第967話 成熟体からのスキル 前編


<『ミズキの森林』から『上風の丘』に移動しました>


 さて、灰の群集の現状について聞いている間にミズキの森林を抜けて、上風の丘へと辿り着いた。うわー、相変わらず風が強いな。

 てか、サラッとアルが操作してる水を分割して、高度と風除けを両立させた!? ふむふむ、何気にアルの飛び方が発展してますなー。さて、それは良いとして……。


「……なんだかフィールドボス戦をしてるとこが多くないか? 4ヶ所くらいあるぞ? それに赤の群集の連結PTの方が多い?」

「これが見せたかった光景だな。フィールドボスの連戦をメインにして、群集拠点種へ譲渡する経験値を稼いでるんだよ。ま、今の時間帯じゃそう多くはないみたいだな」

「あー、なるほど……って、他の時間帯だともっと多いのか!?」

「まぁな。それにフィールドボスへの進化用のLv20の成長体の捜索PTも多いぜ? 2ndや3rdでの活動も増えてるしな」

「……そういう感じか」


 ふむふむ、成熟体への進化は半ば足止め状態ではあるけども、その代わりに新たに解放された3rdで活動がしやすい状況にもなってるのか。


「……アル、ちょっと今度は私から質問かな」

「おう、どんな内容だ?」

「2ndや3rdが育ちやすい環境になってる気がするけど、種族を変えて強くなった人とかもいるのかな?」

「あぁ、そういう奴はいるぞ。……灰の群集だけなら良いが、赤の群集や青の群集にもな」

「……やっぱりかな」

「それに関してだが、正直なところ灰の群集にとっては少し悪い状況だ」

「アルさん、どういう事?」

「……どうも灰の群集は学生の割合が多かったらしくてな。その辺の強化幅は、赤の群集や青の群集よりも悪いようだぜ。特に灰のサファリ同盟の学生率が高めだったみたいで、サポートや検証の再現の人員の確保に大打撃だ」

「え、マジで?」

「こんなとこで嘘はつかねぇよ……」

「……だよなぁ」


 今のは嘘であって欲しかったけど、そんなに都合が良い話ではないよな。まさかのテスト期間で、そんな悪影響が出ていたとは……。


「でも、そこまで学生が灰の群集だけに偏るか……? いや、学生な俺が言うのもなんだけど」

「そこは確かに気になるとこではあるが……」

「ふっふっふ、それなら推測が出来るのさー!」

「真面目にテスト勉強をしてる人の割合じゃない?」

「あー!? ヨッシに先に言われたのさー!?」

「ふふっ、ごめんね、ハーレ」

「あぅ……」


 ヨッシさんがハーレさんの言葉を取るとは、これまた珍しいもんだね。それにしても……その可能性は本気であり得そう! テスト期間だからって、真っ当にテスト勉強をしない奴だっているし。あ、もしかして赤の群集のフィールドボス戦をしてる連結PTが多いのはその辺が理由?

 フラムとか水月さんの抑えがなければ確実にテスト勉強なんか放り出して遊んでたタイプだろうし……そういや、散々邪魔されたのを水月さんにチクっとかないとなー。


「……身近にいたケイ達が真面目にテスト勉強をしてたから、その視点は抜けてたな。赤の群集から青の群集へはそれなりに移籍もいるから、その辺りの学生組がテストは関係なく普通にやってた感じか」

「多分そうだと思うのです!」

「……そうなると、今の灰の群集の弱点は学生組が動けない時期って事になりそうだな」

「その辺は夏休みで取り返す!」

「不真面目な人達には負けないかな!」

「……あぅ」

「ハーレは今回は頑張ったんだから、気にしない!」

「ハーレは頑張ったかな!」

「そうなのですよ! 私は頑張ったのさー!」


 うんうん、サヤの不真面目という言葉にハーレさんが思いっきり反応してたけど、今回のテスト期間は思いっきり頑張ってたもんな。そこは自信を持って頑張ったと言い切っても良いところだぞ!


 さてと、ここまでの情報を整理すると……あんまり灰の群集の状況は良くなさそう。少なくとも、これまでの情報や協力で積み重ねてきたアドバンテージは他の群集に埋められたと考えておいた方が良さそうだな。

 それに成熟体への進化は推奨ではない今の状況だと、今から聞こうと思ってる事はあまり進展は期待出来ない可能性が高い。でも、確認はしておくべき。


「アル、俺からも質問。成熟体からのスキルについては、どの程度判明してる?」

「あー、再現がろくに出来てねぇから条件は不確定な部分が多いが、どういうものがあるかはそれなりに判明してるぞ。これに関してはベスタやレナさんが動いてたのが大きい」

「ほほう? そういやベスタとレナさんは成熟体に進化してるって言ってたっけ」

「あー、よく会う知り合いの中では紅焔さんもだな。今は成熟体で前よりデカい火龍になってんぞ」

「お、マジか!」

「紅焔さんも成熟体に進化したのかな!」


 おー、情報源としては信頼性の高い人が成熟体に進化してるのは大きいな。再現が出来てないみたいだけど、これならスキルの概要くらいは把握出来てそうな感じか。


「さて、俺もまだ成熟体には進化してないから実際には使えてないが、分かる範囲でなら教えるがどうする? つっても、どういう種類があるか程度の情報だけどな」


 このアルの問いは、俺らが進化してから自分達で確認していくかどうかの意思確認だろうね。さて、全く情報を仕入れずにいくか、それとも種類くらいは把握しておくか、どっちにしたものか……。


