第790話 海での移動
ちょっとトラブルもあったけど、アルに乗って移動開始である。さて、まずは初期エリアを抜けて、北へ進んで『海の新緑』まで行かないとね。
あ、そういや話そうと思ってた内容を確認していこ。
「えっと、さっきの共同体のチャットで忘れてた話が2つある気が――」
「あー!? そういえばトーナメント戦のテスト開催の報酬の決定を忘れていたのです!」
「……1つはそれだな。特に反対する理由も無いから弾の詰め合わせで良いけど、他に報酬って何があったんだ?」
「えっと、大体は共闘イベント報酬であったアイテムの詰め合わせと同じだったよ。そういう部分もあったから、貰った事の無い弾の詰め合わせを選ぼうって話になってたんだけど……」
「あー、なるほど……。それは納得」
共同体に対する報酬として、回復アイテム、食材アイテム、お茶の元になるアイテムとかは有用ではある。ふむふむ、基本的に消耗品の詰め合わせになってたのか。
そこに投擲用の弾の詰め合わせがラインナップに加わったのなら、既に交換した事がある物よりは交換した事がない物を選びたいよね。共闘イベントの詰め合わせ報酬はヨッシさんとハーレさんで全種類交換してるもんな。
「それじゃ弾の詰め合わせを貰っときますか」
「おー! やったー!」
さてと何を受け取るかは決めたけど、どこから受け取るんだろう? 共同体に関係してくるところだから、共同体の管理画面かな? ……うん、共同体へ報酬を受け取る項目があるからここで合ってるみたいだね。
えーと、交換候補の一覧を開いて……弾の詰め合わせで確定っと。これで……あー、俺のインベントリに入ってくるのか。これは俺が持ってても仕方ないので、インベントリから取り出してっと。
「ほい、ハーレさん」
「おー、革袋に入っているのです!?」
「……これ、革袋に用途があったりするのかな?」
「んー、確かにその可能性もあるよね」
「それも気になるけどまずは弾の確認なのさー!」
そう言いながらハーレさんは革袋の中にリスの手を突っ込んでいく。……流石に海中かつアルのクジラの背中の上ではひっくり返して中身を出す訳にもいかないもんな。
「えっと、まずは……あ、これは閃光弾になる果物だー!」
「ほほう、そうきたか」
「持ってるけどあんまり使ってないやつだから微妙ー! ちなみにこれは不味くて食べれないのです!」
「食った事あるんかい!? ……ちなみにどんな味?」
「えっと、なにか吐き気がする味! HPもちょっと減ったのです!」
「それって毒じゃね!?」
「そうかもしれないのさー!」
そうかもしれないというか、HPがちょっと減ってる時点で食べて良いものではないよね。まぁ食べる以外に使えという事なんだろうけど、ハーレさんもよく食べようと思ったな。……いや、見た目的にはリンゴみたいな感じだし、色合い的にはレモンに近い黄色だし、見た目は普通に食用にはなりそうではあるか。
「とりあえずこれが20発分なのです!」
「あ、それなりには入ってるのかな」
「そうみたいだね。ハーレ、他には何が入ってる?」
「えっと、次はこれなのさー! あ、花粉の弾だ!?」
「目的の弾が入ってたかな!」
「入ってて良かったよ。それで何発あるの?」
「こっちも20発なのさー!」
「お、一気に手に入ったな」
前に花粉の弾を使ったのは……俺の知ってる限りではレナさんとの模擬戦の時だから数は消費してないはず。アリスさんから氷柱と交換で手に入れた花粉の弾は確か5個だから、ここで20個の追加はありがたいね。
「使う時は慎重に選ぶ必要がありそうだが、今までの個数に比べりゃ使いやすくなったんじゃねぇか?」
「その通りなのさ、アルさん! ふっふっふ、対人戦で強い人が相手の時にこれを使うのです!」
「……あはは、それはされると嫌かな?」
「まぁあのレナさん相手に通じたもんね。……そう何度もは使えないだろうけどさ」
「確かにレナさんには2度と通用はしないだろうなー」
とはいえ、誰に対しても通用しないという事もないだろうし、不意打ちに使うのであれば警戒されていたとしても有用なのは間違いない。少なくとも陸上の動物系の種族、特にサヤみたいな近接メインの人相手にはかなり使えるはず。
「……サヤ、花粉対策は考えておこうな。まぁ基本的には俺が水魔法で防ぐか、洗い流すかするけどさ」
「……うん、確かにそれは本格的に考えておいた方が良さそうかな。えっと、花粉は火で防げたよね?」
「燃やせば問題ないのさー!」
「対策するなら竜で火魔法ってところだね。サヤの火魔法はLvいくつ?」
「今はLv4だったかな……?」
「だったらLv5まで上げて、ファイアウォールで焼き尽くすのがいいんじゃない?」
「もしくはウィンドウォールってとこか。あ、エレクトロウォールでもいけるか?」
顔に直撃しなければ花粉症の状態異常にはならないだろうし、防ぐ手段自体は防壁魔法ならどれでも大体大丈夫な気もしてきた。
あれ、言うほど役に立つのか、この花粉の弾……? 普通に俺らは防ぐ手段も回復する手段も普通にあるし、対応出来る人も少なくはないだろう。
「防壁魔法を使えるようにしておけば大丈夫そうかな……?」
「いざ対策を考えてみると、花粉の弾が役に立つのか微妙な気がしてきたぞ……」
「ケイ、それは違うぞ。花粉症にならなくても、妨害する効果はあるからな」
「……妨害する効果? あー、そりゃそうだ」
「ふっふっふ、警戒させる事こそ重要なのさー! 花粉の弾は着弾地点からそれなりに広がってたし、直接顔に当てる必要もないのです!」
よく考えてみたら単純な話か。花粉への対応をするのはそれだけで既に後手に回っている訳だし、防御行動をさせることで相手の行動に少なからず制限をかけられる。言い方を変えるなら、意図的に行動の誘導が出来るし、隙も作りやすくもなる訳だ。
「おーい、そろそろ『海の新緑』にエリアが切り替わるぞ」
「はっ!? 意外と早かったのさー!」
「初期エリアなんだし、こんなもんじゃね?」
「それもそうでした! とりあえず他の弾の確認は後回しなのさー!」
ま、本命の花粉の弾が手に入ったんだし、他の弾の確認はハーレさんが希望していた昼の日の海の新緑の景色を見てからでもいいか。既にハーレさんは革袋ごとインベントリに仕舞ったみたいだしさ。
どっちにしてもカイヨウ渓谷に行くまでの間でも、Lv上げにはならない移動時間がある訳だしね。
<『始まりの海原・灰の群集エリア5』から『海の新緑』に移動しました>
よし、エリアの切り替え完了っと。おー、俺の懐中電灯モドキの明かりだけで照らしていた昨日とはまた違った雰囲気だな。
今はどちらかというとアルは海底に近い部分を泳いでいるけど、海面から射し込む太陽の光が大量にある巨大な海藻を青々しく照らして出している。
海底側から見上げてみれば、海面に近付く事に明るく見える海藻の雰囲気が神秘的だね。ここまで大きな海藻が大量にあるから深さの割に他の海エリアよりも暗い気はするけど、それはそれで味がある感じだなー。
「流石はリアルで海の森と言われるだけの事はあるか」
「アル、これってそんな風に言われるのか?」
「あぁ、まぁな。ちなみにここの命名クエストの選択肢に『海の森』があったらしいぞ」
「あ、そうなんだ」
「私ならその『海の森』に投票したのです!」
「……そう言われてもこればっかりは多数決だし、俺もその時にいた訳じゃないからどうしようもねぇぜ?」
「まぁネス湖とか、明確にネタなエリア名になってるとこもあるしね」
「……あはは、確かにあれは完全にネタかな」
「うー、それもそうなのです……」
今のところ、命名クエストで一番のネタ命名はネス湖で間違いないよね。……あれは確実に自然発生のフィールドボスだった首長竜とセットのネタ候補だもんな。……時々変なとこにネタ要素があったりするし、あれは運営の遊び心で用意された選択肢なのは間違いない。
「はっ!? 昨日よりも魚が沢山いるのさー!?」
「なんか急に魚が出てきたな」
アルが少し巨大な海藻をかき分けながら進んでいたら、それから逃げるような感じで海藻と海藻の間にいた色とりどりの魚が逃げ始めたって感じだね。
あー、もっとよく見てみれば岩陰から顔を出している色んな種類の魚の姿も見えてるね。……魚の種類は詳しい訳じゃないから、名前が分からないのも多いけど。
「ここは撮られてる数が多いはずなので、個人的な好みだけで撮っておくのです!」
「ほいよっと。とりあえず撮り終わって満足したら言ってくれー」
「はーい!」
そうしてハーレさんはリスで上手く泳ぎながらこの光景のスクショを撮りに行き、それに合わせてアルは泳ぐのを止めていた。さて、ここはハーレさんの希望の部分だから、しばらくは待ちだな。
「刹那さんはここはほぼ成長体だけって言ってたっけ。特に何もせずにハーレさんを待ってる?」
「あー、俺は今のうちに少し魔法産の海水を海水の操作で制御するのを試しておきたいとこだな。まだ海じゃ1度も試した事が無いからな」
「そういやそうか。んじゃその辺を試してみるか?」
「ケイ達がそれで良いなら、そうさせてもらいたいとこだな」
「俺はそれで良いけど、サヤとヨッシさんは?」
「そういう事なら、アルさんの海水の操作と電気魔法の連携も確かめておきたいね。サヤはどう思う?」
「私も実戦前に試しておきたいかな?」
ふむふむ、今日はLv上げをメインにはしているけども、それと同時にアルの海水の昇華や、サヤとヨッシさんの電気の昇華と電気魔法の強化も狙ってるもんな。適正Lvを相手にぶっつけ本番で試すよりは、今のうちに雑魚を相手でも良いから試してみるのはありだよね。
「満場一致みたいだし、ハーレさんが満足するまではそうするか」
「だな。ところで、ケイはどうするんだ?」
「あー、俺か……。ロブスターの連撃を鍛えたいけど、組み合わせ的に素振り……?」
「……それはなんだか申し訳無い気もしてくるかな?」
「ケイさんもやる事がある内容に変える?」
「あー、その辺は気にしなくて良いって。新しい進化先を出す為に鍛えときたいのはみんな一緒だしさ」
普段は結構俺の検証や実験に付き合ってもらってる事も多いんだし、俺に気を遣って無理に内容を変えてもらう必要まではないしね。
それに1人でも出来そうな内容を今ちょっと思いついたから、これもやってみたいとこだ。……多分、今思いついたのは空中じゃ難易度が高いと思うから、海中にいる今の方が良い気もするしね。
「……ケイ、何か思いついてないかな?」
「1人での特訓方法は思いついたけど……また声に出てた?」
「ううん、今のは単なる勘かな」
「……あはは、今のはよく分かったね、サヤ」
「勘で見抜かれるとどうしようもないな……」
「あー、まぁケイがまた何かを思いついてるなら、今回は甘えさせてもらうか」
「うん、そうしようかな」
「それもそだね」
うんうん、今回はそれで良いのさ。ぶっちゃけ今回思いついた特訓方法は、1人じゃないとあんまり意味が無い気もするんだよな。
正直、俺は近接での連撃については苦手な訳ではないけど、操作系スキルの扱いよりは数段落ちるからね。そこら辺を少し底上げしておきたい。
「さて、それじゃサヤヨッシさん、やっていくぞ」
「うん、わかったかな」
「了解。あ、サヤ、どっちが先にやる? 多分同時だとお互い邪魔になるよね?」
「あ、確かにそれはそうかな。……ヨッシ、手本を見せてくれないかな?」
「うん、良いよ。それじゃ私からだね」
「まずはヨッシさんとだな。さて、獲物は……よし、黒いカーソルを見つけたぜ! 『シーウォータークリエイト』『海水の操作』!」
「え、あれ? アルさん、どこに生成したの?」
「ヨッシ、右前方の海藻の影にいるカワハギかな! 少し海水の流れが乱れたところ!」
「あ、地味に分かりにくいけど、あそこだね! 『エレクトロボム』!」
「ヨッシさん、ナイスだ!」
おー、アルがどこに海水の生成をしたのかが地味に俺も分からなかったんだけど、そこはサヤがしっかりと見極めていたようである。流石は俺らの中でもハーレさんと同等の観察眼の持ち主だね。……てか、冗談抜きで言われなきゃ周囲の海水とアルの生成した海水の差が分からん。
それはともかくアルが生成した海水を操作して覆ったカワハギは、魔法産の海水の中のみに効果範囲が限定されたエレクトロボムの電撃の直撃を受けて、即座にHPが無くなってポリゴンとなって砕け散っていった。
ふむふむ、今のが魔法産の海水の特有の効果か。聞いていた通り、海水の中では異常な程に広範囲化してしまう電気魔法の効果範囲を制限が出来るんだな。魔法産の海水の範囲も電気が通ればエフェクトが出て分かりやすいか。
「さて、次はサヤだな」
「頑張るかな!」
「……あはは、これってもしかして私よりサヤが向いてる?」
「え、そうかな?」
「……私はさっきアルさんが生成した海水の位置が分からなかったからね」
「確かにその辺はしっかりと事前に伝えといた方がいいのか。……てか、ケイの獲物察知で見つけた敵にしていけばいいんじゃね?」
「ん? あー、確かにそりゃそうだけど……今回は1人で連撃の特訓をするからパスな!」
「……ま、ケイも鍛えたいスキルがあるんだからそこは仕方ねぇな。サヤ、その辺のフォローを頼めるか?」
「それは任せてかな!」
「……私はその辺の観察眼を鍛えないとね」
地味に俺にも出番がありそうな流れにはなったけど、今回は思いついた特訓方法を試したいからね。それにいつでも獲物察知が使える訳じゃないし、今回の連携の特訓ならちょっとした変化で判断できる方がいい気がする。……俺も天然の海水と魔法産の海水の違いを見極めるのを頑張ろう。
さて、それじゃ俺は俺で1人用の特訓をやっていきますか! えーと、まずは丁度良さそうな大きさの石を探そうっと。
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