第729話 移動を再開


 光っている手長海老には一般生物を示す緑のカーソルが表示されているから、この手長海老が前に俺がここで手に入れた水草に相当するものになるんだろうね。

 それにしても思った以上に数が多いな。ダイクさんが水の操作で捕獲した分だけでも10匹くらいはいるし、まだ湖の中にも光っている様子が見えているもんな。


「んー、ちょっと数が多いけど、とりあえず1人1匹ずつは確保していくのが先だねー。ダイク、1匹ずつ水の外に出せる?」

「ほいよっと。えーと、ケイさんには必要ないよな」

「……欲しいと言えば欲しいけどなー」

「ま、そりゃそうか」


 そんな会話をしつつダイクさんは魔法産の水の操作を分割して手長海老を掬っている。まぁ数はいても一般生物だし、このくらいはダイクさんにとっては簡単だろう。……まぁ一般生物だから変に弱らせないようにする操作の精度は必要だけどね。


「まずは俺の分を確保してから……ほい、レナさん」

「うむ、よろしい! その調子でよろしく頼むよ!」

「何その口調!? まぁいいや。ほれ、紅焔さん」

「お、サンキュー!」

「あー、ダイクに軽く流されたー!」

「今のってどう反応すんのが正解なんだよ!? ほい、ハーレさん」

「ありがとー! そこはほら、ノリで合わせるのさー!」

「そうだ、そうだー! ハーレの言う通りだぞー!」

「いや、無茶言わないでくれって!? ほいっ、ソラさん」

「ありがとね、ダイクさん。……まぁ頑張って?」

「そうだよ、ダイクー! 頑張れー!」

「……何を求められてんだ、俺は……」


 そうしてみんなはダイクさんから渡された手長海老をインベントリへと片付けていく。とりあえずこれで俺以外は全員が確保が出来たね。まさか人数分が確保出来るとは思わなかったから、良い誤算である。


 それにしてもあえて何も言わずに眺めていたけど、ダイクさんはマイペースなレナさんの相手が大変そうだね。まぁそれでも何だかんだ言いながらもこうやって一緒に行動しているんだから、この2人にとってはこういうのが日常的なものなんだろう。

 レナさんは間違いなくマイペースな人だけど、それでも本気で本当に嫌がる事をするとも思えないしね。なんというか俺の勝手なイメージだけど、ハーレさんとヨッシさんの関係に少し似ているのかもしれない。


「それでレナさん、まだ他にいる手長海老はどうすんだ?」

「んー、これ以上はわたし達が触れたらダメになっちゃうよねー」

「ん? レナさん、ダメになるってどういう意味?」

「ん? あれ、ケイさん知らないの?」

「……多分知らないな」


 そもそも2回目に同じ場所で入手出来る機会自体が今回が初めてだしね。まぁ今みたいな聞き方をされるって事は、まとめの方には既に上がっている情報なんだろう。

 うーん、もっとちゃんとまとめの情報を確認しておくべきか……? でも何でもかんでも調べていくのも、それはそれで楽しみが減るから確定情報を調べるのは必要最小限にしたいんだよね。未確定な検証段階の情報は交換していくけどさ。


「ま、その辺の情報の扱いについては自由で良いんじゃね?」

「僕らも必要最低限しか調べないもんね」

「……もしかして声に出てた?」

「出てたぜ」

「出てたな」

「出てました!」

「うん、出ていたよ」

「やっぱりかー!?」


 くっ、気を付けるようにはしてるつもりなのに、気を抜けばすぐこれだもんな……。染み付いている癖は簡単に取れてはくれないって事か。


「あ、ケイさん、一応言っておくけど、別に知らないのに文句をつけてる訳じゃないからね? その辺は自由だから、無理強いはなし!」

「それは承知してるから大丈夫だよ。で、今回は聞いた方が早そうだから聞くけど、ダメになるってどういう意味なんだ?」

「あ、それは私も気になるのさー!」


 そういやこの件を知らないのはハーレさんも同じか。まぁ今の内容についてはみんなと話した覚えもないもんな。2回目は手に入らないのは最初に見つけた時に判明していたから、それ以上に何かがある可能性は気にしてもいなかったよ。


「えーと、これだけ数がいるなら実際にやった方がいいね。ダイク!」

「確かにやっといた方がいいな。これ、ケイさんとハーレさんのどっちに渡せばいい?」

「ケイさんだと瘴気属性の悪影響で死ぬだろうから、ハーレの方で!」


 ん? 実際にやった方が良いって、ダメになるのにか? というか、纏瘴の効果で瘴気属性がある今の俺は一般生物を触るだけ殺すのか……! その辺の事は覚えとこ。

 それにしてもダメになるのにハーレさんに渡すのは……あ、今までは判明してなかったっぽいこのボーナス状態であれば1匹くらいダメになっても問題ないって判断かも? そういう事なら具体的にどうダメになるのかを見てみようじゃないか。


