第968話 成熟体からのスキル 後編


 封熱の霊峰に向かって上風の丘の上空を飛びながら、アルから色々と話を聞いている。今のところ、前提スキルとなる『魔力制御Ⅱ』の存在と、『応用連携スキル』『応用複合スキル』『応用魔法スキル』の系統がある事が分かった。

 聞いている限りでは、気軽にどれも取っていくって感じじゃなさそうだな。むしろ自分が得意な部分を伸ばし、主力や切り札として使う類のスキルっぽい。


「ところでアルさん! その『応用連携スキル』って具体的にどんな感じですか!?」


 おっと、俺が聞こうと思ってたけど、ハーレさんに先を越された。まぁ誰が聞いても同じではあるから別に良いか。

 さて、この流れだと取得したのはベスタな気もするけど、その辺はどうだろね?


「それはベスタから報告があったスキルだ。チャージをしていくスキルなんだが、チャージ中にも攻撃が出来て、その時に当てた連撃数に応じて威力が上乗せ出来る仕様らしい。ただ、従来のチャージと同様にキャンセルされる事はあるようだ」

「……それは少しリスクがありそうかな?」

「それはベスタも言っていたな。『連撃を当てに行くと、その分だけチャージのキャンセルを狙われる可能性がある』だったか」

「チャージをしながら近接で連撃をするんだから、その辺りはリスクにはなるよね」


 あ、やっぱり情報源はベスタだったみたいだね。ふむ、チャージと連撃の特徴を併せ持ち、相乗効果で強力になるスキルか。

 連撃で更なる強化も出来るチャージ系のスキルで、キャンセルもありなら中々扱いこなすのが難しそうなスキルだ。でも、扱い切れれば相当強そうでもある。


「アル、それって攻撃の性質的には連撃主体のスキル?」

「今のところはベスタが取得した『重爪刃・連舞』ってのは連撃主体みたいだな。ま、チャージと連撃を合わせたら、そうなるだろ」

「……そりゃそうか」


 一応聞いてはみたものの、まぁそうだよね。チャージメインで、連撃要素をどう加えるって話だしなー。連携の仕方としてはこういう形になるか。


「うー!? 投擲でそういうスキルがあるのかが気になるのです!」

「あ、そっか。投擲ならチャージのキャンセルのリスクは抑えられるもんね」

「ま、この辺も検証待ちだ。ベスタは色々持ってるから、条件が細かく絞り込めん。ただ『魔力制御Ⅱ』を持ってる事と、成熟体の討伐称号と重なったってとこだけは確定だがな」

「なるほどなー」


 存在自体は判明しているけど、具体的な取得条件を確定させるのに苦労してるんだね。まぁこの辺は成熟体への進化がしやすくなれば自然と解決していくだろうし、その時は俺らも検証や再現には協力していこう!

 ここでベスタが色々持ってるからこそ、逆に条件が絞り込めないってのも大変だね。ほぼ確実に『凝縮破壊Ⅰ』と『連鎖増強Ⅰ』の所持は必要そうだし、連携するスキルの元になるスキルも必要そうだ。


「取得したのがベスタさんで、スキル名が『重爪刃・連舞』なら、『爪刃双閃舞』と『重硬爪撃』は必要そうかな?」

「多分そうなんだろうが、ベスタはどっちもLv3らしくて、Lv3が必須なのかLv2でも良いのかが分かってないみたいでな」

「あ、そういう事かな!」

「どうも今回は成熟体の討伐称号が必須な可能性がありそうでな。空白の称号と、敵の成熟体と、そもそも試せる人員が足りてなさ過ぎる状況だぞ」

「それは大変なのさー!?」

「……あはは、それでもどういう系統のスキルがあるかが分かってるだけでも良い感じなのかもね」

「聞いてたらそんな気がしてきた……」


 これ、全くの情報なしで試すには今の現状は博打過ぎる! 逆によく3種類とも実際に取得例があったもんだよ! 


