第1068話 検証の為の模擬戦 その7


 さて、今回の検証の最後の案件という事で、瘴気魔法の吸収をやっていく事になった。って、ちょっと待った。多分大丈夫だとは思うけど、地味にこれは知らないから聞いておこうっと。


「アル、模擬戦で『瘴気の凝晶』を使った場合って、使用回数とか『浄化の輝晶』の使用時間の制限はどうなるんだ?」

「それなら通常にカウントにはならないらしいぜ。模擬戦が終われば、使う前に戻るそうだ。ただ、模擬戦中では通常の仕様だから、『纏瘴』を解除してもすぐには『纏浄』は使えん」

「あー、そうなるのか。それだと『浄化の輝晶』が使えるようになる3時間を待つのは現実的じゃないな」

「そういう事だ。それじゃ、いくぜ! 『纏属進化・纏瘴』!」


 おぉ、アルの木とクジラが両方とも瘴気を放つ禍々しい姿へと変わっていく。なんというか、前よりも瘴気の量が増えて禍々しさが増してない? うーん、木の根とクジラの背の間に空間が出来てるから、その分だけ瘴気の威圧感みたいなのが増してる?


「なんだか未成体の頃よりも、瘴気が濃くなっているのは気のせいでしょうか?」

「多分気のせいじゃないよ、ハーレ。成熟体に進化して、制御出来る許容量が増えたのかも? 不動種の人からそういう報告が……あ、桜花さん、やっぱりそういう傾向は出てるんだね」

「私達の解説している場所の桜花さんより情報提供が入りました! 成熟体に進化してから、『纏瘴』と『纏浄』についてはエフェクトが少し増量されているとの事です! ただ、瘴気魔法や浄化魔法を使う機会がないので、デメリットに変化があるかは不明との事! また、普段使いをしていなければ気付かない可能性もあるそうです!」


 ふむふむ、瘴気が増えてるように見えたのは気のせいではなかったんだな。昨日羅刹が『纏浄』を使ってた時には見た目の変化こそ気付かなかったけど、デメリットの負担が軽減してたって言ってた気がする。

 まぁあの時以外に『纏浄』を使用中のティラノとか見た事がないから、比較対象がなくて気付かなくても仕方ないか。逆にアルの『纏瘴』は見た事があるから、ちょっとした変化に気付いたのかも?


 まぁ今はその辺の違いについては別にいいや。さて、それじゃ俺の方も準備していきますか!


<行動値上限を10使用して『アブソープ・アクア』を発動します>  行動値 107/107 → 97/97(上限値使用:10)


 相変わらず、今の模擬戦の設定だと行動値の回復量が本当に早い! この設定で誰かと思いっきり1戦やってみたい気分になってくるけど、まぁ競争クエストの最中には自重しといた方がいいだろうなー。まぁその内、誰かを誘ってやってみようっと。


 とにかくこれで再び水の膜に覆われて、いつでも吸収は可能になった。さて、瘴気属性も持った水属性の魔法を吸収して大丈夫なのか、それともそもそも吸収出来ないのか、その辺の確認をしていこう!


「準備完了! アル、いつでもいいぞ!」

「おし、それじゃ早速始めるか。『並列制御』『アクアクリエイト』『瘴気収束』!」


 そうしてアルが発動したミアズマ・アクアの禍々しい瘴気の色をした滝が俺向かって迫ってくる。色こそ全然違って禍々しいけど、挙動としてはウォーターフォールそのものなんだよな。さて、これでどうなるか……。


「アルマースさんの発動したミアズマ・アクアが、ケイさんを押し潰そうとばかりに迫っていくー! しかし、それをものともせずに『アブソープ・アクア』がそれを吸収し始めたー!」

「……吸収が出来た?」

「へぇ、吸収は出来るのか!」

「問題は吸収した後にどうなるかだね?」


 確かに吸収自体は出来てるけど、レナさんの言う通り、その結果でどうなるかが重要なところ。げっ、少し吸収したら『瘴気汚染』に……って、あっという間に『瘴気汚染・重度』まで悪化した!? あ、吸収し終えたっぽい?


<過剰魔力値を水魔法の強化に使用しますか?> 魔力値 275/274


 あ、吸収した分は過剰魔力値にはなるんだね。たった1だけど、一応水の魔法を吸収した事にはなるのか。でも、これって強化に回す意味はないし、使用しないでおこうっと。この場合って、何になるんだろう? ただの水の欠片?


<使用されなかった過剰魔力値を結晶化します>

<『刻瘴石』を1個獲得しました>

<模擬戦の為、獲得した『刻瘴石』は破棄されます>

<過剰魔力値の結晶化により『アブソープ・アクア』は解除され、行動値上限が元に戻ります> 行動値 97/97 → 97/107


 ん? え、『刻印石』が生成……いや、違う!? 一瞬『刻印石』と見間違えたけど、『刻印石』じゃなくて『刻瘴石』か! ちょ、ここで実物が破棄って、マジで……?


