第772話 参戦者が出揃って
森林深部に戻って、見えてきたエンを通り過ぎ、その更に北側の崖の上にいるタケノコのベスタの所まで移動していく。さて、もう少しで到着だな。
えーと、タケノコのベスタとハーレさんと……もう1人いるけど、ちょ!? え、ソラさんとか想像してたけど、この人は全く想定外なんだけど!?
「……あはは、十六夜さんがいるみたいかな」
「……ちょっとどころか、もの凄く予想外だね」
「十六夜さんがこの手の事に参加してくるとか予想外過ぎる……」
「あのヤドカリの十六夜さんって凄い人なんですか?」
「あー、フーリエさんは知らないのか。十六夜さんは……多分俺より強いぞ」
「え、そうなんですか!?」
まぁ十六夜さんは完全にソロで動いていて、他の人との交流をほぼしていない人だからフーリエさんが知らなくても仕方ないか。……まぁ実際にそんなに十六夜さんの戦い方は知らないから、明確に俺より強いとも断定は出来ないけど……少なくともかなりの実力者であるのは間違いない。
それにしてもよく十六夜さんが……あー、でも桜花さんとは繋がりがあるから、そこから今回の件に関わってきた?
ふむ、十六夜さんはソロではあっても検証はするし、情報を独占する人でもない。俺らが主催という事と、ベスタや桜花さんから話が行った事で了承したとかそんな感じか。ま、その辺は本人に聞いてみればいいか。……教えてくれるかは分からないけど。
「あっ、あの岩山でドラゴンと戦ってたヤドカリのやつか! こりゃテンションが上がってきたぜ!」
そういやイブキも岩山でドラゴン相手に十六夜さんが単独で戦っていた様子は見ていたんだったっけ。まぁ戦闘好きなイブキからしたら、そりゃ嬉しい対戦相手ではあるだろうな。まぁトーナメント戦の組み合わせ次第だから戦えるかどうかは分からないけどね。
「ん!? ベスタがタケノコになってんのか!?」
「まぁ、見ての通りだな」
「あー、そういう事か! ベスタじゃなくてケイさん達が迎えに来たのも、俺に頼みがあるって事も!」
「……まぁ、とりあえず近くに降りるぞ」
「おうよ!」
そうして俺らが戻ってくるのを待っていたベスタ達のすぐ近くに降りていく。とりあえずみんなが地面に降りたのを確認してから、岩の操作を解除っと。
うーん、普段から移動操作制御じゃなくて、この方が良いのか? でも、移動で通常発動にしたら他のスキルが使えなくなって不便だし、悩ましいとこだね。
「戻ったぞ、ベスタ。それに十六夜さんもこんにちは!」
「……あぁ、数日ぶりだな」
「それで、何がどうしてこうなった?」
「たまたま桜花の所に十六夜がいてな。ちょっと条件付きではあるが、今回の検証に付き合ってくれる事になった」
「……条件付き?」
「……それは俺が説明しよう。トーナメント戦の報酬が魅力的ではあったが、あまり目立ちたくはなくてな。トーナメント戦では中継範囲を指定した不動種のプレイヤーのみに許可ができるという話を聞いたから、桜花の所でのみ中継という条件で参加を承諾した」
「え、トーナメント戦の中継にはそんな設定があるのか?」
あー、そういや中継機能は大体一緒みたいな言い方はしてたけど、全く一緒とは言ってなかったっけ。ふむふむ、これまでの模擬戦でも中継の設定項目は色々あったけど、指定した不動種のみというのは初めてだね。
「桜花に話をしている際に俺も詳しく知ったとこでな。どうやら桜花の所に十六夜みたいに目立ちたくはないが、トーナメント戦の報酬には興味があるという意見が集まっているそうだ」
「私もラックから聞いたのさー! ラックから聞いた推測だけど、トーナメント戦だから多くの人に手の内を探られたくない時に使いたいという話です!」
「……なるほどね。え、でもそれって全員が同意した状況じゃないと無理じゃね?」
「それは参加の段階で表示されるそうなのです! それでね、トラブってたのはその辺も含めて色々な追加の仕組みがまだみんな分かってなくて混乱してたんだってー! 全部中継されるのが分かってキャンセルする人が出たり、参戦登録はしたけど思った以上に時間がかかりそうでどうしようか悩む人もいたそうです! 灰のサファリ同盟もまだ色々と把握しきれてなくて、小規模なトーナメント戦を実際にやった共同体から聞きながら調整してるんだってさー!」
「あ、それで妙な感じになってたのかな」
「そうなのさー! 灰のサファリ同盟の開催したお試しのトーナメント戦そのものに不具合が発生していた訳ではなかったのです!」
「……あはは、灰のサファリ同盟も大変だね」
要するに何かトラブってたように見えたのは、その辺の新たに加わった設定項目の事がよく分からずに戸惑っている人が結構いて、その事態の収集を灰のサファリ同盟がやってたって感じか。
そして把握しきれていないのは開催している灰のサファリ同盟も同様で、把握しながらやっていると……。うん、ご苦労さまです。
「とりあえず大体の事情は分かった。あ、そういやさっきハーレさんに伝言は頼んだけど、今回の参戦希望のフーリエさんを紹介しておくよ」
「あ、はい! コケとヘビの融合種のフーリエって言います! まだ未成体になったばかりですが、今日はよろしくお願いします!」
「……あぁ」
「フーリエだな。……正直、進化したてでは誰と対戦になっても即死の可能性もあるが良いのか?」
「ベスタさんの気遣いはありがたいですが、それでも構いません! 負けたとしても得るものはあると思うので!」
「……そうか。なら、止めはしない」
「はい!」
おー、フーリエさんはやる気満々だな。てか、あえて聞いてなかったけど、やっぱりコケとヘビの融合種なんだね。……ちょっとどういう戦い方をするのかが楽しみではある。
「ははっ! フーリエさん、良い度胸をしてるじゃねぇか!」
「イブキさんも、もし対戦になったらよろしくお願いします!」
「おうよ!」
「……向上心は充分か。これは意外と楽しめそうだな」
ほほう、イブキも十六夜さんもフーリエさんに対して結構好印象みたいだね。まぁ、まだ未成体になったばかりなのに、それでもこのメンバー相手に気後れせずに戦おうとする意気込みは良し!
