第798話 沈んでいくと……


 ミスって沈み続けている最中に思う事。万力鋏と昇華魔法は一緒に使うもんじゃない! あ、でも問題になってるのは海で使ったからであって、陸地で使ったりするにはありか……? ふむ、空中から落下ダメージも狙いという手段もあるな。

 うーん、今回は海という環境とのミスマッチが原因だけど、場所を選べば有用か? 少なくとも完全否定する前に、色々と使い道が……あ、やっと昇華魔法の効果が切れた。デブリスフロウは発動が長めだから、時間がかかったな。


「お、昇華魔法の効果が切れたか」

「よし、これで動ける!」

「ところでケイ、途中で他の敵に昇華魔法が当たったりしてないかな……? 地味に経験値が入ってたのは気のせい?」

「……え? あ、さっきより経験値が増えてる!?」

「……あはは、気付いてなかったんだね」

「そこは結果オーライなのさー!」

「まぁそれは良いんだけど、倒せていない敵とかいたりしないかな?」

「……あっ」


 しまった、その可能性もあったのか。あー、その確認は確かに重要だけど、その前に移動を何とかしないと……。

 てか、結構深いとこまで沈んだみたいで周囲がちょっと暗いから光源を……いや、下手したら敵を引き寄せるからここは夜目でいこう。暗視が必要なほどではないしね。


<『大型化Lv1』の発動を解除したため、行動値上限が元に戻ります> 行動値 8/37 → 8/76(上限値使用:3)

<行動値上限を1使用して『夜目』を発動します>  行動値 8/76 → 8/75(上限値使用:4)

<行動値上限を6使用して『移動操作制御Ⅰ』を発動します>  行動値 8/75 → 8/69(上限値使用:10)


 これで暗闇での視界対策と移動については問題なし。周囲を見回してもパッと見では大丈夫そうだね。


「特に問題はなさそうだから、これからそっちに戻るわ!」

「それなら良かったかな」

「んじゃ、俺らは回復しながら待ってるぞ」

「ほいよっと」


 さて、それじゃ無駄に沈んじゃったけど、アル達のいる場所まで戻りますか。まぁ、戻るのにそこまで時間はかからないはず。……ちょっと不安ではあるから、獲物察知でも使っておくか。


<行動値を5消費して『獲物察知Lv5』を発動します>  行動値 3/69(上限値使用:10)


 えーと、灰色の矢印がちょっと離れた場所に点在しててるね。それに青い矢印や赤い矢印もチラホラといて……うげ!? 近くに何本も黒い矢印が結構あるし、その内の1本の黒い矢印がこっちに向かってきているじゃん。今の行動値も魔力値もほぼ尽きてる状態で、これはヤバい!?

 くっ、とりあえず大急ぎで海面に向かって移動するしかないか。変に余所見をすると速度が落ちるから、前だけ見て逃げるの優先!


「みんな、悪い! 獲物察知を使って確認したら、思いっきり追いかけてきてるのがいる!」

「……マジか。ケイ、行動値は残ってるか?」

「もうほぼ無い!」

「……だよな。また進化するかもしれんが、俺が魔力値を少し回復させてから水の操作で捕縛するから、ケイはそのまま連れてこい」

「ほいよっと!」


 おっ、アルも魔力値は尽きてるけど、行動値がちょっとでも残っていれば魔力値さえ回復させてしまえばその手があった! っていうか、俺もこの逃げながらの状態でアイテムを食べられれば出来なくもないけど……それでやるか?

 いや、その後がどうにもならないから、ここは引き連れて戻るだけに………って、あれ? 何か追いかけてきていた黒い矢印の動きが止まった……というか、消滅した……?


 ふむ、なんかその近くにさっきまではなかった青い矢印が2つあるね。ちょっと速度を落としてロブスターの背中のコケに視点を変えて確認してみようか。あ、思いっきり見覚えある2人組がいたー!?


「おっし、今のは割と成功だな、ジェイ!」

「まだ命中精度が甘そうなので、そこの特訓は必要ですが、今のでここの敵を一撃なら……っ!? ……目撃者がいるとは運が悪かったようですね」

「誰かいるのか!? ちっ、威力の確認をしたかったからってこうもピンポイントでかよ!」


 あ、ジェイさんに思いっきり気付かれた。いや、具体的に何をしてたか見てないけど、群集の占有エリアじゃないんだから文句を言われる内容でもないけどさ。


「ジェイさん、斬雨さん、俺だ、俺!」

「なんだ、ケイさんか。1人で海エリアにいるって珍しいんじゃねぇか?」

「あー、もうちょい上の方に他のみんなもいるぞ。ちょっと今は俺だけ逸れててさ」

「へぇ、そうなのか」

「……よりによって、目撃者があなたですか!? くっ、何たる失態……!」

「ちょ、ジェイ!? 目撃者が出る可能性は想定済みだろ!?」

「……それはそうですが、ここでケイさんが出てくるとは予想外でしょう!?」

「その言われ方は流石に酷くない……?」


 いや、確かにジェイさんの気持ちも分からなくはないけどさ。俺だって目撃者を想定して何かを試すにしても、そこにたまたまジェイさんがいたら警戒するのは間違いないしね……。

