第809話 タッグ戦、出場者決定戦! その2


 レナさんとカインさんによって行われている決勝戦は、再び互いの出方を伺う状態になっている。途中でレナさんの意図に気付いたカインさんが炎の操作を途中で解除した事により、無事な森の部分と、盛大に焼かれて炭化して倒れた木が積み重なっている状況だ。

 多分レナさんとしてはもっと全体的に燃やし尽くさせる予定だったんだろうけど、そこはカインさんの判断で阻止は出来たって感じだね。でも、現状でもカインさんにとってはあまり良くない状態だろう。


「……こりゃ俺も一旦、無事な森に隠れるか」


 そんな独り言を呟きながらカインさんはまだ無事な森の中へと入って……あ、木に登って枝から枝へと飛び移っている。そうか、レナさんはこれも阻止したかったのかもしれない。


「レナ選手もカイン選手も互いにまだまだ行動値や魔力値に余裕はあるはずですが、お互いに姿を隠していくようですね! まだ使える手も多い状態ですので、ここからの展開がどうなるかが読めません! 解説のベスタさん、ここからの展開はどうなるでしょうか!?」

「……正直に言うのであれば、実際に見てみるまでは分からん。どっちが先に動いて、それにどう対抗するかで変わってくるからな。だが、まぁあり得る可能性としては先にレナが奇襲を仕掛けるってところか」

「俺もそれは同感だな。見た感じでは完全にはレナさんの目論見通りになってないみたいだけど、カインさんから攻めるにしても奇襲は難しいだろ」

「ゲストのケイさん、その理由はなんでしょうか!?」

「単純だけど、リスだと危機察知があるだろ? 奇襲は気付かれて対応されやすいから、カインさんには奇襲を対応された上でそれを打ち破る戦略が必要になってくる」

「確かにそれはそうですね! さぁ、カイン選手にはそのような手札が存在しているのかが勝負の分かれ目になりそうです!」


 ぶっちゃけ1対1の戦いであの危機察知ってかなりのアドバンテージだもんな。まぁだからといってあれがあるだけでどうにかなる訳じゃないし、その奇襲に的確な対応が行えなければ意味はない。だけど、レナさんにそれが出来ないとは思えないもんな。

 てか、カインさんよりレナさんとの接点が多いから、どうしてもレナさん寄りの考え方になってるな。……イブキ相手じゃないんだし、今回の実況では出来るだけ公平にやっていかないとカインさんにも失礼だし、そこら辺は気を付けよう。


「……よし、これでいくか。『ファイアクリエイト』『火の操作』」


 視点はカインさんの方を映し出しているけど、何かを思いついたようだね。ふむ、近くの木の真っ直ぐな枝をそれなりの長さに折って、無駄な部分を火で焼き切っている? うーん、見た目的には投げ槍みたいな感じか?


「おっと、ここでカイン選手に動きがありました! 隠れていた木の枝を操作した火で焼き切っているようですが、これは何をするつもりなのでしょうか!?」

「……見た感じでは、真っ直ぐな木の枝で投げ槍でも作っているようだな。だが、何をする気だ?」

「そもそもの質問なんだけど、カインさんってバランス型なのか?」

「いや、カインは魔法型だ。だからこそ、今何を狙っているのかが分からん」

「あー、確かにそれなら分からないよな……」


 てか、魔法型でも意外と物理型の近接の人と渡り合えるんだな。……冗談抜きで魔法弾って結構強力なスキルなのかもしれない。


 そうしている間に今度はレナさんの方に視点が切り替わったね。レナさんは今、何を狙っているんだろうか。あ、普通に炭化して倒れた木影に隠れてるのか。


「んー、思ったほど森は焼けなかったねー。自分で焼いてもいいけど……カインさんを見つけるのが先だなー」


「ここでレナ選手の方に視点が切り替わりました! これはどうやら炭化して倒れた木に隠れながら、カイン選手の隠れた無事な森へと進んでいるようですね!」

「今の時点ではレナの方も確実にカインの位置を特定する手段は無いようだが……」

「……普通に焼くとか言ってるなー、レナさん」


 そういやレナさんは火の昇華を目指すと前に言ってたと思うから、既に昇華になって魔法産の火を使う炎の操作を使えるようになってる可能性もあるよな。それを考えるとレナさん自身が森を燃やせる可能性は十分過ぎる程にあるか。


「さてさて、いつまでも隠れてても仕方ないし、向こうから……え、危機察知!? わっ!?」


 おっ、焼けた森林の真上から収束された光が無造作に周囲を焼き払っていった。ほうほう、カインさんも光の操作は使えた……というか、天然産の火を使う時は光の操作で着火してそうだな。俺ならそうするし、聖火の人のカインさんだしね。