「さて、イブキに少し話がある」
「……それは俺もだな」
「そうか。軽く聞いた感じではあるが、どうやら情報の行き違いがあったようだが……」
「……なんつーか、正直それはすまんかった! ここまで混雑してるとは思ってなくてな……」
「……まぁ、済んだ事はいい。こちらも必要以上に警戒をした面もあるから、お互い様だ」
「そう言ってもらえると助かるぜ! ところで、俺への依頼があると聞いてたんだが、俺がベスタのタケノコを進化の為にぶっ殺せばいいのか?」
「話が早くて助かる。頼めるか?」
「迷惑をかけたみたいだし、それくらいは任せとけ!」
「え? あ、そういう状態なんですね!」
「そういう事だな、フーリエさん。とりあえず俺らは邪魔だから離れとくぞー」
「はい!」
そうしてベスタのタケノコとイブキの龍が対峙するようになり、他のみんなは少し距離を取ってその様子を見守っていく。……って、なんかハーレさんがソワソワし始めたな。これはあれか、実況をしたい感じか。
「ハーレさん、実況をしたいのか?」
「したいけど、やっていいですか!?」
「……別に俺は構わんぞ。イブキはどうだ?」
「別に問題はねぇけど、瞬殺するとこの実況ってどうなんだ?」
「そこを気にして、言い出せなかったのさー!」
「そこは気にしてたのかな……」
「……あはは、そういうとこもハーレらしいけどね」
まぁ実況をするにしてもイブキがベスタのタケノコを瞬殺して終わりだろうからなー。あまりにも短いだろうし、やって意味があるかと言えば……意味はないよね。
「まぁそこはハーレの好きにしろ。イブキ、頼む」
「おうよ! それじゃ輪切りにしてやるぜ! 『回鱗鋭刃舞』!」
「おおっとー! イブキ選手の風属性の龍の複数の鱗が銀光を放ちながら、回転しながら飛び上がっていくー!」
「あ、結局やるんだね」
「これは前に見た応用スキルかな?」
「そういやこんなのもあったな」
龍には鱗があるから、鱗を回転させながら飛ばして切り裂いていくスキルがあるんだよな。前に見たのは俺とサヤが、羅刹とイブキのタッグと対戦した時か。
あ、そういやサヤの竜も鱗はあるから、もしかしてこのスキルを覚えたり……って、駄目か。銀光を放っている以上は応用スキルだし、斬ってるスキルだから多分斬撃の特性が必須だろうしね。
サヤの竜には斬撃の特性はないし、なんとなく操作感が操作系スキルに近そうに見えるから、このスキル自体がサヤには不向きっぽい気がする……。
「さぁ、イブキ選手の鋭い刃と化した多数の鱗がベスタ選手のタケノコを上から輪切りにしていくー! 幼生体では未成体の応用スキルの前にはなす術もないー! さて、これをどう見ますか、解説のフーリエさん!」
「え、僕が解説なんですか!? えっと、応用スキルを使う程の事は無かったんじゃないかと思います」
「はい、ありがとうございます! どう見ても過剰攻撃ではありますが、魔力集中を使っていないだけ少しマシではありますね! そしてベスタ選手のHPは全て無くなり、ポリゴンとなって砕け散っていったー!」
「そこは自由にさせてくれね!?」
うん、これに関してはイブキに同意。……まぁそれは良いとして、ベスタのタケノコはポリゴンとなって砕け散っていったけど、そういやリスポーン位置の設定はどうして――
「そして、進化を終えたベスタ選手が地面から新たなタケノコとして生えてきたー! これは少しタケノコが大きなったように見えますね!」
「よし、進化は完了だ。……とりあえず成長体になったタケノコの育成は後回しか」
あ、すぐ近くにリスポーンの位置設定はしてたんだな。……どういう風に進化をしたのかが気にはなるけど、まぁまだ成長体になったばかりだから明確に育成の方向性を決めていくのはこれからか。
融合種に更に融合進化が可能か試すと言ってたけど、ベスタのタケノコがどんな風に進化していくのかが楽しみだね。どんなに早くても成熟体に進化してから……いや、それだとベスタのオオカミが成熟体に進化が出来なくなるから、実行に移せるのはかなり先?
