第30章 成熟体への進化
第1005話 季節のイベント
今日の授業は全て終わり、もう家に帰るだけか。あ、母さんからメッセージが来てるから確認しとこう。えーと、電子マネーも一緒に送られてきてて、酢飯用の酢が少なくなってるのを忘れてたから買って帰ればいいのか。これは完全に晩飯はちらし寿司だな。
「さてと、スーパーに寄って帰るか」
「待ってくれ、圭吾!」
「待たん! 俺は帰るから、さっさと離せ!」
なんで放課後の教室で慎也に捕まらなきゃいかんのだ! えぇい、午後の授業の開始の時に盛大に怒られた後からいつにも増して妙に鬱陶しいぞ! 水月さんへの懇願文を打ってる途中で授業が始まって、中途半端な文面で送った事で追加で怒られたとか知るか!
放課後でみんな帰ったり、部活に行ったりしてるのに、変な事をしてるせいで目立ちまくってるじゃん!? ん? 近くに誰か女子が来た……って、誰だ? なんか顔は見覚えのあるけど、クラスメイトじゃないぞ?
「そこのお二人さん、よくゲームの話をしてるよね? こういうの、興味ない?」
そう言ってきたどことなく肩くらいまでの少し黒に近めの茶髪っぽい女子……どことなく雰囲気としてはヨッシさんに似てるか? その人がなんかの携帯端末のARの表示の共有を求めてきた? えーと、これは許可しても良いやつか?
「……何これ?」
「……さぁ?」
「まぁいいから、いいから!」
セキュリティは異常を察知してないし、なんか妙に目線の圧が凄いから一応は開いてみるか。えーと、あ、これって前に話が出てたeスポーツ部の部員勧誘の動画みたいだな。確かテスト明けから出来るとか言ってたっけ。
へぇ、少し前に出た格闘ゲームで本格的に対戦してるのを撮影したやつっぽい。……これ、結構な操作が上手い人が部員にいそうだな。
「興味あったらどう? 最低限の人数は揃ったんだけど、もう少し部員の人数が欲しいんだよね。興味があるなら、初心者も歓迎!」
「あー、悪いけど俺はパス。勧誘するなら、こいつにしといてくれ」
「ちょ、圭吾!? ゲームはお前の方が上手いだろ!?」
「へぇ、吉崎君の方が上手いんだ? あ、ちなみに部室には業務用のVR機器が1台あるよ? アカデミック用の認証で、個人認証とは別枠で使えるよ?」
「え、マジで!?」
おー、慎也が食いついてるな。いやまぁ業務用のVR機器には興味あるけど、だからと言って部活でゲームをする気もないし、競技としてゲームやる気もないからなー。ゲームは普通にゲームとして楽しんでやりたいしね。
「まぁ俺は遠慮しとく。人数集めの勧誘なら、当分暇してるそっちにしてくれ。俺はこの後、ちょっと買い物に行く用事があるんだよ」
「ちょ!? 確かに自転車に乗ってる間はARに機能制限がかかるから、返事が来るまで暇だけど!?」
「んー、残念だけどそういう事なら仕方ない。佐山君、とりあえず体験入部だけでもどう?」
「んじゃ、慎也頑張れー」
「圭吾、置いていくなー!?」
「いやいや、取って食おうって訳じゃないしさ? 暇してるならいいじゃん?」
さてと、慎也を生贄に捧げて俺は教室から脱出してっと。……てか、俺と慎也の名前を知ってたっぽいけど、冗談抜きであれは誰だ? 流石にクラスメイトなら覚えてるけど、絶対にクラスメイトじゃないぞ。
なんかちょっと強引さを感じたけど……あ、そうか。どこかで見た覚えがあるのは昼休みに見かけた事があるからだ! 多分、俺のクラスの誰かと一緒に昼を食べにきてたか誰かだ。……周りを気にせずゲームの話をしてたけど、まさかそれで勧誘が来るとはなー。
「まぁいいや。とりあえずスーパーに寄って帰るかー」
高校2年の夏から部活に入る気は欠片もないし、本当に買い物に行く用事があるからすんなりと逃げ出せた。まぁ慎也は……部活に入るならそれでもいいんじゃね。それを決めるのはあいつ自身だしな。
さてと、とりあえずスーパーに行って酢飯用の酢を買って帰るか。天気予報で昼からは晴れってなってたし、雨も上がって傘は必要なさそうだな。
◇ ◇ ◇
それからスーパーに寄って、母さんに頼まれたものは買って帰宅。これは台所に置いておけば問題ないだろ。
「……それにしても、蒸し暑くなってきたな」
雨は上がったけど、妙な湿度の高さが気持ち悪いな。スーパーにいる間に携帯端末からホームサーバーを経由して遠隔操作で自室のエアコンは入れておいたから、おまけで買ってきたアイスを食べながら少し涼もう。
アイスに関しては、母さんからの手間賃って事で余った電子マネーで買って良いってなってたしね。まぁ晴香の分も含むけど、アイスを1個買うのと2個買うのはそこまで労力に違いはないから別にいいや。
「とりあえず晴香にアイスの件を送っとくかー」
メッセージの内容は『アイスを冷凍庫に入れておくから、好きに食え』と送って……って、返信早いな!? おー、喜んでるのは何より……ん? 追加でメッセージ送られて……あぁ、今朝の夢の件は正夢にならずに済んだみたいだ。てか、全然心配するような点数じゃなかったみたいだし、サヤとヨッシさんとの勉強会が良かったのかもね。
「さてと、それじゃアイスを食ったら続きをやりますか!」
おっと、その前にさっさと部屋着に着替えてしまおう。汗が気持ち悪いしなー。
◇ ◇ ◇
着替えて、エアコンを効かせて、アイスも食べ終わったので、ゲーム開始である。そして、いつものようにいったんのいるログイン場面へとやってきた。
