第823話 ミズキの森林の湖へ
紅焔さんとザックさんが一触即発のトラブルの危機かと思ったら、全くそんな事はなかった。
「あ、でもトカゲとタケノコを持ったままじゃまともに乗れねぇか……」
「そんなら俺が預かっとくぜ。大型化してるし、そのくらいの持ち運びは問題ねぇからな」
「おし、んじゃ紅焔さんに預けるぜ!」
「おうよ!」
そんな流れでザックさんが根で巻き付いて捕獲していたトカゲとタケノコを、紅焔さんが龍の前脚……というよりは手というべきか? まぁともかくそんな感じで2体ともを握り潰さない程度に掴んで捕獲していた。
受け渡しを終えたザックさんは大型化している紅焔さんの龍の上に乗って、首に根を巻きつけるようにして落ちないようにしている。ふむ、草花系の種族の根の操作は固定に便利そうだね。
「おし、行くぜ、ザックさん! 『高速飛翔』!」
「おうよ! いやっほーう!」
おぉ、ちょっと前に俺も紅焔さんのドラゴンの背中の上には乗せてもらったけど、ザックさんは思いっきり楽しんでますな。
って、そのまま見てたら置いていかれる!? エンのとこまでそんなに距離はないのに、高速飛翔で速度を上げる必要ってあった……?
「……む、ザックが楽しそう」
「だなー。まぁ俺らも追いかけていきますか」
「「「おー!」」」
俺らも水のカーペットで追いかけたいくけど、流石に飛行種族は飛ぶのは早いな。とはいえ、すぐに減速しなきゃいけないんだから……って、エンを通り過ぎたー!?
「ちょっ、紅焔さん!? 通り過ぎてんぞ!?」
「問題ねぇから、しっかり捕まってろよ、ザックさん!」
「……紅焔、あれをやる気だね?」
「あー、あれか……」
「うおっ!? こりゃいいな!」
「だろ!」
そうしてエンを通り過ぎた紅焔さんは急激に高度を上げ、円を描く様に飛びながらエンの枝の葉っぱの方へと到着していった。これ、前に俺が紅焔さんにやられたやつだなー。
てか、ザックさんも紅焔さんも思いっきり楽しそうだな。こうして見ると、純粋な飛行種族ってのも楽しそうではあるよね。俺の飛行はスキル頼りの手段だから、なんか違う雰囲気ではあるもんな。
「あれは楽しそうなのさー!」
「……あはは、あれは私は苦手なタイプだね」
「あんな感じの動きなら、私の竜の単独でなら出来そうかな?」
「おー! サヤ、今度やってー!」
「時間がある時なら、やってもいいかな? ハーレ、それでいい?」
「やったー!」
なんかこっちはこっちで同じような事をする算段をしているけど、まぁ本人達がそれで良いなら俺がとやかく言う事でもないか。
「ソラさん、ちょい質問。紅焔さんって、誰かを乗せたらいつもあんな感じ?」
「まぁそうなるけど……あぁ、そういえばケイさんにもやったって紅焔が言ってたね」
「うん、それは実体験済み。そっか、いつもの事か」
「ケイさん、一応相手は選んでるからなー! 振り落とされる事がなくて、そういうのが大丈夫な人だけにしてるぜ!」
「……一応は配慮してるのな」
その基準だと俺は、紅焔さんにああいう事をしても大丈夫だと思われてるって事なんだな。まぁ実際に平気だから、その判断自体は間違ってはいない。……いきなりだとびっくりはするけどさ。
あ、そんな話をしながら移動してたら俺らもエンの元へと辿り着いた。……なんか、思いっきり紅焔さんとザックさんの方を見上げている人が多いな。
まぁあれだけ派手に人が集まってる所に登場すればそうなるよねー! てか、追いかけてきた到着した俺らの方まで注目されてますがな。
「……思いっきり目立ってるから、早く転移しよう?」
「そりゃ翡翠さんの言う通りだな。手早く転移して、メンバーの応募をしていくぞ」
変にいつもの様に声を揃えると余計に目立つと思ったようで、みんなは無言で頷いていく。よし、これでサクッと転移をしてしまえば問題なし!
「おし、紅焔さん! 俺らは転移せずこのまま飛んでくってのはどうだ?」
「お、そりゃいいな! 『自己強化』! んじゃ、みんなは後で湖の畔でな!」
「ちょ!? 紅焔さん、ザックさん!?」
それ以上の言葉をかける前に、2人はあっという間に飛び去ってしまった。……実はあの2人って一緒に組ませたらマズい組み合わせか?
まぁあの速度ならあっという間に辿り着くだろうし、転移してミズキのとこから湖までは移動する必要はあるから、転移じゃなくても問題はないけどさ。
「ミズキの所に転移してから湖に行くまでと、ここからミズキの森林まで直接飛んで行くの、どっちが早いかな?」
「……どっちだろ? 今までそこを気にした事はなかったよね」
「そうなのさー! でも、比べてみる良い機会なのです!」
「あはは、まぁ今更止めようもないからね。……まぁ紅焔、みんなが揃った時に報告はするからね?」
「……ザックも、タケとイッシーに報告するよ」
「「ちょ、それは勘弁!?」」
おぉう、思いっきり紅焔さんとザックさんの反応が被ってますがな。……まぁ、そこら辺はそれぞれのPTや共同体の方で任せておこう。
「ま、どっちが先に着くか分からんけど、俺らは転移していくか。紅焔さん、ザックさん、そっちが先に辿り着いたら募集を任せていいか?」
「「おうよ!」」
うん、なんだかんだで紅焔さんとザックさんの相性は良さそうだ。ただ、組み合わせると暴走癖が出てくるって感じっぽいなー。
まぁ独断専行ではあるけど他の人に迷惑をかける行為をしてる訳でもないし、この位なら許容範囲だね。それじゃミズキの森林まで転移をしていきますか。
<『始まりの森林深部・灰の群集エリア2』から『ミズキの森林』に移動しました>
さて、ミズキの森林の辿り着いたね。ミズキの近くにはそれほど人の姿はないけど、ちょいちょいと破壊音や火の手が上がっているから特訓中の人も結構いそうだな。
「ケイさん、紅焔さん達に負けないように最大加速なのです!」
「……ハーレさん、地味にそこに拘ってんのか。まぁいいけど……ヨッシさんは大丈夫か?」
「うん、ただの加速ならかなり平気にはなってるから大丈夫」
「ふむ、それならいいか」
まぁただの移動でも遊び心があっても悪くはないだろうし、ここはそれなりに全力でやっていこうか。あんまり速度を出し過ぎると落ちる可能性も出てくるから、水のカーペットを進行方向の前方で風除けにもなるように形状を変えようっと。
よし、ラグビーボールっぽい形状で俺ら全員を包むような感じにしたから、これで風は大丈夫だな。
「なんだかんだ言いながらも、ケイもやる気かな?」
「ま、やるからにはな! って事で、ここは勝つ!」
「「負けねぇぞ、ケイさん!」」
「それはこっちの台詞だな!」
という事で、森の上に移動してから湖に向けて一気に加速を開始! てか、ザックさんって今の状況で特に何かをする訳じゃないんじゃ? ……うん、ここは気にしたら負けだな。
それはともかく、移動操作制御で発動している水のカーペットなら加速による時間制限はない! ふっふっふ、可能な限りの最大加速にしてやろうじゃないか!
「……ケイさん、これってダメージとかは大丈夫?」
「ん? 木に当たらないように森の上には出たぞ?」
「……ううん、そうじゃない。空でもタイミングが悪ければ――」
「「「あっ」」」
「って、一般生物の虫!?」
やっべ、こんな形でミズキの森林の上空を飛ぶ事はないから意識から外れてたぞ……。普段は当たり前過ぎて全然気にしてなかったけど、どこのエリアにも一般生物は普通にいるんだった! あれは……カブトムシか何かか?
夜だから視界が昼ほど良くなかったのもあるし、タイミングと速度的に衝突は避けれそうにない! 他のみんなに……いや、自分で倒して――
<ダメージ判定が発生した為、『移動操作制御Ⅰ』は解除され、10分間再使用が不可になります>
<『移動操作制御Ⅰ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 77/77 → 77/79
くっ、しょうもない事で盛大にミスった! でも、一気に加速しただけあってもう湖は見えている……けど、このまま行ったら湖の中に思いっきり突っ込むだけじゃん!?
「ケイさん! サヤさんとハーレさんをお願いできるかい!?」
「他のみんなは飛べる種族だから問題ないか! サヤ、ハーレさん、水を生成して受け止める!」
「分かったかな!」
「了解です!」
<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 76/79(上限値使用:1): 魔力値 217/220
<行動値を3消費して『水の操作Lv6』を発動します> 行動値 73/79(上限値使用:1)
どんどん湖が迫っていて余裕がないから思考操作で大急ぎで発動だ! ……よし、反発力を強めに前方への展開がぎりぎり間に合った!
「……あ、これはマズいかな?」
「跳ね過ぎなのさー!?」
「やばっ、焦って設定を失敗した!?」
反発力を強くし過ぎた生成した水で跳ね返って、俺とサヤとハーレさんは思いっきり湖の中へと落下していった。くっ、変に対抗心を燃やしたので色々と判断をミスったなぁ……。
「サヤ、ハーレさん、大丈夫か!?」
あれ、サヤもハーレさんも湖の中で見えているけど、どちらからも返事がない……? あ、そういや淡水に適応してる状態じゃなければ水中じゃ喋れないんだっけ。
すぐにサヤとハーレさんは湖面に向かって泳ぎ始めて……ん? 今、湖の中で大きな影が動いたような気が……? うーん、そもそも暗くてよく分からないし、今のは気のせい?
いや、場合によっては徘徊してる成熟体の可能性もあるのか。……正体は分からないし、今すぐにどうこうする内容でもないけど、念の為にこの湖に何かがいる可能性がある事は覚えとこ。
とりあえず今は湖面に戻って、被害が出てないかを確認しよう。跳ね過ぎて湖に落ちる寸前に、咄嗟に生成した水を湖畔に向けて広げたから大丈夫だとは思うけど……。
「ぷはっ! あー、びっくりしたー!」
「……あはは、こういう展開は予想してなかったかな」
「あー、とりあえずは大丈夫だったか」
パッと見た感じでは生成した水がちゃんと壁にはなってるし、そもそも操作時間が削られた様子もないから津波の心配は杞憂だったみたいだね。流石に湖畔にあるモンスターズ・サバイバルの野外炊事場を台無しにしてしまったら罪悪感が凄まじいもんな。
ヨッシさん、ソラさん、翡翠さんは自力で飛行して問題は無かったみたいだね。……とりあえず操作してる水を移動させて、俺とサヤとハーレさんの足場にしようっと。よし、これでいい。
「すまん、サヤ、ハーレさん、大丈夫か?」
「ダメージはないから、大丈夫なのさー!」
「同じく大丈夫かな」
「……ケイさん、慌てたら駄目だよ?」
「……あはは、風除けは私がしてたら良かったかも?」
「まぁそれはそうだろうけど、反省会の前にまずはあっちが先じゃないかい?」
「……だな」
流石にここまで盛大な湖へと突っ込んでいったら、湖畔に集まっている人達が思いっきり注目していた。まぁそりゃそうですよねー。
「お、誰かと思えばケイさん達じゃねぇか。とんでもねぇ登場の仕方だな、おい」
「あ、肉食獣さんか。悪い、色々と変なミスが重なった……」
「まぁそりゃそうだろうが……それって面子を見る限り、あっちの2人も関係してたりすんのか?」
「あっちの2人……って、紅焔さんとザックさん!?」
さっき見渡した時は焦ってたから気付かなかったみたいだけど、既に湖の畔には紅焔さんとザックさんの姿があった。……どの位の差があったかは分からないけど、あっちの方が早かったのか。
「すげぇ登場の仕方だな、ケイさん!」
「いやー、まさか湖に突っ込んで来るとは思わなかったよな、紅焔さん」
「PT会話で、大雑把にでも内容分かってるよな!?」
「おう! 今回は俺の勝ちだな、ケイさん!」
「はっはっは! 自爆突撃とか、珍しくも何ともねぇぜ!」
あー、紅焔さん的にはこの間の模擬戦のリベンジのつもりだったのか。……そう考えると妙に悔しくなってくるし、しょうもないミスをした自分が恥ずかしくなってくる。今度、何かの機会があったら紅焔さんは負かす!
ザックさんについては……うん、まぁいつものザックさんだな。さっきのは単なるミスだから別に自爆特攻をした訳じゃないんだけど、まぁそこは良いか。
「で、ザックが何か募集をしたいって言ってたんだが、ケイさん、どういう内容だ?」
「……肉食獣さん、怒りはしないのか?」
「別に被害も無かったし……そもそもそんなもんは今更だろ?」
「……あはは、確かにそりゃそうだ」
「いっそ、盛大にぶっ壊してくれても良かったんだぜ? 竈とかは作り直しになったら、新規勢のスキルを使う機会も増えるからよ」
「あー、そういう考え方もありか」
ここにある野外炊事場は一度作ったものだから壊されない方が良いような気もしてたけど、新規プレイヤーのスキルを鍛える手段としては壊すという選択肢もありなんだな。
「ともかくだ、地味に気になるメンバーが揃って何を募集するのかが気になってるんだよな。具体的な内容を聞かせてもらえるか?」
「……それもそだな」
思いっきり湖畔にいた人達が俺らの方に注目しているし、肉食獣さんの言葉に頷いている人も多い。……何か変な経緯にはなったけど、ザックさんの勘は当たったような気がするね。
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