第1032話 異常な進化
まだ確認が存在が確認されていないという残滓の反応を見つけたので、他の敵を避けつつその場所に向かって移動中。ただ単純に、競争クエストが始まって俺らが倒したみたいに黒の暴走種が倒されて残滓が出るようになっただけかもしれない。
だけど、グレイが言っていた異常な進化という言葉が気になる。黒の暴走種の中にはプレイヤーと同じ存在である精神生命体が入っているから、基本的にプレイヤーと同じ進化を辿るのは分かる。でも、残滓や瘴気強化種の中には精神生命体は存在していない。……これまであまり考えてなかったけど、そこで進化に異常が起きてもおかしくはないだよな。
「これってグレイが言ってた異常な進化に関係あるのかな? また周囲の瘴気が、進んでる方向へ集まってる感じもするんだけど……」
「瘴気に触れて枯れている葉っぱも、所々にあるのです!」
「とてもじゃねぇが無関係とは思えねぇな」
「……だな。アル、そこは左で! 残滓はそのすぐ先にいるはずだ」
「おう……うわっ!?」
「ちょ、アル!? って、また瘴気が大量に!?」
「その目の前にトカゲもいるのです! ……あれ? なんか違和感があるのです?」
「そのトカゲ、成熟体なのかな? ちょっと識別してみるね。『識別』!」
アルが慌てて急停止したその先には、周囲から集まっている瘴気の塊と、それを見上げる大きめなトカゲの姿があった。……俺の獲物察知で少し薄い黒い矢印はこのトカゲを指し示しているから、残滓なのは間違いない。
「サヤ、どう?」
「このトカゲ、Lv30の未成体かな! ケイ、どうするかな!?」
「あー、悩むとこだな……」
「こりゃきな臭くなってきたじゃねぇか! 魔力集中は切れたからこっちでいくぜ! 『自己強化』!」
あぁ、なんか羅刹は思いっきり楽しそうに臨戦態勢に入ってるよ。どうする? 今回の瘴気の動きはイブキが転移してきた時の渦巻く様子とは違っているし、未成体の残滓のトカゲが微動だにしないのが気になる。
えぇい、ここで何かが起こる前にトカゲを仕留めるという選択肢もあるけど、調査も兼ねてるんだからそれは無し! この目の前で起きている異常事態の正体を確認しよう。
「みんな、戦闘態勢! とりあえず、このトカゲと瘴気がどうなるかを確認していく!」
「了解なのさー!」
「……これ、もしかして瘴気強化種に進化する?」
「可能性としてはありそうかな?」
うーん、それにしては妙な感じもする。瘴気強化種になる瞬間とか今まで見た事がないけど、それがこんな形で出てくるなんてある? それよりこの光景は……瘴気強化種への進化というよりはフィールドボスへの進化に近いような気もする……?
「あ、トカゲが集まってた瘴気を食べたのです!?」
「ちょ!? 今度はなんだ!?」
残滓のトカゲがジャンプして瘴気の塊を食べたかと思ったら、トカゲの体内から瘴気が滲み出すようにして……トカゲの肉が無くなって骨だけになって、その状態で動き出した!? いや、骨も太く大きく長くなって、瘴気も周囲に漂ってる!?
<ケイが規定条件を満たしましたので、称号『異形のモノの発見』を取得しました>
<生存進化ポイントを3獲得しました>
<ケイ2ndが規定条件を満たしましたので、称号『異形のモノの発見』を取得しました>
<生存進化ポイントを3獲得しました>
<異常個体を発見しました。群集の長へと報告します>
「ちょ、グレイへの報告案件なのか、これ!」
「わわっ!? 骨だけで動くトカゲなのさー!?」
「それに、さっきよりも随分と大きくなってるかな!」
「……サヤ、怖いのって苦手じゃなかった?」
「うーん、恐竜の模型が動いてるみたいな感じで平気そうかな?」
「ま、骨だけならそんなとこか」
見た目的に全長1メートルくらいある、スケルトン系のアンデッドなトカゲって感じだよな。こんなのオフライン版には影も形も存在してなかったし、グレイへの報告メッセージが出たって事はやっぱりこれが言ってた例の異常な進化の個体か!