「ともかく、成熟体が普通にいるエリアに行けないと、これ以上の検証はどうにもならん」

「その為にも、まずは群集クエストのクリアが先決って事か。そりゃ群集の方針として、そっちが優先になるよなー」

「でも、これなら私達もまだまだ追いつける余地はあるのです!」

「うん、それはそうだね。3rdの解放で、新しく作られたキャラには注意だけど、思ったよりは差は出来てないかもだし」

「運営がそれを狙ってた感じもあるかな?」

「多分そこは狙ってたと思うぞ。……今日の夜から、何かあるみたいだしな」

「あー、あの予告だもんな」


 うん、学生組のテスト期間明けを狙い撃ちにしたかのようなタイミングでの緊急予告だもんな。あれは狙い撃ちをしてきてる気がする。まぁありがたく狙い通りに動かせてもらうけど。


「ところでアル、あの予告の場所って検討はついてる?」

「あぁ、一応は何ヵ所か干潟の把握はしておいた。ただし、おそらくボーナスの敵の出現で間違いないだろうが……どこでどのLv帯の敵が出てくるかまでは分からんぞ」

「あー、そこはそうなるか」

「……それは始まってから考えるしかないかな」

「どこか、1ヶ所に賭けて動くようにする? あ、でもご飯のタイミングでバラバラになりそうだね……」

「まぁ場所さえ確保しちまえば、俺が常駐しておくから交代でってのも可能だぞ」

「それが良さそうかな?」

「だろうなー」


 予測されてる大量発生の敵のLv帯はどうなるかは博打になるけど、こればっかりは始まってみるまで不明。しかも開始時間になりそうなタイミングは、俺らは晩飯でバラバラにログアウトしている時。


「アルさん! 干潟じゃなくて、磯場はありませんでしたか!? タイドプールが出来そうな場所!」

「あぁ、潮汐が絡むならその可能性もあったか。それなら一ヶ所ほど心当たりがあるから、そこに賭けてみるか?」

「そうするのです! みんな、良いよね!?」

「どっちにしても博打になるし、問題ないだろ」

「私もそれで良いかな!」

「うん、私もそれで良いよ。……でも磯場は関係なかったら、結構悲しい事になりそう」

「そうなったら、そうなった時なのさー!」

「だなー。まだ誰も正解を知らないんだから、そこは気にし過ぎても仕方ないって」

「あはは、まぁそれもそうだね」


 もし普通に大量発生する場所に居合わせられたとしても、Lv帯が異なる可能性だってあるから、博打なのは変わらない。それなら、推測に上がってる干潟ではなく、磯場のタイドプールを狙うのも悪くはないはず!


「さてと、夜の話はもうちょい後で詳しく調整するとして……次は黒いのと白光するヤツの情報を頼んだ!」

「おうよ。っと、その前にエリア切り替えだな」

「おー!? いつの間にか封熱の霊峰の目前まで来てたのです!」


 高速遊泳がLv7になってるって言ってたし、明確に早くなってるよな、アルのクジラの移動速度。やはりLv7ともなると、補正量が違うんだろうね。


<『上風の丘』から『封熱の霊峰』に移動しました>


 よし、封熱の霊峰に到着! ここからはグラナータ灼熱洞を目指して移動だね!


「そういえば、発火草の群生地の無所属の人達はどうなってるの?」

「ん? それなら通りがけに見ていくか? それだけでも今の雰囲気は分かると思うぞ」

「おー! 見たいのです!」

「俺も今の無所属の状況は気になるから賛成だな」

「私も賛成かな!」

「私もだね」

「おし、それじゃ少し寄り道をしていくか」

「「「「おー!」」」」


 という事で、少しの寄り道が決定。見に行けば今の雰囲気が分かるって事は、明確に変わってる部分があるんだろうし、その辺が気になるね。


「さて、それじゃ話題を戻すぞ」

「はーい!」

「まず白光するのと黒いのには、当然だがスキル名がある。白光するのが『白の刻印』、黒いのが『黒の刻印』ってスキルだ。まとめて刻印系スキルって呼ばれてるな」

「ほほう、刻印系スキルか。それでどんな感じのスキル?」

「凄い簡単に説明するぞ。『白の刻印』は自己バフ、『黒の刻印』はデバフやディスペルだ。行動値と魔力値を同時に消費で……再使用時間ありの効果が1回限りの付与魔法って感じか」

