第1164話 動けない状況


 赤の群集の安全圏の前での戦闘は、これ以上お互いに意味はないとして終結。双方共倒れって可能性もあるにはあるから、全くの無意味って訳でもないけど。

 もしそうなったら、位置的に都合が良いのは俺達の方。連絡に戻ったレナさんがベスタ達の方へ増援はなんとか送るだろうし、いざという時は、また大暴れするつもりでいよう。でも、今は少し休憩!


「……疲れたかな!」

「結構手を抜かれてた気もしたけど、それでも……ううん、だからこそしんどかったね」

「……違いねぇな」

「……少し休憩する」

「あぅ……私は目が回るかと思ったのさー!? ケイさん、あの動きは何なのー!?」

「え、ただの思いつき?」


 何かと言われても、具体的に何かを真似してやった訳ではないもんなー。というか、あったとしても今のこの場所でその説明は出来ないけどね!

 ともかく、今は停戦状態になったから戦闘行為はなし! 結構無茶な動きをしたのは間違いないから疲れた! 何かしらの動きがあればレナさんからPT会話で連絡があるはず!


 みんなも疲れたみたいで、地面に降りて寛いでる状況。それは赤の群集も同じか。俺もそうしてるけど……一応ダメ元で、これを聞いてみようっと。


「……ウィルさん、停戦したなら帰ってもいい?」

「ケイさん、それは無茶ってもんだぜ? それをするのなら……俺らは、帰さないように全力で妨害に動くしかなくなるからな」

「ですよねー」


 俺らが場合によっては状況的に有利な位置になるのは分かった上で、俺らを安全圏には帰さないのが目的だよなー。お互いに利点があるからこそ、今の停戦状態は成立している。

 暴発で強引に戻る方法も流石に2度目は通じない……いや、やり方次第か? 全員が全員、暴発を使える訳じゃないけど、あれは十六夜さんの専売特許という訳でもない。ただ、運要素が大きく絡むから、みんなでタイミングを合わせるのが厳しいか。


 うーん、この状況から俺ら全員が強引に帰って、そこから状況の分からない戦場へ行くのは……無理だな。色々と考えてみてるけど、俺らが今この場で出来る事は本当に少ない。むしろ、このままここにいる方がいいくらいか。

 というか、弥生さんとシュウさんを倒すのもダメだったのは厳し過ぎる! 俺自身が抑えに狙われてるって前提部分を読み間違えたのがキツいなぁ……。


「……結局、弥生さんとシュウさんを倒す事なく、引きつけ続けなきゃいかなかったのかー」

「こっちとしても、あの2人が倒されるのは想定外ではあったんだがな……」


 うーん、ウィルさんに想定外だと言われても、結果的には役目をやり切れなかったという状況が気になるんだよなぁ……。あー、ベスタ達は本当に大丈夫なんだろうか?


「そりゃ、ケイの自業自得な話だぜ! ライさんが持ち帰ってきた情報を元に、ウィルさんが作戦立案を――」

「フラム! それ以上は言うな!」

「おわっ!? あ、すまん、ウィルさん!」

「……何やってんだよ、フラム」


 シレッと俺らにとっては良い情報……良い情報なのか、これ? 俺が考えた強襲案を元に、ウィルさんがボス攻略後の強襲手段を構築したって内容じゃん。

 真似される可能性は考えたけど、まさかこんな形で運用されるとは……。というか、すぐにそういう人員が用意出来るようになってるんだな、今の赤の群集。警戒はしてたつもりだけど、それでもまだ甘く見積り過ぎてたか。


「あ、ケイさん! 途中で頼まれてた所属の共同体の確認はなんだったんですか!?」

「あー、あれか」


 弥生さんが襲い掛かってきた時点で、そっちの確認がさっぱり抜け落ちてたよ。というか、そっちの余裕が皆無にはなってた。……なんの合図もなく、ハーレさんを乗せたまま動いてたけど、よく普通に乗ってたもんだなー。その辺が全然平気なハーレさんで良かったってとこか。

