第775話 トーナメント戦『グリーズ・リベルテ』 その1


 さてと、トーナメント戦の開催は実行したし、実況も始まった。あ、少しだけトーナメント戦の開始まで猶予時間があるっぽい……というか、これはのフーリエさんと十六夜さんの試合開始の承認待ちみたいだな。

 十六夜さんはすぐに承認してくれたけど、フーリエさんの承認がまだだな。……フーリエさんの意気込みは凄かったけど、流石にいざ戦うとなると緊張してきたのかもね。


「えー、本日からテスト実装という事ではありますが、新たに始まったトーナメント戦! なんだか妙な流れで無所属のイブキ選手を迎え、私達『グリーズ・リベルテ』が実験的に小規模なトーナメント戦を開催する事になりましたが、開催の設定をしてみて如何でしたでしょうか、解説のケイさん?」

「んー、そうだな……。テスト実装だからまだ色々と微妙に不備がある気はするけど、情報ポイントで得られる報酬は良さそうだし、良いと思う。……一番の問題っぽいのは大規模になればなるほど、時間がかかりそうってのが……あ、始まるぞ」

「その辺は今話している場合じゃなさそうだな」

「その方が良さそうですね! それではトーナメント戦『グリーズ・リベルテ』の第1回戦、1試合目の始まりだー!」


 少し時間がかかっていたフーリエさんの承認だけど覚悟が決まったようで、対戦者の両者に承認された事で第1回戦が開始になっていく。

 ふむふむ、桜花さんが映し出してくれている中継画面は基本的にはいつもと一緒ではあるね。まぁトーナメント戦の名前と、第何回戦の何戦目かの表示があるくらいか。4人でのトーナメント戦だから第2回戦が決勝戦ではあるけど、大規模なら第3回戦・3戦目とかになったりするんだろうね。


 さて、ランダムにした対戦エリアは……ほう、こりゃフーリエさんに有利なエリアになったかな。そういや十六夜さんって、コケのフーリエさんを倒す手段は持ってるのか? ……持ってなければ、フーリエさんに全力がどうとかいう話にはならないか。


「さぁ、試合の開始までの時間に出場選手の紹介と参りましょう! まずは灰の群集の有名人、コケの人ことケイさんの弟子であるヘビとコケの融合種であるフーリエ選手だー!」

「あー、そこまでしっかり時間をかけて教えた訳でもないし、やったのはアドバイス程度だから弟子って程でもないぞ……?」

「……ケイさん、それはフーリエさんには言うなよ。結構そのアドバイスとかが嬉しかったらしくて、目標にしてるっぽいからな、ケイさんの事」

「え、マジで?」


 うぉ!? 今回のギャラリーである人達もみんな頷いてるし、割と今桜花さんが教えてくれた内容は知られていたっぽい。

 そっか、俺はそこまで大層な事はしたつもりは無くてコケ仲間くらいに思ってたけど、フーリエさんとしては俺は目標とか師匠的な立ち位置になってるんだな。……自分がどう思われてるのかって、自分じゃ分かりにくいもんだね。


「えー、時間もあまりないので次に行きます! フーリエ選手の対戦相手は、知る人ぞ知る灰の群集の隠れた情報提供者、十六夜選手だー! 正直、十六夜選手が参戦してきた事に私は非常に驚いています!」

「それは『スキル強化の種』が欲しくて、トーナメント戦の仕様を自分で確認したかったからみたいだな」

「十六夜がどうするか迷ってた時に今回の話が来て、『グリーズ・リベルテ』が主催って事で決めてたぜ。ま、俺の方に知っての通り中継に制限を頼まれたがな」

「そのような経緯があったんですね!」


 ふむふむ、十六夜さんが参戦を決めた理由が俺らにあるというのは地味に嬉しい事ではあるね。……イブキとベスタ以外の参加メンバーを探す時に桜花さんに話を持っていったのもタイミングが良かったんだろうな。

 おっと、そうしている内に試合開始のカウントダウンが進んでいく。さーて、どういう試合になっていくのか、楽しみだな。……カウントダウンも残り少し……3……2……1……0!


「さぁ、昼間の森林エリアを舞台としたフーリエ選手と十六夜選手の試合が開幕です! ちなみにエリアや天候の設定は固定でしょうか?」

「えっと、エリアも天候もランダムにしてるぞ。だから今回はフーリエさんにとって運良く有利なエリアだな」

「……まぁエリアは有利でも、Lv差がどうなるかが気になる所だな」

「そうですね! さぁ、どのような勝負を見せてくれるのか、今から楽しみです!」


 今のフーリエさんはヘビの形にならずにコケの姿になっていて、十六夜さんは微動だにせずに待ち構えるように佇んでいる。……一見すれば隙だらけにも見えるけど、十六夜さんがそんなに甘いはずがない。