「ほらよ、ハーレさん!」

「おっとっと! あー!? 光らなくなったー!?」

「なるほど、ダメになるってこういう事か」


 ダイクさんがハーレさんに光っている手長海老を渡したけども、ハーレさんが受け取った瞬間に光が消えてしまった。これは普通の手長海老に変わった……というか、元に戻ったという感じか。


「既に取得済みの場所のを取ろうとしたら、そんな風にダメになるって話だったんだよねー。まぁわたしも見るのは初めてなんだけどさ」

「あー、そりゃまぁそうなるか」


 そもそも大量には手に入らない光る方の進化記憶の結晶だし、同じ場所のを2回目が取れるという条件自体が中々成立し辛いよな。そして運良くその状況になっても、その結果がこれでは誰一人として得が無い。


「ダメになるって情報があったって事は、誰か試したのー!?」

「うん、そうなるねー。桜花さんのとこに確実性の高い情報の持ち込みがあって、それで正確な情報が分かったんだよ」

「へぇ、桜花さんのとこに情報の持ち込みか……」


 うん、思いっきり誰か心当たりがあるよ、その情報提供の人。確実に1個は光る進化記憶の結晶を発見していて、情報共有板ではなく桜花さんへ確実性の高い情報を持ち込む人といえば高確率で十六夜さんだろう。いや、絶対ではないけどさ。

 そしてダメになるという信頼性の高い情報があっても実際に確認が出来ていなかったから、さっきのは検証も兼ねていたってとこか。まぁ数が無いと勿体無いけど、どこかで再現はしておきたい情報ではあるよね。……普通なら誰が再現したがるんだって内容だし。


「さて、これで再現はバッチリだから確定情報に移せるねー!」

「あ、やっぱり再現を兼ねてたんだ」

「そりゃねー。ほぼ確定で問題はない情報の出所ではあったけど、一応念の為にやっとかないと」

「ま、そりゃそうか」


 もし仮に2回目でも取れるのに、取ったらダメになるのという偽情報を流されていたら困るもんな。信用が出来る情報元だとしても、その裏付け検証は確実に必要にはなってくる。そういう意味でも今回のこのボーナス状態はラッキーだったんだね。


「それじゃこれでここでの用事は終わりか?」

「ううん、まだだよ、紅焔さん。まだちょっと試したい事があるんだよねー」

「お、まだやる事あるのか」

「レナさん、何をやる気なんだい?」

「いやさ、わたし達がキャラで触れたらアウトだけど、ダイクの水の操作でなら大丈夫だったじゃない?」


 あ、そういやそうだよな。ダイクさんがみんなに水の操作で光っている手長海老を渡してもダメになる気配は無かったから、水の中に捕獲しているのは大丈夫という事になる。そうなると……。


「そのまま水の操作で、他のエリアまで持ち運べる可能性があるのか?」

「そう、ケイさん、まさしくそれだよ!」

「おー!? 持ち帰れたら、経験値増加の一般生物が他の人に配れるよー!」

「ほう、そりゃ良いな!」

「出来たら良い話ではあるけど、そう上手くいくのかい?」

「それをこれから試さないとね。って事で、そのまま今の操作してる水の中に手長海老を残したまま、ネス湖へ移動を再開だよ、ダイク!」

「おう、任せとけ!」


 そうしてダイクさんの水の操作の中に光っている手長海老を入れたまま、ネス湖に向かって移動を再開する事になった。

 とりあえず持っていくのは水の中に残っていた手長海老を4匹だね。もしこれが上手くいけばかなり良い情報にはなるんだけど、ソラさんの言うようにそう上手くいくとは限らない。でもまぁ、それは試してみないと分からないよね。……厳しい気はしてるけど。





 それからしばらくダイクさんの水のカーペットに乗ったまま移動を続けていく。えーと、現在地はザッタ平原を半分を過ぎて、結構ネス湖に近付いてきたな。


「あー、そろそろ水の操作の時間がヤバいな……。ケイさん、悪いんだけど少しの間で良いから水を頼めるか?」

「ほいよっと」


 この辺はスキルの仕様だし、流石に仕方ない。……瘴気汚染・重度の状態異常のせいで行動値の回復がとんでもなく遅いけど、水の操作を使うくらいの余裕はまだある。てか、瘴気魔法を使ってから既に30分くらいは経ったと思うんだけど、全然状態異常が回復しないのな!


