第889話 溶岩の洞窟での戦い方


 とりあえず道中で遭遇したワニとオオカミを除けば、この溶岩の洞窟での初戦は突破っと! でも2人での発動の昇華魔法で片付くと思ってたのに、そうならなかったのが予想外だったなー。


「もう水流の操作はいらないし、解除しとくか」

「……ん? アル、よく見たら水流の操作の水から水蒸気が上がってない?」

「あぁ、それか。どうも蒸発してるっぽいぞ、魔法産の水」

「え、マジで!? ……ウォーターフォールの威力が思ったほどじゃなかったのもそれが原因か?」

「多分、そうだろうな。水流の操作も割と追加生成してたからな」

「……魔法産の水すら蒸発させてくるって、無茶苦茶なエリアだな、おい!」


 ここでも更に変な特徴があるとはね。これだけ変な要素が盛り沢山なら、そりゃ経験値が美味い訳だ。

 ふむ、そうなってくると水は極端な弱点にはならないと判断した方がいい? いや、でもウォーターフォールそのものが全然効かないって訳じゃなかったし、判断が難しいとこだな。


「アル、次の一戦をする時はデブリスフロウを試してみていいか? ちょっと違いを確認してみたい」

「そりゃ良いが……土石流でマグマの中に押し流すって心配はねぇのか?」

「あ、言われてみればその可能性があった……。やっぱやめとこ」


 んー、確かに滝のように生成した水が次々と敵を押し潰して地面に触れれば消えていくウォーターフォールと、土石流が次々と生成され積み重なって周囲を押し流していくデブリスフロウだと性質が違うか。

 そう考えると、ウォーターフォールの方がこの場所で一気に数を倒すのには向いている? ヨッシさんの氷が使えるならそっちとの組み合わせでも良いんだけど、氷は水以上に駄目だしなー。


「ケイさん、ちょっと良いですか!?」

「どした、ハーレさん?」

「ウォーターフォールの威力についてなのさー! 思ったより威力が出なかったのは多分松の木のせいなのです!」


 ほほう? ハーレさんには水が蒸発している以外にも威力が下がっていた事に心当たりがあるのか。そしてその原因は松の木にあると。……ふむ、これは気になるところだね。


「それってどういう理由だ?」

「松の枝葉が他の敵に当たる前に威力を削いでたのさー! 水量自体は多かったから押し潰してはいたけど、その下の威力は少し違っていたのです!」

「あー、そういう感じか」


 なるほどなー。松の木の枝や針みたいな葉っぱが障害物になって、他の敵へのダメージを減らしていたのか。

 んー、でも松の木にそんな様子ってあったか? それなりに警戒はしてたつもりだけど、見落としたのかな。


「え、そんな様子ってあったかな?」

「多分サヤは見てないのさー! 私がヨッシと押し込み直す前の時だったもん!」

「あ、私が竜で退避した時かな!?」

「あー、俺とアルがカエルと大根を相手にしてた時でもあるんだな。……確かにあの時は他に注意が逸れてたなー。」

「なるほど、あのタイミングか」

「よく気付いたね、ハーレ」

「えっへん!」


 ふむふむ、相変わらずハーレさんはよく見ているもんだね。それなら昇華魔法の威力が多少下がっていても……ん?

 ちょっと待って、今ふと思い出したけど、昇華魔法の威力を下げる手段って確か他にもあったよな。というか、俺も持ってますよねー!? ズバリ、魔法吸収の可能性!