「おい、どうした?」

「……今ので知らない名前のアイテムが生成されたんだけど!? 『刻瘴石』って何!?」

「……は? おい、ケイ、どういう事だ!?」

「俺に聞かれても知らん! もう消滅したから、確認のしようがない……」


 まさかここで全く知らないアイテムが出てくるとは欠片も思わなかった。えぇ、そんな事ってある?

 それにしても『刻瘴石』か。うーん、これって名前的に模擬戦の開始前に、まだ早いって言われた成熟体でのフィールドボスの誕生に関わってそうな予感がする? 思いつきで刻印石を素材に混ぜるとか言ったけど、その混ざった名称としてはおかしくないよな。


「まさか、まさかの、ここで新アイテムの存在の発覚だー! ケイさん、コクショウセキはどういう文字でしょうか?」

「あー、刻むの刻に、瘴気の瘴に、普通の石だな。俺らが知らないだけで、発見済みのアイテムだったりする?」

「なるほど、その字で『刻瘴石』という事ですね!」

「うーん、少なくともわたしは初耳だねー。そこから連想するのは、『瘴気石』と『刻印石』? これってもしかすると上位版の『瘴気石』かなー?」

「俺も初耳だけど、流石にこの情報だけだと何とも言えなくね? それにこの感じだと浄化魔法を吸収した時にも何かありそうだぞ!」

「まぁ確かにそうなんだよねー」

「……実物が……欲しいところ?」

「そうなるねー。ただ、どうやって手に入れるかが問題かも? うーん、競争クエスト真っ最中じゃなければどうとでも手段はあったんだけど……」


 あー、なんだか解説陣が考え込んで黙ってしまった。まぁコメントしようにも、実物が消滅してしまった以上はどうしようもないか。

 アブソープ系が必須となると、試そうにも試す手段は相当限られるもんな。紅焔さんが言ってたけど、浄化魔法でも何かありそうな予感は確かにある。……もしかして成熟体のフィールドボスの進化には、使い分けがあるのか? あー、全然分からん!


「うーん、みんな気になってるとは思うけど、『アブソープ・アクア』自体が今はまだ取れる人が相当限られてるんだよね。多分だけど急ぎじゃない内容になると思うから後回しにさせてもらいたいんだけど……ケイさん、アルマースさん、それでいい?」


 他の群集の人の助けを借りられる状態であれば共同で検証をしたいところけど、今はそれは期待出来ない。それに極端な言い方をすれば、『アブソープ・アクア』はスキル強化の種で強引に先取りしているスキルだしね。

 だからこそ、現時点ではゲームの進行の想定の中に組み込まれている可能性は低い。少数の人が手に入れる事は想定していても、大多数のプレイヤーに影響するようにはなってないはず。てか、スキルの説明欄に無い隠し効果が多いな! まぁ今は後回しで――


「ん? レナさん、ちょっと待ってくれ」

「およ? どうしたの、アルマースさん?」

「常闇の洞窟に一時的に灰の群集を抜けて無所属になってる人がいると聞いたが、その人達の手は借りられないか?」

「うーん、多分条件さえ満たしてたら手伝ってはくれると思うけど、後発で始めて育成が追いついてない人が多いから『瘴気の凝晶』を持ってない可能性が高いんだよー。今、無所属の状態だから、そもそも群集拠点種での交換は無理だし……」

「……なるほど、そういう状態なら仕方ないか」


 あー、共闘イベントの時にはまだ始めてなかった人達が多い感じになるのか。そういや一回脱退した群集に再加入するのって条件はあるんだっけ? 再加入自体は可能なのは知ってるけど、具体的な条件は知らない気がする? ありそうな条件としては何日間かは再加入不可とかはありそうだよね。

 それなら傭兵として一時的に……って、これはこれで一時的に無所属になってる意味が無くなるか。ふー、中々都合良くはいかないもんだね。


 さて、他に考えられる可能性は……瘴気属性を持つ敵か。一応思い当たる相手はいない訳ではないけど、これって博打要素が強いなー。


「なぁ、アル? ジャングルで見たあの骨のトカゲみたいなので、水属性持ちで瘴気魔法を使ってくる可能性ってあると思う?」

「……ないとは言えないが雑魚敵だとは思えねぇな、それは」

「まぁそうだよなー」


 アブソープ系のスキルを持ってるのが当たり前な状況になっていれば雑魚敵でもそういう攻撃をしてくる可能性はあるんだろうけど、流石に今はまだ早過ぎるよな。まぁ、レナさんの言う通り、ここは後回しでも良い部分か。