 えーと、今なら自分で周囲を見渡して確認は出来そうだし、ちょっと見てみようっと。戦闘中に確認したかったけど、まぁ今確認するのでも問題はないはず。


「理由はシンプルと言えばシンプルだぞ。大規模な共同体の所属メンバーでの連携込みの作戦なのか、ただの寄せ集めのメンバーでの作戦なのか、その判別がしたかった」

「おー! そういう事なら、5つの共同体の所属の人を結構見かけたのです!」

「あ、それは私も思ったかな!」

「……おいおい、ハーレさんもサヤさんも、あの戦闘状態でもそんなとこまで確認出来てたのかよ。そりゃライさんがあれだけ見つかる訳か」

「まったくだな!」

「そこにいたのかよ、ライさん!?」


 まさかのすぐ近くから、ライさんの声が聞こえてきた!? ちょ!? 停戦状態だからいいけど、かなり危険な距離だよなー!? とりあえず姿を表してきてくれたから、どこにいるのか分かったけども。


「ライさんなら、戦闘が止まった時からずっとそこにいたよー?」

「攻撃する必要もないから、そのままスルーしてたかな」

「やっぱり俺はバレてたんかい! ウィルさん、今度から俺は他の部隊で動いていいか? サヤさんとか、ハーレさんとか、レナさんとか、その辺相手だと強みが全然発揮出来ないんだけど!?」

「……状況次第だから、なんとも言えん。というか、その指示をケイさん達の前で言えるか!」

「あ、そりゃそうだ」


 ちっ、どうせならそのまま避けるようにライさんの要望を通してくれればいいのに……。あー、でもそれはそれで偽情報として警戒しなきゃいけないから意味はないか。

 それはそうとして、本題に戻す……って、わざわざウィルさん達に教えるような内容ではないよなー。でも、ここまでの作戦立案をしてきたウィルさんなら、もう俺の目的には気付いてそう。どうせなら、それを承知の上で情報収集でもするか。


「ウィルさん、『リバイバル』を中心にして、複数の共同体を連盟機能で束ねてるだろ? 全体の統括をしてるのがウィルさんで、各共同体で役割を分散させてる?」

「そこは自由に考えてもらって構わん。まだ1戦はやる余地が残ってるのに、わざわざ教えはしねぇよ」

「……ですよねー」


 やっぱり教えてくれる訳もないか。この辺のもう少し詳しい話は今の勝敗が決まってからだな。『リバイバル』以外の他の共同体の情報はしっかりと確認しておきたい。赤のサファリ同盟も、場合によっては組み込まれてる可能性もありそうだもんなー。

 さっき見回した時に名前だけなら把握したけど、それぞれの共同体の特色があるなら知りたいし、その辺はサヤやハーレさんに聞いて確認したいもんだね。


 それはそうとして、PT会話でレナさんが口早にあちこちへと指示を出してる様子は聞こえてるけど……他の場所の現状はどうなってるんだろ? 流石に今の状況では俺らの方から確認の為に聞く訳にもいかないしな。

 うーん、今は中々に厄介な状況だね。停戦中とはいえ、状況次第ではどうとでも動きがひっくり返るんだもんな。でも、俺らの方からは下手に動けないから、レナさんから連絡が来るのを――


「みんな、返事はしないで黙って聞いて! ベスタさんが弥生とシュウさんに完全に抑えられて、かなりピンチな状況! 蒼弦さんが代行で総指揮を取ってるけど……正直、厳しい状態みたい。赤の群集の傭兵部隊が相当強いって」


 うげっ!? まさか、そんな不利な状況になってるのか!? くっ、俺らが弥生さんとシュウさんを抑え切れなかったのが相当な痛手だな……。

 しかもここで、赤の群集の傭兵が大々的に動いてるのか。戦力として、傭兵の人数差が響いてきてるね……。


「ボスの討伐に関しては、時雨さんの従えた黒の瘴気強化種の昇華魔法をアブソーブ系スキルで過剰魔力値にして、白の刻印:増幅で強化した付与魔法で無理矢理に弱点属性にしたとこに叩き込んで倒した感じだって! ケイさん達がその手段の報告を上げててくれて感謝だよ!」


 あ、そういやそんなのも思いつきで提案してたんだった。そっか、時雨さんとの連携があったからこそ、エリアボスの討伐を素早く済ませる事が出来たんだな。

 それ自体は良かったけど、やっぱりスチームエクスプロージョンでの移動に関しては……ちょっと責任を感じてしまう。くっ、あの強襲手段自体を思い付いたのが失敗だったか?