「ここで急激に状況が動いたー!? どうやらカイン選手は狙いを定めずに光の操作で焼け地を攻撃したようです!」

「ふむ、レナを安全に隠れ続けられないようにしたか。炭化した木に火も着いて、それと同時に収束された光に襲われ続ければ下手に留まってはいられないからな」

「焼けた森の範囲が中途半端なのも、カインさんにとっては都合が良かったっぽいな。でも、さっきの枝は何に使うんだ?」

「……無意味とは思えんが、そこは様子を見てみるしかないな」


 ふむ、ベスタとしてもカインさんの用意した枝を何に使うのかがよく分からないんだな。……真っ直ぐな枝だったから投擲で使う様な気もするけど、あれだけで何か意味があるのか? 狙撃に使うとかなら竹串とかで良い気もするんだけど……。


「むむっ、無差別攻撃と同時に周囲も焼くとはやるねー。でも、光の操作の有効範囲を考えたらそう遠くは無いはずだから……あっ!?」


 あ、無造作に攻撃を繰り広げているカインさんの光の操作を回避したレナさんだったけど、回避方向を間違えたのか、隠れていた炭化した木の外に少し出てしまっていた。


「わっ!? え、何、今の急加速!?」


 レナさんが回避に失敗して姿を晒したと同時に光の操作は消えて、その代わりに先程のカインさんが用意していた枝がレナさんの腕に突き刺さって貫通していた。……あれ、この枝ってさっきのままじゃない……?

 それに慌てたレナさんは即座に姿を隠していくが、そこに次々と火の爆発魔法が発動していく。流石にレナさんにとっても予想外の状況だったようで、大慌てで無事な森の中へと逃げ込んでいった。


「な、なんと!? カイン選手が用意していた先程の枝製の投げ槍が投げ放たれ、レナ選手の腕を捉えたー! 今のは何が起きたのでしょう!? 解説のベスタさん、ゲストのケイさん、何が起きたか分かりますでしょうか!?」

「なるほど、これは上手くやったものだな、カイン。投擲だけでも、火魔法だけでも無いって事か。ケイ、分かったか?」

「ちょっと自信はないけど、一応は。ハーレさん、確認したいんだけど、枝の先に何か無かったか?」

「枝の先に……? あっ、何かあった気がします! サヤ、分かるー!?」

「え、私かな!? ……えっと、矢じりみたいなのは見えたかな?」

「よし、やっぱりか!」

「だろうな」


 サヤとハーレさんが枝の先に何かがあったのを確認していたなら、ほぼ確実だ。ベスタも多分何があったのかは気付いただろうし、カインさんも良く考えたもんだよ。そりゃあの枝は必要だよな。


「何が起こったのか分かっているようなので、次の動きがあるまでに解説をお願いしてもよろしいでしょうか?」

「あぁ、それが解説の役目だしな。ケイ、俺が説明しても良いがどうする?」

「んー、お互いに補足し合う形で解説って感じで良いんじゃね?」

「……それもそうだな。今はレナが完全に身を隠したが、いつ動きがあってもおかしくないから手早くいくぞ」

「ほいよっと。まず、カインさんが使った1つ目のスキルは普通の投擲スキル……命中精度を考えるなら多分だけど狙撃だな」

「あぁ、そこはおそらくそうだろう。だが、重要なのはそこではなく、もう1つの方だ」

「だなー。さっきのは途中で急加速してたけど、そこのカラクリは土の操作だな。まず枝は普通に投擲をしただけだろうけど、投擲を並列制御にして同時に土の操作も使っている。並列制御の前にアースクリエイトで枝の先に尖った石を生成してね」

「そこから狙撃でレナに狙いをつけて投げ放ち、レナが危機察知に反応した頃合いを見計らって土の操作で最大加速をして、対応するタイミングをズラして当てたというところだろう」


 よし、使ったスキル自体は推測でしかないんだけど俺とベスタの見解が完全に一致しているから、カインさんがやった手段はこれで合っていると思う。

 投擲スキルで初速を稼ぎ、危機察知で気付かれるのも想定した上で、土の操作での急加速でその対応のタイミングをズラし、魔法産の石で物理型のレナには効きやすい魔法ダメージを与える。……考えたね、カインさん。


 でも惜しい点は、投擲スキルを応用スキルにしなかった事だな。タイミングはシビアになるけど、矢じりに使った尖った小石が当たった瞬間に土の操作を解除すれば、応用スキルのダメージも追加で与えられるはず。

 まぁこの辺はカインさんが投擲の特性を持ってない可能性もあるし、持っていたとしても直前まで光の操作を使ってたから、チャージが必要な応用スキルは使えなかったのかもね。さっきのは連撃じゃ意味ないし。


「うがー! 序盤でやるには性に合わない戦法の練習はもういいや! 『移動操作制御』『連脚撃・風』『並列制御・風』『重脚撃・風』『爪刃乱舞・風』!」

「ちょ、マジか!? やっべ、逃げよ! 『木渡り』!」

「あー!? 逃がすかー!」


 急に焼けずに無事だった木が次々と倒れ……というか吹っ飛ばされ始め、その合間からレナさんが飛び出てきて、小石を足場にして上空へ駆け上がっていった。

 どうやらカインさんも割と近くに潜んでいたようで、吹っ飛ばされた木から慌てて回避して、そのまま逃げ出している様子である。……2人とも、居場所が分からなきゃ盛大に無差別攻撃かー。まぁその手段を使いたくなる気持ちは分かる。