えーと、今日の動体部分は『本日は七夕ならではの演出となっています! そして今宵も何かが起こる!』となっていた。うん、掲示板を見た時には告知はないってなってたけど、普通に七夕で特別な演出があるのは書かれてたよ。告知忘れか、告知しろと言われたか、どっちかの気がする。まぁどっちでもいいけど。
「いったん、この七夕の演出ってどんなの?」
「えっと、今日だけ竹の再生速度の大幅な上昇と星空の特殊な演出だね〜!」
「あ、そんな感じなのか」
「詳細は自分の目でご確認下さい〜!」
「ほいよっと」
実際に利益としてあるのは、竹がある場所の再生速度が上がってるとこだけか。まぁ器として重宝してる竹だし、七夕に関連してこうやって採集しやすくなるのはありがたいけどなー。
夜からは進化に向けて動く予定だけど、それまではサヤの竜とハーレさんのクラゲでそれぞれの昇華を目指すんだし……って、特訓に組み込もうかと考えたけど、どっちも竹を切るには向いてないよ!? ……まぁ向いてないのは仕方ないから、普通に特訓だなー。
「そういやスクショの承諾は来てる?」
「今は特にないよ〜。はい、これは今日のログインボーナスね〜」
「お、サンキュー! それならコケでログインをよろしく!」
「それじゃ今日も楽しんでいってね〜! 星空は必見だよ〜」
「ほいよ!」
さーて、いったんは必見だと言ってるし、掲示板でもなんか凄いみたいな書き込みもあった。まずはログインしたら、空を見上げてみますかね!
◇ ◇ ◇
そうしてゲームの中へとやってきた。えーと、周囲には誰もいない……って、いうかそもそもネス湖の湖畔でログアウトして――
「……これ、すごいな」
ログインをしたら夜空を見上げようと思ったけど、その前のネス湖の湖面に映り込んだ星空が目に入ってきた。なんというか、煌々と輝く天の川が圧巻としか言いようがなくて……それ以上の言葉が出てこない。
少し目線を上げてみたら……夜空に広がる天の川と、湖面に映り込む天の川の両方が見える。ははっ、こりゃ凄いって言葉しか出てこないや。
「あ、ケイさん! わっ、これ凄いですね!」
「お、フーリエさんか。凄いよな、これ。なんか昨日はここでログアウトしてて良かった気がする」
「……これを見たら、確かにそう思いますね」
多分、森林深部に戻っててもこの七夕の特殊演出での天の川は見れただろうけど、ネス湖の湖面に映り込む天の川の光景はここでログアウトしたからこそ見れた光景だ。単なる偶然だけど、運が良かったのかもなー。
「そういやフーリエさん、シリウスさんのVR機器の故障はどうなった?」
「あ、はい! 交換対応になったらしくて、もう家に届いてるそうです! なので、僕は今日はシリウスのLv上げに付き合ってきますね!」
「お、そりゃ良かったな。2人ともLv上げ頑張れよ」
「はい! 競争クエストの初戦に間に合うかは分かりませんけど、開催期間中のどこかでは参加出来るように頑張りますね! それじゃ失礼します!」
「ほいよっと」
そうしてフーリエさんは転移をしていった。シリウスさんはほぼ最短コースで修理……交換対応なら修理とも言えない気もするけど、まぁとにかく早い段階で復帰出来たみたいだね。故障なら認証データは発行済みだろうし、新しく使うVR機器へ引き継ぎ自体はすぐに終わるしな。
明日からは休みだし、今日で順調にLv上げが出来ればフーリエさんもシリウスさんも成熟体に進化しての参戦の可能性は充分ある。というか、それなりに差があったのに結構差が埋まったもんだ。
「あ、そういえばアーサーとフーリエさんを会わせるのは……まぁすぐにじゃなくていいか」
フーリエさんはシリウスさんとこれからLv上げみたいだし、競争クエストの開始が間近に控えてる状態ではやめといた方がいいだろうね。まぁ場合によっては競争クエストの最中に初めて会うって事もあるかもなー。
「そういや、アーサーと水月さんってログインしてるのか?」
ちょっとフラムの件がどうなったが少し気になるというか、水月さんからゲームの不許可になると……週明けの月曜日が間違いなく鬱陶しい。フラム自身はどうでもいいけど、俺自身の自衛の為に少し手を打っておこう。
えーと、とりあえずアーサーか水月さんのどっちかがログインしてくれてたらいいんだけど……お、フレンドリストを見たらアーサーはログイン中か。水月さんはログインしてないっぽいね。
最近はフラムよりも明確にアーサーの方がしっかりしてるから、アーサーにフレンドコールをしてみるか。お、すぐに出てくれた。
「コケのアニキ、いきなりどうしたの?」
「あー、ちょっと水月さんに伝言を頼みたいんだけど、今は大丈夫か?」
「うん、大丈夫! それで、なんて伝えたらいい? なんか水月はフラム兄の事でピリピリしてるんだけど……」
「……やっぱりそんなとこかー。水月さんにフラムには『テストの結果とか関係なく甘やかさないで良いから、自分でこの土日に短期で良いからバイトでもやらせてくれ。金遣いが荒過ぎる』って伝えといてくれ。あと、俺のテスト勉強を邪魔しまくってたとも付け加えておいてくれると助かる」
「……フラム兄、何やってんの? とりあえず伝言は了解! ……ところで、コケのアニキに弟子が出来たって本当?」
あれ、まさかのアーサーからフーリエさんの話題が出てきたぞ? まだ言った覚えはないんだけど……誰かから聞いたのか?