「へぇ、面白いじゃねぇか! ケイさん、このまま戦闘開始で良いよな!」
「それは問題なし!」
「そんじゃ行ってくるぜ! 『重爪刃・連舞』!」
待ち切れないとばかりに、羅刹は骨のトカゲに向かって爪から銀光を放ちながら飛びかかっていった。銀光の強弱は発生してないから、Lv1で発動して少し様子見ってとこか。
とりあえず先陣は羅刹に任せて、ここはまず識別で敵の情報を……いや、先に動きを封じるのが先だな。あの骨だけのトカゲ、肉体がない分だけ意外と動きが早いっぽいし、周囲の木々が邪魔になってて羅刹も動きにくそうだ。
「アル、サヤ、羅刹と連携して動きを制限しながら攻撃を頼む! その間に俺が識別する!」
「おうよ! 『並列制御』『根の操作』『根の操作』!」
「分かったかな! 『連閃』!」
よし、アルがトカゲの骨と周囲の木の幹を根で巻きつけて動きを制限して、そこにサヤの連撃が当たっている。羅刹も反対側に回り込んで攻撃を続けてくれているから、これで時間稼ぎは出来るはず。
このトカゲは異常な形で進化をした感じだけど、正直敵の強さが未知数だから油断は出来ない。ここは過剰戦力でも構わないから、倒す事に専念だ。ただ、これは言っておこう。
「討伐称号が出るかもしれないけど……ハーレさん、ヨッシさん、悪いけどその余裕があるかは分からん! それでも良ければ試して見てくれ!」
「了解なのさー! まだ魔力集中の効果は残っているのです! 『爆散投擲』!」
「了解! 賭けになるなら、こっちでいくね! 溶けてくれると良いんだけど……『トキシシティ・ブースト』『トキシシティ・ブースト』! それで溶解毒の『ポイズンインパクト』!」
おぉ、ヨッシさんが骨だけのトカゲと自分の両方にトキシシティ・ブーストを使った上で毒を叩きつけたけど、溶解毒は思った以上に効いてるっぽい! でも、骨だけのトカゲは異常に耐久性が高いみたいでHPが中々減っていかないし、識別を急がないと。
<行動値を5消費して『識別Lv5』を発動します> 行動値 101/106(上限値使用:1)
『大骨トカゲ』Lv1
種族:???(???種)
進化階位:成熟体・???
属性:瘴気、?
特性:硬骨、牙撃、打撃、斬撃耐性、火属性耐性、雷属性耐性
ちょ!? 不明なところが多過ぎて、肝心な事が全然分からないんだけど斬撃攻撃と火属性と雷属性に耐性を持ってるとはね。通りで全体的にダメージの効きが悪い訳だ。
てか、特性に明確な属性や攻撃手段への耐性が出てきたか。まぁ俺も魔法に対する耐性持ちかつ、特定の属性への強化の特性があるんだし、こういうのが出てきても不思議じゃないか。
「色々と不明ない部分が多過ぎるけど、分かる範囲の識別情報! 名前は『大骨トカゲ』で成熟体Lv1! 属性は『瘴気』と不明な何か別の属性もあり! 特性は『硬骨』『牙撃』『打撃』『斬撃耐性』『火属性耐性』『雷属性耐性』!」
「不明な属性があるのー!?」
「『?』って表記が出てたから間違いない! ついでにそのトカゲは黒の暴走種でも、残滓でも、瘴気強化種でもない、まだ種族名が確定してないやつだ!」
「さっきグレイへの報告メッセージが出てたし、異常な進化個体ってのはこいつで確定か!」
アルももう確信があって言ってるだろうけど、そこは俺も完全に同意。人類種を目指しているのに、その進化の過程で骨だけになるなんてそれこそ本当の異常でしかない。残滓の中には精神生命体が存在しないからこそ、こんな進化が発生した?
そもそも残滓には目的そのものが存在していないし、精神生命体の力の代わりに瘴気を代替にして進化をして……いや、その辺の設定絡みの考察は今はいい!
「サヤ、羅刹! 攻撃は耐性のある斬撃は使わない方向で!」
「分かったかな! あ、羅刹さん、少し離れてかな!」
「ん? あぁ、ハーレさんのチャージが終わったのか」
「おぉ! 言う前に気付いてくれたのです! という事で、えいや!」
「うおっ!? 根の操作、解除!」
「あ、爆散投擲は結構効いてるかな!」
Lv3で発動したハーレさんの爆散投擲が骨のトカゲに直撃して爆散し、アルが根で巻きつけていた周囲の木ごと吹っ飛ばしていた。うん、まぁLv3での威力はやっぱり強いね。
「ハーレさん、ナイス! とりあえず斬撃と雷属性は避ける方向で! ヨッシさん、もう1発溶解毒はいけるか!?」
「うん、いけるよ! 毒魔法の応用スキル版がどうなってるかが分からないけど、これで取れたらいいし、複合毒で二重にした溶解毒でいくね! 『トキシシティ・ブースト』『ポイズンインパクト』!」
「おぉ!? さっきよりも効いているのです!?」
「わっ!? 暴れ出したかな!?」
溶解毒は思いっきり効いてはいるけど、逆に効きすぎてトカゲが苦しむように過剰に暴れ出したか。纏っている瘴気の量も増えて、周囲の木々がどんどんと枯れていく。これ、纏浄を使って対処した方がいいか? ともかく今は暴れているのを抑え込む方が先?
「アル、2人で拘束するぞ!」
「そりゃ良いが、具体的にどうやる!?」
「俺が囲いを作るから、アルは根でそこに骨を結び付けてくれ! 周囲の木じゃ強度に不安がある!」
「……そういう感じか! 『並列制御』『根の操作』『根の操作』!」
俺の岩だけで固めてしまうと、このトカゲの場合はまともに攻撃を当てられる場所を制限してしまいそうでもあるしね。みんなに攻撃をしてもらう為にも、ここはアルと2人がかりで抑え込む!