 てか、中継だとコケの位置は分かりやすいように少しだけ色が濃く変えられてるのか。まぁ通常時だと分からなさ過ぎるもんな。


「……どうした? かかって来ないのか?」

「……迂闊に突っ込んだら、その時点で僕はすぐに死にますよね?」

「ほう? 意外としっかり判断は出来ているようだが……『土の操作』」

「っ!? 『群体化』『群体内移動』!」


 あー、とりあえずフーリエさんは逃げの一手を選んだか。それにしてもフーリエさんはさっきの十六夜さんに迂闊に手を出すと危険なのは分かってたんだな。……Lv差があってもあれだけ無防備にしていれば突っ込む人もいるだろうけど、そこら辺は慎重に動けるんだね。


「おーっと! フーリエ選手が迂闊に手を出せないでいたようですが、十六夜選手は容赦なく地面を抉ってコケを土ごと丸め込んでいくー! これはどう見ますか、解説のケイさん?」

「コケの移動を封じるのには視界を塞ぐのが有効だから、地面の土で群体化しているコケごと土の中に封じようとしたんだろうな。まぁそれだけだと倒すまでは出来ないから、今のは逃げられるのを前提にした攻撃だろ」

「……やっぱり同じコケを使ってるから、その辺の弱点は把握してるんだな」

「まぁぁー。ぶっちゃけ、十六夜さんの手の内は殆ど知らないからどうやってコケを倒し切るのか気になるところ」

「確かにそれは気になりますねー!」


 うーん、フーリエさんはかなり慎重に動いてはいるけど、かなりLvが上の十六夜さん相手だとどうなるか……。ぶっちゃけ同じLv帯だったなら、展開が読めない組み合わせだったかもしれないね。


「『シーウォータークリエイト』『海水の操作』……そこか」

「わっ!? 『群体擬態』『自己強化』!」


 あー、こりゃフーリエさんは防戦一方だな。ふむ、十六夜さんは片方は海の種族であるヤドカリだから、コケに対して有効である海水魔法をここで使ってきたか。

 コケの核の位置はキャラ名を表示する為にカーソルで表示はされているけど、群体内移動で移動されたら見失う事もある。……特に捻りもない常套手段だけど、有効なのは間違いない。


「十六夜選手は生成をした海水で森を無差別に攻撃し……おーっと、ここでフーリエ選手はヘビ型へと姿を変えてきたー!」

「ま、群体化出来る一般生物のコケを潰しにかかったからなー。まずはコケの逃げ道と増殖を防ぐのは順当な対策だな。……十六夜さんの操作精度は高いし、ヘビの姿になって自己強化で移動速度を上げるのはあり。てか、直接避けないと群体化出来るコケが無くなって増殖しか手段がなくなるな」

「……へぇ、割とコケの対策は単純なんだな」

「コケのみの場合は増やさせないのが重要だからな。逆に言うとそれが出来なきゃ倒せないとも言う」

「……そりゃそうだ」

「そうしている間にも、十六夜選手の海水の猛攻をフーリエ選手は躱していくー! ヘビ型へと変わって、素早く動きつつ、木に登る事もしながらだー!」


 へぇ、コケをメインにしたヘビとの融合種って事だったからどんなもんかと思ってたけど、コケのみでは不可能なヘビの動きを実現しているね。

 軽く見た感じでも、フーリエさんは結構な高水準でヘビ型のコケの操作が出来ている気がする。ただ、攻勢に移れそうな様子は欠片もないな。あ、十六夜さんがヤドカリの爪を構えた……?


「『魔法砲撃』『並列制御』『シーウォーターボール』『リーフカッター』」

「わっ!? 『群体化』『群体内移動』!」

「……ほう? 『アースインパクト』」

「……え?」


 あー、そういう手もありか。そりゃ十六夜さんは俺と同じで支配進化から同調なんだから、ヨモギの方のスキルも使うよな。フーリエさんも今のはよく避けたけど、十六夜さんの方が上手だったか。


「十六夜選手が放った乱れ舞う葉の刃で木が斬り刻まれ、落下していくフーリエ選手に海水の球が迫るが、フーリエ選手は群体内移動でそれを見事に回避するー! しかし、その直後を狙い澄ましたかのようにフーリエ選手は十六夜選手のアースインパクトに押し潰されていったー! 今のはどう見ますか!?」

「……今のは十六夜さんの手の内だな。多分、群体内移動で逃げられるコケを意図的に残してたんだと思うぞ」

「ケイさん、その根拠はなんだ?」

「それはアースインパクトの狙いをつけるのが早過ぎるからだな。元々狙ってなきゃ、もう少し群体内移動をした先の位置特定に時間がかかるはず」

「……なるほど」


 まぁコケ同士なら意外とすぐに分かったりもするんだけど、そうでなければ狙っていなければ今のタイミングでアースインパクトを直撃させるのは難しいだろう。

 それにしてもコケがメインの融合種だからか、ヘビ型でも普通に群体内移動が使えて、その移動先で周囲の直接触れているコケを固めてヘビ型に出来るんだな。……コケ渡りとは似ているようで、微妙に性質が違いそうだ。


「んー!? おっと、これはフーリエ選手に朦朧が入っているのかー!?」

「あ、ホントだな。……そうか、ヘビの特徴も引き継いではいるんだな」

「こりゃ終わりか?」


 でも、そのフーリエさんの様子を見ても十六夜さんは追撃をしようとはしていない。フーリエさんのヘビ型のコケはアースインパクトの衝撃で千切れて……あ、潰れたコケは駄目になってないか?

 へぇ、威力次第ではコケを直接潰して駄目にするって事も可能なんだな。多分この辺はステータス差とかが影響してる気はするけど、これは地味に知らなかった。……何かに使えそうだな、この手段。


「フーリエ、まだやるか? やるのであれば――」

「……十六夜さん、手加減はいらないです!」

「……そうか、よく言った。ならば全身全霊で潰してやろう」

「元々、覚悟の上ですから!」

「そうだったな。『並列制御』『アースクリエイト』『アースクリエイト』『並列制御』『岩の操作』『岩の操作』!」


 あー、今回の一戦はこれで決着っぽいね。というか、十六夜さんはこれでほぼ行動値は使い切ったんじゃないか? ……それにしても、十六夜さんはコケを仕留める手段は複数持ってたか。


「ここで十六夜選手が大技を発動してきたー! 朦朧で動けず地面に倒れ伏すフーリエ選手を持ち上げる岩と、その上部にもう1つ岩が生成されていくー! これは……2つの平たい大岩にフーリエ選手が挟み込まれて潰されたー!?」

「あー、多分まだそれだけじゃないぞ」

「……ケイさん、どういう事だ?」

「……見てれば分かる」

「それはどのような事が……おーっと、フーリエ選手を挟んだ岩が回転して、磨り潰していくー!?」


 やっぱり想像通りにやってきたか。いくらコケが死ににくいとはいっても、岩で挟まれて磨り潰されれば無事であるはずが無い。

 事前に群体化で離れた所に群体を用意していればそっちに核が移動して脱出は出来るだろうけど、十六夜さんは的確に周囲の一般生物のコケを海水で枯らしていた。


 どこまで狙っていたかは本人に聞かなければ分からないけども、大筋としては十六夜さんの狙い通りだろうね。まぁ、途中までの様子を見る限りでは海水魔法だけでも十分対応出来てた気はするから、最後に並列制御で岩の操作の使ったのはフーリエさんの意気込みに対する十六夜さんなりの返礼なんだろう。

 さて、中継画面には勝者として十六夜さんの名前が表示されている。これで正式にトーナメント戦の1戦目は終了だな。


「フーリエ選手の群体数が全て無くなり、これにて第1回戦、1戦目は決着ー! 勝者、十六夜選手ー! フーリエ選手も健闘しましたが、流石にLv差からくるステータス差は覆せなかったようですね。それでは解説のケイさん、総評をお願いします!」

「ほいよっと。まぁ今ハーレさんが言ったけど、Lv差がかなりあったからなー。でも、殆ど手の内は出せてなかったとはいえかなりプレイヤースキルも結構高そうだし、今後の成長に期待だな。明日の俺とフーリエさんの模擬戦では、ガッツリ鍛えてみるか」

「ん? ケイさんとフーリエさんって、明日模擬戦をやるのか?」


 あ、しまった。これは思いっきり個人的な内容だから、今話すべき内容じゃない。内容自体は話しても良いけど、話すならトーナメント戦が全部終わってからだな。


「あー、桜花さん、言い出した俺が言うのもあれだけどとりあえずその件は後回しで。今話す内容でもないし」

「……そりゃそうだ。で、十六夜さんの方はどうだった?」

「そっちはまだまだ未知数だな。まぁこれで十六夜さんは決勝戦に進出だからそっちで見れるだろ」

「はい、総評をありがとうございました! それでは少しの休憩を挟みまして、第1回戦の2戦目の実況を引き続き行っていきたいと思います!」


 そのハーレさんの言葉で1戦目のフーリエさんと十六夜さんの試合は終了となった。トーナメント戦の演出としても試合は終了になったし、中継画面はトーナメント表に切り替わって十六夜さんが勝ち進んだという表示になっていった。

 ふむふむ、この辺のトーナメント表の表示は分かりやすくていいね。あ、2戦目の開始はすぐには不可能で最低でも3分間は待たないといけないのか。


「ケイさん、負けましたけど僕なりに頑張りました!」

「みたいだな、フーリエさん。とりあえずそこで居ても仕方ないだろうから、こっちにやってこい」

「はい、分かりました!」

「……そういや桜花さん、フーリエさんは樹洞に入れる?」

「あー、フーリエさんとフレンド登録をしてる訳じゃないから今のままだと無理だが……えーと確か設定で……あぁ、これならいけるな。フレンドの連結PTメンバーまでなら許可が出来るぞ」

「それじゃそれで頼む」

「おうよ!」


 さてと、知り合い特権ではあるけどもこれでフーリエさんも桜花さんの樹洞には入れるな。ふむふむ、負けてからなら普通に連結PTでの会話は届くようになるんだね。勝ち抜いた十六夜さんの方と会話をするのには呼びかけ機能を使わなきゃ無理なんだな。


 それにしてもサヤやヨッシさんを筆頭に他の人達も色々と盛り上がってはいたんだけど、流石にそっちまで意識を割くのは厳しかったね。ま、中継画面に集中して分析する必要もあるからその辺は仕方ないか。

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