第1035話 逃げた先では


 羅刹が足止めに残り、青の群集から逃げ出したは良いものの……なんかあからさまにおかしなのが後ろから見えてきてるんだけどー!? なんか後ろのジャングルの木々がどんどん折れていってる!? 


<ケイが成熟体・暴走種を発見しました>

<成熟体・暴走種の初回発見報酬として、増強進化ポイント8、融合進化ポイント8、生存進化ポイント8獲得しました>


<ケイ2ndが成熟体・暴走種を発見しました>

<成熟体・暴走種の初回発見報酬として、増強進化ポイント8、融合進化ポイント8、生存進化ポイント8獲得しました>


 あ、発見報酬が出て、チラッと太いまだら模様のある丸太が少し見えた……って事は、間違いなくあれだよなー!? うわー、なんでよりによってこのタイミングでそれ……?


「発見報酬が出たけど後ろの状況、どうなってんだ!?」

「明らかに毒がありそうな大蛇がジャングルを薙ぎ倒しながら迫ってきてるのさー!? とりあえず識別しておくのです! 『識別』!」

「ちっ、そういう事か。ケイ、とりあえず守勢付与をくれ!」

「ほいよっと!」


 少し距離があるとはいえ、あの丸太……もとい、大蛇の方が移動速度が速いみたいだから、この調子じゃ追いつかれそうだ。

 まだ俺には余力があるから、今は防御に徹してどう対処するかを考えよう。てか、このタイミングで獲物察知の効果が切れたのが痛い!


「守勢付与は水と土、どっち?」

「あー、土で頼む! 今のケイは土の方が強化されてるだろ!」

「あ、そういやそうだった!」


 今の俺は『土属性強化Ⅱ』を持ってるんだから、そりゃ水よりも土の方が効果が高くなるはずだよな! 新しいスキルだから、その辺の考慮が抜けてたよ。ともかく大急ぎで守勢付与をアルにかける!


<行動値7と魔力値21消費して『土魔法Lv7:アースエンチャント』を発動します> 行動値 35/106(上限値使用:1): 魔力値 117/274


 くっ、この状態で行動値も魔力値も半分以下ってのは厳しいな。それでも進化して総量が増えた分だけ、多少の余力は残せるようになってるにありがたいけど。

 よし、とりあえずアルのクジラの周囲に土の塊が3つ漂い出したから、これでスキル3発は凌げる! プレイヤー相手では心許ないけど、普通の敵相手ならこれでも問題はない! それじゃ次!


「ハーレさん、識別内容を教えてくれ!」

「えっと、『激毒硬牙大蛇』で成熟体Lv2! 属性は『毒』、特性は『俊敏』『牙撃』『突撃』『強靭』『毒強化』『毒耐性』なのさー!」

「『毒強化』!? それならヨッシさん、大急ぎで魔力値を回復させて『抗毒魔法』を頼む! 種類は……一番動きが止められてヤバそうな神経毒で!」

「物理毒には効果ないよ?」

「それでも充分! 物理型の構成っぽいけど、魔法を使わない確証もないからな!」

「……確かにそれはそうだね。うん、すぐに回復するから待ってて!」

「ほいよ……って、突っ込んできた!?」


 あ、でも土の守勢付与での自動防御が、アルのクジラに向かってジャンプした大蛇を叩き落としてる。ふぅ、今のは守勢付与に助けられた……って、ちょっと待てやー!?


「なんでそこでハチが大量に出てくる!?」

「わっ!? なんか個体数が増えたのです!?」


 くそっ、大蛇が落ちた位置にハチの巣でもあったか!? だったら、その大蛇と潰し合ってくれると助かるんだけど……軽く見ただけでも、ハチが20体くらいはいそうだぞ。


「ちょ、こっちに来てるじゃん!? ハーレさん、拡散投擲はいけるか!?」

「いけるのさー! 『拡散投擲』!」


 おっ、次々とハチが……死んでいる? いや、ちょっと待て! 数は多いけど、いくらなんでも弱過ぎないか? というか、経験値が全く入ってこない?


「なんか変だし、ちょっと識別してみるね。『識別』! えっ!?」

「サヤ、どうした!?」

「このハチ、未成体の統率個体かな! それ以上細かい情報はないみたい!」

「ちょい待った! 統率個体って、生成出来るの多くても4体までじゃなかったっけ!?」

「……それ、本体が1体じゃないのかも? とりあえず抗毒魔法は神経毒を防ぐのでいくよ! 『アンティヴェニン・ソロ』!」


 ふぅ、とりあえずこれで神経毒を受ける可能性は相当低くなった。とはいえ、状況としては何も好転はしていないし、どうする? 20体くらいいるハチは本体を潰さなきゃ意味なさそうだけど、パッと見でどれが本体か分からないぞ。


「サヤ、ハーレさん! ハチの本体に目星はつくか!?」

「ううん、ダメかな! どれも見た目は変わらないよ!」

「これ、ここに本体がいない可能性があるのです!」

「……マジか! って、またか!」


 態勢を立て直した大蛇がまたアルに向かって突っ込んでいって、また守勢付与の土の塊の自動防御でジャングルへと叩き落とされていく。そこまでは良いんだけど、なんでそこで更にハチが増えるんだろうね!? この辺、ハチの巣だらけか!