 あ、なんか斬雨さんが取り乱しているジェイさんのカニに向かって、タチウオの全身で振りかぶっている。あー、これは珍しいパターンかも。


「ちょっと落ち着け、ジェイ!」

「はっ!? ……すみません、ケイさん。変に取り乱してしまいました……。先程の発言は取り消します……」

「まぁそれは良いけど……」


 とりあえず斬雨さんに盛大にぶっ叩かれて、ジェイさんは冷静さを取り戻していた。うーん、流石はコンビで動いているだけの事はあるね、この2人。


「ケイ、もしかしてジェイさんと斬雨さんがそこにいるのかな?」

「あー、サヤ、大正解。ついでに追ってきてた敵を2人が倒したっぽい」

「あ、そうなのかな?」

「おいこら、それだと俺の食ったレモンが1個無駄になったじゃねぇか!」

「そこは俺も想定外だったんだけど!? てか、レモンならアルが自分で作ってるやつじゃね!?」

「おう、だから損害はまるでないな。まぁ言ってみただけだ」

「おいこら、アル!?」


 特に消費を気にする範囲のものじゃなかったなら、それを言わなくても良かったんじゃね!? くっ、アルめ、そうやってからかうのが目的か!


「まぁ冗談はそれくらいにしておくか。ケイ、話し込むのは良いが、早めに戻ってこいよ」

「あー、まぁそりゃそうだな。了解っと」


 俺らは今日はLv上げを目的にやってきているんだから、ここでジェイさん達と長々と話し込んでいる訳にはいかないもんな。……とはいえ、折角ここで会ったなら少し聞きたい事もあるんだよね。


「これはどうやら私達はお邪魔なようですね。斬雨、特訓は場所を変えてしましょうか」

「あー、そりゃ別に良いが……良いのか、ジェイ?」

「……見られた以上は分析されても仕方ありませんよ。そういう意味ではまだ完成形でなかっただけ良しとします」

「ま、気にし過ぎても仕方ねぇか」


 えーと、これは俺がジェイさんと斬雨さんが特訓している連携攻撃を完全に目撃したものとして話が進んでいる……?

 タイミング的にそれを前提にするのは分かるけど、実態としては俺は何も見てないんだけどなー。ぶっちゃけ俺を追いかけていた敵の姿すら確認出来てない訳で……。


 まぁ群集が違うんだし、警戒してくれているならそのままにしとけばいいな。……それにしても、ジェイさんと斬雨さんの特訓中の連携攻撃か。むしろ、俺らの方がその情報に警戒しておくべきかもね。


「……そういえば、先程のアンコウは横殴りになってしまってましたか?」

「あ、あのタイミングだとその可能性があんのか!? もしそうだったらすまん、ケイさん!」

「あー、それは大丈夫。さっきまで戦闘してて今は行動値も魔力値も空になってて逃げてたとこだから、むしろ助かった」

「なるほど、そういう事か! そりゃ良かったぜ!」

「……ケイさんが逃げの一手のみという状態で逸れている経緯は気になりますけどね。まぁそこを詮索するのは無しですか」

「……あはは、そうしてくれると助かる」


 言えない、いくつもミスを繰り返してほぼ自滅状態で沈んでいたとは……。てか、さっき追いかけていたのってアンコウだったんだなー。うん、とりあえず知らなかったという事は徹底的に伏せていこう。


「あ、そうだ、ジェイさん。ちょっと聞きたい事があるんだけど、いい?」

「答えるかどうかは内容によりますけど、何でしょうか?」

「えっと、タッグ戦の話。あれって海エリアでも別に開催するって事になったって聞いたけど、俺らの決めてたやつの開催場所はハイルング高原のみになったって理解で良いのか?」

「あぁ、その件ですか。まぁ海エリアが除外になったので、まだ色々と確定ではありませんが、おそらくそうなるでしょう。……そういえば、ケイさん達はタッグ戦の出場者の決定権はベスタさんに委ねたそうですね」