「ここでレナ選手が周囲の木々を盛大に蹴り飛ばしていき、それに慌てたカイン選手は逃げの一手を選択だー! それを徐々に強くなる緑色を帯びた銀光を放つレナ選手が追いかけていくー!」

「カインは下手にチャージの妨害をせずに、逃げに徹してそのままチャージさせて効果時間切れを待つつもりのようだな。あの感じだとレナの重脚撃はLv2での発動だから決して悪い手ではないが……」

「逃げ切れるかが問題だよなー。カインさんは木の枝を飛び移りながら逃げてるけど、レナさんは小石にしがみついてぶら下がって追いかけてるしね」

「そうなりますねー! そして片足で発動した爪刃乱舞に乗った風属性の追撃の風の刃で、カイン選手の掴んだ枝を切り落としたー! 果たしてカイン選手が逃げ切るのか、レナ選手が追いつくのか、これはどっちだー!?」


 なんというか居場所を探り出すのとチャージの時間を稼ぐという意図はあったんだろうけど、ちょっとレナさんの動き出しが早過ぎたような気はする。

 それに対してカインさんは思った以上に枝から枝への飛び移りながらの移動が早いから逃げ切れそうだよな。あれがカインさんが発動した『木渡り』ってスキルの効果か。


 てか、レナさん、今性に合わない戦法の練習って言ってたよな。どうにもレナさんらしくない戦い方のような気はしてたけど、この決勝戦で練習してたのか。まぁ隠れて奇襲というのもちゃんとした戦法ではあるから、それが悪い訳じゃないけどね。


「おわっ!」

「そこだー!」


 おっ、レナさんが風の追撃の刃でカインさんが掴んでた木の枝を切り落して、カインさんが地面に向かって落下し始めた。そのタイミングでチャージが終わったレナさんが、移動操作制御に使っている小石を足場にカインさんに向かって一気に距離を詰めていく。


「おぉーっと! ここで枝を切り落とされたのはカイン選手にとっては相当な痛手――」

「いや、今のはわざとだな」


 そうベスタが言うと同時に、カインさんは空中でクルリと華麗に向きを変え、レナさんの向かってくる蹴りを見据えている。あ、この対応の早さは確かに狙って作った隙の可能性が高いな。


「なんてな? 『アースウォール』!」

「およ!? これは失敗ー!?」

「なっ!?」

「なんちゃってねー!」


 ちょ、今のレナさんのすげぇ!? え、完全に防御体勢を整えたカインさんのアースウォールに対し、レナさんは移動操作制御の小石を自分自身にぶつける事で体勢を強引に変えていた。

 流石にレナさんの移動操作制御の小石は消滅してるけど、それでもチャージの強制解除だけは避けている。


「今のはレナ選手の動きはなんだー!? どうやら高水準な駆け引きがあったかのように思えますが!?」

「……解説はするが、少し待て」

「まだ終わらないぞ、この流れ!」


 確実に今の流れは解説が必要だとは思うけど、まだ2人の攻防が収まっている訳ではない。さっきのカインさんはわざと隙を作り、レナさんの攻撃を防ぐのを意図していた。それに対してレナさんは即興でそれを防ぐ様に動いてみせた。

 そこからカインさんは木々に覆われた中で地面へと着地し、レナさんは今まさにそのカインさんを狙ってアースウォールをよじ登り、そこから飛び降りて緑色の銀光を放つ蹴りを叩きこもうとしている。


「もらったー!」

「くっ!?」


 そこからカインさんは即座にアースウォールを解除するが、そこが判断ミスだった。解除してから他のスキルの再発動をする余裕が無かったようで、迫りくるレナさんの重脚撃を跳び退いて回避するのが精一杯だったようである。

 そして回避されるのを想定していたかのようなレナさんは、即座に次の一手に動き出していた。


「『連爪回蹴撃・風』!」

「ぐっ! ぐはっ!? がっ!?」


「何とかレナ選手の重脚撃を凌いだカイン選手ですが、そこに更なるレナ選手の連爪回蹴撃による連続回し蹴りで畳み掛けていくー! 流石に体勢を崩した状態からでは回避は厳しかったかー!」

「……ここでまたLv2での応用スキルで畳み掛けてくるか。これは決まったかもな」

「かなり無防備な状態で受けたから、こりゃ厳しいか」

「カイン選手、このまま敗北となるのかー!?」


 このままカインさんがレナさんの連続回し蹴りを受け続ければ、高確率でHPが全て無くなりそうな勢いでダメージを受けている。こりゃこのままレナさんの勝ちで終わるか……?

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