第713話 揃わない夕方
紅焔さんがPTというか共同体として火属性の強化という方向性に興味が向いたし、これは結構強力な事にはなってきそうだね。
ソラさんは対人戦はやらない人だから除外するとしても、火属性持ちの強力なプレイヤーがいるのは重要だろう。……ジェイさんのコケやスライムとかのHPが無い種族を倒し尽くすには火属性は有用だしね。跡地は焼け野原にはなるけど、そうしないと倒せないしさ。
ま、これは俺についても似たようなとこではあるか。ロブスターが土台としている分、ちょっと違ってはいるけどね。
それにしても一発芸のお披露目は色々やってんなー。お、あのハチの人は統率のハチを使って水球のお手玉とか面白い事をやってるな。へー、水球は手動で操作してるっぽいのに、ちゃんと統率のハチが跳ね返すように見せているって地味に難易度の高い気がするぞ。
ふむふむ、多分成長体だと思うけど操作が上手い人は新規の人でも普通にいるんだな。ま、後から始める人にも操作が上手い人がいるってのも当然ではあるか。
「そういえばケイさん、他のみんなはログインはまだかい?」
「あー、今日はサヤとヨッシさんは夜からしかログイン出来ないからしばらくいないぞ」
「へぇ、アルマースさんがこの時間帯にいないのはいつもの事だけど、サヤさんとヨッシさんは珍しいもんだな」
「まぁそういう時もあるものだよ、紅焔。それでハーレさんは?」
「ハーレさんはもうちょい後だと……」
あれ? そういや俺は買い物に行ってた分だけ少し普段よりは遅めの帰りだったから、ハーレさんはそろそろログインしてきてもおかしくないんじゃないか? えーと、時間を見てみれば……あ、もうハーレさんは帰っていてもおかしくな時間にはなってる。
「ケイさん、どうしたんだい?」
「ケイさん、どうしたのー!?」
「おわっ!? あ、ハーレさんか」
いきなりロブスターの背中の上に衝撃があってびっくりしたけど、ハーレさんが飛び乗ってきただけか。っていうか、噂をすれば何とやらだな。
「アイスを食べてからログインしてきました! あ、紅焔さん、ソラさん、こんにちはー!」
「おう、ハーレさん、こんにちは!」
「こんにちはだね。ちなみにちょうど今ハーレさんのログイン状況を聞いていたところだよ」
「あ、そうなんだー!? 見ての通り、私はログインしたところです! ヨッシとサヤは今日は夜までいないのさー!」
「それはさっき俺が説明したな」
「そうだったんだねー! ところで、あれって一発芸の取得大会ー!?」
「おう、ちょっと前に始まったとこだが……あ、もう少しで終わりそうだな」
どうやらこうやって話してる間に一発芸の取得大会もそろそろ大詰めのようである。ま、時間帯が時間帯という事もあって、取得希望者はそれほど多くはなかったみたいだね。夜ならもっと多いんだろうけど、まぁそれぞれの人にも都合はあるもんな。
「そのようだね。紅焔、この後はどうするんだい?」
「んー、どうすっかな? ケイさん、ハーレさん、折角だしどっかで一緒にLv上げでもやらね?」
「あ、悪い、紅焔さん。その提案自体はありがたいんだけど、ちょっと調べ事があってさ」
「あー、そうなのか……。ちなみにどんな調べ事だ?」
「僕らの知ってる範囲の事であれば、教えられるけど?」
ふむ、紅焔さんとソラさんがそう言ってくれるなら聞いてみるか。……まぁ種族や属性的に海エリアにはあまり詳しくなさそうな気もするけど、チェックはしてる可能性もあるしね。
「それじゃお言葉に甘えてっと。今日の夜に海エリアに遊びに行こうと思ってるんだけど、Lv20台前半で経験値が美味いとこって知らない?」
「あー、海エリアはさっぱりだ!」
「……Lv20台で経験値が良い場所かい? あ、それなら少し心当たりはあるね」
「ソラ、心当たりあんの?」
「ほら、例の逃亡しているイカが誕生したエリアがそうだったはずだよ」
「あー、そういやそうだっけか!」
ちょっと待って、そこであの逃亡中のイカが繋がってくるのか!? え、それはちょっと想定してなかなかったんだけど、それだと人が多いんじゃ?