 仮にフィールドボスの誕生の為のアイテムだとして、今はまだ倒せない可能性もあるしね。そもそも未成体ではフィールドボスの最低Lvは11だったし、どちらかというと今の段階なら瘴オオヒノノコみたいなボスへの再戦用のアイテムの可能性もある。

 ジャングルを筆頭に新エリアの方で、他のエリアへの移動の妨害ボスが出る可能性はあるから、焦らずにまずはそのボスを見つけて倒すとこからか。


「てか、俺は今は『瘴気汚染・重度』で酷い状態だから、そろそろ模擬戦は終わりで! あ、そういや、アルの方は?」

「俺も『瘴気汚染・重度』だな」

「瘴気魔法はやっぱり進化しても反動が酷いかー」

「少しは軽減されるもんかと思ったんだが、そうでもないみたいだな」


 ふー、一応『瘴気汚染・重度』の方は死ぬって訳じゃないんだけど、アルは『纏瘴』の解除が出来なくなってるだろうし、単純にこれ以上は急ぎの案件じゃない。結構長々とやってしまったから、一旦ここらで一区切りすべきだよな。


「それじゃハーレ、〆をお願いねー!」

「はい、分かりました! ケイさんもアルマースさんも『瘴気汚染・重度』という事もありますので、先に宣言していた通り、今回の検証の模擬戦はここまでとさせていただきます! 検証はグリーズ・リベルテ所属のコケとザリ……ロブスターのケイさんと、木とクジラのアルマースさん! 実況は私、グリーズ・リベルテ所属のリスとクラゲのハーレ! そして解説は!」

「『渡りリス』のレナと!」

「『飛翔連隊』所属のドラゴンの紅焔と!」

「……新入りの……風音?」

「以上の方々でお送りしました! 色々と新たに検証をすべき事が出てきましたが、その辺は皆さんで協力しながら解明していきましょう!」

 

 さてと、ハーレさんが〆てくれて、あちこちから大歓声が上がってるよ。なんだかんだでハーレさんってこういう司会や進行役って向いてるっぽいよなー。基本的に物怖じや人見知りをしないしね。

 あー、それにしても色々とあってびっくりしたもんだ。検証自体も結構長くなったけど、やれる範囲の検証は出来たはず。条件的に出来なかったものは仕方ないけどね。


「ケイ、最後に大暴れして勝敗をつけて終わらせるか?」

「あー、やりたい気持ちはあるにはあるけど、それをするならお互いに『瘴気汚染・重度』が無い時にやりたいな」

「なら、またの機会にやってみるか?」

「おう、いいぞ! その巨体、叩き落としてやる!」

「出来るもんなら、やってみろ!」


 具体的にいつやる事になるかは分からないけど、アルとの全力勝負は本当にやってみたいとこだな。アルが俺のコケをどうやって倒そうとするのかも気になるしね。


「とにかく今回は中断で終了だ!」

「だな。地味に長い検証だった気がするぞ……」

「だよなー」


 という事で、模擬戦は中断を選択! アルの方に承諾の確認が行ったみたいだから、承諾されたらそれでこの模擬戦は終わりだね。


<模擬戦が中断になりましたので、10秒後に外部へと転送されます>


 思った以上に『アブソープ・アクア』の影響がある案件が多かったし、今の段階でもまだ試せてない案件もいくつか残っている。流石は水魔法の最大Lvで手に入るスキルなだけはある。

 そう考えると爪撃Lv10で手に入る強化効果で行動値がプラスになるってのは、非常にシンプルな効果ではあるんだよな。あれって、爪撃そのものの追加効果なのか、それとも『アブソープ・アクア』みたいに別枠のスキルとして存在してるのか、どっちなんだろ? ま、その辺は後でまとめを見て確認しますか!


<『模擬戦エリア』から『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』に移動しました>


 そうやって色々と考えてる間に、エンの前まで飛ばされた。おーし、これで完全に検証の模擬戦は終了!


「アル、桜花さんのとこまで戻って、これからどうするか決めていこう!」

「だな! 『根の操作』『空中浮遊』! 行くぜ!」

「ほいよっと!」


 手早くアルが木の根で俺をクジラの背の上に乗せてくれて、桜花さんの元へ向かって飛行開始! さーて、これからどうするかの選択肢はいくつかある。その中でどれのするかは、みんなと相談してからだな!

 俺としてはジャングルでLv上げをしつつ刻印石の入手を狙っていくか、赤の群集との競争クエストが止まっていない海エリアへの参戦のどっちかにしたいな。あ、それと青の群集との総力戦の協議がどうなったかも知りたいとこだけど、あれの猶予って今日の夜7時だっけ?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る