第698話 変なヒト……?
さて、目の前にはサヤみたいに爪が外骨格化しているライオンと、牙が異常に長くなっているヒョウの2体倒していく事になるけど……あれ? なんかライオンとヒョウのどっちもHPが減っているし、お互いに睨み合っている状態って妙な感じだな。
「これ、もしかして敵同士で戦ってるっぽい?」
「ざっと見た感じではそうっぽい感じがするな」
ふむ、まぁフィールドボス同士が戦って数が減るという状況もあるようだし、それと同じような事が今目の前で起きていてもおかしくはないか。
ん? 敵のライオンとヒョウだけかと思ったら、草むらの中から何か出てきた。……なんか二足歩行になってるヒトデの人がいるね。
「ぎゃー、まだいるー!? 間違ってランダムリスポーンしたのは失敗ではないかー!?」
「あ、ヒトデの人が走ってるかな?」
「ヒトデが二足歩行で疾走だー!?」
「どうもあのヒトデの人が襲われてるみたいだね?」
アルの水流に乗ったまま、さっきより少し近付いてみると2足歩行で思いっきり走り回っている。なるほど、どうやらライオンもヒョウも狙っているのはあのヒトデの人か。……なんか鱗でもあるのか妙に硬そうなヒトデだね。
てか、そういや俺がコケだけの時に常闇の洞窟でアンコウとコウモリが、俺を食べるので争ってた事があったっけ。うん、今の目の前の光景、普通に獲物側として体験してたよ。
えーと、このヒトデの人は灰の群集の人で思いっきり逃げ回ってるけど、戦闘中なら俺らが手を出すのはマナー違反だしね。ふむ、このヒトデの人の名前は刹那さんで、2ndのようである。
おっ、ライオンの爪での攻撃をジャンプして躱して、ヒョウの噛み付きを側転するようにして躱してるな。へー、器用な躱し方だね。
「もう適応進化は終わったからランダムリスポーンはいらぬのだ! そこにいる者達、拙者を助けてはいただけぬか!」
「へ? あ、別に倒そうとしてた訳じゃないやつか?」
「その通り! 我はこの地にて新たなる進化を終えたとこである!」
んー? なんかこのヒトデの人、喋り方が変な気がするぞ? なんというかフラムが初めにやろうとしてたキャラ作りをしているような雰囲気がどことなくあるような……?
「もう一度お頼み申す! 助けてはいただけぬか!?」
えー、なんか同じ灰の群集といえ、若干関わるのが面倒……ではなく、少し躊躇……でもなく……気が進まない……。あー、うん、もう普通に相手にするのが面倒くさそうと言ってしまえばいいや。そんな雰囲気がしているんだけど、どうしたものか。
「……ケイ、どうするのかな?」
「……正直に言えばスルーしたい気分」
「俺も同感だ」
「私は今回は担当じゃないので、お任せします!」
「私もハーレと同じね」
あ、ハーレさんとヨッシさんは完全に逃げていったよ!? てか、アルも俺と同じでスルーしたいのならなんで周りを回るように水流の向きを変えた!? そのまま泳ぎ去ろうよ、アルのせいにするから!
あー、くっそ。他の群集なら割と冗談抜きでスルーでも良い気はするけど、変な様子があるとはいえ同じ群集の人が助けを求めてきてる訳だし……。軽く見た感じでは決してプレイヤースキルが低い訳じゃないみたいだし、ランダムリスポーンって言ってたから2ndで適応進化を狙っていたっぽいしな。
「……仕方ない、助けるか」
「おうよ。ケイ、PT申請しとけ」
「ほいよっと」
「助太刀、かたじけない!」
<刹那様がPTに加入しました>
流石にこのまま乱入という訳にもいかないので、刹那さんをPTに入れて戦闘開始だな。……ま、基本的には予定通りに行こうか。
「とりあえず刹那さんは下がっててくれ」
「了解した! 【風よ、我が身を飛ばす力となれ! 風遁・風魔手裏剣!】」
「はい!? え、そんなのあったっけ!?」
そんな詠唱みたいなものはこのゲームには一切なかったはずだけど、何言ってんのこの人!?
……えーと、驚いてしまったけど、よく見れば風の爆発魔法を手動操作で指向性を変えて、ヒトデの一部に当てて回転させながら吹っ飛んでいるだけ……?
どう考えても発声で発動ではないけど、なんかオリジナルで詠唱を勝手に作って喋りながら思考操作で発動してるのか? それってかなり難易度の高い行為だと思うんだけど、プレイヤースキルを思いっきり無駄遣いしてません!?
「ケイ、気持ちは分かるが今は切り替えろ!」
「……だな。サヤ、ライオンの方を識別してくれ! 俺はヒョウの方をする!」
「分かったかな!」
まずは決めた手順通りに識別を行ってからライオンとヒョウを倒していこう。……うん、変な人がいるのはオンラインゲームではよくある事。変な方向性が他のプレイヤーの邪魔をする類でないなら、そこは本人の自由だよ。
「識別情報であれば既に拙者が。『硬爪ライオン』は残滓で未成体のLv18で属性はなく、特性は爪撃、俊敏、硬爪となっており、『硬牙ヒョウ』は特性が牙撃、俊敏、長牙」となっていた。……参考になればよいが」
「って、既に識別済みかい!」
「なに、この程度、回避の合間にやれば造作もなき事」
なんというか、この刹那さんって本当に助ける必要があったのかな……? でもPTに入った事でLvが見えたけど未成体のLv8だから、プレイヤースキルが高い人でもLv18を2体相手は厳しいかも……。
えぇい、今はそれはとりあえず置いておこう。とりあえずどっちも物理型って事が分かったから、ここは魔法を主体でやっていくか。……まだ全快とはいかないけど、ある程度は魔力値も回復はしてるしね。
「アルはこのままライオンとヒョウの周りを水流で移動しつつ、余裕があったら水魔法で!」
「おう! ケイの攻勢付与分はしっかりと使わせてもらうぜ!」
「サヤは……今は実は飛べない?」
「……あはは、竜が小型化してるから厳しいかな?」
「……あー、まぁそれは仕方ないか。んじゃ俺が上から支援するから地上に降りてライオンとヒョウの牽制を頼む」
「うん、分かったかな! 『魔力集中』『アースクリエイト』『操作属性付与』!」
さて、サヤが地上に飛び降りて互いに牽制し合っているライオンとヒョウに向かって、走っていく。へぇ、今回は威力重視か。
「『薙ぎ払い・土』!」
その動きに合わせて、互いに牽制していたライオンとヒョウの動きが変わりサヤに飛びかかって行くが、サヤはまず先に襲いかかってきたライオンの爪を躱して側面から腕を薙ぎ払い、それに攻勢付与の水弾が追撃としてライオンを吹き飛ばしていく。
「次はこっちかな! 『連強衝打・土』!」
そして、間髪を入れずにヒョウの方に茶色を帯びた銀光を放ち始めた連続打撃叩き込んでいく。うへー、流石は威力を増したサヤの連撃だな。それに斬撃ではなく打撃の方は振り回されにくい様子だね。
「アル、そっちに飛ばすかな!」
「おうよ! 『並列制御』『多根縛槍』『根の操作』!」
おっと、サヤが連撃の最後でアルの方にヒョウを吹き飛ばして、アルの操作した根がヒョウに絡みつき、その少し後に複数の根が貫いていた。
ほう、アルにかけていた攻勢付与の水球は多根縛槍のほうでは水を勢いよく噴出する形で追撃効果になってるね。そして根の操作の方では、攻勢付与の水球は無くなって根が頑丈になったような気もする。使うスキルの性質によって追撃効果も変わるんだな。……てか、2種類の方法で捕縛かー。
「アル、捕縛はどうだ?」
「しばらくは大丈夫そうだし、ライオンの方を先に始末した方が良いと思うぜ。ヤバそうになったら、このヒョウは新たに水流を生成して流しとくからよ」
「ほいよっと。サヤ、それでいいか!?」
「問題ないかな! 『爪刃双閃舞・土』!」
とりあえずアルの捕まえたヒョウはまともに身動きは取れていないから、先に倒す敵はサヤが相手をしているライオンだな。……ヒョウから倒すとなると、今は竜を小型化していて飛べないサヤに上ってきてもらう必要が出てくるし、それは無駄が出てくるので避けておこう。