「くっ、あの松の木だけでも識別しておくべきだった! どういう特性を持ってやがった、あの松の木!」

「え、ケイ、どうしたのかな?」

「……あっ! ケイさん、もしかして可能性って松の木が魔法吸収を使ってた?」

「ヨッシさん、大正解!」

「……そうか、その可能性もあったか。ちっ、あのウォーターフォールの中で動けたのは、魔法吸収で根本的に昇華魔法を吸い取ってたからか」

「そういえば昇華魔法は吸収出来るって聞いた覚えがあるのさー!?」

「……倒した後から気にしても確認のしようがないけどなー」


 あー、識別さえしていればその辺は分かった可能性は高いんだけど、今更言ってもどうしようもない。でも、色々な要因が重なって思ったほどの威力が出てなかった可能性はありそうだ。


「ふー、済んだ事は仕方ない。アル、次ももう1回、同じ手順でやってみよう」

「……その方が良さそうだな」

「それで悪いんだけど、サヤとヨッシさんとハーレさんで手分けして識別してくれないか? 雑魚敵だから無視でも良いかと思ってたけど、ここに限ってはちゃんと確認しといた方が良さそうだしさ」

「そだね。その方が安定はしそう」

「敵を引きつけつつ、合間をみて識別で良いかな?」

「ふっふっふ、思ったより行動値は消費してないので大丈夫なのさー!」

「よし、んじゃ次はそんな感じで!」

「「「「おー!」」」」


 とりあえずさっきの戦闘の反省会と分析は終了っと。まぁ普通に危なっかしかった訳でもないし、反省って内容ではなかったけどね。

 どちらかというと、より安定させる為の話し合いだなー。あ、そういや、まだ話はこれで終わりじゃないや。


「アル、ちょい相談。魔力値の事なんだけど……」

「あー、回復アイテムを使おうってとこか?」

「あ、もしかしてアルも考えてた?」

「まぁな。これだけ経験値が良いなら、レモンは余り気味だしここらで盛大に使うのは賛成だぜ?」

「んじゃ、その方向性でいこう! あ、ヨッシさん、それで良いか?」

「え、なんで私にも聞くの?」

「ほら、そこはヨッシさんもアイテムの管理をやってくれてるしさ?」

「……そういや俺のレモンを保管してるのは基本的に俺とヨッシさんか」

「そっか、そうなるよね。うん、私としても今が使い時だと思うし、それなら……カキ氷が良さそうって一瞬思ったけど、ここじゃ無理だよね」

「あー、食べる前に溶けそう……」

「……流石に無理だろうな」


 カキ氷は間違いなく無理だし、どうせなら乾物系をマグマで炙って……いや、マグマに近付いたら敵が出てくるんだしそれも却下。てか、普通に焼けば良い話じゃん!

 うん、そこに手間をかけてる場合じゃないから、手早くアルのレモンを齧って回復させようっと。……数を齧る事になりそうだから、設定を一時的に変えて、味覚はオフにしとこ。


「まぁ無駄に使い過ぎてもあれだから、みんなの行動値が全快したタイミングで足りてない魔力値をレモンで回復させるって感じでいくか」

「おう、それでいいぞ」

「……焼いた蟹か海老の身にレモンを絞って……じゅるり」

「ハーレさん、俺のロブスターのハサミを見ながら言うな!?」


 くっそ、少し前に美味そうに見えるロブスターの身を見てしまったのが原因なんだろうけど、俺まで食いたくなってきたじゃん!

 明日は父さんがバーベキューをしてくれるけど、海鮮ではないからカニやエビは……。


「って、そういや明日はサヤとヨッシさんは海鮮バーベキューか!?」

「はっ!? 本当に焼いた蟹とか海老を食べれそうなのです!?」

「「……あはは?」」


 あ、サヤもヨッシさんも明確に顔を逸らしたな。こりゃ蟹か海老があるのは確定か! それこそどっちもあるという可能性もありそうだ。

 いや、俺らは俺らでバーベキューはあるけどさ、こう、なんか妙に食べたくなる時ってあるよね! あー、ロブスターを食べた時の味を思い出してきた。


「ケイさん、後でお父さんに直談判なのです!」

「よし、今回は乗った! 俺も普通に焼いた海鮮が食べたくなってきた!」

「……俺も明日は少し奮発して、蟹でも食ってくるか」


 なんか盛大に脱線している気もするけど、まぁこれはこれでよし! ……うん、発火の使用は無駄かと思ったけど、このまま継続しとこ。

 下手に解除して赤いロブスターの状態でいたら、それこそ茹でたロブスターを思い出した続けそうだしね。そんなとこで集中力を分散させてたまるかー!


