第1085話 ジャングルのエリアボス


 サクヤが攻撃した事で、ジャングルを流れている川の中州から出現した巨大なカメ。どう考えても出現の仕方からして普通じゃないし、黒いカーソルの上に旗のマークがあるんだから一目見ただけで特殊なのは分かる。だからこそ、さっさと識別をしてしまおう!


<行動値を5消費して『識別Lv5』を発動します>  行動値 82/104(上限値使用:7)


 やっぱり戦闘中でも行動値の回復速度って上がってる気がするけど、まぁそこはいい! さて、どういう結果が出てくる!?


『城塞ガメ』Lv4

 種族:黒の暴走種(旗頭城塞種)

 進化階位:成熟体・黒の暴走種

 属性:土、水

 特性:旗頭、拠点、共生、突撃、堅牢、硬甲、鈍重


『強異常王バチ』Lv4

 種族:黒の暴走種(異常統率種)

 進化階位:成熟体・黒の暴走種

 属性:毒、雷

 特性:共生、刺突、異常付与、統率、招集


 ちょ、待った!? はい!? え、ハチってどこから出てきた要素だよ!? これって共生進化の個体なのか!? てか、特性に拠点があるのか、このカメ! 旗頭って特性は、旗のマークと、このエリアのボスみたいな意味もある?

 あー、一旦落ち着け、俺。混乱する前に、まずはみんなにこの識別情報を伝えないと。そこから、どう対処していくかも考えないといけないしな。


「先に言っておくけど、知らない事が多いから要注意! まずは旗のマークがあるのが『城塞ガメ』で黒の暴走種の旗頭城塞種! 属性は『土』と『水』! 特性は『旗頭』『拠点』『共生』『突撃』『堅牢』『硬甲』『鈍重』! 多分、『旗頭』がボスの証!」

「おい待て、ケイ! まずは、ってどういう意味だ!? それに特性に『拠点』と『共生』だと!?」

「アル、その辺は最後まで聞いてからにしてくれ! ぶっちゃけ、俺のちょっと混乱中だけど、先に言っとかないとヤバそうなんだよ!」

「わ、悪い……」


 アルの気持ちは分かるんだけど、今は姿が全く見えていないハチがいる事は早めに伝えておかないと! 強異常王バチって、確かヨッシさんの異常特化型で出てた進化先だから甘く見てると危険過ぎる。


「特性に『共生』があったから分かると思うけど、このカメは共生進化の個体だ! もう1体の方が『強異常王バチ』で黒の暴走種のLv4! 属性は『毒』と『雷』! 特性は『共生』『刺突』『異常付与』『統率』『招集』! 状態異常への特化型だから、毒の気を付けてくれ!」

「ヨッシの進化先と同じヤツなのさー!?」

「……これは厄介そうだね。知らない『招集』って特性も怖いかも」

「その特性、どういう内容なのかな? それにカメの『拠点』……」


 今の時点ではハチの姿はどこにも見えないけど、共生進化なら離れられないから必ずカメのどこかにいるはず。でも、一体どこに……って、露骨に怪しいとこがあったよ!? なんで穴が空いてるのかと思ったけど、そこが拠点要素だからだ。だからハチがいるのは……。


「「カメの甲羅の中!」」

「見事に被ったね、サヤ、ケイさん」

「でも、そこが1番怪しいよね。ケイさん、統率個体のハチを中に突撃させてみていい?」

「それはありだけど、ヨッシさん少しだけ待ってくれ。オオカミ組、まずはカメを吹っ飛ばせ! ただし、ハチが出てきたら状態異常には気を付けろ!」

「了解っす! 突撃班、行くっすよ!」

「「「おう!」」」


 今はまだサクヤに一方的に攻撃されているだけの巨大なカメだけど、これは『鈍重』の特性があるからか? でも、あの馬鹿力なサクヤの攻撃を受けても全然HPが減ってないんだから耐久性がとんでもない高さな気がする。

 ともかく今はオオカミ組の何人かが眩い銀光を放ちつつ、生成した岩の足場の上から突撃を行なってくれている。これで川からジャングルへと移動させれたら良いんだけど、どうなるか……。


「うげっ!? びくともしてない!?」

「……防御寄りの構成になってるだけはあるか。ケイ、どうする?」

「またスチームエクスプロージョンを推進力にして、思いっきり突撃でもやる?」

「別にそれでもいいが、これだけオオカミ組に足場を作れるメンバーがいるなら川の中で戦っても良いんじゃねぇか?」

「今のメンバーだけならそれでも良いんだけど……って、ハチが4体出てきた!?」

「『識別』! ケイさん、出てきたのは統率個体! でも、成熟体のLv4だから『強化統率』を持ってるのは確定! 属性は毒になってるよ!」

「ヨッシさん、確認サンキュー! みんな、出てきたハチには要注意! 本体よりは弱くはなるけど、出来るだけ攻撃は受けずに仕留めてくれ!」

「了解っす! まずは統率個体のハチを減らすっすよ! 『飛翔疾走』『爪刃乱舞』!」

「「「おう! 『飛翔疾走』!」」」


 おぉ、やっぱりオオカミ組の連携はかなりいいね。蒼弦さんはみんなへ増援の通達してくれているし、湯豆腐さんが他のオオカミ組への指揮をしっかりしてくれているから、俺としても考える余裕が出来る。


 さて、ここからどうするか。オオカミ組の突撃でも全然びくともしなかったのは、流石に想定外。このカメ、連結PT1組くらいじゃ倒せるようにはなってないような気がする。もしくは倒す為のギミックがどこかにある?