「あー、ウィルさん、ちょっと質問があるんだが、いいか?」

「内容によっては答えんが、それでも良いなら別に構わんぞ。どういう内容だ、紅焔さん?」

「いや、そんな複雑な内容でもねぇよ? レナさんに群集としての真っ向勝負って言ってたのが気になってな? ありゃ、どういう意味だ?」

「どういう意味も何も、そのままの意味だが? 競争クエストは集団での作戦のぶつかり合いだろう? 個別のPT単位での激戦もそりゃ真っ向勝負だが……集団同士での総合的な戦いこそが、本質的な真っ向勝負だと思うが?」

「……ははっ、それは確かにな」

「そういう割には……昨日の青の群集との裏での密約は、真っ向勝負とは言えない気もしますけどね?」

「あー、ライルさんの言いたい事も分かるが、別に人が少ない時間帯での奇襲も、その間の安全を確保するのも作戦の内だしな。もちろん、それを根底からひっくり返したケイさんの手段もありだろうよ。通常の戦闘でなら卑怯だろうが、時間が決まっていない対人戦として設定されてる以上は、奇襲だろうが横取りだろうが、卑怯も何もねぇぞ」

「……それはまぁ、確かにそうですね」


 えーと、ウィルさんの言ってる事には概ね同意だけど……それなら、ウィルさんの言う今回の真っ向勝負ってどういう意味になるんだ? それこそ規約違反になるような言動さえなければ、なんでもありなのが競争クエストだとは思うけどさ。


「あ、紅焔さんが黙っている状態を不審に思われないようにしてくれてるんだね。とりあえず話を続けるよ。今は安全圏まで戻ったラックさん達とシアンさん達で、ベスタさん達の増援に向かうのを計画してる状態。わたしもそっちに行くけど……正直、間に合うかどうかは分かんない」


 なんでレナさんが話してる間に、紅焔さんがウィルさんに話しかけたのがが不思議だったけど、確かにみんなが黙ったままだとマズかったか! 紅焔さん、ナイス!

 それにしても……ラックさん達は無事に安全圏には戻れてるんだな。それなら推進力には問題ないし、シアンさんも空飛ぶクジラではあるから、どうにかいけるはず! 問題は増援を送るのが間に合うかどうかか。


「あ、ケイさん、強襲の移動や、弥生やシュウさんを抑え切れなかったのは気に病まないようにねー! ああいう手段の真似はどこでもやる事だし、そこを気にしたら何も出来なくなるからさ。……そもそも、弥生とシュウさんを倒せるとは思ってなかったしね」


 まぁそこはそうなんだけどなー。弥生さんとシュウさんを倒す為に使った戦法は……あの妙に冷静になって集中力が高まってたからこそ出来た事だし。


「それに、あれで行動値も魔力値も減ってる状態になってたから、ベスタさん1人で2人の相手が出来てる状態みたいだからね。決して無駄じゃなかったから、そこはしっかりと認識しておいてね!」


 ははっ、そっか。ベスタでも1度に1人しか相手に出来ないって言ってたのに、それが2人同時でも抑えられる状況にはなってるのか。劣勢にはなってるっぽいけど、それでも俺にやった事は無意味では無かったんだな。

 

「むしろ、1番の問題点は……群集支援種の確保の部分だね。その部分で完全に赤の群集に先手を取られたのが痛いんだけど……まぁそこはこっちでなんとか頑張ってみるから、みんなはウィルさん達の動きを抑えてて。お互いに身動きが取れない状況が、今は1番いいからさ! それじゃ、出発準備が出来たから行ってくるよ!」


 俺らはこの安全圏前に集まっている赤の群集の集団を、ウィルさんごと抑えてればいいのか。……今はおそらく『リバイバル』との連盟を組んでいる複数の共同体の人達が集まってる状況。

