第799話 敵の纏属進化の条件


 みんなの所に戻りつつ、行動値や魔力値の回復も必要なので休憩も兼ねて雑談だね。敵の纏属進化の条件はちょっと気になる情報でもあるからなー。

 って、アルに情報の確認を頼んだけど、その前にみんなが見えてきた。……なんか海面に大量の影が落ちてきてるし、海中にダイブしてきている鳥の姿も見える。あれ、カモメの群れか。


 えーと、予想以上に攻撃的なカモメの群れになってるけど、とりあえず回復するまではスルーだな。もうかなり明るい場所に戻ってきたし、夜目も切っとこう。


<『夜目』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 20/69 → 20/70(上限値使用:9)

<『魔力集中Lv3』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 20/70 → 20/73(上限値使用:6)


 あ、夜目を解除してすぐに魔力集中の効果が切れた。ふむ、そんなに時間は経ってない気はしたんだけど、さっきの戦闘を始めてから14分は経ってたのか。ちょっと無駄に敵を増やし過ぎてたのや、昇華魔法で沈んでたのや、ジェイさんと斬雨さんの遭遇したので、感覚的より時間が経過してたのかもね。


「あ、ケイ、お帰りかな」

「ただいまっと。なんかカモメが予想よりも凄い事になってるけど、他には敵は出てたりする?」

「カモメ以外は今のところは大丈夫なのさー!」

「時々魚は見かけるけど、とりあえず急に襲ってくるのはいないね。逆に逃げていくタコはいたけど……」

「……その逃げたタコが気になるな」

「あはは、確かに逃げる敵は今までの経験上で経験値は多い傾向があるもんね」

「捕まえようと思ったら擬態して逃げられたのです!」

「……私とハーレでもその後は見つけられなかったかな」

「え、サヤとハーレさんでも見つけられなかった!?」


 ちょっと待って、その情報は予想外なんだけど……。サヤとハーレさんが見つけられない擬態を使うタコってヤバくない? そのタコ、思いっきり経験値が良さそうな気がするから是非とも倒しておきたいんだけど。


「よし、行動値と魔力値が回復したらそのタコを探すか」

「賛成なのさー!」

「岩に隠れられて見失ったけど、今度は見つけるかな!」

「……えっと、気持ちは分かるんだけど先にカモメじゃない? あれ、どんどん増えてる気がするし……」

「……え?」


 うぉ!? 海面の方を改めて見上げてみれば、海水にダイブしてくるカモメの群れが増えてる気がする!? っていうか、小魚の群れもいるみたいだから普通に捕食してません? 


「あのカモメって、どうすりゃ落ち着くんだ?」

「……ケイが攻撃してた群れのボスを倒すんじゃないかな?」

「あー、やっぱりそういう形かー」


 まぁ明確に俺が攻撃した訳だし、倒し切ってないからそういう行動パターンになっていてもおかしくはないか。……そうなるとやっぱり敵の纏属進化の情報が詳しく欲しいとこだね。


「アル、さっきから静かだけど、まとめ情報は微妙なのか?」

「いや、そういう訳じゃねぇよ。少し報告欄の方と、情報共有板も確認してただけだ」

「……情報共有板まで見てたって事は、何か最新情報があった?」

「あー、まぁまだ成果は出てないみたいだが、そういう事になるな」

「トーナメント戦の最中でも検証はやってるのかな?」

「普段よりはかなり人数は少ないみたいだが、普通にやってるようだぞ。むしろ彷徨ってる成熟体を狙うのに都合がいいと言ってたな」

「あ、そっか。人がトーナメント戦に流れてるから、巻き添えの可能性が下げれるんだね」

「そういう事だ、ヨッシさん」


 ふむ、まぁ確かに固定位置にいる成熟体はともかく、あちこちを彷徨ってる成熟体を利用するのであればそうなるよね。てか、成熟体を狙ってるって事は『烏合の衆の足掻き』の再現狙いか?

