第810話 タッグ戦、出場者決定戦! その3
レナさんとカインさんによる決勝戦が行われている真っ最中である。今はレナさんがカインさんに一撃を当てる毎に輝きを増す緑色の銀光を放ちながら、連続回し蹴りで追い詰めているところだ。
この状況ではカインさんが何らかの手を打たなければ、このまま勝負が決まるだろう。……さて、どうなるか。
うーん、リスのレナさんはサルのカインさんより小型な事もあって、どうしても一撃毎の合間に隙が出来ている。その辺は蹴る位置や蹴る方向を変えたりしながら調整してるっぽいけど、付け入る隙があるとすれば――
「くっ、ここだ! 『ファイアボム』!」
「およ!?」
おっ、やっぱりそこを狙ってきたか。俺がさっき考えてた隙をカインさんが狙って、レナさんと自分自身の間で火の爆発魔法を放ち、強引に距離を取る事に成功していた。カインさんにとってはなんとか最後の最大強化になっている連爪回蹴撃を回避出来たのは大きいし、レナさんにとっては痛い失敗だね。
それに少なからずレナさんに対しても魔法でダメージが与えられたのは良かったのかもしれない。……まぁレナさんも火属性を持ってるから、通常よりはダメージが少し控えめみたいだな。
「カイン選手の爆発魔法でレナ選手の攻撃を回避し、ぎりぎりの所で踏みとどまったー!」
「……ほう、レナのリスの小柄さが少し仇になった感じだが、カインはそこを上手く狙ったか」
「だなー。レナさんはレナさんで上手く距離は詰めてたから、今のはカインさんがナイス!」
それにしてもちょっとレナさんとカインさんの攻防の移り変わりが早くて、ぎりぎりハーレさんの実況を入れるのが限界だな。解説をしている時間の余裕がないよ。
「……今のは抜けられるとは思ってなかったねー! でもこれで! 『強脚撃・風』!」
「『受け流し』! そんでもって『大型化』『大型砲撃』『並列制御』『ファイアインパクト』『強投擲』!」
「え、え? えぇー!?」
うん、思いっきり大型化したカインさんの手によってレナさんが遠くへと投げ飛ばされた。あー、そういう手段もあるんだな。
「これは予想外の展開だー!? カイン選手がレナ選手からの追撃を受け流し、大型化してから叩きつけてくる火に向かってレナ選手を投げ放ったー!?」
「今の流れではカインの使った手はかなり良い手段だな。連爪回蹴撃から抜け出たとはいえ、あのまま近接戦闘を続けていても劣勢を覆すどころか、一気に畳み掛けられて終わっていた可能性が高い」
「でも、レナさんもあんまり行動値は残ってなかったんじゃないか? まぁそれでもヤバいのは間違いないと思うけど……」
「間違いなくレナ相手であれば、行動値が無くとも危険だろうな。俺でも行動値が無くてもあのカインの残りHPなら通常攻撃で削りきれる」
「……やっぱりそうだよなー」
「それにあのタイミングでファイアインパクトの直撃を当てられたのは大きいだろう」
「あ、それは確かにあるな。あの使い方は参考になるね」
「ああいう緊急回避を目的とした動きの中でも、攻撃を確実に当てに行くのは上手いやり方だからな」
「あれはカイン選手のファインプレーでしょう! さぁ、レナ選手の残りHPは半分を切り、カイン選手のHPは残り1割となっていますが、ここからどういう展開になっていくのでしょうか!?」
今の時点でかなりカインさんの善戦をしているはずだけど、流石にレナさんがそれを上回ってはいるか。このHP差は厳しいとは思うけど、それでもまだカインさんが勝つ可能性も消えた訳じゃない。
緊急回避的な形ではあるけど、一度距離も離れたしね。ここからのスキルの使い方や、立ち回り方によってはどう転ぶかは分からないし、対戦が終わるまではどうなるか分からない。
「それでは先程の解説をお願いできますでしょうか?」
「あぁ、そうだな。だが、動きがあれば中断するからな」
「はい、それで構いません! それでは解説をお願いします!」
ちょっと予想外の形で解説をする時間が出来たから、基本はベスタに任せながらそっちもやっていこうっと。とりあえず解説に集中して動きを見落とす事が無いようにしないとね。
今は、カインさんは周囲の様子を警戒しながら、大人しくして色々と回復をしていくようである。……まぁ全快は確実に無理だろうけど、非戦闘中ならちょっとずつではあってもHPは回復するしね。
レナさんについては、レナさんの方に視点が切り替わってから確認だな。どうしてもこうやって位置が離れた時はこんな感じになるけど、同時に映すとそれはそれで混乱するから仕方ない。
「それではさっきは出来なかった解説をしていこうか。まずはレナがカインの掴んでいた枝を切り落とした所からの一連の動きだな」
「だなー。そういや、ベスタはあそこでわざとだと言ってたよな?」
「あぁ、あれか。ほんの僅かではあるが、カインが枝から枝へと飛び移るタイミングがそれまでより遅かったからな」
「……マジで? それ、俺は気付かなかったんだけど……」
「私は何か違和感を覚えていたけど、そういう事だったのですね!?」
てか、ハーレさんは違和感に覚えてたんかい! いやほんと、サファリ系プレイヤーのその観察力ってどこから来るの? ……今度、ハーレさんとサヤからその辺のコツを教えてもらおうかな?