「自己バフとデバフとディスペル!? あ、黒いので操作を無効化されたのって、ディスペル効果!?」


 そっか、だからあのオオサンショウウオに操作を無力化されたんだな。アンモナイトに白光するスキルでキャンセルを防がれたのは、そういう自己バフだったからか。

 自己バフなら『魔力集中』や『自己強化』あるけど、その辺とは系統が全然違うっぽい? 1回限りの付与魔法みたいな感じの事を言ってるし、短期的に一気に強化する?


 え、でも効果はキャンセル無効化と、敵の操作の強制的な無効化だよな? 強力と言えば強力だけど、なんか思ったよりしょぼくない?


「ケイ、しょぼいと思ってたら大間違いだぞ。あくまでそれは効果の1つだ。言っただろ、『黒の刻印』はデバフやディスペルだと」

「……効果が1つじゃないのか!?」

「正確に言えば、『白の刻印』と『黒の刻印』はスロット制だ。特定のアイテムで刻印の種類決め、それに合わせて効果が変動する」

「ほほう?」


 刻印系スキルはアイテムを使用したスロット制のスキルときたか。へぇ、こりゃ完全にこれまでとは違う新要素だな。


「ちなみにスロットの数は?」

「分かってる範囲では『白の刻印』と『黒の刻印』のそれぞれに1スロットずつだな。ちなみに『刻印石』ってアイテムが必要になる」

「はい! その『刻印石』の入手方法はどうなってますか!?」

「現状では、成熟体の敵が低確率で落とすって事だけだな。ま、『刻印石』自体には種類はないから、どの効果の刻印にするかは選べるっぽいぞ」

「おー! そうなんだ!?」

「ちなみにどんな効果があるのかな?」


 そこは是非とも気になるところ。『白の刻印』でどんな自己バフがあって、『黒の刻印』でどんなデバフやディスペルがあるのかは重要だよね。


「『白の刻印』は『剛力』『増幅』『堅守』『障壁』『守護』『増加』の6種類、『黒の刻印』は『非力』『減衰』『脆弱』『低下』『剥奪』『消去』の6種類で、合計12種類だな」

「おぉ!? 種類が結構あるのです!」

「それぞれの効果はどうなってるのかな?」

「そこは重要だよね」

「一部以外は名前しか分かってないんだが、まぁ分かってるやつだと『白の刻印:守護』が、チャージ系スキルや応用魔法スキルのキャンセル防止効果らしいぜ。『黒の刻印:剥奪』が操作系スキルの操作の無効化。『黒の刻印:消去』が既に効果を発揮してる他の刻印の消去だ。今はこのくらいまでしか分かってねぇ」

