第833話 3体目の討伐作戦会議
ちゃんと確認する前に生成した岩に閉じ込めてしまったけど、多分エイとコケの共生進化を見つけて捕獲に成功した。この結果は完全に予想外だけど、多い分に関しては困らないから問題なし!
「おい、共生進化の個体を捕まえたっぽく聞こえたが本当か!?」
「ふっふっふ、肉食獣さん、識別は出来てないけど多分そうなのさー!」
「……識別をしてないのか? そういえば看破を使っていたようだが、擬態持ちか?」
「多分エイとコケの共生進化なんだけど、エイの方が擬態持ちだな。コケの方が俺の獲物察知に反応してたっぽい。あ、そういや支配進化の場合可能性もあるのか?」
「いや、それなら黒の暴走種と瘴気強化種の組み合わせになるはずだ。ケイさん、どっちかで発見報酬は出たか?」
「……出てないな」
「なら、どっちも瘴気強化種の共生進化の個体でほぼ間違いない。残滓での発見情報は知らないからな」
「あー、なるほどね。それじゃ2体分は確保した事になるし、紅焔さん達のとこに戻るわ」
「あぁ、了解だ。俺らの方も成長体の反応を見つけたから、それを捕獲したら戻るぜ」
「ほいよっと」
ふむふむ、これは既に紅焔さんが捕獲してるクワガタと合わせて一気にフィールドボス戦2回分の成長体の確保が出来そうだ。
ちゃんと準備をしていけば、連戦する為の成長体を現地調達するのも不可能ではないんだな。……まぁ上風の丘は強風が吹く事が多いエリアだから、それほど人気はないってのも関係してそうではあるけどね。
「それじゃ待ってるぜ、ケイさん!」
「おうよ、ザックさん! あ、今のうちに瘴気石の用意を頼めるか?」
「おう! それならさっき話し合って、次のはカリンさん達が用意してるぜ! その次はモンスターズ・サバイバルの方から補充が来たからそれを使う感じだな!」
「あー、内容まではちゃんと聞いてなかったけど、その辺は相談してたのか」
「……大体は紅焔さんとソラさんが対応した。……ザックは見てただけ」
「それを言ったら翡翠もじゃね!?」
あはは、ザックさんと翡翠さんのこういうやりとりもよく見るよね。まぁそれだけ軽口を言っても大丈夫って事なんだろう。
さてといつまでも木々の中にいても仕方ないから、拓けているとこから戻っていきますか。みんなもそのつもりで共生進化の成長体を見つけたところから出て――
「わー!?」
「きゃ!」
ちょっ、そんな事を考えつつ木々の中から出た瞬間にいきなり突風が来たんだけど!? あ、やっべ! ハーレさんとヨッシさんが吹き飛ばされそうになってるし、俺の方にもなんか木片が飛んできてる!?
今の状況では新しくスキルは使えないし、捕獲に使っている岩の形状を変えて止める事そのものは出来るけど、下手に急激に動かすと折角捕まえた成長体を弱らせてしまう。飛行鎧では……強制解除で俺まで吹っ飛ぶ可能性もあるか。
「ヨッシさん、朦朧覚悟で自力で頼む!」
「今はそれしか――」
「2人とも、捕まってかな! 『略:尾伸ばし』!」
お、サヤが竜の尾を伸ばして、ヨッシさんとハーレさんがそれにしがみついて対処したね。サヤ、ナイス!
さて、俺の方に飛んできてる木片は飛行鎧で直撃を避ける為に少し下に移動して、下から思いっきりハサミで殴打! おっ、結構良い音がして、俺らの後方にすっ飛んで……何故か僅かに経験値が入ってきた。
え、今の一撃で死ぬって、一般生物の何かに当たった!? ……今のって既に俺は『無自覚な討伐』を持ってるけど、持ってなかったら取得条件を満たしてそう。……まぁ飛んでいった方向にプレイヤーはいないみたいだし、邪魔にはならなかったはず!
「今のは地味に危なかったのです! 今日は風が弱かったから油断したのさー!」
「……あはは、私も。サヤ、ありがとね」
「どういたしましてかな」
「ここのエリアは油断大敵だな。それじゃヨッシさん、また移動は任せた。風には要注意で!」
「それならこういう形でいくね。『アイスクリエイト』『氷塊の操作』!」
そうしてヨッシさんは……タライ型とでも言うような形状で氷塊を生成していった。確かにこれならタライの内側にいれば直接の影響は受けにくいか。
それに氷だから透けていて、前方も下方も視界が確保出来ているのはありがたい。
「この形状だとなんか視界が変な感じだけど、そこは勘弁してね」
「ま、そこは仕方ないな」
「とりあえず手早く戻るのさー!」
「思ったよりももう時間がなさそうかな!」
「え、あ、マジだ!?」
思っていた以上に成長体の捜索に時間がかかっていたようで、現時刻は5時半を過ぎている。……このペースだと追加の成長体がどんどん確保出来ないと、あと2戦くらいが限界かもしれない。
決して経験値の効率は悪くはないし、1体のフィールドボス戦の経験値は間違いなく多めだ。だけど、もっと成長体の安定供給が必須なのかもね。連結PTのメンバー以外からの成長体の供給が必要なのかもしれない。
そういう意味では今回みたいな行き当たりばったりで決めた状況ではなく、計画的に役割分担をするメンバーを集めておくのが良さそうだ。
とりあえずそれを今考えてもどうしようもないので、紅焔さん達の待機している場所まで戻っていこう。まぁ今回の移動はヨッシさん任せだけどね。
「それじゃ急いで戻るぞー!」
「「「おー!」」」
そうして飛ばし気味に移動を開始していく。エイとコケの共生進化の個体は地味に岩の中で暴れてはいるけど、それで減る操作時間は微々たるものだ。
うーん、このエイとコケをフィールドボスにしたら、ほぼ確実に融合種にはなるんだよな。敵の共生進化はそういう進化ルートだったはず。
「敵を融合進化にする場合って、どっちをメインにするかって決められたっけ? 前に検証した時って、両方に同じ強化具合の瘴気石を食べさせた覚えがあるんだけど……」
「えっと、どっちがメインになるかは合成進化と同じだったと思うよ?」
「あ、そうなのか。ヨッシさん、サンキュー」
「いえいえ、どういたしまして」
俺自身も色々と検証はしてきたりするけども、どうしても情報の抜けがある部分もあるからね。その辺はみんなと補っていけばいい。
さて、法則が判明しているのであれば今の移動中に進化の主体を決めておく必要があるな。
コケをメインにするならフーリエさんみたいにエイの形になるコケになり、融合種特有の統合・改変スキルである群体擬態とコケ自身の生存能力の高さを発揮してくる。
それに対してエイをメインにするならベスタやアーサーのように体表にコケが生えて、コケ渡りでの擬似的な瞬間移動を使ってくる。
「みんな、ちょっと今のうちに作戦会議!」
「今聞こえていた内容から推測すると、コケとエイのどちらをメインにするかという相談か?」
「肉食獣さん、正解! その辺の意見が欲しい」
「ケイさん、少し質問です。今は捕獲したのを生成した岩の中に閉じ込めている状態ですか?」
「あー、うん。そうなるけど、エレインさん、それがどうかした?」
「それ、作戦に使えませんか?」
ふむ? この岩の操作で閉じ込めているという状況を作戦に使う? 何かエレインさんには明確な意図があるんだろうけど、今のメンバーで出来そうな作戦……あ、思いっきり良い手段があるじゃん。
「それは面白いかもね。エレインさん、僕と紅焔が主力かい?」
「あー、なるほど、そういう作戦か」
「えぇ、ソラさんと紅焔さんの考えている内容で合っていると思います。後は私達の方でも同様の事は出来ますね」
「なるほど、エレインの狙いは岩で閉じ込めた状況で、岩の中を火の昇華魔法で焼き尽くすって作戦か」
「えぇ、そうですよ、肉食獣」
あぁ、やっぱりそれがエレインさんの狙いだったか。てか、ソラさんも肉食獣さんもまだ作戦の内容を説明してない段階で、内容を推測するのが早いな。
そしてモンスターズ・サバイバルでも実行可能という事は、火の昇華持ちが2人はいるんだな。多分だけど、肉食獣さんとキツネの人か。エレインさんの土の昇華と合わせて、ラヴァ・フロウという選択肢もありだな。
「ちょーと待ったー! それなら俺の毒や、ヨッシさんの毒でも良いんじゃねぇか?」
「えぇ、そちらでも問題はありませんよ。あくまで、閉じ込めた状態で一気に倒すというのを提案しているので」
「おっ、そうだったか! そりゃ失礼しました!」
まぁ火の昇華魔法のエクスプロードで焼き尽くすか、毒で枯らすかの違いはあっても、本質的には逃げられない状況にして殲滅するという基本方針は変わらないか。
「その作戦で行くなら、コケをメインに融合進化をさせた方がよさそうだな。HPに関係なく、一気に殲滅が出来るしさ」
「確かにケイさんの言う通りだが……エレイン、その作戦だと少しでも外にコケがあったら意味がないぞ?」
「あー、肉食獣さん、そこは俺がいるから大丈夫だ。群体化したコケなら見つけられるぞ。ただ、その場合は岩の操作はエレインさんに任せたいな」
「……確かにそれはそうですね。それでは、こういうのはどうでしょう? まずケイさんが捕まえている岩を覆う形で私が岩の生成を行います」
ふむ、エイとコケを捕まえたままにしておくのであれば、確かにその選択肢は悪くはない。その状態で俺が岩の操作を解除すれば俺の生成した岩が消えて、エレインさんの生成した岩の中へと閉じ込め直す形にはなる。
でも、それだけじゃ色々と足りていない。まぁまだ説明途中だろうし、最後まで聞いてから判断しよう。
「その際、私の発動する岩の操作とケイさんの発動している岩の操作の間に、紅焔さんとソラさんも一緒に閉じ込められてもらいます」
「……なるほど、そう来たか。俺とソラが岩の中でフィールドボスの進化をさせて、そのまま昇華魔法で焼き尽くそうって訳だな」
「まぁ、昇華魔法を発動した僕らにダメージはないし、昇華魔法自体ではキャンセルもされないからありな手段だね。中が真っ暗なのは発火でも使って光源を用意しようか」
なんというか、徹底的にコケには何もさせない作戦だな。でもまぁ、これが有効なのは確実だろう。
ぶっちゃけ、俺はその作戦を自分に実行されたくはないしね。俺の場合は進化系統が違うからそのまま当てはまる訳じゃないけどさ。ただ、不安要素ない訳でもないな。
「あー、ちょっと不安要素があるから言ってもいいか?」
「同じコケのケイさんの不安要素か。そこを潰しておく方が確実だし、聞かせてくれ」
「どうも、肉食獣さん。えーと、まぁ単純に言えば俺らの確認不足なんだけど、コケもエイも識別が出来てないんだよ。もし水属性とか火魔法に対して有効な防御魔法を使われたり、それこそ水の昇華魔法で相殺される可能性もある」
「……確かにその可能性は否定出来ないね」
「何言ってんだ、翡翠? それにケイさんも! んなもん、先に識別しちまえば良いだけじゃねぇか!」
「まぁ確かにそりゃそうなんだけど……」
何もさせないようにするのなら、先にその識別情報が欲しいとこなんだよな。でも進化してから識別するのは、瞬殺するには避けたいとこである。
「一度岩の操作を解除して、成長体の段階で識別して傾向を見ておくのはどうかな? あ、でも両方は分からないかな……」
「あー、ちょっと待った。ケイさん達のPTって、誰も識別Lv5は持ってないのか?」
「今のところはいないはず……。紅焔さん、それが……って、あー!? 識別Lv 5で共生進化の両方が分かるんだっけ!?」
「そう、それだ!」
うっわ、前にどこかで聞いたのに今の今まで完全に忘れてた。俺らの中で誰かが使える様になっていれば流石に失念していなかっただろうけど、地味にまだ誰も識別はLv5になってなかったとよな……。
でも、もし今の連結PTの中に使える人がいるなら話は変わってくる。識別内容によっては、基本的にはエレインさんの提案した作戦で良いけど、微調整は必要になるからね。
「そういう風に言うって事は、紅焔さんは識別Lv5か?」
「いんや、まだLv4だぜ」
「……紅焔、さっきの発言でいつの間にか上がっていたんだと、少し期待した僕が馬鹿だったよ……」
「ちょ!? ソラ、その言い方は酷くねぇ!?」
「……今のは紅焔さんが悪い」
「俺も翡翠に同意だぜ!」
「……紅焔、自分が持ってないのに今のはないよ」
「翡翠さん!? ザックさん!? カリンまでか!?」
うん、俺も思いっきり同意だけど、既に紅焔さんには精神的ダメージが行っているようなのでこれ以上はやめとこう。それにしても、言い出した紅焔さんが持ってないとなぁ……。
「あー、識別Lv5なら俺が持ってるが……」
「肉食獣さん、マジか!」
「お、おう! 流石にこの流れで嘘は言えないぞ」
「まぁ確かにそりゃそうだ」
ここで持っているという嘘を言える人がいるなら見てみたいものだよ。多分、みんなでフルボッコにしたくなる。
でもまぁ、これならエレインさんの提案した作戦を軸にして、エイとコケの融合種の瞬殺作戦も実行に移せるかもしれない。
「それじゃ合流した時点で俺が捕獲している岩に覗き込む穴を開けるから、そこから肉食獣さんに識別してもらっていいか?」
「おう、それは任せとけ」
「その後はエレインさんの提案してくれた作戦を軸に、識別内容も考慮して作戦を組み立てていくって感じにしよう」
「賛成なのさー!」
「それで良いと思うかな!」
「その為にもまずは合流だね」
そんな感じで反対意見も特に出ずに、方針は決定した。てか、俺らの捕まえてきたエイとコケの共生進化の個体からやる事で決定か。
まぁまだ肉食獣さん達から成長体の捕獲の報告も上がってないし、そうなるのも必然ではあるよね。
「あ、そういえば先程、ウサギの成長体を捕獲しましたよ」
「エレインさん、いつの間に!?」
「いえ、作戦会議の邪魔になってはいけないかと思いまして、無言で捕獲していました」
「……マジか」
いや、まぁ作戦会議をしているのを気遣ってくれたんだし、ここは素直に感謝しておこう。ちょっと拍子抜けしただけで、別に悪い事じゃないし、むしろ良い事である。
「ナイスだぜ、モンスターズ・サバイバル!」
「……うん、これでフィールドボス2体分」
「って事だから、俺らも戻ってる最中だ。戻ったら、ケイさん達の見つけたやつからやってくぞ」
「ほいよっと」
これで成長体の捜索と捕獲に行っていた俺らとモンスターズ・サバイバルのPTが、合流に向けて戻っているという事になった。
「とりあえずみんなと合流しますか」
「「「おー!」」」
意外ともう近くまで戻ってきていたけど、ともかく合流が最優先だね。そこから識別情報を元にして、詳細な作戦を詰めていこうっと。
まぁ擬態持ちのエイとコケだから、可能な限り瞬殺にしたい組み合わせだしね。変に取り逃すと厄介な事になりそうだよね、この組み合わせ。
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