 でも、それじゃ今知りたい情報との関連性は……まぁあるんだろうけど、ここはちゃんと聞いておくべきとこだね。


「アル、その検証って敵の纏属進化と何か関係がある感じ?」

「おう、あるぞ。だが、その前に成熟体以外での条件を話しておいた方が良いと思うぜ」

「それじゃそこからよろしく!」

「おうよ。まぁざっくりと簡単に要約するが、普通の雑魚敵の黒の暴走種か瘴気強化種を生成魔法で作った環境に一定時間、閉じ込めれば進化するそうだ。ちなみに残滓は進化しないらしい」

「おー、残滓は進化しないんだー!?」

「残滓が一番弱いのは変わらないんだな。てか、生成魔法に限定されてるんだ?」

「拘束魔法では無理みたいだな。とりあえずザッと報告を確認したが、天然の水で進化した例も上がっていないぞ。ついでに纏属進化した個体を倒せば、その属性の『進化の軌跡』が確定で落ちるそうだ」

「……なるほどね」


 俺らプレイヤー側は属性を持つ敵の進化情報の塊の『進化の軌跡』か『進化の輝石』を利用して一時的に進化するけど、敵はプレイヤーの使う魔法を瘴気と一緒に扱う事で纏属進化をしているって感じか。

 しかも『進化の軌跡』の確定入手は地味に良い情報だから、妨害ボスの周回PTで集めてる人とかが狙いに行く可能性もありそうだね。


 さて、ここで重要になってくるのは天然産では敵は纏属進化をする事はないのと、魔法産を使えば纏属進化を誘発させられるという事だな。これ、意図的に狙った属性にする事も可能なんじゃ?

 あ、そこから更に付与魔法で別の属性の付与も狙える? ふむ、そうなると相手に弱点属性を無理矢理に作る事も出来そうだね。


「アル、質問。敵の纏属進化の有効時間は? ついでにそこに付与魔法で属性の上乗せは可能?」

「……よくすぐにその応用方法の発想を思いつくもんだな。有効時間は戦闘を続けている間で、付与魔法で属性の付与も可能だそうだ」

「お、やっぱり出来るのか」

「……それってフィールドボスに使うと便利じゃないかな?」

「あー、まぁそりゃそうなんだが、そこが中々曲者みたいでな……」

「アルさん、もしかしてフィールドボスが相手だと条件が違うの?」

「ま、簡単に言えばそういう事だな。普通の敵の進化には2分くらい閉じ込めておけばいいらしいが、フィールドボスだと10分くらいかかるそうだ」

「10分は現実的な時間じゃないのです!?」

「閉じ込めておくだけで10分はキツいな。それならその10分で倒した方がいいし……」


 うーん、良い手段だとは思ったんだけど、流石にフィールドボス相手にはそう簡単に使わせてくれる手段ではないかー。まぁ必要なメンバーが揃っていればかなり簡単に属性的な優位性を作り出せるんだから、そう簡単にさせてくれる訳もないよね。


 俺が魔法産の水で捕獲して水の纏属進化をさせて、更に水の付与魔法をかけて、その上でヨッシさんやサヤに電気魔法で攻撃とか出来そうな気もしたんだけどね。

 実行に移すのは不可能ではないけど、そこまで下準備に時間をかけるなら普通に戦った方が遥かに楽だ。


「ま、意図的に狙えたら有利になり過ぎるから仕方ない範囲だろ。むしろ天然産では勝手に進化しない方が朗報だぞ」

「それは確かにそうなのさー! 今の条件ならカモメを海水に落とし込んでも問題はないのです!」

「あ、そういやそうか」


 なんかいつの間にか攻撃に利用する為の方法で考えてたけど、元々は天然産で纏属進化が発生する危険性を確認しておきたかったんだしね。

 天然産であれば敵の苦手な環境は使っても問題ないと分かればそれで良い。ん? でもなんでそれが成熟体と……あぁ、そういう事か。


「あー、成熟体を使った検証って『烏合の衆の足掻き』の再現をしながら、魔法産の環境で纏属進化が発生するか試してるってとこか?」

「ま、そんなとこだな。すぐに破壊されて、2分も保たなくて分からないらしいが……」

「……あはは、それはそうだよね。昨日のアンモナイトの捕獲、大変だったもんね」

「そもそも今分かってる条件を満たす事自体だけでも厳しそうかな」

「昨日の捕獲は最長何分だっけ!?」

「あー、そんなの計ってる余裕はなかったし、そもそも気にしてなかったな……」


 条件的にはアンモナイトを生成魔法による岩や氷で拘束するというのは満たしていそうな気もするけど、時間的なところはさっぱりだな。ぶっちゃけ狙ってやっても相当厳しくない?


