第749話 作戦の実行場所へ
さてとベスタからのフレンドコールが来て、イカとアンモナイトを本格的に相手にする準備が進んでいるみたいだね。ベスタはちょうどイカとアンモナイトに実際に対峙していくメンバーに声をかけている最中だろう。
俺らも声をかけられた訳だけど、ここまで来てみんなが断る訳はないとは……って、みんな思いっきり俺の方を見てるー!? まぁ俺の方の声は聞こえてるんだし、話の内容自体は察しはつくか。
「ベスタはなんだって? 聞いてた感じでは集まるっぽいように聞こえたが……」
「まぁズバリそのまま集まってくれってさ。全員にじゃなく、何人かに直接声をかけてるっぽいけど」
「つまりリーダーからの作戦決行メンバーに選ばれた訳であるな!」
「あー、そういう言い方でも合ってるか」
ふむ、ベスタは全員に声をかけてる訳じゃないんだから刹那さんの言い方は正しいよな。まぁ誰でも無制限に組み込めるって訳でもないし、こういう形になってくるのは仕方ない。
折角ならここに集まってきているみんなが参加していけるような最終戦にしたいけど……流石にそれは人数的に厳しいかな? イカを見つけるまでは人海戦術で人数が多い方が良いけど、いざ倒そうという段階でそれは無理だしな。
「あ、情報共有板の方に全体への呼びかけも出てるかな」
「お、そっちにも出てるんだ。サヤ、どんな内容?」
「えっと、イカとアンモナイトの間に集まって邪魔な敵の排除と経路の確保をしていくって内容かな」
「みんなでイカを逃さないように囲い込む作戦みたいなのさー!」
「イカとアンモナイトは今ベスタさんが声をかけている人達で相手をするけど、万が一の逃亡を防ぐつもりみたいだね。水流の操作や海流の操作とかを色々使って逃げ道を塞いで、その隙間も近接の人達で塞ぐんだって」
「あー、そういう感じか」
ふむふむ、さっきは大人数では無理だとか思ったけど、これは徹底的に大人数がいる事を利用した作戦だね。もうイカを逃がす気が欠片もないし、今このカイヨウ渓谷に来ている人達で完全な包囲網を構築する気だな。
そこまでするならみんなで飽和攻撃をしてイカを仕留めればアンモナイトにイカを倒させる意味がないような気もするんだけど、まぁそれをするのは野暮ってもんか。みんなでのお祭り騒ぎの最後を盛大にやろうって事なんだろうしさ。
「さてと、みんなに最終確認! 多分俺らが相手をする事になるアンモナイトが一番死ぬ可能性が高いけど、それでもやる? 選択肢としてはベスタから話は断って包囲網の方に参加するって手段もあるにはあるけど……」
「ケイ、それは愚問だぞ」
「そうなのさー! ゲームなんだし死ぬのに怯える必要なんて皆無なのです!」
「ここはやり甲斐のある方の一択かな!」
「わざわざベスタさんが声をかけてきてくれたんだしね。変に断るのも他のみんなに失礼だよ」
「拙者は拙者自身が提案した作戦なので、断る理由など皆無なのである!」
「ま、そりゃそうだよな。ここで断るなんて事は愚問だよな!」
元々今日はイカの討伐作戦に参加しに来たんだし、ここでわざわざ引き下がるような事をする理由は皆無。一応みんなの意思を無視して俺の独断で決定する訳にはいかなかったけど、ほんと聞くだけ愚問な内容だったね。
アンモナイトへ俺達が直接攻撃をするかどうかはまだ未確定だけど、成熟体を相手に全滅する可能性とかはゲームなんだし問題はない。気を付けるべきは俺らが全滅する事じゃなく、イカを取り逃がす事。それだけは絶対に避けないと……。
「よし! それじゃイカの討伐作戦、最終段階をやっていくぞ!」
「「「「おー!」」」」
「委細承知!」
「刹那さん、アンモナイトのいる場所の手前にある比較的浅い岩場は分かる?」
「それは……あそこであるな! もちろん分かるのである!」