「ハーレさん、散弾投擲でともかくハチの数を減らせ! 未成体相当だとしても、この数は厄介だ!」

「了解なのさー! 『散弾投擲』『散弾投擲』『散弾投擲』!」


 とりあえずこれで時間稼ぎは出来る。出来るけど、根本的になんの解決にもなってないし、アルの水流の操作もいつまでも保つ訳じゃない。サヤにはかなり余力が残ってるから、ハチは無視して一気に大蛇を仕留めるか?


「『散弾投擲』『散弾投擲』! ケイさん、この統率個体のハチはなんかおかしいのさー!?」

「おかしいってどんな……うげっ!?」


 ハーレさんの攻撃が当たって一度はHPが無くなって落ちたはずなのに、死なずに再び起き上がってきてる! こんなのゾンビかなんか……って、もしかして本当にゾンビなのか!? 骨だけのトカゲがいたなら、その可能性は否定出来ないぞ。

 あちこちに部位欠損があるし、HPが無くなってるのに動く続けるってまともじゃない! しかも瘴気らしきものが、欠損した部分から漏れ出てる感じかよ。


「だー! とりあえずこの変なハチの本体がどこにいるかが分からんし、HPが無くなっても倒せないなら今は無視! アル、合図したらあの大蛇をぶっ殺すから、突撃準備!」

「おうよ!」

「今一番余力があるにはサヤだから、主戦力は任せた! 攻勢付与もかけとく!」

「分かったかな!」


 他のみんなにも指示はあるけど、なんとか耐えれている間になんとかしないと! あ、くっそ! また大蛇が突っ込んできて、アルにかけた守勢付与を使い切ってしまった。


<行動値7と魔力値21消費して『土魔法Lv7:アースエンチャント』を発動します> 行動値 28/106(上限値使用:1): 魔力値 96/274

<行動値7と魔力値21消費して『土魔法Lv7:アースエンチャント』を発動します> 行動値 21/106(上限値使用:1): 魔力値 75/274


 とりあえずサヤには攻勢付与を、アルには守勢付与をかけておく。てか、これって逃げる余力はあるのか? いや、もうそれは考えても仕方ない!


「アル、次に守勢付与で迎撃したタイミングで残ってる水流の操作で一気に加速! 大蛇に突撃で、みんなはそのタイミングで飛び降りろ!」

「無茶な事を言うが、了解だ!」

「ヨッシさんは抗毒魔法は解除して、可能な限り魔力値を回復させてダイヤモンドダストの準備! サヤとハーレさんは、ありったけ攻撃を叩き込め! 俺はあの大蛇を抑え込む!」

「了解!」

「分かったかな! 再使用時間も過ぎたし、自己強化は解除して『魔力集中』!」

「はっ!? 魔力集中が切れてるのです!? ケイさん、クラゲから昇華魔法でもいいですか!?」


 あ、そうか。そういう手もあった。ヨッシさんの氷とハーレさんの風でブリザードなら、視界を封じた上で大蛇の体温も下げて鈍らせられるか? 爬虫類が元になってる種族にはこの辺は結構有効なはず。ハチも一掃……出来るかは分からないけど、とりあえず動きの妨害くらいにはなるはず。


「よし、その案採用! 合図したら、ヨッシさんとハーレさんでブリザードを発動してくれ! サヤ、視界が悪くてもいけるか!?」

「了解!」

「了解なのさー!」

「降雪地帯に住んでるのを甘く見ないでかな!」

「……そういやそうだった。それじゃ任せる!」

「任されたかな!」


 それを根拠にして良いのかどうかは何とも言い難い気もするけど、サヤ自身が大丈夫だと言い切ったなら任せよう。

 てか、ハチは近付いてきて鬱陶しいけど、ダメージは全然どうって事はないな。正直、未成体相当の統率個体で助かったけど、これは成熟体の統率個体が出てくる危険性も考えておくべきか。


 あ、そうしてる間にまた大蛇が突っ込んできて、守勢付与で叩き落とされていった。なんというか、この大蛇って思ったよりも攻撃パターンが単純すぎるような……いや、空中を飛んでる俺らに対して有効な攻撃手段を持ってないだけなのかも? まぁそこはいい!