<『瘴気汚染・重度』が『瘴気汚染』に軽減されました>


 え? あ、瘴気汚染・重度って瘴気汚染に軽減されるのか。それにしてもちょうど考えてたタイミングてこういう変化が起こるとはね。


「あー! ケイさんの状態異常が軽くなってるよー!」

「あ、ホントだね。『瘴気汚染・重度』が『瘴気汚染』に軽減されるのって50分とかだったはずなんだけど、ケイさんって『異常回復Ⅰ』を持ってるー? ……って、そういえばケイさんは瘴気魔法も浄化魔法もどっちも使ってたから、持ってるよねー!」

「まぁ『異常回復Ⅰ』は持ってるけど、20分も短縮効果があんの?」

「うん、あるよー! その状態ならもう纏瘴の解除も出来るはずだよ」

「あ、そうか。そういや纏瘴が解除出来ない原因って『瘴気汚染・重度』だもんな」


 まだ『瘴気汚染』は残ってはいるものの、纏瘴の解除を邪魔する『瘴気汚染・重度』ではなくなったんだもんな。よし、もう纏瘴を続けておく理由もないから解除してしまおう。


<纏属進化を解除しました>

<『同調強魔ゴケ・纏瘴』から『同調強魔ゴケ』へと戻りました>

<『同調打撃ロブスター・纏瘴』から『同調打撃ロブスター』へと戻りました>

<『瘴気制御』『瘴気収束』が使用不可になりました>


 よし、これで纏瘴の解除は完了っと。……ただ、まだ『瘴気汚染』自体は残ってるか。まぁさっきまでよりは軽度にはなったし、通常時よりは悪いけどさっきまでよりは少しでも行動値や魔力値の回復速度も上がるはず!


「悪い、ケイさん! 急いでくれ!」

「うわっ!? 水の操作が解除になってんじゃん!?」


 纏瘴を解除出来る状態になってそっちに気を取られたけども、それどころじゃないよ!? 対策を急げー!


<行動値1と魔力値3消費して『水魔法Lv1:アクアクリエイト』を発動します> 行動値 50/77(上限値使用:1): 魔力値 213/216


 うーむ、びっくりするほど行動値は回復してないな。魔力値はほぼ消費してなかったから全快はしてるけどさ……。

 それはともかく、今は急いで対策をしないと! えーと、捕獲する為に掬う時ならまだしも、今は器さえ作ってしまえばそもそも湖の水自体は操作する必要はないな。


<行動値を3消費して『水の操作Lv6』を発動します>  行動値 47/77(上限値使用:1)


 これで水のカーペットを器状に成形して、ダイクさんの支配下にあった湖の水とその中にいる手長海老を受け止めて、なんとか事なきを得たね。ふー、間に合ってよかった。


「おし、それじゃ俺が再発動するから――」

「あ、ダイクさん、このまま俺が運ぶぞ? 瘴気属性も無くなったしな」

「……それもそうだな。そんじゃしばらくケイさんに任せるわ」

「おう、任された!」


 瘴気汚染の回復の兆しも見えてきたし、軽度になった瘴気汚染なら異常回復Ⅰの効果で回復までの時間も短縮にはなるはず。それにネス湖まで辿り着いてしまえば、行動値の回復が遅くても問題がないといえば問題はないもんな。


「なぁ、今更なんだけど、元々ケイさんとダイクさんの交互でやってたら良かったんじゃね?」

「紅焔さん、ケイさんはさっきまで瘴気属性になってたんだよ? 一般生物なら即死だよ?」

「それって直接触ったり、並列制御で生成した水に瘴気収束で瘴気を混ぜた場合だよな。ただの水の操作なら大丈夫だったんじゃ?」

「……あっ、そういえばそうだった!」

「レナさん、過ぎた事は気にしなくてもいいのさー!」

「うん、僕もハーレさんの意見に賛成だね。紅焔も過ぎた事を不必要に掘り返さない! 紅焔はそういう風に言われたいかい?」

「……それは嫌だな。レナさん、今のは悪かった」

「あはは、まぁミスはミスだから気にしなくてもいいよ、紅焔さん」

「え、俺がミスれば結構厳しいレナさんが、それを言うのか!?」

「……そこはわたしも少し反省だね」

「え、マジで!? 明日は槍でも降るのか!?」

「……前言撤回。ダイクは厳しいのが希望みたいだしね!」

「ちょ!? 今のは完全に失言だった!?」


 あー、うん。今のは客観的に見て、反省しようとしたレナさんに対して失礼な事を言ったダイクさんが悪いから、自業自得だね。

 さて、今のやり取りで気落ちしているダイクさんは見なかったことにして、改めてネス湖に向けて出発していこう!

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