「怪しいのは、ハチが出てきたあの穴か。てか、先にハチの本体を仕留めておきたいけど……ヨッシさん、さっき言ってたのを頼む。とりあえず誘き出せないか試しときたい。確認だけだから、今は1体で」

「了解! 『同族統率』! 行け、ハチ1号!」

「これでどうなるかな?」

「……さて、大人しく出てきてくれたら楽なんだけどな」


 あのカメの岩っぽい甲羅の穴の中に小さな種族のプレイヤーが入っていくって手段もあるにはあるんだけど、どうなるかが未知数過ぎて下手に試せない。場合によっては俺の遠隔同調にしたコケかヨッシさんのハチで試すけど、中にいるのが毒と雷で状態異常特化のハチってのが厄介だよな。

 毒持ちは、俺のコケとは相性が悪過ぎる。ヨッシさんと一緒に入って抗毒魔法で防いでもらう? いや、それはダメだ。あれでの防御は万能じゃないのは、ライさんから麻痺毒を受けて痛感した。


「あー!? 空いてた穴が閉じたのです!?」

「はっ? あれ、閉じるのかよ!? ちっ、俺の樹洞展開とは性能が違うのか?」

「そんなのありなのかな!?」

「……ヨッシさんの……統率個体が……閉じ込められた?」

「ヨッシさん、統率個体はどうなった!?」

「今はまだ無事だけど……あ、殺された」

「……閉じ込めた上で殺してくるのか」

「どうもそうみたいだね……」

「あ、また穴が空いたかな」


 くっ、これじゃ下手にプレイヤーが中に入って攻撃って訳にもいかなくなったか。敵が毒さえ持ってなければ、俺があの穴の中に入ってみるんだけど……って、蒼弦さんが駆け寄ってきたね。なんか慌ててる感じだけど……これは何かあったか?


「蒼弦さん、何があった?」

「良い知らせと悪い知らせがある! 手早く説明するぜ。まずは良い知らせだ。マサキの正常化には成功した。灰の群集のメンバーで纏浄をして一斉攻撃で、骨の方だけの除去が可能だったそうだ。ただ、カーソルが灰色になっているから他の群集に殺される可能性はあるみたいだな」

「倒される可能性があるのは仕方ないけど、解放出来たのは良かったな!」


 NPC判定に切り替わらずに他の群集に倒される可能性が残ってるって事は、まだマサキには役目は残っていそうだな。それも含めてマサキの正常化が成功したのは、間違いなく良い知らせだ。

 ほんと、ここへの案内役が赤の群集のサクヤになってくれて良かったもんだよ。さて、正直聞きたくはないけど悪い知らせの方も聞いておきますか。


「……悪い知らせの方は?」

「あちこちでハチが大量に出現して、こっちの方に向かっているらしい。毒持ちと統率持ちばっかで、こっちに向かうのが難しくなってるって話だ。特に例のまともに倒せないゾンビみたいなヤツが特に厄介みたいだぞ」

「マジか!? え、なんでそんな状態に……って、あのハチの『招集』って特性はそういう事か!」


 見ただけではどういう特性か分からなかったけど、今の状況を考えればそれが分かってきた。要するに、同系統のハチの敵を招集するって特性かよ! あぁ、もう! 相当厄介な特性じゃん!?


 これ、カメを倒す前に本気でさっさと甲羅の中にいるっぽいハチの本体を倒さないと厄介過ぎるぞ! どうする? どうやって、そのハチを倒す? 中に入るだけが倒す手段ではないはず。 考えろ、考えろ、考えろ! これはゲームだ。必ずどこかに攻略の手段はある!

 今は増援に期待出来る状態じゃないのは分かった。だから今ここにいるメンバーでどうにかするしかない。ハチをどうやって誘き……いや、誘き出す必要もないのか? ここは幸いにも水の豊富なジャングルの中の川。違う、その川こそ利用する為にあるのかも!


