇ!?」

「それなら、2人がかりで動きを封じてみるよ! 『コイルルート』!」

「うへぇ……ゾンビに噛みつくのって、なんか嫌なんだけど……『硬獲砕牙』! 攻撃は任せるぜ!」

「おうよ! てか、文句を言いつつも普通によく噛み付くよな!?」

「それは同感! 『サンドショット』!」

「近付きたくないよね。『ゲイルスラッシュ』!」


 ふむふむ、どうもイノシシの人の銀光を放ちながらの攻撃は、あのゾンビなトカゲをあっさりと吹っ飛ばしすぎて連撃を当てにくいっぽいなー。

 その様子を見て杉の木の人とキツネの人が動きを抑えつつ、その間にネズミの人とタカの人がそれぞれに魔法を放つ準備をしているね。


「くっ! 根で動きを封じているのに、自身の身に食い込んでもお構いなし!?」

「ちょ!? 噛みついた部分が千切れるのかよ!? 聞いてた以上に厄介じゃん!?」


 うっわ、HPはガッツリ減ってるのに、拘束してもそんなのお構いなしに動いてくるのか。……流石はゾンビだな。うーん、これを見た感じだと、物理的に抑え込むタイプの拘束は無意味っぽい?

 この辺は対策が必要か? いや、それよりはそもそも拘束を狙わない方がいいのかもしれないね。この様子だと、一気に攻めた方が良さそう。もしくは、完全に覆い切る感じで拘束か。


「だったらこれで一気に切り刻むよ!」

「一緒にハチの巣にもしてやる!」


 おぉ、サンドショットで穴が空いて、ゲイルスラッシュであちこちが斬り刻まれていく。へぇ、そういう違いが出てくるんだな。これは参考になるかも。


「サンドショットの散弾は全然効いてない感じだけど、ゲイルスラッシュでの切断は有効な感じか」

「サンドショットは少し距離があり過ぎた感じがするね? もう少し近かったら、有効だったかも?」

「そうみたいだが、こりゃ点での攻撃自体はあんまり有効ではないっぽいな。斬撃の方なら、怯みこそはしないが、部位の切断は可能みたいだが……」

「……トカゲの前脚……切り離された」

「それでも動いてる前脚が不気味なのさー!?」

「もうHPはほぼ残ってないのに、厄介そうかな……」


 何が不気味かって、ダメージは明確に与えてる筈なのに、全然弱らせたような実感が無さそうなとこだよな。うん、異形なだけはあって、この動きは本当に異形のそれだ。

 なんというか俺らが戦ったスケルトンのトカゲとはまた随分と違った雰囲気になってるもんだよな。こりゃ苦手な人はとことん苦手かもね。苦手生物フィルターで見た目は普通の個体と同じようにはなるらしいけど、切り離された脚が動く光景は……うん、余計に不気味かもしれない。


「どんどん切り刻んで、バラバラにするよ! 『リーフスライサー』『リーフスライサー』『リーフスライサー』!」

「だね! 『アースクリエイト』『岩の操作』!」

「それじゃもう一発! 『ゲイルスラッシュ』!」

「俺はバラバラになったのを吹っ飛ばしていくぞ! 『連突撃』!」


 おー、俺が時々使う岩の大剣より少し小ぶりな感じで、ネズミの人がゾンビなトカゲを岩で切断していく。杉の木の人も次々と鋭利な葉っぱを飛ばしまくって、細切れへと変えていってるなー。

 タカの人が上空で2発目のゲイルスラッシュの発動準備中。ともかくバラバラにしてしまって、散らばせていくのが狙いか。うーん、既にHPは尽きているのに、まだポリゴンになって砕け散っていないゾンビは中々に厄介だな。


「大きいゾンビだと、バラバラにする必要があるのかな?」

「どうなんだろ?」

「ここから実際にどう倒すのかも重要なのさー!」

「……焼却処分?」

「もしくは、溶解毒で溶かすとかか?」

「纏浄でなら確実に倒せそうだけど、それ以外の手段はないもんか……?」


 この辺は、どうにも俺らは不完全な情報しか持っていない。HPを削り切っただけでは倒した事にはならないみたいだし、どういう手段が有効なのかを少しでも確かめておきたいところだな。

 てか、溶解毒で溶かすって手段もあったか。要は、バラバラにしたゾンビの肉体を完全に消滅させてしまえばいい話なのかも?


「これで充分なほどバラバラになったはずだよね! トドメをお願い!」

「了解! いっくよー! 『アースクリエイト』!」

「地味にめんどくせぇな、これ! 『ファイアクリエイト』!」


 おー、ネズミの人とキツネの人が昇華魔法のラヴァフロウを発動して、ピクピクと動いている大量の肉塊を溶岩で飲み込んでいった。なるほど、こういう倒し方でいいのか。

 他にも倒す手段はありそうだけど、その辺は後で色々と考えてみた方が良さそうな気がする。……今ふと思った事だけど、黒の統率種がゾンビやスケルトンを統率する可能性ってあるのか? もしそれが可能なら……相当厄介な事になりそう。


「やった! 倒せた!」

「……あー、事前に情報を見てたとはいえ、面倒だった」

「でも、勝ちは勝ち!」

「だなー。勝てばそれでよし!」

「とりあえず順番待ちになってるし、倒したんだから先に進もうぜ!」


 おっと、戦ってたPTの人達は今のでちゃんと倒せたみたいだね。範囲外に少しだけで肉片が残ってたけど、ラヴァフロウの溶岩の中からポリゴンになって砕け散っていく様子は見えたから、一定割合以上を消滅させれば勝ちになるっぽい。


「次のPTの人、どうぞー!」

「ほいよっと! 倒す参考にさせてもらってたけど、邪魔にはなってなかった?」

「いえいえ、そこは大丈夫ですよ! グリーズ・リベルテの皆さんにはいつもお世話になってるんで! さー、みんな、行くよー!」

「「「「おー!」」」」


 そんな風な言葉を残して、先に戦ってたPTの人達はこの先のエリアへと進んでいった。ははっ、いつもお世話になってるか。俺らが色々と上げてる情報が役に立ってくれてるって事なんだろうね。


「おし、それじゃ俺たちもサクッと倒していくぞ!」

「ケイさん、さっき言ってた攻撃についてはお願いなのさー!」

「……最初に少し試すだけだからな?」

「はーい!」


 正直、点での攻撃になるハーレさんの投擲攻撃だと、あのゾンビの性質に対してあんまり有効だとも思えないんだけどね。まぁでも、実際に試してみたい手段ではあるから、そのお試しくらいはやってみようっと。

 それが終わったら、みんなでゾンビをバラバラに切り刻んで、風音さんに焼き払ってもらって終わりでいいだろうしね。俺と風音さんで、さっきのPTみたいにラヴァフロウでやるのもありか。

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