「まだ情報は足りてない感じかー」


 それでもこれだけ種類があるというのは重要な情報ではある。『白の刻印』は自己バフって事だし、名前的に自衛だったり、攻撃力や防御力を強化する自己バフか。

 それに対して『黒の刻印』は攻撃力や防御力を低下させたり、効果を打ち消すディスペル効果がある訳だ。何をスロットにセットしていくか、その辺も戦略になりそうだな。


「それで、肝心の取得方法は?」

「分かってる範囲では、成熟体からポイント取得だとよ。ただし、『魔力制御Ⅱ』を取得しないと選択肢には出てこないそうだ」

「……こっちも『魔力制御Ⅱ』が必須なんだな」

「だから初めに言っただろ、『魔力制御Ⅱ』が前提のスキルだって」

「だなー。そこは納得」


 そりゃ、初めに3つに分けて話すっていう訳だよ。『魔力制御Ⅱ』は必須の前提スキルだし、この刻印系スキルと、3つの新たな応用スキルの系統とは性質が全然違うもんな。


「ちなみに、刻印系スキル関係でもう1つ重要なスキルがあるぞ」

「……刻印の種類を見分けるスキルかな?」

「サヤ、正解だ。『魔力視』っていうスキルを使えば、刻印の種類が分かるらしい。それがなければ、ただの白光か、黒い何かにしか見えんそうだ」

「あー、そういう感じか」


 それは間違いなく必須級のスキルだね。具体的な刻印の効果はまだ全部は分からないけど、無視しても問題ない効果もあれば、即座に打ち消すべき効果もあるはず。


「おー! サヤ、なんで分かったのー!?」

「種類が分からないと、対応が難しくなるからかな。刻印の効果が、攻撃を受けるまで分からないなら不利過ぎるよ」

「確かにそうなのです!?」

「……アルさん、刻印の重ね掛けは出来るの?」

「いや、出来ねぇぞ。『白の刻印』はそもそも自己バフだし、『黒の刻印』は制限が1体につき1つまでの制限があるらしい」

「あ、やっぱりそうなんだ」

「そうじゃないと、重ね掛けが強力になり過ぎるかー」


 大人数で黒の刻印を重ね掛けしまくって、デバフの重複なんて出来たらバランスが崩壊しそうだしなー。流石にそんなバランスにはなってないか。


「刻印系スキルは取れるようになったら、誰が何をスロットにセットするかを相談しないとな」

「その為にも、群集クエストのクリアを目指すのです!」

「ま、今の段階では結局そこに辿り着くんだよ、現状は」

「……あはは、まぁ聞いててそれはよく分かったかな」

「うん、確かにそうだよね」


 結局、群集クエストが終わってまともに成熟体の育成が出来る環境が整うまでは、検証を進めたくても進められないって事かー。ま、そこは仕方ない。


「てか、今の群集クエストの進捗状況を確認しとくか」

「そういえば地味に忘れていたのです!」

「……あはは、私もかな」

「それじゃ今のうちに確認しとこうよ」

「おう、そうしといてくれ」

「ほいよっと」


 さて、それじゃ今の群集クエストの進捗状況を確認していきますか! どの程度進んでいるかは、かなり重要な情報だもんな。どれどれ、どんな進捗具合だろうね?



群集クエスト《群集拠点種の更なる強化・灰の群集》


【群集拠点種:エニシ(始まりの森林・灰の群集エリア1)】


 転移地点の確立 未達成

 経験値強化  73%



【群集拠点種:エン(始まりの森林深部・灰の群集エリア2)】


 転移地点の確立 未達成

 経験値強化  65%



【群集拠点種:ユカリ(始まりの草原・灰の群集エリア3)】


 転移地点の確立 未達成

 経験値強化  53%

 


【群集拠点種:キズナ(始まりの荒野・灰の群集エリア4)】


 転移地点の確立 未達成

 経験値強化  63%



【群集拠点種:ヨシミ(始まりの海原・灰の群集エリア5)】


 転移地点の確立 未達成

 経験値強化  69%

 


 うーん、先週の木曜日から始まったにしては進んでいるのか、それともまだまだなのかが判断し切れないね。でも、既に半分は超えているんだな。


「アル、これって進行具合は良いのか?」

「あー、他の群集の進捗具合が分からんからなんとも言えん!」

「……だよなぁ」

「それにしても、今回は進化ポイントの提供はないんだね?」

「あー、それに関しては3rdに対する配慮って意見が出てたな」

「共闘イベントみたいな事がなければ、3rdで進化ポイントを提供するには負担そうなのです!?」

「そういう理由なら納得かな」

「だなー」


 あくまで運営がそう言った訳ではなく推測でしかないけども、その辺の配慮はありそうだよね。でも、今日からは学生組が復帰してくるし、ボーナスの敵も出る可能性が高い。

 運営的には今日くらいから群集クエストの進行が加速するように調整してたのかもな! おし、それじゃそれに合わせて頑張っていきますか!


 あ、でもその前に発火草の群生地が見えてきたから、様子を見に行かないとね!

 

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