「まぁベスタを筆頭に灰のサファリ同盟に任せた方がスムーズに済みそうだったからなー」

「……確かにそれはそうでしょうね」


 ふむ、まだタッグ戦の日時は未定なままなのか。まぁ流石に今まさに出場者を決めるトーナメント戦の最中だし、誰になるかが決まらないと日程は確定は出来ないか。

 俺としては次の土日のどっちかに決まってほしいけど……あ、でも日曜日はバーベキューだから、それが終わったくらいの時間帯になるのがありがたいかも。まぁこれについては俺の都合だけでは決まらないけどね。


「そういや、今は灰の群集は実装したてのトーナメント戦を使って誰が出るか決めてるって聞いたぜ」

「おう、そうだぞ」

「……それにケイさん達が参加せずにここにいるって事は、タッグ戦には確実に出てこないのか」

「斬雨さん、それは正解!」

「ちっ、少しその辺を見るのを期待してたんだがな……。他に面白そうな奴が出てくりゃいいが、ベスタとかは出てくるのか?」

「あー、そこはノーコメントで。そういう青の群集は誰が出てくるんだ?」

「それについてはまだ私達もノーコメントですね」

「ま、そりゃお互いにそうだよな」

「そういう事になりますね」


 俺らの方はまだ未定だし、青の群集の出場者だけを教えてくれるような事はないよねー。んー、なんというかジェイさんと斬雨さんのコンビがタッグ戦に出てきそうな気はしてたんだけど、こうして聞いてみるとこの2人ではないよう気がしてきた。

 ……ん? あれ、何か少し違和感があるような……? 海エリアでこのコンビが連携の特訓をしていて、海エリアで別枠の対戦やる事が決定しているんだよな。海エリアで行う対戦がタッグ戦かどうかは分からないけど、もしかすると斬雨さんとジェイさんはそっちに参加か……?


「ケイさん、他に何か聞いておきたいことはありますか?」

「んー、とりあえず聞きたかったのはそんなもんだなー」

「そうですか。それでは私達は他のエリアに移動しますので、失礼しますね」

「ケイさん、またな!」

「ほいよ! ジェイさん、斬雨さん、またなー!」


 そうしてジェイさんと斬雨さんは帰還の実を使ったようで転移をしていった。ふー、まさかこのエリアであの2人と遭遇するとは思わなかったな。

 さて、それじゃ俺もアル達のとこに戻るか。地味にみんなの声はしてたけど完全に聞き流してたから内容は把握出来てないんだよね。今はみんな、何をしてるんだろ?


「海面の様子を確認してきたのです!」

「ハーレ、様子はどうだった?」

「一度海面に叩き落としたカモメを筆頭に、私達の真上にカモメの群れが集中してるのさー! 2対の羽があるカモメもいたのです!」

「……なるほど、そのまま見逃してくれた訳じゃないか」


 ほほう、どうやらあのカモメはただ空中に逃げ戻った訳ではなく、再び群れを形成して俺らを狙っているのか。でも海中までは攻撃をしてこないんだな。


「わっ!?」

「ハーレ、どうしたのかな!?」

「海面にカモメが突っ込んできたのさー!?」

「浅い部分なら突っ込んでくるのか。ハーレさん、1人だと危ないから一旦戻ってこい」

「了解なのさー!」

「えーと、とりあえずジェイさんと斬雨さんとの話は終わったけど、聞いてる感じだと海面の偵察中だった?」

「あ、ケイ。うん、そうなるかな」

「海面で戦う予定にはしてたし、あのカモメの様子が気にはなってたからな」

「とりあえず次の標的はそのカモメ達かな?」

「まぁLv上げが狙いなんだし、望むところだね」

「今度こそカモメの群れを仕留め切るのさー!」


 今日はLv上げをしていくんだから、既に集まってきている次の敵がいるのならそこを狙うのが確実だよね。

 まぁ予定外の事が多かったんだけど、とりあえず今はみんなのところに戻るのが先決だなー。って事で、再び飛行鎧を使ってみんなの元に移動を再開!


「あ、そうだ、アル。ちょっと確認」

「ん? なんだ、ケイ?」

「あの敵の纏属進化みたいなやつってさ、昨日のネス湖でのフィールドボスのキツネとか、成熟体のアンモナイトに発生した可能性ってあるのか?」

「……そういやどうなんだ? ちょっと待ってろ、さっきは流し読みだったからその辺をちゃんと確認してみる」

「おう、よろしくー!」


 昨日のネス湖でキツネを水に沈めたり、成熟体のアンモナイトを魔法産の岩や氷で固めて移動を封じたりはしたもんな。

 さっきの一戦では魔法産での苦手な環境を取り込んで進化するとは言ってたけど、天然産だとどうなるかとか、成熟体相手でも発生するのかが気になるところ。場合によってはそういう状況になるのを避けた方が良い可能性もあるし……まぁ成熟体に関してはまだ情報がない可能性もありそうだけどね。

 

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