さて、俺も動いていくか。今の魔力値は……付与魔法を2回使うくらいが限界だな。……魔法が連発出来る程の魔力値じゃないし、サヤに攻勢付与をしてそこから一気に削っていくのが良いかもね。
「サヤ、攻勢付与をかけ直すから一気に攻めてくれ! 」
「うん、わかったかな!」
ボスではない通常の敵であれば、そこまで無茶な攻撃でなくて充分倒せるだろうし、ここは一気に攻めてさっさと倒すのが正解だろうね。
<行動値7と魔力値21消費して『水魔法Lv7:アクアエンチャント』を発動します> 行動値 63/78 : 魔力値 27/216
これでサヤに再び攻勢付与をかけるのは完了っと。もうここまでの攻防でライオンとヒョウの両方がHPの半分を切っている。
「これで仕留めるかな! 『連閃・土』!」
「あー!? ちょっと残ったー!?」
ちっ、サヤの連閃も俺の攻勢付与での追撃の水刃も直撃したのに、ほんの僅かにライオンのHPが残っていた。でもこれならサヤが追撃するか、俺の方で魔法を叩き込めばそれで――
「ならば、ここは拙者が! 【氷よ、立ち塞がる敵を穿て! 氷遁・氷楔!】」
「いや、それ、ただのアイスニードルだよな!?」
「……なんの事だか?」
「……いや、まぁ良いけどさ……」
どう見てもただのアイスニードルを上から撃ち出して串刺しにしただけにしか見えなかったけど、そういうのが刹那さんのこだわりだというのであれば、俺からは何も言う事はないよ……。今のタイミングで、今の攻撃は決して間違った判断でもないしさ。
まぁとりあえずライオンの方は倒せたからいいや。ちょっと気分を取り直して、次だ、次! まだアルの捕獲しているヒョウの方が残ってるしね。
「アル、まだ捕獲はいけるか?」
「あー、もうちょいはいけるが、そんなに長時間は無理だな」
「……なるほどね。サヤ、残り行動値は?」
「チャージの応用スキルなら2発はいけるかな!」
「ほいよっと」
ふむふむ、サヤの持ってる連撃応用スキルは既に使い切っているから、ここで使えるのはチャージのみか。……よし、攻勢付与はまだあるしチャージでトドメにしていこう。
「アル、そのまましっかり捕まえといてくれよ。サヤはチャージの準備をよろしく」
「おう、任せとけ」
「重硬爪撃と断刀のどっちが良いかな?」
「あー、今は土属性だし重硬爪撃で」
「うん、分かったかな! 『重硬爪撃・土』!」
土属性の場合は少し打撃寄りになる関係上、斬撃の切れ味は落ちるからね。切れ味の良い断刀よりは、斬撃ではあるけど少し打撃寄りの重硬爪撃の方が良いだろう。
さて、多分サヤの一撃で仕留めきれるとは思うけど、さっきは微妙に倒し切れなかったから初めから一手加えておこうっと。
「アル、サヤのチャージが終わったらサヤの真上に行くように投げてくれ」
「そりゃいいが、大丈夫か? 飛翔疾走とか持ってたら逃げられる可能性もあるぞ?」
「大丈夫、大丈夫。逃げられなくはするから」
「……なら良いけどよ。俺も一手加えとくぞ?」
「ん? アル、何やる気?」
「アクアボムで上から叩きつける。……地味に攻勢付与を途中まで消費してる状態で、水魔法を使ったらどうなるのかも気になっててな?」
「あー、それは確かに……。てか、考えてた事は似たようなもんかー」
「……似たような? なるほど、ケイはアクアインパクトを使うつもりか」
「ま、そういう事。それじゃアルがアクアボムを撃ち込んだ後に、俺がアクアインパクトで追撃って形で!」
「おう、了解だ。サヤ、それで問題ないか?」
「うん、大丈夫かな。……少しオーバーキルな気もするけどね」
「まぁ足りないよりは良いって事で」
アルが同じような事を考えていたとは思わなかったけど、こっちの方が確実性は上がるもんな。それにアルも戦って熟練度は稼いでもらいたいし、多少のオーバーキルは問題なし!