「サヤ、ヨッシさん、ハーレさん、この辺の情報はどうする? 自分達で進化してから確かめるか、概要だけでも把握しておくか……」

「……黒い何かとか、白光とかの正体は知りたいかな?」

「それに、属性ありの物理攻撃スキルや、未知の魔法も知りたいのです!」

「ある程度の存在は分かってるんだし、ここは聞いても良いんじゃない?」


 俺としてもその辺は気になるには間違いない。……ヨッシさんの言うように、ある程度は成熟体の使うスキルは見てるのも事実ではある。それなら、概要くらいは聞いても支障はないか。


「サヤとヨッシさんとハーレさんは聞きたいって事で良いんだな? ケイはどうだ?」


 サヤ達はアルの問いに頷いて、俺の方を見てきている。俺が自分で確認したいからとここで聞くのを拒めば無理に話す事はなくなるかもしれないけど、それは俺の単なる我儘だ。

 それに俺自身も聞きたいとは思っているから、ここで拒む理由は特にない。聞かせてもらおうじゃないか、成熟体が使う新たなスキルの概要を!


「俺もそれは聞きたいから、アル、説明を頼む!」

「おう、了解……悪いが、サヤかケイ、威嚇を頼めるか?」

「あ、そういやここは上空だと敵が来るんだった!?」

「それなら私がやるかな! 『威嚇』!」

「サヤ、サンキューな!」

「どういたしましてかな!」


 サヤが威嚇を使ってくれたから、上風の丘の上空を飛んでいても敵の奇襲は相当受けにくくなるはず。さて、これで本題に移れるね。


「さて、成熟体からのスキルの説明だが、3つに分けて話すぞ」

「ほほう? なんで3つ?」

「1つは前提となるスキルの存在で、残り2つは系統が違うんだよ」


 あー、そういえば前提になるスキルがあるかもって推測はしてたっけ。あれは正解だったって事か。


「1つ目の前提スキルは『魔力制御Ⅱ』か?」

「あぁ、その通りだ。この辺は以前、ケイとジェイさんで推測してた件が大当たりだったぞ」

「おっし! それで取得条件は?」

「『魔力制御Ⅱ』はポイント取得しか確認出来ていないらしい。ま、『魔力制御Ⅰ』もポイントのみだったから、ここは特に不思議ではないがな」

「確かにそれはそうなのさー!」

「どの進化ポイントが、どれだけ必要なのかな?」

「あー、悪い、サヤ。まだ成熟体に進化してないから、そこまでは正確に覚えてねぇんだ」

「あ、そうなのかな。それは仕方ないかな」

「まぁ未成体の段階で、無理に把握しておかないといけない内容じゃないもんね」


 今の段階であれば『魔力制御Ⅱ』が各種進化ポイントで手に入れられる事さえ分かってれば問題はない。その辺は実際に成熟体に進化してから考えれば良いもんな。


「それじゃ2つ目と3つ目を頼む!」

「おうよ。さて、黒いヤツと白いヤツの系統と、属性ありの物理攻撃や未知の魔法とかの系統、どっちから聞きたい?」

「そういう分類なのか!? んー、俺としては未知の魔法が知りたい……」

「はい! 私は属性ありの物理攻撃が知りたいです!」

「私はケイさんと同じで魔法が知りたいかも?」

「白と黒が気になるけど、多数決でみんなの方を優先でいいかな」

「よし、それなら属性ありの物理攻撃や未知の魔法の方から話していくぞ。ま、この順番の方が説明もしやすいか」


 サヤが譲ってくれたことで、先にそっちの話を聞く事になったね。てか、説明しやすい順番があるなら、聞きたい順番を聞く必要ってあった!?


「さて、この系統とは言ったからには種類がいくつかあってな。1つが属性ありの物理攻撃である『応用複合スキル』ってヤツだ」

「……『応用複合スキル』?」


 応用スキルじゃなくて、そういう名前があるのか? 複合魔法なんてものもあるし、そういう括りになっている? ……とりあえず続きを聞いていくか。これだけで判断は早過ぎるし。


「具体的にどういう内容なのー!?」

「まぁシンプルに、推測通りの属性ありの応用スキルだ。レナさんが存在を確認したのが火属性を持った『火重脚』で、初めから赤い銀光を放つチャージ系の応用スキルだな」

「……『重脚撃』の火属性版かな? それって操作属性付与や纏火とは違うのかな?」

「あぁ、火力が大幅に違うらしい。それとどうやら物理ダメージと魔法ダメージの両方の判定があるようだ」

「それって、攻撃と魔力のステータスを両方参照してる感じなの?」

「まだ詳細が分かってないが、おそらくな。レナさん曰く、『これはバランス型向けだねー! 物理の方が強い私にはあんまり向いてないや!』って事だ」

「……なるほど」


 レナさんがそう評価するって事は、おそらくその判断は間違っていないはず。物理型なら魔力は低くなるし、魔法型なら攻撃は低くなるし、両方を活かせられるバランス型に向いているという推測は当たってる気がする。

 いや、それだと支配進化が強くなり過ぎるか? その辺はどうなってるんだろ?