「とりあえず敵の纏属進化で分かってるのはそんなとこみたいだな」

「ほいよっと。これだけ分かれば充分!」

「だな。あ、そうだ。ケイ、夕方に『烏合の衆の足掻き』の検証案件を追加してたみたいだが、それは大正解だったらしいぜ。『格上に抗うモノ』の称号を持ってる事は必須条件だとよ」

「お、マジか! やっぱりそうだったかー!」

「ちなみに今は最低人数の検証中だとよ。……で、俺は全快したんだが、みんなはどうだ?」


 おっと、情報収集というよりは雑談に近かったけど、そうしている間にアルは全快か。俺は……お、全快目前だ……って思った瞬間に全快したね。ふー、全く戦闘をしてない状態なら回復は早めだから助かるよ。


「俺はちょうど全快したとこだな」

「私も全快なのです!」

「私も全快になったかな」

「同じく私も。みんな回復出来たみたいだね」

「みたいだな。ケイ、ここから指揮は頼んだぞ」

「ほいよっと。さっきサヤとハーレさんが見失ったっていうタコは気になるけど、まずはさっきから上でバシャバシャうるさいカモメを始末していくぞ!」

「「「おー!」」」

「……ケイ、指揮を頼むとか言ったとこで悪いんだが、今ふと思った事を言っていいか?」


 えー、このタイミングでアルが流れをぶった切るのか……。でも、このタイミングでアルがこういう事を言うなら重要な内容ではありそうだ。


「……どういう内容だ、アル?」

「今日はロブスターの連撃……届くのであれば、連鎖増強Ⅰを狙ってるんだよな?」

「……まぁそうなるけど、何か問題があった?」

「いや、問題って程ではないが、ログインしてるのはコケの方だよな?」

「そりゃ当然……って、あー!? 同調共有での登録!?」

「ま、そういう事だ」

「あ、ロブスターで新スキルが手に入る可能性があるのに、登録制だからすぐには使えなくなるのかな!」

「悪い、すぐにロブスターに切り替えてくる!」

「ケイさん、いってらっしゃーい!」

「あはは、まぁそういう事もあるよね」


 くっ、同調共有での登録の事をすっかり忘れてたけど、そりゃ重要ですがな! えっと、コケの方の登録枠数も増えてるからまだ未登録だけど使いそうなスキルを追加登録して、一旦ログアウト!



 ◇ ◇ ◇



 そして手早くロブスターで再ログインをして戻ってきましたよっと。ロブスターメインでログインする事は少ないけど、同調では操作性はどっちでログインしても対して変わらないはずだから大丈夫だよな。


「ただいまー」

「お、早かったな」

「ま、ログインを切り替えるだけだしなー」


 とりあえずロブスターの新スキルをいつ手に入れてもこれで大丈夫だろう。ふー、危ない、危ない。今日中に新スキルが確実に手に入る訳じゃないけど、手に入れたらすぐに試してみたいし、この方が確実だもんな。