あ、そうでもないか。オオカミを未成体で止めておけばタケノコが未成体になってすぐに共生進化にして、オオカミとコケで融合進化が実行出来るもんな。
ステータスとか色々と勿体無い事にはなるけど、ベスタなら複合解除薬を使って元に戻しそうだね。うん、ベスタならこの可能性が高そうだ。融合進化が可能かどうかは、共生進化になればすぐに分かるだろうしね。
「という事で、ベスタさんの進化の実況はこれにて終了です! 実況は私、リスのハーレと!」
そこでハーレさんが言葉を止めて、フーリエさんの方をジッと見ている。……うん、突発的にフーリエさんを巻き込むのはやめようか、ハーレさん。
「え、えっと、解説のフーリエでお送りしました……?」
「……終わってから言うのもなんだけど、無理にハーレさんに合わせなくても大丈夫だからな、フーリエさん」
「あ、はい」
「ハーレ、フーリエさんを無理矢理に巻き込まないの!」
「あぅ、ヨッシに怒られた……。ごめんなさい、フーリエさん……」
「いえ、いきなりでびっくりしましたけど、あれくらいなら大丈夫ですよ!」
最近はちゃんと相手の意思確認をするようにしていたハーレさんだけど、元々の性格が変わった訳ではないんだし、こういう時もあるんだな。……また何か抱え込んでるとかあったりしないよな? うーん、今なら何かあればヨッシさんがフォローしてそうではあるけど……。
「あー、とりあえず俺がするのはこれで良いんだよな?」
「あぁ、助かったぞ、イブキ」
「おぉう、いつも羅刹に怒られてばっかだから、そういう風に感謝を言われるとどうも調子が狂うぜ……」
「そんなに怒られてるのか……」
「そうだぜ、ケイさん! ま、今は1日1回怒られるかどうかくらいには減ってるけどな!」
「……まだ十分多い気がするんだけど」
「そうかー?」
てか、減って1日1回って元々どんだけ怒られてたんだよ!? まぁ今まで遭遇した時の事を考えれば、1日1回どころではなかったのは間違いなさそうだけど……。
「ベスタの進化が済んだなら、トーナメント戦の方をやって欲しいんだが……」
「あ、それもそうだな。えーと、とりあえずどうすりゃ良いんだ?」
「それなら『グリーズ・リベルテ』のリーダーであるケイがエンの所まで行ってトーナメント戦の開催を行ってくれ」
「……ケイ、桜花から聞いた話ではトーナメント戦の参加に制限をかけるパスワードの設定と、中継の対象を指定する設定があるはずだ。中継の対象はフレンド登録をしている不動種の一覧が出るそうだから、そこで桜花を指定してくれ」
「それが十六夜さんの条件だもんな。そこは了解っと」
とりあえずトーナメント戦の開催は共同体のリーダーが設定する必要があるみたいだから、ここは俺がやらないといけない部分だな。えーと、他に確認しておくべき事は……。
「そういや参加の為の情報ポイントの徴収や、賞品の設定は?」
「今回は無所属の参戦状態に関する検証だから、情報ポイントは0ではないほうが良いか。とりあえず参加費としての情報ポイント100で良いだろう。……賞品はどうする?」
「……桜花から軽く聞いた話では徴収した情報ポイントの総数で設定出来る賞品は変わるらしいが、400ポイントでは対した物は設定出来ないだろう。俺は総取りを提案するが、どうだ?」
「俺は十六夜の提案に賛成だな」
「お、総取りか! 無所属の俺が参加する事でどんだけ上乗せされるかが楽しみなもんだぜ!」
「僕もそれで良いですよ!」
「よし、それじゃそう設定してくるわ!」
とりあえずこれでトーナメント戦の重要な設定項目は良いはず。天気とかエリアとかはどうしよう? ま、それはエンの場所に行って設定しながら考えれば……それなら、ここでPTを組んでもらって連結していった方が相談しながら設定も出来るか?
「あー、悪いんだが設定は少し待っていてくれ。オオカミでログインし直してくる」
「あ、そういやそうだった」
「……まぁ、それは仕方ないか」
「おう、待ってるぜ!」
「はい、待ってます!」
今のベスタは成長体に進化したばかりのタケノコだから、このままじゃ同じトーナメント戦には参戦出来ないもんな。とりあえずベスタが一度ログアウトをしたので、オオカミで再ログインしてくるまで待機だね。
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