「それって確か結構な人が増援に行ってたよな? 人が多くてLv上げにはどうなんだ?」
「あー、そういやそうなんのか」
「まぁ確かにそういう事にはなるね。でも、今日は僕も紅焔もログインしてそれほどは経ってないから、あのイカが今どうなってるかは知らないよ」
「それなら確認するまでなのさー!」
「……イカの最新情報が必要って事か。あ、ちなみにそのイカってどこのエリアなんだ?」
「えぇと、灰の群集の海エリアの東北部にある調査クエストエリアの先にある岩場の多い少し深めのエリアだね。エリアの名前は……確か『カイヨウ渓谷』だったと思うよ」
「なるほど、『カイヨウ渓谷』か」
名前的に地形としては渓谷だけど、海洋の中の渓谷って感じなんだろう。別にソラさんの言葉を疑う訳ではないけど、まとめを確認してみたら比較的戦いやすい場所とは記載はされている。
それとその手前の調査エリアのエリア名も確認しておきたかったから、それも見ておいた。ふむふむ、ここのエリア名は『海の新緑』か。という事は、なんというか海藻が多くありそうな予感がするね。
「それじゃ、情報共有板で最新情報の確認してみるか」
「賛成なのさー!」
「僕らも少し時間が空いているし、一緒に見に行かないかい?」
「おう、俺もそれで良いぜ。それとだ、ケイさん!」
「ん? 紅焔さん、どうした?」
「調べ終わったら時間はあるよな? 模擬戦を1戦どうだ?」
「おっ、いいぞ。受けて立つ!」
ここで紅焔さんから勝負を挑まれるとは思っていなかったけども、紅焔さんとは戦ってみたい気持ちはあるもんな。ハーレさんと2人でどこかウロウロするか、特訓をするか、それか単独行動でもしようかと思ってたけど、対戦をするには良い機会かもしれないね。
「はい! それなら私が実況をやりたいです! ソラさん、解説をやりませんか!?」
「お、良いのかい? それなら僕は解説で参加させてもらおうかな」
「ふっふっふ、その話、聞かせてもらったよ!」
ん? 明らかに唐突に別人……だけど、思いっきり聞き覚えのある声が聞こえてきた。っていうか、考えるまでもなく、普通にレナさんの声だな。あ、飛び降りてきた……って、位置的にエンの枝の上に居たんじゃない!? いや、別に問題ないけどさ。
「レナさん、いきなり飛び降りて……って、あー、ケイさん達か。おっす!」
「あ、ダイクさん。昨日風邪を引いてたって聞いたけど、大丈夫か?」
「おう、すっかり全快したぜ! って、レナさん、俺が風邪を引いたって話したのか!?」
「え、うん、まーねー。体調不良くらいの情報なら大丈夫でしょ」
「あー、まぁそれもそうか……」
まぁ確かに体調不良って個人情報ではあるけど、ログインしてない理由として説明しても問題ない範囲あだろう。俺だって流石にサヤとヨッシさんが学校の用事でとまでは言う気はないけど、ハーレさんが風邪でダウンしたら風邪でログインしてないくらいは言うだろうしね。
まぁあくまでも俺とハーレさんが兄妹であるという関係性を知ってる人くらいには限定はするつもりではあるけどな。
「それじゃレナさんが解説で、ソラさんがゲストでやるー? それかソラさんが解説で、レナさんがゲストー? それともダイクさんもやるー?」
「……ハーレさんが実況をするのを譲る気ないんだな」
「私には解説もゲストも向いてないのは分かったからなのさー!」
「あー、そういやそうだったな」
この前の雪山の中立地点でハーレさんがゲストになった時は、合わずに実況が2人という状況になってたもんな。それを考えるなら一番向いている実況をしたがるのも理解は出来るか。
「あ、ハーレさん、それはそれで良いんだけど、とりあえず今の段階では却下させてもらっていい?」
「えー!? レナさん、なんでー!?」
ありゃ? 話は聞かせてもらったと言いながら乱入してきたレナさんが実況のお誘いを断るとは意外だな。てっきり実況に混ざろうとして乱入してきたんだと思ったんだけど、そうじゃないのか? っていうか、今の段階ではってどういう事だ?
「ふっふっふ、今回のわたしの目的は実況じゃないからねー! という事でハーレ、わたしと模擬戦をやってみない?」
「えぇ!? 私とレナさんで勝負するの!?」
「あー、そういやレナさんは前々からやってみたいって言ってたっけ」
「あぅ!? まさかの展開でびっくりなのさー!?」
ふむふむ、確かにこの展開は予想してなかったけど、レナさんとハーレさんでのリス対決か。まぁ正直な事を言えば結果は見えている気もするけど、ちょっと見てみたい気はするね。
「ケイさん、私はレナさんに勝てる気は欠片もしないのです!?」
「別にそれでも良いんじゃないか? 俺だってベスタ相手に勝てる気は欠片もしなかったけど、全力でやるにはやったぞ?」
「あぅ!? そういえばそうだったー!?」
「ハーレさん、そう気負う必要はねぇんじゃねぇの? 楽しんでこうぜ、こういうのはよ!」
「うー!? それは紅焔さんの言う通りだけどー!?」
「……ハーレは、わたしと戦うのはイヤ……?」
「はっ!? そういう訳じゃないのさ! うー、負ける気しかしないけど、やるだけやってみるよ!」
「ハーレさん、頑張れよ!」
「頑張ります!」
なんだかハーレさんはレナさんに乗せられたような感じはするけども、まぁたまにはこういうのもいいか。
えーと、確か模擬戦の観戦は開始までの待機中ならエンの樹洞の中で見れたよな。俺と紅焔さんの模擬戦と、レナさんとハーレさんの模擬戦の開始のタイミングをズラせばお互いに見れるか?
「さてと、ハーレさんとの対決もしたいんだけど、ケイさんと紅焔さんの対戦も見たいんだよねー? その辺、どうしよっか?」
「それは俺も同感。対戦のタイミングをズラす?」
「うん、それが良いと思うねー。それでどっちが先にやるー?」
「俺と紅焔さんが先でも良いか? ちょっと調べものがあるから、俺らの対戦が終わってからレナさんとハーレさんの対決が始まるまでの待機時間を使いたい。あ、紅焔さんはそれで良いか?」
「俺は問題ねぇぜ」
ちょっと順番が前後してしまったけども、イカの最新情報を得るにはそれほど時間もかからないだろうし、調べるタイミングはこれでいいだろう。場合によってはレナさんとハーレさんの対戦が終わってからにしても問題はないしね。いくらなんでもこれから夜の7時まで模擬戦が続くなんて事もないしね。
「えーと、それじゃケイさんと紅焔さんの対決が終わってからわたし達は受付をしに行くって感じにしよっか。ハーレさんはそれでいいー?」
「問題なしだけど、それなら実況もしたいです!」
「んじゃちょっと、桜花さんにでも話をつけてくるわ」
「うん、ダイク、任せたよー!」
「おうよっと。あ、桜花さんか? ちょっと頼みがあるんだけど今は――」
そうしてダイクさんは桜花さんに手早くフレンドコールをかけていた。なんというかこの今の状況を予測してたかのようなスムーズな手際である。……まぁ元々レナさんがハーレさんと戦ってみたいという事は知ってたみたいだし、途中からこうなる事は予想してたんだろう。
「そういやレナさん、なんでハーレさんとの対決は今なんだ?」
「んー? ケイさんのとこ、夜に全員集合してる時にしか探索に行けてないみたいじゃん? だからこの時間帯でケイさんとハーレさんの2人だけの今ならそれほど邪魔にはならないかなーって思ったからだねー」
「……なるほどね」
揃ってる人数が少ないからこそ、そのタイミングを狙って模擬戦の話を切り出してきたって事か。まぁ夜に全員集合している時に模擬戦の2連戦だと時間が取られるのは間違いないから、レナさんなりに配慮をしてくれたんだろう。
この場合はサヤやヨッシさんやアルが見たがるという可能性もあるんだけど、それだと揃っての活動の邪魔になる事との二者択一になるから、どっちにしても全てに配慮はし切れない内容か。
「おし、桜花さんは問題ないってよ!」
「それじゃわたし達は桜花さんのとこに行くよー!」
「了解です! あ、結局中継は誰が何をやるのー!?」
「んー、ハーレは実況が良いんだよね? それじゃ解説は私がやるから、ゲストはソラさんがやる? それともダイク?」
「あ、それなら僕はゲストは遠慮しておくよ。解説もレナさんの方が上手いしね」
「って事は自動的に俺がゲスト!? まぁ別に良いけど、んじゃ移動するか。『移動操作制御』!」
「「「おー!」」」
どうやら今回の実況の役割分担は決まったようである。ま、紅焔さんと模擬戦となれば油断は出来ないから、その辺の音声は遮断設定にするからあんまり関係ないけどな。
そしてダイクさんが生成した水のカーペットに、ハーレさん、レナさん、ソラさんが乗っていく。とりあえず少しの間は別行動だね。
「さてと、それじゃ紅焔さん、模擬戦の受け付けに行きますか」
「おうよ! 負けねぇからな、ケイさん!」
「そりゃこっちの台詞だっての!」
火属性のドラゴンである紅焔さんとの模擬戦、コケにとっては水属性があるとはいっても種族的には弱点属性の相手ではある。それに紅焔さんは魔法型ではなくバランス型だから、近接攻撃もしてくるだろう。
さて、紅焔さんはどう攻略していくのか良いかな? 昨日思いついたけどまだ実際に使っていない、例のやつを試してみるのもありかもしれない。それか行動値も上限値が増えてきてるし、初手から一気に攻め立てるか?
ふむ、賭けにはなるけどそれもありだな。ともかくやれるだけの事はやってみようじゃないか!
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