第820話 ケイとフーリエの特訓 下


 フーリエさんに色々と教えながらの模擬戦の最中だけど、そろそろ俺のヒントからフーリエさんが答えを出した追撃のやり方を試していきたいところ。そこまでやったら今回の模擬戦は終わりかな。

 鍛えるにしても一気に詰め込むのは駄目だし、行動値もまだまだ少ないし、フーリエさん自身に色々と試行錯誤はしてほしいからね。


<『斬鋏閃Lv1』のチャージが完了しました>


 お、チャージが完了した。よし、それじゃフーリエさんの余分な部分のコケを切り落として準備をしていきますか。


「あ、チャージが終わりましたね!」

「それじゃ切断していくけど、どこを切ればいい?」

「それならヘビの首の辺りでお願いします! 今は頭の方にコケの核があるので!」

「ほいよっと」


 そうしてヘビ型の巨大なコケの塊を、眩い銀光を放つハサミで切断していく。どう考えてもロブスターのハサミよりフーリエさんのヘビ型のコケの方が太いんだけど、斬鋏閃のスキルの特徴でこのスキルの発動ではハサミの間にあるものはサイズに関わらず切断が出来るからね。

 俺がハサミでヘビ型のコケを首の辺りで両断すれば、コケの核のある頭の方で小さなヘビ型に再構成され、胴体側は地面や周囲の岩へとコケが広がっていった。


「フーリエさん、行動値は?」

「あ、全快になってます!」

「それじゃさっきの追撃のやり方を実際にやってみるか」

「はい! あ、そういえばあっちの入り組んだ崖の方へは行かないんですか?」

「あー、そういやそうだった。それじゃあっちに移動してからやるか」

「はい! あ、群体化が自動解除になる距離ですね」

「そういやそんな距離か。まぁ、そっちの方が条件的には都合はいいな」

「それもそうですね!」


 距離が遠くなって群体化解除になるなら、一番初めの開始状態とほぼ同じになるからね。あの流れから追撃の特訓をするなら、その方が色々と良いだろう。

 

<行動値上限を2使用して『移動操作制御1』を発動します>  行動値 70/80 → 70/78(上限値使用:2)


 入り組んでる崖のいうか岩山地帯の方に移動したいので、サクッと水のカーペットを展開! 歩いていっても良いけど、教えながらとはいえ行動値の待ち時間とかもあったからね。


「手早く移動するから乗ってくれ」

「はい!」


 そうしてすぐに水のカーペットの上に乗ってきたフーリエさんと共に移動を開始する。今の移動時間にこれで今回は最後って事は伝えておかないとな。


「次のフーリエさんの一連の攻撃で、今回の模擬戦は終わりにするぞ」

「え、もうですか!?」

「あんまり一気に詰め込み過ぎてもあれだしなー。まぁまたどこかで時間は作るけどさ」

「……確かにそうですね。それじゃこれからので、ケイさんに反撃させてみます!」

「おう、その意気だぞ!」


 どういう追撃をするかまでは俺からは指定はしていないから、フーリエさんがどんな風に工夫してくるかが楽しみだね。俺もどんな追撃がきても食らわないように、警戒しとかないとな。


 そんな風な会話をしながら、入り組んだ崖に囲まれた岩山の場所へとやってきた。ふむ、入り組み方は違うけど、雰囲気としては前に行った岩山エリア……現在は『封熱の霊峰』と同じような感じか。

 さて、さっきと同じ状況にしたいし、水のカーペットで飛ぶと回避も楽だから今は解除しておくか。今回はあくまで特訓の意味合いが強い模擬戦だしね。


<『移動操作制御Ⅰ』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 72/78 → 72/80


 俺の行動値は全快にはなってないけど、これでも俺の方が多いだろうし問題はない。そもそも俺から攻める予定もないからね。


「それじゃ始めるか。フーリエさんの好きなタイミングで始めていいぞ」

「はい! それじゃ……行きます! 『グリース』『半自動制御』!」

「おっ?」


 フーリエさんのタイミングで戦闘が始まったけど、グリースで地面を滑りながらウネウネと俺の周囲を回るように動いていく。……動きながら増殖する事で、なんかさっきよりも太さがない長細いヘビ型のコケの塊になってる気がする。


「あれ、こういう移動をしながらだと細長くなるんですね!?」

「あ、狙ってやってた訳じゃないのか」

「はい、今のは偶然で狙いはここからです!」

「ほう?」


 そう言いながらフーリエさんのヘビ型のコケの大きさの変化が止まり、塊に収まりきらずに増殖しているコケが通った地面や近くの岩へと広がっていく。


 なるほど、こういう風に移動をしながら増殖したコケをあちこちに増やしていく作戦か。自己強化とグリースを使って滑って移動を早めているのは、増殖をしたコケが繋がらないようにしてる感じだな。