「おう、それは本当だぞ。てか、どこで聞いたんだ?」
「なんか赤の群集で、噂になってたんだ。そっか、本当なんだ……。灰の群集に移籍しようかな……」
「……まぁアーサーがどうしても移籍してきたいなら止めはしないぞ?」
フラムはいらないけど……流石にそれをここで言うのは無しだなー。水月さんは保護者として一緒にやってるから一緒に来そうだし、本気で移籍してくるならアーサーと水月さんなら大歓迎だよね。
でもまぁ、多分今のは気持ちとしては嘘じゃないんだろうけど、アーサーなら俺を慕うって理由だけでは決断はしない気がする。ただ自分勝手に振る舞っていた会った当初の時ならまだしも、その後で色々と赤の群集で頑張っていた姿を見ていたらそう思う。
「あ、やっぱり今のは無し! 最初の頃に好き勝手にやってたのもあるし、俺は大した事は出来てないけど、みんなで立て直すのも頑張ったんだ! コケのアニキと一緒にはやりたいけど、それでも俺は今の場所で頑張る!」
「おう、それならそれで良いぞ! ただし、敵対した場合は容赦しないからな!」
「うん! コケのアニキの弟子の人にも負けないよ!」
「よし、よく言った! ま、そのうち弟子は機会があれば紹介するからな」
「分かった! それじゃ俺は水月に伝言をしてくるよ!」
「ほいよっと。またな、アーサー!」
「うん!」
そうしてアーサーとのフレンドコールは終わりになった。ふー、フラムは変な方向に行ってるのに、アーサーは出会った時とは本当に別人に――
「ケイさん、相変わらず面倒見は良いよね? まぁ断片的に聞こえた内容だけになるけどさ」
「……ヨッシさん、いつの間に?」
「アーサー君にフレンドコールをかけ始めたとこくらいだね」
「ほぼ全部じゃん!?」
うわー!? ヨッシさんがログインしてるのに気付かずにアーサーフレンドコールをしてたのか、俺!? いや、聞かれてマズいような話はしてないけど、なんか気恥ずかしいんだけど!?
「あはは、アーサー君も頑張ってるよね。本当に初めて会った時が嘘みたい」
「まぁ、それはなー。でも、戦うとなったら手抜きはしないから心配はいらないぞ?」
「うん、ケイさんにその心配はしてないよ。それにしてもこの景色は凄いね。今日は夜目を使うのは勿体無いかも?」
「あー、確かにな」
夜の日ではあるんだけど、今日のは普段よりも明るく感じるんだよな。これだけ星が輝いていたらそれだけで結構な明るさになってるっぽい。
てか、こうしてリアルの季節に関係した演出があるには嬉しいね。梅雨では何もなかったのは、サービス開始したばっかだったからなんだろうなー。
「あ、サヤとハーレはもう少ししたらログインしてくると思うけど、それまではどうする?」
「折角だし、サヤとハーレさんがログインしてくるのをここで待つのが良いかもな。スキルの熟練度稼ぎは……全員が揃ってから考えるか」
「うん、そうしよっか」
という事で、サヤとハーレさんがログインするまではまったりと待機だな。……あれ? 何かを忘れてるような……って、今日の分のログインボーナスだ! 景色に見惚れてて忘れかけてた!
<ケイが『進化ポイントの実:灰の群集』を使用します>
<アイテム使用により、増強進化ポイント4、融合進化ポイント4、生存進化ポイント7獲得しました>
<ケイ2ndが『進化ポイントの実:灰の群集』を使用します>
<アイテム使用により、増強進化ポイント4、融合進化ポイント4、生存進化ポイント7獲得しました>
ふー、危ない危ない。危うく今日のログインボーナスを貰い忘れるところだったよ。とにかくこれでサヤとハーレさんがログインしてくるのを待つだけだね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます