第980話 緊急予告についての推測
<『始まりの荒野・灰の群集エリア4』から『ソヨカゼ草原』に移動しました>
あ、色々考えてる間にエリアの切り替えになったなー。うーん、考えてみてはいるけど、海エリアの人へのボーナスの出し方が思い付かない。……直接関係ある訳じゃないし、無理に考えなくてもいいか?
でも、みんな完全に考え込んで無言になってるしなー。まぁまだ『忘れ者の岩場』までは移動が必要だし、辿り着くまでは考えててもいいか。
それはそうとして、俺らより前の方に移動中のPTらしき影が複数見える。穴場とはいえ……いや穴場だからこそ、俺らと同じ狙いで移動してきてる人がいるんだろうね。
多分、他の干潟とかはこんなもんじゃないはず。ここが当たりかどうかの賭けに勝てればいいけど、その辺はどうなるのやら……。
「あ、ちょっと分かったかも?」
「おー! ヨッシ、どんな内容なの!?」
「えっと、干潟の方にはなるんだけど、潮干狩りってあるじゃない? あれ、貝が砂の中にいるのって潮が満ちるのを待ってるんだよ。ほら、ハーレ。前に私におばあちゃんと一緒に潮干狩りに行った時に、穴に塩を入れたら飛び出てくる細長い貝がいたの、覚えてない?」
「あー! そういえば、そんなのもいたのです!」
「ヨッシさんの言ってるのはマテ貝か?」
「うん、アルさん、それ!」
「えっと、どういう事だ?」
マテ貝って名前は聞いた事があるし、ハーレさんが何度か持ち帰ってきて食べた事もある。てか、流れ的にヨッシさんと潮干狩りに行った時のやつだろうな。
でもそれが今の話とどう関わってくるのかがいまいち分からない?
「マテ貝を獲る時には、砂の穴の中に塩を流し込むんだよ。そうすると飛び出て来て獲れてな。……塩分濃度が濃くなると出てくるそうだが、ゲーム的に海水魔法や操作した海水が切っ掛けに設定されているかもしれん」
「あー、海のプレイヤーが海水を持ってきて、連携して狩れって話になるのか?」
ふむふむ、貝と言っても色んな種類がいるし、海のプレイヤーと陸のプレイヤーが連携して対処する様に設定されているという可能性は否定出来ないか。
海のプレイヤーなら海水の操作は大体取ってる感じだし、魔力制御Ⅰは持ってるだろうから海水の生成魔法も大体持ってるはず。……ないとは言えない可能性だね。
「ただの思いつきだけどね。それに磯場の方は分からないし……」
「それなんだけど、普段は浅瀬には来ない敵が来る可能性はどうかな? ほら、たまに深海魚が漁港に紛れ込むとかあるじゃない?」
「あー、確かにその可能性はあるかもな! ダイオウイカとかリュウグウノツカイとかが港に出たとかそういうニュースはあるし」
「なるほど、通常では他のエリアにいる敵が浅瀬に現れる可能性か。ないとは言えんな」
「それなら海エリアの人にも出来る事がありそうなのです!」
「まぁあくまで推測に推測を重ねてるだけで、確実性はないけどね」
「……そりゃそうだ」
そもそも潮汐が関係しているって部分からして推測でしかないんだから、それ以上先の部分が事実かどうかなんて確かめようがない。
でもまぁ、実際にボーナスが始めるまでに好き勝手に想像するのもありだよな。こうやって色々意見を出し合っていくのも楽しいしさ。
「そうなると敵の数はどうなるんだ? 雑魚敵だとも思えないんだけど」
「……場合によってはフィールドボスが複数体って可能性はあり得るな」
「雑魚敵とフィールドボスが混ざってる可能性はありませんか!?」
「それはありそうかな?」
「雑魚敵担当と、フィールドボス担当で分かれる可能性はありそうだよね」
「あー、確かにありそうかもなー」
フィールドボスだけだとPTでは動かないって人もいるだろうし、雑魚敵だけだと物足らないって状況もありそう。
ふむふむ、色々と考えられる可能性はあるね。でも、そういう仕様だと長時間の独占は出来ないような仕組みは何かありそうな気がする。そうじゃないと確実に独占を狙ってくる人が出るはず。
「はっ!? 成熟体が出てくる可能性もある気がします!?」
「この成熟体の敵不足の中で、ボーナスタイムで成熟体の人に恩恵がないとは思えんし、その可能性は高いか」
「……なんか考えれば考えるほど、ややこしい戦場になりそうな気がしてきたんだけど」
雑魚敵とフィールドボスと成熟体が入り乱れる戦場って、無茶じゃない? せめてフィールドボスか成熟体か、どっちかに絞るくらいはしてもらわないと困る。
いやまぁ、勝手な想像で言ってるだけだし、その辺は複数のエリアに分けて分散させる可能性はあるけどさ。
「あはは、まぁその辺は実際にどうなるか次第かな?」
「今考えても、答えは出ないもんね」
「そういう事だな。おし、そろそろ海が見えてきたぞ」
「おー! 大海原なのさー!」
「へぇ、草原から見える海か」
少し前までは草原がずっと広がってたけど、今はその草原が急に途切れて、その先から海になっている様子になっている。崖になってるって言ってたから、草原が途切れてるのがその部分なんだろうね。
「海だー! いやっほー!」
「ハーレ、テンション高いね?」
「ふっふっふ、今日は磯場だけども、テスト明けには砂浜でスイカ割りをするという約束なのさー!」
あ、そういえばそんな約束もあったっけ。正直今の今まで忘れてたけど、その辺の事はアルが下調べをしてくれるって話だったはず。
まぁテスト明け早々にいきなり緊急予告とかがあったから、今日の事にはならなさそうだけどなー。ん? いや、場合によってはそうでもないか。
「あぁ、そっちの下調べもしといたぞ。『忘れ者の岩場』から南にいけば、砂浜はある。適正Lvは成長体Lv10前後ってとこだし、他にプレイヤーが多くなければ遊ぶのも問題ねぇぞ」
「おー! アルさん、ナイスなのです!」
「そういう事なら、もしボーナスの狩りをし損なった時にはそこで時間潰しかな?」
「それがいいかも。多分、独占出来ないような仕組みは用意してるだろうしね」
「だなー」
なんらかの形で待ち時間が発生したり、逆に独占防止の時間切れになる可能性もあるから、その時に遊ぶというのもありか。
そうしている間に、草原が途切れている所までやってきた。上から見下ろしてみて……おー、切り立った崖とその下に広がる岩場が凄いな! うっわ、海からの波が岩に当たって盛大に水飛沫を上げてるよ。
それなりに人はいるけど混雑というほどではない。流石は穴場という訳か。ここがもし緊急予告の対象エリアなら、当たりを引いたかもしれない。まぁまだ分からんけど。
「おぉ、白波が立ってるのです!」
「ハーレ、流石にあれは危なそうだから飛び込んだら駄目だよ?」
「はーい!」
「あ、まだ完全には潮が引き切ってる訳じゃないみたいかな?」
「……あぁ、この可能性もあったか」
「ん? アル、何か心当たりでもあるのか?」
「あぁ、まぁな。あくまでリアル基準で考えてるが、あの白波が心当たりだ」
「……白波が心当たり?」
えーと、いまいち言ってる意味が分からない。あの盛大に水飛沫を上げている白波が、何かのヒントになる? ……ん? あれ、ちょっと待て。何か引っかかる事があるような……。
「あー!? それ、何か聞いた覚えがあるのです! えーと、えーと、何だっけ? ケイさん、お隣の釣り好きのおじさんが何年か前に魚のお裾分けをくれた時に話してたやつ!」
「……隣のおじさんか」
そうだ、俺が引っかかってるのもそこなんだ! よく釣りに行ってて、釣り過ぎた時にはお裾分けをくれるあの隣の家のおじさんの話!
確か磯場に釣りに行って、お裾分けを貰った時に自慢話的に聞いた覚えがある。あー、何だっけ? もう少しで出てきそうなんだけど、そのあと少しが出てこない!
「……駄目だ、思い出せない」
「あぅ……私もなのです……」
「まぁその辺は仕方ないか。俺だってフルダイブでの釣りゲームをしてた時に知っただけだしな。えっとな、あの白波はサラシって言って、その中に集まる魚ってのもいるんだよ」
「え、そうなのかな?」
「あ、何かそういう性質の魚の聞いたことあるかも? 確か……ヒラスズキだっけ?」
「おう、ヨッシさん、正解だ!」
「あー! それなのさー!」
「そういやそんな話だった!」
うん、アルに聞いて段々思い出してきた。あの時のおじさんは全然釣れずにもう諦めて帰ろうとした時に、その白波……えーと、アルはサラシって言ってたね。そこで釣れまくって、釣り過ぎたってお裾分けをくれたんだ。
あれ、ヒラスズキって言うのか。何年か前の話だけど、あれは美味かったよなー。
「つまり、アルとしては白波の中にヒラスズキがいるという予想?」
「あぁ、そうなるな。……前に来た時より、少しサラシの量が多いんだよ」
「あー、なるほど」
ふむふむ、前に見た時と明確に違う部分があるなら、それは緊急予告の件に関わる可能性はある。まぁただ単に海が少し荒れてるって可能性も否定は出来ないけど……。
「確かにあの白波の中は、陸のプレイヤーだと溺れてまともに動けなさそうかな」
「それこそ、海エリアの人が得意になってくる場所だよね」
「海の中の移動に関しては、そりゃそうなるよなー」
俺らも一応海の種族だけど……いや、サヤは竜に進化したから今は違うか。まぁ海の中を泳ぐのをメインに使ってないから、これだけ荒っぽい波の中では上手く活動出来るとは思えない。
そういう視点から考えてみると、海エリアの人向けのボーナスはこういう形もあるのかもしれない。
「さて、18時までもう少し時間はあるが、どうする? このまま下まで降りるか?」
「すぐに私とサヤはログアウトにはなるけど、降りるだけ降りとこっか?」
「うん、そうしようかな。ただ、ログインし直した時に邪魔にならない位置には移動しておかないとね」
「サヤ、ヨッシ! ボーナスタイムが18時からだったら、どうしますか!?」
「みんなで先に狩ってていいよ? いいよね、サヤ」
「戦闘の形式やどういう敵が出るかも分からないから、そこの調査は任せたかな! あ、でも出現だけは見たいかな?」
「……そこだけ見ていく? 多分それくらいの時間なら大丈夫だけど」
「私もそれくらいなら大丈夫かな?」
「それじゃ全員で確認なのさー! その後のチェックは任されましたー!」
「ほいよっと。それじゃ俺とアルとハーレさんで18時から戦闘だな」
「おうよ。出来れば全員でと言いたいとこだが、それじゃ機会を逃す可能性もあるからな」
時間が20時からとかなら全員集合でいけるけど、18時からだとそれは晩飯の都合で出来ないから仕方ない。どういう特徴があるかの把握は重要だから、サヤとヨッシさんがいない間に調べてしまおう。
「あ、そういやアルは晩飯はどうすんの?」
「それならサヤとヨッシさんが戻ってきた段階で、判明してる事を伝えてから食ってくるわ。戻るのは多分ケイと同じくらいじゃねぇか?」
「あー、タイミングを考えるとそれがベストか」
「そういう事だな」
時間の融通が効くアルがいるからこそ出来る事だよなー。とはいえ、どういう戦闘になるかによってその辺の都合は大きく変わってくる。
フィールドボスが相手なのだとしたら、他に来ている人達と連結PTを組む可能性もあるし、その場合だとPT人数の空きの都合もあるだろう。雑魚敵メインになれば人数的な調整は出来るけど、敵の取り合いになる可能性もある。
まぁそもそもここは俺らの適正Lvとはかけ離れていて、戦闘自体に意味がなくて場所を変更する必要があるかもしれない。
ふぅ、その辺を調べるのが先に戦う俺らの役目って事だな! おし、その方向で頑張っていくか!
「それじゃ『忘れ者の岩場』に移動するぞ!」
「「「「おー!」」」」
そうして、アルのクジラの背に乗ったまま、ソヨカゼ草原の崖上から移動開始!
<『ソヨカゼ草原』から『忘れ者の岩場』に移動しました>
なんだかあんまりエリアの移動をした感覚はないけど、忘れ者の岩場へとエリアは切り替わった。てか、この崖って結構高くない?
「アル、この崖って移動ルートってどうなってんの?」
「こっちからは飛んで降りるか、跳び降りるくらいしかルートはねぇよ。歩いて行きたきゃ、砂浜の方から回り込んでか、海から来るかだな」
「面倒くさ!?」
「そこも含めて穴場なんだよ。そこまで広い訳じゃないのにエリアとして独立してるから、この中でランダムリスポーンする事になるしな」
「あー、そういう……」
まぁ飛び降りても、自分で飛び降りたならダメージはないから問題はないけど、帰りは……帰還の実を使えば良いだけか。でも、面倒なのは間違いないかー。
「あ、北側も崖になってる……というよりは岬?」
「海の方に突き出してるのさー!」
「なんだか、渦が巻いてないかな?」
「あ、マジだ」
磯場は岬で分断されてるような感じだし、海の方も渦潮で流れが凄い事になっている。……なんか、その上の方に鳥が大量に集まってるのは気のせい?
「あー、そこは無理に通ろうと思うなよ。死にはしないが、相当鬱陶しいぞ」
「アル、どういう事だ?」
「……どうもそこを横断させたくないらしくて、雑魚敵が際限なく出てくるんだよ。1体ずつは大して強くないんだが、正直無理に突破するのは割りに合わん。突破したところで、ここより狭い岩場とその先に砂浜が広がってるだけだ」
「どっちかというと北側からは『忘れ者の岩場』に来にくくしてる感じ?」
「そういう事だろうな。ここと同じような場所が各群集の初期エリアの近くにあるんだと思うぞ」
「……なるほどね」
うん、その可能性はあり得そう。各群集の荒野エリアに近い海岸沿いにこういう穴場的なエリアが用意されてるのかもしれないね。
「おし、とりあえず下まで降りたぞ」
「磯場に到着なのさー! あ、既にタイドプールがいくつかあるのです!?」
「ハーレ、待ってかな! まだ完全に海から分断されてる所はないかな!」
「え!? あ、上から見た時は気付かなかったけど、本当なのです!?」
「……何? 毎回多少変化があるとは聞いたが、1ヶ所もないのは聞いた事がないぞ?」
「え、マジか!?」
「……これ、期待出来そうじゃない?」
「あぁ、既にタイドプールが出来てる場合はどうなるのかと思ってたが、こりゃ当たりの可能性が上がってきたぞ」
「さて、ここから18時までにどうなるかか」
18時まではあと10分ほど。ここにきてタイドプールが未完成という状況も判明した。さぁ、緊急予告とやらはどういう形で出てくるのか、楽しみにさせてもらおうじゃないか!
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