「アル、ちなみに取得条件は? 条件次第では支配進化がヤバいぞ?」

「まぁそれはそうなんだが、まだ全然再現出来てなくてな……。成熟体の討伐称号の取得に重なって取得とは言ってたから、何かの条件を満たした状態で称号取得に重ねる必要はありそうだ。ただ、どの称号でも良いのかは分からん」

「ちょい待った! それで、なんで『魔力制御Ⅱ』が前提スキルって事は分かってんだ?」

「順番に説明していくから、そこら辺は待て。まだ推測段階の情報ばっかなんだよ」

「……今のはすまん」


 ふぅ、少し落ち着け、俺! まだ再現が全然出来てないって言ってたんだし、そこら辺は推測するだけの材料はあるはずだ。

 それにしても、条件を満たした上で称号の取得に重ねる必要がある系統のスキルか。……そこら辺で支配進化での取得を制限してきそうな気もするね。


「まぁ前提スキルである推測の理由は『応用魔法スキル』って名前の未知の魔法の方にある。こっちは『魔力制御Ⅱ』と『Lv7以上の魔法』と『その属性に対応した昇華称号』と『その属性そのもの』を持った上で、成熟体の討伐称号の取得と重なれば取得出来ると判明している。紅焔さんがこれで『炎魔法』を取得した」

「おー! そっちは判明してるんだー!?」

「レナさんは『Lv7以上の魔法』と『その属性に対応した昇華称号』が足りなくて、空白の称号を使ったものの取得は出来なかったな」

「そこで紅焔さんとレナさんが出てきたか。てか、空白の称号が無駄になってるんだな……」

「根本的に検証役も、検証に使える敵も足りてねぇんだよ……。まぁ俺も進化せずに抑えてる側だから偉そうな事は言えんが……」

「……あはは、色々と大変だったんだね」


 でも、火属性に拘ってる紅焔さんが上位の火属性魔法を使えるようになってるのは納得出来るよね。そっか、火魔法の上位は『応用魔法スキル』の『炎魔法』って言うんだな。

 そしてレナさんでは取得出来ない条件が、2つほどあった訳か。どっちか不要な可能性はあるけど、どっちかは必須なのは確実だね。


 それにしても、成熟体への進化自体がしにくい状況だから、思った以上に検証が難航してるっぽいなー。


「ただ、まだ光の魔法の取得条件は判明していない。条件が別にある可能性が高くてな」

「あー、そっちはまだなのか」


 まぁそもそも光の操作には昇華称号はないもんなー。闇の魔法もありそうだけど、その辺も含めてまだまだ分かってないってとこかー。

 光魔法は俺も使ってみたいけど、光属性は必須とかになるのかも……。うーん、この辺は色々と判明してから考えるしかないか。


「それがどう繋がってくるのかな?」

「まぁ焦るなって。この系統になるのがもう1つあるんだよ」

「え、そうなのかな?」

「おう、そうだぞ。それが『応用連携スキル』って言ってな。これは連撃とチャージを併せ持った、物理型向けのスキルだ」


 ふむふむ、ここで物理型向けの連撃とチャージを併せ持ったスキルか。物理型向け、バランス型向け、魔法型向けのスキルがそれぞれにあるのか。うん、それに合わせたスキルの分類名みたいなのは誰かが……いや、そうじゃないのか?


「もしかして『応用連携スキル』とか『応用複合スキル』とか『応用魔法スキル』って、そういう風に表記されてたりすんの?」

「あぁ、スキルの説明欄に表記されている。どれも応用スキルの分類だしな」

「という事は、関連するスキルな可能性が高いのです!」

「あ、だから『応用魔法スキル』の条件にあった『魔力制御Ⅱ』を全部の前提スキルとして考えてるのかな!」

「ま、そういう事だ」

「そういう内容なら納得だな」


 むしろ、明らかに関連性がありそうな名前がついていて、実は全然関係ありませんでしたって可能性の方が低いだろう。

 それにしても、ここで明確に育成の方向性に合わせて特化した応用スキルを用意してきたか。そういう可能性はあると推測してた気もするけど、その辺も当たったっぽいね。


 さて、興味深い内容になってきた。とりあえずそれっぽい情報が無かった『応用連携スキル』とやらの詳細も聞いていくか。

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