「よし、思いついた! ヨッシさん、風音さん、それとオオカミ組で氷塊の操作か岩の操作を持ってる人、聞いてくれ! あのカメ自体は今は全然攻撃してきてないし、まずはハチの本体を仕留める! ただ、中に入って直接仕留めるのはリスクが高過ぎるから作戦を考えた!」

「氷塊の操作って事は俺もいけるぜ! で、どんな作戦だ、ケイさん!」


 あ、そうか。そういや蒼弦さんも氷をよく使ってるもんな。まぁここは人数が多い方が助かるし、そこは頼りにさせてもらおう。


「作戦はシンプルだ! カメの甲羅の表面に空いている穴を、一部を除いて岩の操作と氷の操作で封鎖する! その上で、そこのジャングルの川の水を甲羅の中に流し込む!」

「相変わらずえげつねぇ事を考えるな、ケイ! 要は水責めか!」

「そういう事! 上部にある穴だけは閉じれないように岩か氷塊でこじ開けておくから、アルを筆頭に水の操作持ちの人が中心になってそこからどんどん水を入れていってくれ! 魔法産の水だと操作したままじゃないとダメだし、それだとお互いに邪魔になるから川の水に限定で! それでハチが溺死すればよし、堪らず出てきたなら仕留めるのみ!」

「あはは、そこは任せてかな!」

「了解なのさー!」

「そういう割り振りだね。ケイさん、了解!」

「……まずは順番に……確実に仕留める!」

「ケイさんの作戦通りに動くぞ! 気を抜くんじゃねぇぞ、オオカミ組!」

「ここでの頑張りが、この後に影響するっすよ!」

「「「「「「「「「「おう!」」」」」」」」」」


 ははっ、みんなの気合いは充分だ! さーて、みんなが大量に動き出したハチでまともに身動きが取れない状態だったり、ジェイさんと斬雨さんの動向が分からなくなってる状態でもあるし、手早くハチの本体を仕留めていくぞ!


「それじゃ各自、作戦開始! 水を注ぎ込むのは上部の穴の6ヶ所を、俺、ヨッシさん、風音さんでこじ開けておくから、そこからやってくれ! 蒼弦さん、他の穴の封鎖の指揮は任せた!」

「おう、任せとけ! 1人2ヶ所は埋めるつもりでいくぞ! 土の昇華と氷の昇華がないけど水の操作があるヤツは水を注ぎ込む方に回れ! 流れは緩やかだから水流の操作じゃなく、水の操作の方でいけ! それ以外は周囲の敵の排除と、ハチが出てきた時に備えろ! 『並列制御』『アイスクリエイト』『アイスクリエイト』『並列制御』『氷塊の操作』『氷塊の操作』!」

「「「「『並列制御』『アースクリエイト』『アースクリエイト』『並列制御』『岩の操作』『岩の操作』!」」」」

「『並列制御』『アイスクリエイト』『アイスクリエイト』『並列制御』『氷塊の操作』『氷塊の操作』!」


 よし、オオカミ組が適度にカメの周囲に散らばって各方向に開いている穴をどんどん塞いでいってくれてるね。それに合わせて、他のみんなも水の操作か、攻撃体勢に移っている。さて、これで上手くいってくれればいいんだけど……。


「ヨッシさん、風音さん、俺らもやるぞ!」

「了解! 『並列制御』『アイスクリエイト』『アイスクリエイト』『並列制御』『氷塊の操作』『氷塊の操作』!」

「……うん! 『並列制御』『アースクリエイト』『アースクリエイト』『並列制御』『岩の操作』『岩の操作』!」


 結構な数の穴があるから、これで全部塞ぎ切れればいいんだけどね。まぁ、近くの穴なら1つの岩の操作か氷塊の操作で塞げる範囲だから多分いけるはず。さて、それじゃ俺もやっていきますか!


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値1と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』は並列発動の待機になります> 行動値 99/104(上限値使用:7): 魔力値 279/282

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値2と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』は並列発動の待機になります> 行動値 97/104(上限値使用:7): 魔力値 276/282

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


 ヨッシさんと風音さんが生成している場所ではない上部にある2つの穴が俺の担当! これでみんな結構な行動値は使うことにはなるけど、今はハチの撃破を最優先! 本体を倒せば、増援が来るはず!


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値を19消費して『岩の操作Lv4』は並列発動の待機になります>  行動値 78/104(上限値使用:7)

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値を38消費して『岩の操作Lv4』は並列発動の待機になります>  行動値 40/104(上限値使用:7)

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


 よし、これで俺の担当部分はカメの意思で閉じられないように穴をこじ開けておく! 今のところ閉じようとする気配はないけど、水を注ぎ込み始めればどうなるか……。


「みんな、水を注ぎ込め! 操作の指定が被らないように、他の人が持ち上げたのを確認してから指定で!」

「アルマースさんから順番に頼む! オオカミ組、声を出していけよ!」

「「「おう!」」」

「それじゃお言葉に甘えて俺からやらせてもらうぜ! 『並列制御』『水の操作』『水の操作』!」

「次は俺だ! 『並列制御』『水の操作』『水の操作』!」

「俺もいくぞ! 『並列制御』『水の操作』『水の操作』!」

「最後は俺だー! 『並列制御』『水の操作』『水の操作』!」


 連携の取れているオオカミ組なだけあって、スムーズに水の操作で川の水をカメの甲羅の中に注ぎ込むのに成功している。ははっ、頼りになるね、オオカミ組!

 おっと、そうしてる間にカメが穴を塞ごうとし始めたけど、そうはさせるか! ハチが死ぬか、外に出てくるまで、この状況は維持させてもらうぞ!



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