第1145話 安全圏に戻る前に
今回の探索は単純にこの峡谷エリアの雰囲気を掴む程度になったけど、まぁそれだけ今は他の群集の動きが少ないというのが分かった。なんか青の群集が企んでそうな雰囲気はあったけど、そこも今更と言えば今更だしなー。
「さてと、それじゃ一旦ログアウトして安全圏に戻ってから、少し話して終わりにするかー。アル、スキルの使用中だと俺がログアウト出来ないから、岩の操作は切るぞ」
「おう、了解だ」
上限値を使用してるタイプのスキルなら別にそのままログアウト出来るみたいだけど、今ログアウト画面を出してみたら『スキルの発動を終了してください』とか警告が出たからね。
地味に知らなかった、この仕様。でもまぁ移動用に使用してるとはいえ、今の岩での飛行は攻撃にも転用出来るからなー。ログアウトする前に解除しろと言われるのも分かる。
という事で、解除! それに合わせてアルもクジラを普段通りのサイズに戻していったね。さて、みんなも樹洞から出てきてログアウト出来る状態になったし――
「うわっ!? ぐふっ!」
「「「「「え?」」」」」
ちょっと待て、急に南の方にあった赤の群集の3人組の1人の反応が一気に近付いてきたと思ったら、目の前に黄色いツチノコが落ちてきた。……おいこら、どういうタイミングで出てくるんだ、こいつは。
って、あれ? 盛大に落ちてきた割には静か過ぎないか、今の。てか、赤いカーソルの横に赤いサボテンみたいな模様があるのはなんだ……?
「あー、びっくりし……た? げっ、ケイ!?」
びっくりしたのはこっちだと言いたいとこだけど、この馬鹿フラムが結構な大声で話してる癖に声が響いていないのはなんでだ!? 撤退しようと思った瞬間に、この状況は何!?
「……なんか無言で怖いし、お邪魔しましたー!」
ちょ、こいつ! 即座に逃げ始めやがったけど、ここで逃してたまるか! その赤いサボテンの模様、一体何なのかを探ってやる!
「アル、戦闘音の遮音を頼む! 俺はフラムを捕獲する!」
「おうよ! 『並列制御』『シーウォータークリエイト』『シーウォータークリエイト』『並列制御』『海水の操作』『海水の操作』!」
「げっ!? 水!? いや、強行突破だ!」
跳ねて逃げてたツチノコのフラムが一瞬戸惑ったけど、強引にでも突き破っていくつもりっぽい。まぁ海水の方だから反発力が無くて移動は防げないけど、動きが一瞬でも鈍れば十分!
<行動値1と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』を発動します> 行動値 54/119(上限値使用:2): 魔力値 293/302
<行動値19を消費して『岩の操作Lv4』を発動します> 行動値 35/119(上限値使用:2)
よし、フラムのツチノコの首だけを出して、岩で固めて捕縛完了。アルが遮音にしてくれてるし、PT会話用にコケを覆ってた水を少しズラしたら会話も出来る。
さーて、いきなりやってきて、即座に逃げ出したフラムはどうしてくれようか。競争クエストで会ったんだし、サクッと仕留めても文句はないよなー?
「ケイ、待て、待て、待て! 勝手に喋った事は謝ったじゃん!? 次は無いって言ってたけど、一応は流してくれたんじゃねぇの!?」
「……お前は一体、何の話をしてるんだ?」
確かにその件についてはこれ以上余計な事をしなければ追及する気はないけど、何でそこで怯えたようにそんな反応になる?
「……え? 怒ってるから、問答無用で殺そうとしてんじゃねぇの? さっき、完全に無言だったからブチ切れてんのかと思ったんだけど……」
「よし、即座に殺す気はなかったけど、そういう気だったなら思い通りに殺してやるよ!」
「ぎゃー!? 別に怒ってなかったっぽいー!?」
フラムを捕獲してる岩の操作に追加生成で、内側に尖った部分を生成して刺してやるか。殺されるのが希望なら、そういう事をしても良い状況だし、希望通りにしてやるまでだ!