「アル! みんなも飛び降りろ!」

「おうよ! 自己強化解除で『魔力集中』! 『旋転連突撃』!」

「行くかな! 『略:突撃』!」

「ヨッシ、こっちなのさー! 『略:傘展開』!」

「ハーレ、ありがと!」


 アルはジャングルへと倒れていく大蛇に向かって旋回しながら次々と銀光を放つ体当たりを仕掛けていく。サヤは竜の突撃で、アルの連続体当たりを受けている大蛇の元へと行っている。ヨッシさんとハーレさんは近くの無事な木の上に降りて、魔力値を回復をしつつ備えているね。


<行動値上限を6使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します>  行動値 21/106 → 21/100(上限値使用:7)


 俺は俺で飛行鎧を展開して、みんなの邪魔にならない位置に移動。さーて、かなり厳しい状況ではあるけど、全力を尽くすのみ! さっきはただ岩で固めて抑える気だったけど、予定変更だ。もっと攻撃的に抑えてやる!


「ヨッシさん、ハーレさん! サヤが攻撃を始めた段階でブリザードを発動!」

「はーい!」

「了解!」

「サヤ、アルの攻撃が済んだら連撃の補助をするからな!」

「分かったかな!」

「おらよっ!」


 みんなに指示を出してる間に、アルの連撃の最後の一撃が大蛇に決まったな。上空から地面に押し潰すような感じでしてたけど、俺から見たら巨大な丸太に頭突きをするクジラなのが……。まぁそこは俺の問題だけど、ともかく今がチャンス!


<行動値1と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』を発動します> 行動値 20/100(上限値使用:7): 魔力値 72/274

<行動値を19消費して『岩の操作Lv4』を発動します>  行動値 1/100(上限値使用:7)


 青の群集からの奇襲からずっと連戦になってるから、これ以上はもう余裕がない。デカい丸太にしか見えないけど、この大蛇の頭の方向は大体分かってる。

 杭状の岩を可能な限り大きく生成して、ヨッシさんが夕方にウナギを捌いていた時みたいに首の辺りに突き刺す! ただし、最大加速で一気に操作時間を削らないようにだけは気を付けて……って、思ったよりも抵抗がなくあっさり刺さって時間も削れてない!? ははっ! もしかしてこれって『土属性強化Ⅱ』の効果なのかもな!


「ケイ、ナイスかな! 『連閃』!」

「ハーレ、やるよ! 『アイスクリエイト』!」

「了解です! 『略:ウィンドクリエイト』!」


 俺が大蛇を串刺しにして拘束をすると同時にサヤが銀光を放ちながら爪で斬りかかっていった。そこにヨッシさんとハーレさんが発動したブリザードによって、吹雪に包まれていく。

 流石に魔力値が全快ではなかったから威力は思ったよりは控えめだけど、それでも大蛇のHPは相当削れている。吹雪でサヤと大蛇の姿は見えないけど、その直前まででHPは4割くらいまでは削れていた。攻勢付与での追撃も付いてるから、その分の威力も上乗せされてるからこれで倒し切れてくれ!


「これで最後かな! 『連爪刃・閃舞』!」


 そんなサヤの声が聞こえてきて……うお!? 大蛇が暴れだした!? あ、でもなんか力がなく暴れてるだけっぽい? ふむ、これはブリザードで冷やされて動きが鈍ってる?


「おぉ!? 眩い銀光の粒子が吹雪の中からでも見えるのです!」

「あ、本当だね」

「ほう、視界が悪くても見えるほどになるのか」

「そうっぽいなー!」


 全く中の様子が見えないかと思ってたけど、今までの銀光よりも目立つ銀光の粒子がこういう風に見えるとは思ってなかったな。


<ケイが成熟体・暴走種を討伐しました>

<成熟体・暴走種の初回撃破報酬として、増強進化ポイント8、融合進化ポイント8、生存進化ポイント8獲得しました>


<ケイ2ndが成熟体・暴走種を討伐しました>

<成熟体・暴走種の初回撃破報酬として、増強進化ポイント8、融合進化ポイント8、生存進化ポイント8獲得しました>


 よし、なんとか撃破出来たし、経験値も結構入った。もう1体倒せばLvが……って、何か黒いモヤが見える? ちょ、これって――


「派手に動き過ぎたね、ケイさん達」

「あはははははは! みんな、みーんな、倒しちゃうからねー!」

「シュウさん!? 弥生さん!?」


 くそ、黒いモヤはブラックホールの発動の前兆だったか! 執拗に追いかけてくる大蛇の相手に意識を取られ過ぎて、2人ともすぐ近くまでもうやってきてるじゃん! てか、この状況はヤバすぎる!


「ちっ、このタイミングでか!?」

「きゃ!? え、これって弥生さんが使ってるの!?」

「あぅ!? 引き寄せられるのです!?」

「これ、逃げないと! 『高速――」

「あははははははははははは! 逃がさないよ!」

「きゃっ!?」

「「ヨッシ!?」」


 うげっ!? ヨッシさんが逃げようとしたら、弥生さんに盛大に噛み砕かれて踏み潰されてあっという間にボロボロになっていく。まだヨッシさんは仕留められた訳じゃないけど、ここからどうする!?

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