 これなら岩に隠れて相手に見つかりにくいコケや、繋がっていて火で延焼するという可能性も下げられる。……普通のコケではやりにくい手段だけど、ヘビとの融合種という利点を活かしているね。


「『スリップ』『連尾鞭』!」

「おぉっ、そう来たか!?」


 グリースで滑りながら移動している状態から、更にスリップで自身が回転するようにしていく。そこからヘビの尾で増殖したコケの有無は関係なく、無差別な方向へと岩を弾き飛ばしていた。

 思いっきり制御しきれてない感じがするから土壇場で思いついて実行してみたみたいだけど、これを狙った方向に飛ばせるようになれば地味に厄介そうではあるよな。


 俺の方にも2つ程飛んできてるけど、どっちの岩にはコケがあるな。……さて、これはどっちから来る?


「『群体内移動』『増殖』『腐食毒生成』『並列制御』『猛毒牙』『巻きつき』!」


 おっ、左側の方の岩のコケからそれ程大きくはないヘビ型になって牙を向いて飛び出してきた。しかも俺のロブスターハサミに巻きつこうとしてるな。

 うん、この狙い自体はいい。だが、ここで追撃をすると分かっている俺を出し抜くにはもう一手ほど欲しいところ。まぁここは簡単に回避をさせてもらおうか。


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値4と魔力値12消費して『水魔法Lv4:アクアボム』は並列発動の待機になります> 行動値 66/80 : 魔力値 208/220

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値を6消費して『水の操作Lv6』は並列発動の待機になります>  行動値 60/80

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


 俺のロブスターの真下から、真上に向けて指向性を操作して自分自身を打ち上げていく。瞬発的な爆発で上空に逃れて、フーリエさんの突撃は失敗――


「まだです! 『空中浮遊』『突撃』『強獲牙』!」

「おっ、そういやそれもあったか!」


 そもそもコケの移動に空中浮遊を使ったら良いとアドバイスしたのは俺自身だったっけ。俺の回避した方向性に合わせて、そのスキルの選択は結構良いな。

 確か強獲牙は噛みついて動きを封じる系統のスキルだったはずだしね。さっきの巻きつきといい、フーリエさんはヘビの形で動きを封じる方向性で、行動値の余裕があれば同時に毒や養分吸収でダメージを狙う感じみたいだな。


 でもまぁ、俺を捉えるにはまだまだ甘い! 決して手段は悪くないけど、スキルの育成度合いや行動値が足りてないみたいだしね。


<行動値1と魔力値3消費して『土魔法Lv1:アースクリエイト』を発動します> 行動値 59/80 : 魔力値 205/220


<『並列制御Lv1』を発動します。1つ目のスキルを指定してください>

<行動値を3消費して『土の操作Lv6』は並列発動の待機になります>  行動値 56/80

<2つ目のスキルを指定してください。消費行動値×2>

<行動値を4消費して『体当たりLv2』は並列発動の待機になります>  行動値 51/80

<指定を完了しました。並列発動を開始します>


 ふっふっふ、ロブスターの跳ねる感じの体当たりの発動時に尻尾が当たる位置に大きめの石を生成して、土の操作で位置を固定。そこに体当たりをして、その反動で後方へと回避だ!


「えぇ!? その位置からそんな回避が出来るんですか!?」

「普段はもっと楽に回避は出来るけど、まぁ回避だけに専念するならこれくらいはな」


 ぶっちゃけ通常時ではこの回避手段はどう考えても消耗が激し過ぎるから、実用性的には飛行鎧での回避にはなるんだよな。まぁ行動値さえあれば、飛行鎧が強制解除になって使えない時には使えるけど手段だけどね。

 おっと、着地は……ちょっと真横に行き過ぎて、崖に衝突しそうだな。まぁまだ体当たりの効果はあるし、ダメージを受けるよりは崖を壊す可能性の方がありそうだけど、ここは大人しく衝撃を殺しておきますか。


 って事で、操作中の小石を少し棒状に伸ばして、ロブスターの目の前まで一気に持ってくる。それでロブスターの両方のハサミで掴んだ上で、土の操作を急停止! そうする事で土の操作の操作時間は一気に削れるけど、勢い自体は止まったね。