「ケイ、ストップかな! 聞き出せるかは分からないけど、その状態を聞いてみないと!」
「……それもそだなー。ダメ元で聞くけど、その赤いサボテンマークはなんだ?」
「え、これなら、群集拠点種で刻んでくれる……はっ!? そういえば、ケイにはねぇな!? あ、他の全員も!?」
「ほほう、それは興味深い話だな?」
途中で俺らにはそういうのが無い事に気付いたっぽいけど、群集拠点種で刻んでくれるものなのか。音が響いていなかったのと何か関係がありそうだな、それ。
「さて、詳細を聞かせてもらおうか」
「誰が言うか! むしろ、俺としては灰の群集がまだ知らないって事の方が利益だしな!」
「……いや、語るに落ちてるけどな。まだって事は、何か条件を満たせば同じような事が出来るって事か」
「はっ!? しまった!? わー!? すまん、水月!?」
なんというかジェイさんと駆け引きをする時はあるけど、フラム相手だとチョロ過ぎる……。よくもまぁ、こんな情報源が上から落ちてきてくれたもんだな。
「まぁそれはもう自分達で調べるからいいや。で、何で急に落ちてきてんの?」
「ん? それなら、空中での偵察が危険だって聞いたから、投げられたらどうだって話になって……って、また誘導尋問!?」
「誘導尋問も何も、普通に直球に聞いただけなんだけど……」
俺としても、まさかあっさりと答えてくれるとは思わなかったわ! これは水月さん辺りがフラムを投げてみて、その状況で偵察が可能かどうかを試してた訳か。そして、加減を間違えて飛ばし過ぎた結果がこの状態。
……少しは何かの罠だと警戒した方がいいか? いや、でもこいつがそういう作戦に向いてるとは思えないしなぁ……。
「これ以上は何も言わん! 殺すなら、さっさと殺せ!」
「よし、それじゃ遠慮なく」
という事で、ご要望にお応えしてさっきの捕縛してる岩の追加生成での串刺しを実行に移す! あー、結構な威力にはなるけど、その分だけ操作時間の削れ方が早いな。
あ、折角遮音をしてるんだから、思いっきり加速させて地面にも叩きつけまくってしまえばいいや。残り操作時間を全部使い切るつもりで、せーの!
「ぐはっ!? ケ、ケイには躊躇ってないのか!?」
「競争クエストの真っ最中に何言ってんだ?」
雷属性の魔法型のツチノコに有効な攻撃手段は……物理と土魔法のどっちがいいんだろう? あ、折角だから、この方法でやってみるか。行動値は……うん、ギリギリ足りるはず。
<行動値上限を3使用と魔力値6消費して『魔力集中Lv3』を発動します> 行動値 35/119 → 35/116(上限値使用:5): 魔力値 290/302 :効果時間 14分
下準備はこれで完了。これでくたばってしまえ、フラム!
<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>
<行動値15と魔力値76消費して『砂岩魔法Lv1:サンドショット』は並列発動の待機になります> 行動値 20/116(上限値使用:5): 魔力値 214/302
<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>
<行動値を20消費して『連強衝打Lv1』は並列発動の待機になります> 行動値 0/116(上限値使用:5)
<指定を完了しました。並列発動を開始します>
<『サンドショット』の魔力凝縮を開始します>
さて、俺の物理攻撃は魔法ほど育ってはないから威力は決して高くはないけど、魔法型のフラムのツチノコ相手ならこれで十分! どうせこっちは、サンドショットの発動までの時間稼ぎだ!
「ちょ、待っ!?」
「競争クエストでそれが通じると思うなよ! おら、おら、おら!」
一応流した事だし、不可抗力な部分もあったとはいえ、こいつが余計な事を言ったのは事実。その分の鬱憤、競争クエストという状況を利用して晴らさせてもらおうか!
「くっそ! 一方的にやられてたまるか! 『魔法砲撃』『エレクトロボム』!」
「おっと! そんなバレバレなのが当たるかよ!」
「だったらこうだ! 『並列制御』『エレクトロボール』『エレクトロボール』!」
「させないよ。『アイスウォール』!」
「ヨッシさん、ナイス!」
フラムの反撃の狙いはバレバレだったから飛び退いて回避したけど、その次の口と尻尾からそれぞれ4連発で飛んできた電気の弾はヨッシさんが防御をしてくれた。
フラム、地味に電気の操作がLv7になってるのか。でも、基点を変えて同時に撃ち出すのはいいけど、魔法砲撃での狙いがバレバレ過ぎだな。今みたいな時は、魔法砲撃と通常発動を混ぜて相手の回避方向を誘導しないとダメだろ。
「今のうちになんとか逃げ――」
「フラムさん、ごめんかな? 『魔力集中』『略:黒の刻印:低下』『連強衝打』!」
「ぐふっ! がはっ! ごほっ!」
おー、サヤが黒の刻印を刻んだ上で、フラムをぶん殴ってるよ。あえて魔法攻撃の耐性を下げる低下を使ってるのと、Lv1での連強衝打の発動は俺にトドメを残す為か。ははっ、ありがたい!
<『サンドショット』の発動が可能になりました>
砂の凝縮が完了したから、これでいつでも撃ち出せる! 俺の連強衝打は、ちょっと早くに連発して殴り過ぎたな。
「サヤ、発動準備完了だ!」
「分かったかな! はい!」
「ぐはっ!」
「それじゃくたばれ、フラム!」
「容赦なさ過ぎ――」
サヤが俺の方へ殴り飛ばしてきたフラムに向けて、サンドショットを撃ち放つ! よし、思いっきり直撃してHPが全て消し飛んで、ポリゴンとなって砕け散っていった。あー、なんか気分的にスッキリしたね。
「おし、それじゃ戦闘状態が解除になったら今度こそログアウトして安全圏に戻るぞ!」
「「「「おー!」」」」
アルが遮音してたとはいえ、それでも確実に全ての音が響くのを防げたとは限らないからなー。元々撤退の予定だったんだから、変に急いで隠れるよりも、サクッと安全圏に戻った方が早いはず。
「さっきハーレは何もしてなかったけど、どうしたのかな?」
「周囲の警戒をしてました! 私の確認した範囲では、誰もいなかったはずなのさー!」
「あ、その辺の確認をすっかり忘れてた。そこはナイス、ハーレさん!」
「えっへん!」
いやー、途中からフラムをぶっ倒す事ばっか考えてたからなー。その辺をフォローしてくれていたのは大真面目に助かった。
「……少し気になったんだが、フラムさんのLvが分からんが、俺らのLvの割には結構耐えてなかったか?」
「あ、そういやそうだよな? あの赤いサボテンのマークが何か関係してるのか?」
「それはあり得そうなのです!」
「確か、群集拠点種に刻んでもらうみたいな事を言ってたよね?」
「どういう事なのかな?」
「正直、現状じゃさっぱり分からん! まぁ戦闘状態は解除になったし、その辺は安全圏に戻ってからにしよう!」
という事で、みんなで一旦ログアウト! この場所に留まれないのが微妙に痛いけど、それでも安全圏にすぐ戻れる手段自体はありがたいもんだ。その場に残る手段と、安全圏に戻る手段の両方があれば良かったんだけどね……。
◇ ◇ ◇
<『未開の峡谷』から『未開の峡谷・灰の群集の安全圏』に移動しました>
サクッと再ログインをしてきたら、即座に安全圏へと転移になった。あ、全員がログアウトしたから、地味にPTが解散になっちゃってる。まぁこの後は戦闘はしないし、別行動もしないから問題ないか。
軽く周囲を見渡せば、割と近くにみんなの姿も確認出来たから合流も問題なし。これなら1番目立つアルの元に移動すればいいだろ。
そして少しすれば、全員の合流は完了だね。うん、特にPTが解散になってた事は支障はなかったな。よかった、よかった。
「さてと、とりあえずさっきのフラムの――」
<群集クエスト《群集拠点種の更なる強化・灰の群集》・群集拠点種:ユカリ(始まりの草原・灰の群集エリア3)の強化が規定値に達しました>
<『未開のサバンナ』への転移経路が確立されました>
<『戦場の草原』から群集支援種ゲイルと群集支援種バッカスが『未開のサバンナ』で安全地帯を確保しました>
<規定条件を満たしましたので、競争クエスト『未開の地を占拠せよ:未開のサバンナ』が発生します>
あ、このタイミングで最後の1ヶ所の経路確立が終わったのか。俺らはこの後、軽く報告だけして今日は終わりにするけど、明日はこの辺の情報のチェックからやっていくのが――
<規定条件を達成しましたので、群集クエスト《群集拠点種の更なる強化・灰の群集》が進行します>
<対象の全エリアへの転移経路の確立と、各群集拠点種の強化が完了しました>
<各地の競争クエスト、新エリア用の一時的な強化を各群集拠点種から受けられるようになりました>
<使用制限はありますが、エリアに合わせた競争クエストでの補助的な効果となっていますので、ぜひ活用して下さい>
って、まだ続きがあったー!? 競争クエストの進行じゃなくて、群集クエストが進行した……って、新エリアでの競争クエスト用に強化が受けられるの!? え、マジで!?
「さっきのフラムにあった赤いサボテンのマークって、もしかしてこれか!?」
「……どう考えてもそうだろうな」
「エリアに合わせた補助的な効果って……もしかして峡谷エリアだと、自分が立てた音が響きにくくなるのかな!?」
「その可能性はありそうなのさー!?」
「あはは……そうなると、動き方が一気に変わってきそうだね」
「確かになー。使用制限があるって書いてるから、全く無駄って訳でもなさそうだけど」
くっ、まさか全ての経路確立をしたら、こんな機能が解放されるとは思ってなかった! そうなると赤の群集は既に全経路を確立済みって事か! なんか妙な形でフラムと遭遇したけど、それはどうやら良い情報になりそうだね。
とはいえ、その辺の報告までが今日は限界かも? なんだか安全圏に戻ってきて気が抜けたのか、眠気がし始めてきたしなー。あと少しだけ頑張って、今日は終わりにしよう。それ以上は多分、明日に悪影響が出そうだしさ。
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