 さて、俺が無駄に待たせちゃったけど、みんな全快してるからLv上げを再開していこうじゃないか。さて、あのカモメの群れをどう仕留めるか、それが問題ではある。

 出来ればみんなが鍛えたいスキルを中心に使っていきたいけど、どう組み立てていくのがいいか……。


「そういやアル、目印があればピンポイントでボスのカモメだけを海水の操作で捕獲は出来るか? 出来るよな?」

「あー、位置さえ正確に分かればな。昇華になってればそのまま群れごと巻き込みたいとこではあるが……」

「そこは俺がなんとかするから、合図をしたらみんなで海上に浮上。サヤとヨッシさんは、アルが海水で包み込んだら電気魔法を叩き込む感じでよろしく」

「うん、分かったかな」

「了解! でも、ケイさん? 今回は交代で回復しながらにはしないの?」

「うーん、普段ならそれでも良いんだけど、いつもと色々条件が違うからさ。とりあえずこのカモメの群れを倒すのにどのくらいかかるかも試しておきたいんだよな」

「あ、なるほど。それじゃとりあえず今回のは様子見って感じ?」

「まぁそんな感じ」


 このカモメの群れを全滅させるまでの全員の行動値の減り具合で、この後の戦闘での戦い方を考えないといけないしね。

 全員が消耗して余裕がないような状況であれば、海面ではなく、海の中で1体ずつ確実に倒していく方が良いだろうからなー。


「ケイさん、今回も私はザリ……ロブスターの上に乗っていく感じですか!?」

「……ハーレさん、相変わらず頭の中ではザリガニって呼んでるんだな」

「うー!? だって、ロブスターって言ったら、実際に食べた時を思い出して……ジュルリ」

「よし、分かった。今のは俺が悪かったから、その食べ物を目の前にした様子はやめような」

「はーい! それで結局私はどうすればいいのー!?」

「あー、今回はアルにある巣からで良いぞ。ただ、初手だけ投擲を頼む」

「良いけど、何を投げるのー!?」

「俺のコケ付きの石。遠隔同調を使って群れに突っ込んでくるから、その時に頼む」

「ケイさんがまた何かする気だー!?」

「いや、そりゃカモメの群れを倒す為に手は打つからな?」


 対抗するための手段としてやるんだから、そりゃ何かするって。前から遠隔同調と投擲の連携攻撃の使い方は考えたりしてたし、ここでその1つを試してみるまで!

 てか、普通に再ログインしてからアルのクジラの上にいたから失念してたけど、ログアウトで飛行鎧が解除になってるじゃん! いやいや、機動性が欲しいからこれは今は必須だよ!


<行動値上限を6使用して『移動操作制御1』を発動します>  行動値 79/79 → 73/73(上限値使用:6)


 ふー、これで飛行鎧の再展開は完了っと。でも、これに組み込んでいる増殖でのコケをここで使うのは微妙……というか、強制解除の危険性は上げたくないから、通常発動でいこう。その為にも……。


「って事で、ハーレさん、普通の小石を出してくれない?」

「良いけど、ケイさんの魔法産の小石じゃないのー!?」

「それだと他に試したい手段が使えなくなるから、ここは天然の小石にしときたいんだよ」

「そういう事なら了解なのさー! はい、どうぞ!」

「サンキュー」


 あ、俺のロブスターの背中にあるコケの上に置いてくれたっぽいね。これなら最小限の行動値の使用に抑えられる。


<行動値を1消費して『増殖Lv1』を発動します>  行動値 72/73(上限値使用:6)


 よし、小石にコケを増殖させるのはこれでいい。ふっふっふ、これで準備完了だ!


「……ねぇ、ヨッシ、アル? 今回はケイは何を狙ってると思うかな?」

「あー、目印とか言ってたから付与魔法を使う気でいるのは間違いないと思うが……」

「……ただの小石にコケだけだと食べられそうだよね?」

「確かにあのくらいの石なら普通に食ってくるよな。……その辺、どうする気だ?」

「ふっふっふ、それは見てからのお楽しみって事で!」

「あ、やっぱり何か手段があるみたいかな?」

「今回はどんなのだろうね?」

「ま、万が一失敗したら、俺が海流の操作でフォローするからな」

「そりゃどうも!」


 なんか微妙に失敗する可能性も考慮されているけど……まぁたまに本当に盛大に失敗するから、そう言われても仕方ない側面もあるな。まぁ試してみないと絶対に大丈夫とは言えない手段ではあるからね。


「あ、そういやハーレさん、魔力集中は?」

「今は再使用の時間待ちなので使えないです!」

「やっぱりか。……勢いが欲しいから、勿体無い気もするけど貫通狙撃を使ってもらってもいいか?」

「必要なら問題ないのさー! 『貫通狙撃』!」

「サンキューっと」


 さて、それじゃカモメの群れに飛び込んでいく準備をしていきますか。上手くいけばいいんだけど、どうなるかな?

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