「あ、そうだ。言うタイミングを逃してたんだが、俺の方に『特性の実:マグマ適応』がきてたぞ」

「アルさんにも!? 私の方は何もなしなのさー!?」

「んー、私も何もなしだね」

「……まだ回数が少ないからなんとも言えない範囲だけど、『特性の実:マグマ適応』は劇的にドロップ率が低いって訳ではなさそうだなー」

「……さっきの敵の逃げ方もあるし、これって追撃用かな?」

「あー!? それはありそうなのです!」


 ふむ、確かにさっきの弱ってからの敵の逃亡行動は特殊なパターンな気はする。というか、このエリアは色々と特殊過ぎ! 昇華魔法で一気に殲滅には失敗したけど、敵自体はそう強くないけどさ。


「……追撃だとしても、迂闊に潜るのはそれはそれで危険じゃねぇか?」

「はい! アルさんが使って、根をマグマに突っ込めば良いと思います!」

「あ、それならいけそう?」

「それなら私の竜でもいけるかな?」

「大きさ次第だけど、私のクラゲの触手でもいけるのさー!」

「普通に出来そうな手段がいくつかあるなー」

「……そうやって改めて考えてみると本当に追撃用っぽいな」


 マグマの中に逃げる敵が落とす、マグマの中に入る為のアイテムだしね。ここで何らかの用途があるのは間違いない。

 高確率で追撃用の可能性はあるけど、まだそうと断定するのも気が早いか。そもそも追撃が必要になるような状況にしない方が良いしね。


「まぁそれを試すのは纏火の効果が切れてからだな」

「それもそうかな」


 纏火の効果時間は残り10分ちょっとくらいだし、もう1戦やった後から試してみればいい。てか、もう20分は経ってたんだな。あ、サヤ達の魔力集中や自己強化も切れ始めたか。

 特性の実の系統の効果時間は2時間だった筈だから、纏火の代わりに『特性の実:マグマ適応』がここのエリアへの適応に使えたらありがたいんだけど、その辺はどうなんだろう? って、普通にアイテムの説明を見ればいいだけか。


 えっと、インベントリに入れたまま見ても良いけど、ちょっとどんな実か見てみたいし取り出してみるか。

 おっ、真っ赤な実だな。……なんか蒸気が上がってるのが気になるけど。まぁ説明を読んでみよう。



『特性の実:マグマ適応』

 周囲の熱気をその身に留め、マグマの中で活動を可能とする特性を一時的に付与する灼熱の実。

 使い捨てで効果時間は2時間。(エリア外へ持ち出し不可)



 うん、マグマの中は無事なのは分かるけど、この洞窟そのものに適応出来るかが全然分からん! 灼熱の実とか書いてるけど食べて大丈夫だよなー!?


「てか、この特性の実、この洞窟から持ち出し出来んのかい!」

「ケイ、その気持ちには同意だ。このエリア専用のアイテムだとはな……」

「ケイさん、アルさん、説明プリーズなのさー! 私はまだ持ってないから分からないのです!」

「あ、そういやそうか。でも、今言ったままだぞ? このマグマに適応する特性の実、エリア外への持ち出し不可だと」

「あぅ!? でも持ち出してもここ以外での使い道はなさそうなのさー!」

「……予め手に入れて、すぐに対応するのを防止してるのかな?」

「このエリアなら、その可能性もありそう」


 そう考えてみるなら、一度手に入れてしまえばエリア内では有用なアイテムって事か? 長時間このエリアにいようと思えばそれなりの数の進化の軌跡が必要になるけど、纏火に使う進化の軌跡は今のところ落ちる気配もない。

 ま、これについては実際に使ってみるまでは分からないか。とりあえず『特性の実:マグマ適応』 は全員で3個ほど手に入ってるし、纏火の代わりに使えるなら俺とアルとヨッシさんはこれを使って適応すれば良い。