<行動値1と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』を発動します> 行動値 100/106(上限値使用:1): 魔力値 271/274
<行動値19を消費して『岩の操作Lv3』を発動します> 行動値 81/106(上限値使用:1)
トカゲが暴れ回って荒れ地へと変わってしまったジャングルの中で、トカゲを拘束する為の岩の檻状の囲いを生成し、そこにアルが根の操作でトカゲの剥き出しの骨を結びつけていく。普通の生物ではあり得ない拘束方法だけど、骨だけの姿ならこういう手段もありだろ。
「ハーレさん、今のうちに条件を満たせ!」
「了解なのさー! 『連速投擲』!」
「これで討伐した時に称号が手に入れば、ハーレは条件達成かな!」
「そうだと良いのです! ヨッシも手に入るといいねー!」
「……あはは、毒は条件がまだ不明だったからこれでいけるかは怪しいけどね」
ヨッシさんのトキシシティ・ブーストは付与魔法とは少し違うけど、魔法としてのLvは付与魔法と同じ。だから、そこで条件を満たして応用魔法スキルの毒の魔法が使えるようになったら良いんだけど……。
「ほう? この状況でもまだ暴れて、瘴気もまだ増えるのか」
「……これだけやって残りHP2割って、地味にタフだな」
それほど防御に寄った特性は持ってなかった気がするけど……影響があるとすれば未知の『?』の属性か。見た目からして他のゲームで出てきそうなアンデッド系のモンスターだし、死ににくいという特徴もあるのかもしれない。
「……アル、根が瘴気に触れてる気がするけど『瘴気汚染』は大丈夫か?」
「今の濃度くらいなら『瘴気耐性Ⅰ』で対抗できる範囲っぽいが……これ以上濃度が増すと分からんぞ?」
「……だよなぁ」
そうなると『浄化の輝晶』の出番になってくるのか? でもあれって1日1回までの使用に制限はあるんだし、ここで使うのも……いや、むしろ情報収集の為にも今使うべき?
「ケイさん、もう仕留めてもいいよな?」
「あー、まぁ良いけど……」
「何を迷ってるかは分かってるから、俺がやらせてもらうぜ。『纏属進化・纏浄』!」
ちょ、その辺をどうするか迷ってたら羅刹が実行に移した!? いや、誰かがここで試しておいた方がいいし、羅刹が自分からそれをしてくれるのなら感謝しないとな。……どうするか悩んでたのも気付かれてたみたいだしね。
「砕けて死に晒せ! 『浄化制御』『連強衝打・浄』!」
浄化の暖かい光を纏った羅刹のティラノが、銀光と浄化属性の光が混ざった光を放つ尻尾で身動きが取れなくなっている骨のトカゲを次々と打ち据えていく。ん? 骨がバラバラになってません? うーん、根で縛ってるのが支えになってて分かりにくい。
そして羅刹は攻撃に合わせて纏浄のデメリットであるHPの減少が……あれ? 思ったほど減っていない?
「どうやら成熟体になったら浄化属性の負担も減るみたいだな! これでトドメだ!」
最大限まで強まった浄化の光と銀光の混ざった光を放つ尻尾を叩きつけ、骨のトカゲのHPは全て無くなり……骨がバラバラになって瘴気が消え去ってからポリゴンとなって砕け散っていった。なんか今の、少し演出が違ったね。
<ケイが異形のモノを討伐しました>
<規定条件を満たしましたので、称号『異形のモノの討伐』を取得しました>
<増強進化ポイント8、融合進化ポイント8、生存進化ポイント8獲得しました>
<ケイ2ndが異形のモノを討伐しました>
<規定条件を満たしましたので、称号『異形のモノの討伐』を取得しました>
<増強進化ポイント8、融合進化ポイント8、生存進化ポイント8獲得しました>
あ、可能性はあるとは思ってたけど討伐の称号は手に入った。ふむ、今回は討伐報酬は無くて、称号の報酬の中に成熟体の討伐報酬と同等の進化ポイントが手に入るようになってるのか。
「おぉ! 新スキルの『爆連投擲』が手に入ったのさー!」
「私は『抗毒魔法』っていうのが手に入ったけど……どういう効果なんだろ?」
「2人ともおめでとう! 抗毒って事は、補助的な魔法なのかな?」
どうやらヨッシさんもハーレさんも、無事に成熟体からのスキルの取得には成功したようである。具体的な内容は気になるけど、それは後から確かめてみるとして、なんとか未知の敵はなんとか撃破完了! 纏浄の効果も確認出来たのはありがたい。
「とりあえずみんな、お疲れ様! 羅刹も実験、サンキュー!」
「おう! とりあえずしばらくはこのままでいるぜ」
「ケイ、また情報の整理はしておくか?」
「まぁその方がいいだろうなー」
未知の進化を遂げたトカゲの件の報告はしておいた方がいいし、ヨッシさんの『抗毒魔法』の内容も気になる。囮としての成果はまだ出てないけど、それ以外の偵察としては結構な成果が出てきてるよなー。
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