「よし、それじゃ移動方向の誘導を頼んだ。アル、刹那さんの誘導に合わせて移動をよろしく」
「おうよ! 刹那さん、どっちだ?」
「承ったのである! 方角としてはここからなら少し南寄りに東であるな!」
「おし、こっちだな」
多少は集中したので疲れたのも軽減されたし、向かうべき場所の方向もやるべき事も決まったから移動開始だな。
「ケイさん達、頑張れよー! そういやソウさんはどうなんの?」
「俺はリーダーからの参戦要請が、シアンから連絡が回ってきたからケイさん達と同じだな」
「お、そっか! それじゃソウさんも頑張れな!」
「……そういうザックさんはどうすんだ?」
「ん? 俺はそろそろ迎えが来るから……お、来たな」
あ、そういや思いっきり近くにいたザックさんとソウさんの事を忘れてた。ふむ、ソウさんは俺らと同じ振り分けのようだけど、ザックさんはそうではないっぽい。
まぁザックさんは無謀な無茶で成果は出してるみたいだけど、プレイヤースキルが高いかというとそうでもないっぽいからなー。いや、あの躊躇の無さはそれはそれでプレイヤースキルなのかもしれないけど……。
「おし、到着だ。って、ケイさん達も一緒だったのか」
「おぉ、ジンベエ殿! どうなされた?」
「いや、ザックさんのPTメンバーが迷ってたもんだから、案内してきたとこだ」
「ほう、そうであったか!」
そうしてやってきたのはサンゴで形作られたサメであるジンベエさんと、その背中に乗っているハチの翡翠さんと、キノコの生えたカニのタケさんと、2ndのタコになってるイッシーさんであった。
今の会話を聞いた感じではジンベエさんが翡翠さん達をザックさんと合流させる為に連れてきたって感じだね。
「……ザック、やっと合流出来た」
「おう、単独行動で悪かったな、翡翠! だけど、やるべき事はやり切ったぜ!」
「まぁそれは良いですが……無茶は程々と言っても聞かないでしょうね、ザックは……」
「……迷惑をかけるのでなければ好きにすれば良い事だろう」
「だよな、イッシー! ジンベエさんも送ってくれたみたいであんがとな!」
「なに、気にすんな。んじゃ俺はこの辺で失礼するぞ」
「ん? ジンベエさん、俺らと一緒に包囲網の方に行かねぇ?」
「あー、悪いな。俺はそっちじゃねぇんだわ」
「お、そういう事か! おし、ケイさん達、ソウさん、ジンベエさん、頑張れよな!」
どうやらジンベエさんもソウさんも俺らと同じイカとアンモナイトへ対峙していく側の戦力要員であるようだね。サンゴで構成されたHPの無いサメ、頭部にあるイチゴで光を操作するマグロ、こう考えてみると結構な変わり種な戦力だな。
「……コケを背負ったロブスターのケイさんに言われたくはねぇな」
「ま、そりゃ確かに違いねぇな」
「はっ!? 思いっきり声に出てたか!?」
「「盛大にな」」
おぉ、見事なまでにソウさんとジンベエさんの息はピッタリである。まぁ海エリアの人達同士なんだし、普段から面識も多いんだろうね。
「目的地が同じなら、ソウさんとジンベエも一緒に行くか?」
「ま、わざわざ別々に行く必要もねぇか。ソウ、それで良いか?」
「断る理由も無いから別にいいぞ」
「それでは決定であるな!」
「……そういや刹那は、今回のは呼ばれてんのか?」
「……え、ジンベエ殿……? ケイ殿、拙者の扱いはどうなのであるか!?」
「ちょ!? 刹那さん、ちょっと落ち着けって!?」
いきなりジンベエさんがとんでもない事を……って、そういやベスタからは刹那さんの参戦に関しては何も聞いていないような?
そもそもベスタは刹那さんが俺らと行動を共にしているのを……あー、情報共有板で一緒にいるのは把握してたはず。それなら特に何も言及がなかったんだし別に一緒に行っても問題はないとは思うけど……実際のところは不明か。うーん、ベスタに直接確認をしてみる?