「……救援を求めた拙者が言うのは筋違いな気もするが、そちらの2人は何もしないので?」
「私とヨッシは行動値の回復中なのさー!」
「えっと、戦闘と回復の役割分担をしててね?」
「そうであったか!? それは大変失礼した!」
「ところで刹那さんはなんでそんな喋り方なのー!?」
あ、俺もそれは気にはなるけど、ハーレさん、それを聞いちゃうのか!? いいぞ、聞いてやれ、ハーレさん!
「拙者、忍者になるのを目的としてるが故!」
「おー、忍者なんだー!?」
「……あはは、そうなんだ。うん、頑張ってね、刹那さん」
「変に見られるのは承知の上! こだわりとは自分を貫く事なり!」
あ、変な風に見られる事は承知の上でやってるんだ。……まぁ別に迷惑をかけてる訳でもないし、こういうプレイスタイルも自由と言えば自由だもんな。青の群集のスリムさんも、名前はネタだし喋り方も我が道を行ってるしね。
「えっと、とりあえずチャージは完了かな?」
「よし、それじゃアル!」
「おうよ!」
雑談をしている内にサヤのチャージも終わっていたようである。……てか、アルの根での拘束って2重ではあったけどかなり効果があった……あ、いや、そうでもないみたい?
ヒョウの牙が届く所の根は噛み千切られてるから、威力の問題ではなく位置の問題だったようである。これ、突進系のスキルがあれば多分破られてたな。今回は相性が良かっただけっぽいね。
「ほらよっと!」
「あ!? ヒョウが自己強化したよ!?」
あー、このタイミングで自己強化か。……こりゃ、オーバーキル気味になる気がしてたけどちょうど良かったかもね。
「だったらオーバーキルにはならないかもな! おら! 『並列制御』『アクアボム』『水の操作』!」
「だな!」
アルの指向性を操作したアクアボムが撃ち出された後に、少し小振りな水球が追撃として爆発していた。……ふむ、通常発動時の爆発魔法の付与魔法の効果は弾数を1発追加だったけど、途中まで消費してると追撃の1発分の威力が下がるのか。
<行動値6と魔力値18消費して『水魔法Lv6:アクアインパクト』を発動します> 行動値 57/78 : 魔力値 9/216
さて、アルが地面に向かって叩きつけているヒョウに向かって更に水の衝撃魔法でも追撃を行っていく。……ふむ、アルの一撃と俺の一撃で結構削れはしたけども、まだHPは2割ほど残っているね。
残滓といえども、自己強化を発動している状態だと結構ダメージ量が減るもんだ。ま、それでもサヤの最後の一撃を耐えられる程ではないな。
「これでトドメかな!」
そしてその茶色を帯びた眩い銀光を放つ爪での一撃と、その直後の攻勢付与の水刃の追撃によってヒョウのHPは全て無くなり砕け散っていった。
おっ、残滓だった割には経験値増加の効果のお陰で目に見えて経験値が多いな! やっぱり経験値50%アップの効果は大きいね。
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