「はっ!? このエリア、ログアウトが転移地点じゃない場所の常闇の洞窟と同じ仕様なのです!?」

「……はい? え、もしかしてログアウトしたら入り口に戻されるやつか!?」

「もしかしてと思って見てみたらそうだったのさー!」

「……あはは、徹底してこのエリアは特殊かな?」

「……そうみたいだね」

「こうなってくると、同じような特殊なエリアが他にもないかが気になってくるな」

「あー、それは確かに……」


 ある意味ではさっきハーレさんが言った常闇の洞窟も特殊なエリアだし、競争クエストによって占有が可能なエリアも特殊ではある。

 海エリアの海上も攻撃が苛烈なエリアだし、上風の丘とかも風が強いという特徴もあるし、こうやって考えてみればエリア特有の要素があるエリアはここだけじゃないのか。


「あー、そういや干潟で貝類の敵が大量発生してたって話も聞いたっけ」

「なんだ、ケイ、知ってたのか?」

「ちょっと前に紅焔さんから聞いた。そういう言い方って事は、アルも知ってた?」

「まぁな。大潮のタイミング的にケイ達のテスト明け辺りで同じ事が起きそうだから、注目はしてるとこだぞ。敵のLv次第では、一気に経験値が稼げるかもしれん」

「え、そんなのあったのかな!?」

「わー!? それは良い情報なのさー!」

「あれ、それだと私はテストに入る前に電気の昇華になっておいた方が良さそう?」

「はっ!? 確かにそうなのです!」

「あー、まぁそうかもしれんな。ただ、敵のLv帯は不明だから、絶対に経験値稼ぎに使えるとは限らないぞ。時期が近付いてきた段階で可能な範囲で調べてはおくけどな」


 おぉ、その辺はアルが調べておいてくれるのか。これはありがたいし、上手くいけばテスト期間中のLv上げの遅れを補填出来るかもしれない。


 あ、そういえば群集拠点種の強化の群集クエストの開催も予想されてたし、未成体の上限Lvに達した状態で過剰経験値の提供って可能性もあるのか。

 未成体の上限Lv付近が適正Lvになる、効率の良い敵の大量出現は可能性としては決して低くはない。運営が成熟体への進化のタイミングを合わせようとしているという推測が当たっていれば、尚更にだ。


「よし、その辺はアルに任せた!」

「おう、任せとけ! その代わり、赤点取って追試とかにはなるなよ?」

「ハーレ、勉強は教えるかな!」

「VR空間を作って、3人で勉強会だね」

「サヤ、ヨッシ、お願いします!」

「で、ケイは大丈夫なのか?」

「テスト期間に遊び呆けてない限りは大丈夫だぞー」

「……その言い方は過去に遊び呆けて、やらかした事があるな?」

「な、何の事やら……?」


 いやー、去年の年末の試験の直前にちょっと掘り出し物のゲームを見つけて遊び呆けて、1科目だけとはいえ赤点を取ったとかそんな事実はありませんとも! それまで平均を下回る事はなかったのに、一気に全体的な点が下がって教師に悩み事があるんじゃないかと本気で心配されたなんて……。

 うん、流石にあれは周囲に心配され過ぎたから、テスト期間はちゃんとテスト勉強はやりますよ。あの時は母さんから異常なほど心配されたけど、今考えるとハーレさんの件も重なってた時期か。……なんか、母さん、ごめん。本当にしょうもない理由でごめん。


「……まぁ、ちゃんとすれば問題ないならいいか。とりあえずテストでまともにログイン出来なくなるまでにしっかりLvを上げていくぞ」

「あ、こうやって話してる間に全快してるかな」

「私もなのさー!」

「回復には良い時間だったみたいだね」


 うん、俺もしっかりと行動値は全快してるね。まぁ流石に魔力値は全快してないけど、ここは予定通りにいこう。


「さてと、それじゃレモンを食いますか」

「だな。ほらよっと」

「サンキュー!」


 アルがインベントリからレモンを大量に出してくれたので、それをどんどん齧っていく。今回は味覚はオフにしてるから、酸っぱくはない!

 さーて、これで魔力値も全快になったら2戦目開始だな。纏火の効果時間も次の1戦の間は充分持つはず!

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