「あれは気付く奴の方が少ないレベルだから気にするな。まぁレナはその少数派の方だが、それを見抜いた上で乗ったんだろう」
「あー、だからカインさんのアースウォールに対応出来たんだな。ちなみにあそこでカインさんがアースウォールを使ったのは、ファイアウォールだと突き抜けられるからって認識でいいのか?」
「あぁ、その認識で合っているだろう。ファイアウォールは攻勢防壁だから敵を止める事よりも、カウンター攻撃の性質が強いからな」
「カイン選手は『聖火の人』として火属性で有名ではありますが、それだけが手段ではないという事なのですね!」
「ま、そういう事でもあるな」
ふむふむ、確かにカインさんについては火属性に関するイメージは強いけど、あんな感じで土魔法を使うとは思ってなかったね。
光の操作を使っていたり、投擲スキルと土の操作で連携した攻撃をしたり、思った以上に多彩な攻撃手段を持っていたもんな。今回、カインさんが決勝戦まで勝ち抜いてきただけの事はあるのか。
「さて、続きを解説していくぞ。ここは推測にはなるが、カインが防御をしてくるのならアースウォールだとレナは読んでいたんだろう。だからこそダメージを受けたとはいえ衝撃を殺しつつ、重脚撃がキャンセルにならないように即座に動けて、更なる追撃を仕掛けていった。咄嗟の判断でも不可能ではないだろうが、狙っていた可能性の方が高いだろう」
「確かにあの行動の切り替えの早さを考えるとそうなのでしょう! かなりの高水準な読み合いがあったという事ですね!」
「あぁ、そうなるな。だが、それ以降はお互いにアドリブだろうが……ハーレ、画面が切り替わったぞ」
おっと、ベスタが解説している間に映像がレナさんの視点へと切り替わったね。レナさんの視点に切り替わる直前まではカインさんの方には特に動きは無かったか。
「あー、見誤って失敗したなー! うん、思ったより遥かにカインさんは強いねー」
そんな独り言を言いながら、レナさんは森の地面へと転がっていた。盛大に投げられた影響か、近くの木の枝は折れているし、レナさんが転がっている部分も下草は潰れている。でも地面が陥没しているような事はないので、そこまで劇的な威力で叩きつけられた訳ではなさそうだ。
あ、近くにはカインさんが光の操作で着火して、燃やした森の火がまだ残ってるんだな。魔法産の火は既に消えているけど、こっちは天然産になるからまだ消えていないのか。
「さーて、あんまり回復されない内に片付けよっかな。……うん、まだ燃えてる部分は残ってるから、これを使おうかー。『火の操作』!」
「おぉっと、地面に倒れ伏していたレナ選手が起き上がっていくー! そしてまだ燃えていた火を使い、無事な森へと再び火を着けたー!?」
「これは完全にカインの逃げ場を無くす気……いや、それだけじゃないな」
「解説のベスタさん、それはどういう事でしょうか!?」
「レナへの追撃ではなく、森林火災を広げてそれに対応させる方向性にカインの選択肢を限定するのが目的だろう。そうなればレナにとっては序盤の展開を再び使う事が出来て、回復も狙えるからな。……他にも何か考えてそうではあるが、それはまだ気が早いか」
「……他にも?」
「現時点では何とも言えん。俺の深読みの可能性もあるからな」
「あー、なるほどね」
確かにベスタが想定している事をレナさんが確実にやるかどうかは不明だし、そこまでベスタの考えた手段を話すのはもう解説ではないもんな。解説は実際に起こった事に対してやればいい。
ともかくレナさんが今している事は完全にカインさんの選択肢を狭めていくのが狙いなのは間違いない。少し前に序盤では性に合わないみたいな事は言ってたけど、互いに消耗してきた段階ではこの戦法は有効だし、今のタイミングなら積極的に狙っていく方が良いはず。
「……さて、この状況はどうすっかな。これ、確実に俺の行動を制限してきてるよな……」
おっと、カインさんの方の視点に切り替わったね。うわー、周囲が火の海でもう大惨事じゃん。カインさんは火属性を持ってるし、今燃えているのは天然産の火だからダメージも少ないだろうけど、このまま放置するのは得策ではないだろう。