 よし、鉄棒みたいにロブスターが棒状の石に捕まってる感じにはなったけど、ちょっとずつ高度を下げて無事着地っと。ふー、あっという間に土の操作は時間切れになったか。


「……操作系スキルって便利なんですね」

「操作系スキルは自由度は高いからなー。そういやフーリエさんは操作系スキルは苦手って言ってたっけ」

「……はい。でも、それじゃ駄目な気がします」

「まぁ出来る事の幅は広がりはするから、覚えておいても損はないぞ? 操作系スキルなら灰のサファリ同盟とかで、講習とかやってないか?」

「少し苦手意識があって敬遠してたんですけど、今度参加して特訓してみます!」

「おっ、その意気だ! あ、そういやフーリエさんはヘビ側は噛みつき系と巻きつき系を鍛えてる感じか?」

「はい、そうなります! それに合わせてコケは物理毒と吸収系ですね! ただ応用スキルの方は殆ど取れてないし、行動値的にまだ全然使えてない状況です……」

「あー、まぁそこは行動値が増えてくるまでは仕方ないなから、これからの育成状況に合わせていけばいいぞ。そういやフーリエさんって特性と属性は何だ?」

「えっと、属性は毒で、特性は『融合』『拘束』『牙撃』『打撃』『吸収』ですね!」


 『融合』については融合種だから当然として、『拘束』『牙撃』『打撃』はヘビの方の特性だろうね。『吸収』はコケでの養分吸収や魔法吸収が関わってそうだ。

 てか、フーリエさんは毒持ちでもあるんだな。この毒についてはヘビでもコケでもどっちからでもありそうな属性だね。


「完全に毒持ちの物理寄りの特性だな。……てか、毒持ちならフーリエさんはあんまり毒は効かないだろ?」

「効きは悪くはなるんですけど、腐食毒や溶解毒は効かない訳じゃないんですよ。他の毒は平気なんですけど……」

「あー、種族の弱点の方が影響してくるのか。……まぁ水属性持ちの俺でも完全に火が大丈夫って訳じゃじゃないのと同じだな。んー、そういう構成なら『異常付与』の特性が欲しいとこだな」

「それについては『特性付与の水』を手に入れる機会があれば、付与したいと思ってます!」

「お、既に狙ってたか」


 ま、毒が主力スキルの1つなのであれば、その効果を強化する特性は欲しくなるよね。ただ、全体的に魔法攻撃が弱そうな構成なのが少し気になるところか。


「フーリエさん、もしかしてだけど、シリウスさんは魔法メインか?」

「あ、はい! シリウスは風魔法と水魔法をメインに使ってます! それがどうかしましたか?」

「んー、魔法と物理のバランスが……って思ったけど、いつも一緒にプレイする人と役割分担をして育ててるなら問題ないから気にしなくていいぞ」

「あ、そういう事ですか! その辺はシリウスと得手不得手が思いっきり分かれたので、物理と魔法に分かれてやってます!」

「なるほどね」


 俺らも今はみんながバランス良く両方使えるように育成はしてるけど、それでも得手不得手はあるし役割分担をする事も多い。

 流石にソロだとある程度はバランス考える必要はあるけど、普段から一緒にプレイする人がいるなら役割分担はありだもんな。変に1人でやろうとするよりはそっちの方が安定はするしね。まぁ飛び抜けてプレイヤースキルが高い人はその例外にいたりはするけど……。


「さて、フーリエさん、今後の課題を言っとくぞー」

「はい、お願いします!」

「まず、Lvを上げて行動値を増やす事。どんなスキルの組み合わせを考えても実行出来なきゃ意味ないからな」

「……確かにそれはそうですね」

「次は使える手段を増やす事。まぁ今の段階でもそれなりに幅は広いけど、何個か決め手になる応用スキルが欲しいとこだな」

「応用スキルの取得ですね! 僕の場合、チャージと連撃どっちがいいでしょうか?」

「物理型ならどっちもだ。それと『凝縮破壊Ⅰ』と『連鎖増強Ⅰ』の両方取っておくべきだけど、まぁさっきのを見る感じだと先に連撃だな。あと、毒の昇華か」

「連撃ですね! それと……毒の昇華もですか?」

「あー、あくまで俺が考えるやつだから、絶対にそうすべきって訳じゃないからな。まぁ毒の昇華は物理毒にも有効ではあるぞ」

「え、そうなんですか!? てっきり効果があるのは魔法産の毒だけなのかと……」

「……なるほど、そういう勘違いもあるのか」


 確かに昇華は魔法産で運用する事が結構多いし、大規模な天然産の物を操作するなら応用スキルの操作系スキルを使えばいいからね。そういう勘違いも発生するか。


「……時間はかかりそうですけど、その辺りを狙って鍛えてみます! 後、操作系スキルの特訓も頑張ってみますね!」

「おう、頑張れー! さーて、とりあえず今日はこれくらいにしとくか」

「はい! 今日は模擬戦の相手をありがとうございました!」

「ま、師匠になったし、これくらいはな!」

「そっちも本当にありがとうございます!」


 あはは、そんな風に言われるとやっぱりむず痒いもんだね。でも、こうして教えているというのも悪い気分じゃないね。

 あ、そういや俺はほぼ回避をしてただけで内容の説明を忘れてた気もするけど……大丈夫かな? いや、解説とゲストに紅焔さんとソラさんがいるんだから大丈夫なはず!

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