 それに、あちこちから聞こえてくる乱戦の音も途絶えるものもあるから、その辺で安全圏に送り返された人達がどんどん増えてきてるはず。それを俺らの2PTで抑えられるのなら……意味もあるんだな。


「なるほど、要はウィルさん達の真っ向勝負ってのは、単純に俺ら灰の群集と全力で戦いたかったって事か! それも青の群集を抜きにした状態でか!」

「まぁ色々と言ったが、簡潔にまとめると紅焔さんの言う通りだ。無所属勢の動きはどうなるかが分かってなかったのが不安要素だったんだがな。青の群集の方は狙い通りに動いてくれて助かったもんだ」


 レナさんからの報告については勘付かれずに済んだっぽい? ウィルさん紅焔さんの2人で色々と話し込んでたみたいだけど、今のを聞いた限りだと赤の群集と灰の群集だけでの対戦がしたかったのか。まぁそこの読みは外れてなかった訳か。

 でも、そうなると気になってくる部分もあるよなー。それならウィルさんには指揮をさせる余裕を与えるよりも、雑談をしつつ気を逸らせる方向でいくか。まぁ裏で何かしてる可能性もあるけど、それは実際に何かの動きがあった時で!


「ウィルさん、青の群集にはサバンナを明け渡す約束をしてたりはしてないのか?」

「まぁケイさんのその疑問はもっともだな。青の群集は、ジェイさんの灰の群集へのライバル心が強いが――」

「あれだよな! ジェイさんがケイに対して、妙に張り合ってるやつだ!」

「……その辺は承知済みだから、フラムはいちいち口を挟んでくるな! てか、ウィルさん、こいつに先陣を切らせたのはわざとだよな!?」

「この反応を見る限り、どう考えても成功だな。フラムはケイさん相手の特効キャラだ」

「くっそ! あながち否定出来ないのが、妙に腹が立つ!」

「わっはっはっはっは!」


 なんか思いっきり笑ってるフラムを思いっきり仕留めてしまいたいけど……よく考えたら、フラム自身は意味をちゃんと理解した上で動いてるのか?

 うーん、なんか良いように使われてるだけな感じもするし、ここで乗ったらウィルさんの狙い通りになってしまうような……。昨日の伝言的な使われ方も、フラム本人には未だに伝わってない気がする。


「ケイはフラムさんがいても平常通りに動けるようになるのが課題かな?」

「……それが厳しそうなら、逆に瞬殺する方を考えろよ?」

「よし、アルの方の意見を採用で! ……さーて、いかに行動値を少なくして、フラムをぶっ殺せるかを考えとくかー」

「ちょ!? 何を恐ろしい事を言ってんだよ、ケイ!?」


 こうやって言っておけば、実際に出来なくても多少のハッタリにはなるはず。ウィルさん相手に通じるかは分からないけど、フラムが躊躇でもしてくれれば……あー、それは期待薄かも。

 そこで大人しくなるくらいなら、既に大人しくなってる後だよ。そうはなってないから、余計な事をしまくるのが続いて鬱陶しい事に――


「ともかくだ、今回は青の群集には何の話も通してないぞ。多分、ジェイさんはこっちにこだわっただろうけど、斬雨さん辺りが止めただろうよ。最低でも1ヶ所は占有エリアが欲しいって意見は出たはずだから、峡谷を無理に取りには来ないって読みだったしな」

「そこは同じ見解だったんだな」


 青の群集が峡谷エリアを無理には取りに来ないというのは、俺らの方でも予測してた事。そして赤の群集の方でも、全く同じ予測はしていて、実際その通りに動いた訳かー。

 つくづく、赤の群集が侮れないようになってきたな。……冗談抜きで、この峡谷エリアの決着はどうなるんだろ。待つしか出来ない今の状況がなんだか口惜しい!




――――――


更新お休みのお知らせ


まだこっちには少し予定には日数があるんですか、もう1本のオフライン版の方が間もなくなので一応こちらでも。

第33章が終わった時点で更新お休みになります。

詳細については、近況ノートにて!


 

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