「ケイ殿!? 何故無言になるのであるか!? 拙者、今回は参戦不可なのであるか!?」
「……多分大丈夫だとは思うけど、ちょっと確認してくる」
「か、確認が必要なのであるか!?」
「ぶっはっはっはっは!」
「何であるか、ジンベエ殿!? 拙者としては笑い事ではないのである!?」
「いや、悪ぃ! ちょっとからかっただけだから心配すんな。刹那もメンバーに入ってるからな」
「そ、そうなのであるか? では、何故拙者に直接連絡がないのであるか!?」
「ケイさん達と一緒に来るだろうから問題ないだろうって判断みたいだぜ? ま、会ったら伝言を頼まれてはいたけどな」
「肝が冷えたであるよ、ジンベエ殿!?」
「はっはっは! 悪い、悪い!」
「本当にそう思っているのであるか!?」
「思ってる、思ってる」
「そうは思えないのであるが!?」
なんというか、ジンベエさんがからかわなければ特に問題なく判断通りの状況になってた気がする。うん、まぁ海エリアの人で今日が初対面の人もいるし、このジンベエさんと刹那さんのやり取りはどうなのかが分からないからなぁ……。
「ソウさん! 刹那さんとジンベエさんって、いつもあんな感じなのー!?」
「いつもって訳じゃないが、たまにだな。大体、刹那がジンベエにからかわれて、少ししたら普通に戻ってる感じか」
「それなら割といつもの事なのかな?」
「そうなんだろうね。そういう事なら放っておいても大丈夫そうだね」
「ま、それはそうなんだが、今は集合があるからな。おい、ジンベエ、刹那、じゃれ合いはその辺にしとけ! さっさと他の連中と合流するぞ!」
「それはジンベエ殿に言ってほしいのであるよ、ソウ殿!」
「余計な事をしてないでさっさと行くぜ、刹那! 『高速遊泳』!」
「拙者のせいであるか!?」
そんなやり取りをしつつ、ジンベエさんが先に合流場所に指定された岩場に向かって先に泳いでいった。
今のは刹那さんは特に悪くはないけど、ソウさんが言うには割といつもの事みたいだし大丈夫そうかな? ……内心では本気で嫌がってて我慢をしてるとかじゃないと良いけど、まぁその場合は刹那さんが報告をすれば運営が動くはず。
「アルマース殿、今回はジンベエ殿に追いつくチャンスである! 協力を願いたい!」
「……なんか目的が変わってねぇか?」
「そうでもないのである! 急ぐのならば競い合うのが速いのであるよ!」
「まぁそういう事なら別に良いけどな。それじゃ俺らも出発するぞ」
「ジンベエさんを追い抜くのさー!」
「そうなのである!」
「へぇ、そういう事なら俺も参戦すっか。『高速遊泳』!」
「ソウ殿!?」
「ほう? どうやら負けてられないみたいだな。『略:高速遊泳』!」
「ちょ、アル!?」
うわ、アルも一気に速度を上げて、先に泳いでいるジンベエさんとソウさんを追いかけ始めていた。ただ合流場所まで移動するだけだったのに、何がどうしてこうなった!? 一気に動いたもんだから、ザックさん達に挨拶をしそびれたじゃん!? ……まぁ今更言ってももう遅いけどさ。
あ、でもジンベエさんもソウさんも、いつの間にか自己強化の効果が切れているアルも、高速遊泳だけにしているっぽい。……これからの作戦でどのスキルをどう使うか分からないから、温存しているみたいだね。ただの悪ふざけで競争をしている訳ではないようだ。
「そういえば種族によって遊泳速度って結構違うのかな?」
「あー、そういやカジキの人が早いみたいな話はあったよな」
「種族の固有性能があるのである! 他にもスキル構成や、ステータスの値で違ってくるのである!」
「なるほどね」
「でも大して距離は縮まらないよー!?」
「それはそうである! サメもクジラもマグロも、どれも速度が速い部類なのである!」
「……あはは、それなら距離も縮まらないよね」
「そうではあるが、アルマース殿には是非頑張って欲しいのである!」
「そこまで説明しといて、それは無茶な要求じゃねぇか!?」
「……それはそれである!」
うーん、さっきのちょっと刹那さんへの心配は撤回だな。今の流れ的に刹那さん自身が似たような事をしてるから、刹那さんもジンベエさんに対して無茶振りの反撃とかは普通にやってそうだ。
それはともかくとして、本当に殆ど差が縮まらないもんだね。色々と速度を上げる余地はあるけど……こうしてみると模擬戦の実装の選択肢にあったレースも面白そうに思えてくる。この前の雪山で見た競争といい、ちゃんと機能として実装されれば色々と面白そうではあるよなー。
おっと、そんな風に移動をしていたら周囲の様子が大きく変わってきた。地形的にはまだ浅い場所ではないみたいだけど、色んな方向で遠くに見えていた明かりが徐々に近付いてきているっぽい。
「わっ! あちこちから明かりが集まってくるよー!」
「まぁそりゃそうだろうな。位置関係としてはイカの包囲網を作るのはこの近くになるんだろ?」
「そういえばそうなるのさー!」
アルの言うようにアンモナイトは今向かっている集合場所の近くにいて、そこに向かってイカを追い詰めていくんだから、包囲網を作っていくのはこの周辺にはなるんだよな。
そして包囲網を作るのは、今このカイヨウ渓谷にやってきている大多数のプレイヤーである。その大勢のプレイヤーが明かりを灯して移動してきている光景が今の状態なんだろう。
これって包囲網が完成すれば、色んな種族のプレイヤーが明かりを灯して集合しているような状況になるんだよな。……うん、それはそれでかなり壮観な光景になりそうだ。
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