カインさんもそれは理解しているようで、ここからどうするかを悩んでいるようである。レナさんが何かの狙いを持って仕掛けている以上、警戒するのも当然だよね。
「カイン選手の視点に切り替わりましたが、既に完全に火の海に囲まれていたー!? 少し離れればまだ無事な森林も残ってはいるようですが、刻一刻と火の手が広がり続けています! カイン選手はここからどうするのかー!?」
「カインがこの火の海をどう切り抜けるか、そこが見物だな。いくつか思い当たる手段はあるが、どう切り抜けるかで変わってくるぞ」
「んー、俺が思いつく範囲での消火方法だと……水の昇華か、土の昇華で大量の砂を操作か、昇華魔法……スチームエクスプロージョン辺りの爆風で消し飛ばすとかだな。逆に火の操作や炎の操作で除けるのもありか。でも、どれでもレナさんに位置を把握される可能性も……あ、それが狙いでもあるのか」
「まぁそんなとこだな。カインがどういう手段を使うにしても、その様子でカインの位置をある程度は推測が出来る」
「この火の海そのものがレナ選手の罠という訳ですね! さぁ、カイン選手はどのようにこの窮地を脱するのかが見所です!」
うーん、そう考えてみるとこれってカインさんはもうかなり詰んでない? いや、でもカインさんも結構色んな発想をしてるっぽいから、意外となんとか切り抜けるかも?
「……あんまり余裕もないけど、ま、しゃーない。『魔法弾』『並列制御』『アースインパクト』『散弾投擲』!」
あ、そういう手もありか。ふむふむ、今回のこの決勝戦は俺が単独で使う手段ではないけど、ハーレさんと連携して戦うのに参考になる戦い方が結構多いね。
でも、流石にこの手段は目立ち過ぎじゃないか? 今のはいくらなんでもレナさんに察知されそうな気がするけど……。
「ここでカイン選手がアースインパクトを魔法弾に変えて、燃える木々を広範囲に変えた土砂で吹き飛ばしていくー! どうやらレナ選手を投げ飛ばした方向から距離を取るようだー!」
「とりあえずカインは距離を取って回復を……いや、これは罠か」
「罠って……あ、なるほど。全然見当違いの方向に行ってるな」
「これは確かに罠のようですねー! カイン選手は先程放った魔法弾で吹き飛ばす事で消した火を無視していくー! これはどうやら完全なレナ選手への情報誤認を狙ったものだったようです!」
カインさんは森林火災に対してわざと派手な対処の仕方を選び、そっちに逃げたと見せかけて他の方向へと逃げようとしているみたいだね。選択肢を制限されている状況の中で、レナさんの判断材料を混乱させる方向性での対応か。
「さて、引っかかってくれるといいんだけど……。『火の操作』!」
「そしてそのまま火を消した方向とはまるで別の方向の盛大に燃え広がっている森の中へと入っていったー! 天然の火は火属性を持っていれば無事なのかー!?」
「いや、ダメージ量はかなり軽減されるがゼロにはならん。今のカインは自分の周囲を操作した火で覆っているだけだ」
「自分で火を操作して、自分に触れる部分のダメージ判定を無くしてる感じか?」
「まぁそういう事になるな。意外と見落としがちではあるが、シンプルだからこそ有効な手段……いや、待て。何かおかしいぞ」
「……え? あっ、レナさん!?」
そこでカインさんの視点だった映像が……レナさんの視点ではなく、俯瞰的な視点へと切り替わっていた。ここでその視点に切り替わったなら、つまりカインさんもレナさんも同じ映像内にいるって事か……!
「やはりレナはもう一手、仕込んでいたか!」
「解説ベスタさん、これは一体どういう事でしょうか!?」
「さっきベスタが深読みって言ってたやつ?」
「あぁ、それだ。レナはカインに回復をさせる気はほぼなかったようだな」
「……そうみたいだな」
そのベスタの読み答え合わせをするかのように、レナさんの姿が中継画面に映し出されてくる。燃え盛る森の中を、カインさんのいる方向に向けてかなりの速度で駆け抜けていく。ははっ、レナさんは完全に攻撃を狙ってるじゃん!
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