第697話 移動を再開


 なんだかカニの経験値と引き換えに、食べかけスイカを失ってしまった形になってしまった。うーん、ハーレさんが猛烈に悔しがってるし、少し勿体無い気はするけどこうするか。


「……ヨッシさん、もう1個スイカを食べれるようにしよう。ほら、雪山でスイカを凍らせるとか言ってたのも忘れてるしさ」

「……あ、そういえばそうだっけ。まぁ私は一口も食べれてないし、みんながそれで良いならだけど……」

「っ!? 本当にいいの!?」

「あ、ハーレが復活したかな。とりあえず私は賛成だよ」

「ま、回復アイテムは足りてるし、1個くらいなら良いんじゃねぇか?」

「どっちにしても普段使いの回復には使いにくそうだしなー」

「わ!? やったー! みんな、ありがとー!」


 うん、思いっきりハーレさんが元気に復活した。……どこから来るんだろう、そのスイカへのこだわり。食べ物関係でこだわりがあるのはよく知ってるけど、ここまでスイカに固執してたっけ?


「それと、ハーレ。夏にはお婆ちゃんからスイカを送ってもらえないか頼んでみるから、遊びに来た時に一緒に食べようね?」

「ヨッシ、ホント!?」

「こんな事で嘘はつかないって。……まぁお婆ちゃん次第にはなるけどね」

「やったー!」


 あー、今のやり取りで何となく分かった。ヨッシさんのお婆ちゃんの家で、スイカを食べる事が何度もあったのか。あ、その辺の事もあって、カニを見つけたのはサヤの方が早かった? ……その可能性はありそうだ。

 やっぱりハーレさんは一応色々と吹っ切れたようではあるけど、それでも寂しく感じている事もあるんだね。……ま、その辺はヨッシさんの家庭の都合でどうしようもない面もあるし、ゲーム内のスイカで少しでも気が楽になるならそれでもいいか。


「おっし、それじゃヨッシさん、スイカを冷やしていこう!」

「うん、そだね。あ、その件でアルさんにちょっと移動手段の提案があるんだけど、良い?」

「……俺か? どんな内容だ?」

「えっと水流の操作を使って、水流の中でスイカを冷やしてみたいんだよね。目的地に到着するまで、それで冷やす感じでさ」

「あー、なるほどな。……ふむ、それなら移動操作制御で水流の操作を使って……根の操作も組み込んでスイカを持っておくってのが良さそうだな」

「うん、それでお願い出来ない?」

「おう、それくらいなら問題はないぜ」

「おー! アルさん、ナイスなのさー!」


 ふむふむ、アルの移動操作制御に水流の操作と根の操作を組み込んで、移動と同時にスイカを冷やしていく作戦だね。そして今日の目的地に辿り着いてから食べるという形か。移動操作制御でスイカを持っておくならアルも戦闘には参加出来るし、移動操作制御が解除にならないようにだけ気を付ければ特に問題はなさそうだ。


「よし、それじゃその方向性でいくか」

「やったー!」

「おうよっと。んじゃ登録をし直すから、少し待っててくれ」

「ほいよっと」


 さてと、ちょっと予定外もあったけどこれで本来の目的の青の群集の森林エリアへと向けて移動が再開出来る。まぁアルの準備が終わってからだけどね。


「おし、登録完了だ。みんな、先に乗ってくれ」

「はーい!」

「分かったかな」

「了解。あ、アルさん、スイカは河原にでも置いておいた方が良い?」

「あー、そうしてくれた方がやりやすいな」

「それならこっちに無事な辺りに置いておくね」

「おうよっと」


 俺はアルの上に退避してたけど他のみんなはバラバラの位置だったので、これで全員アルのクジラの上に集合だな。ヨッシさんはクジラの背に来る前に、アルのクジラの先になる無事な河原の方にスイカを置いてきてたけど。


「おし、やりますか。『移動操作制御』!」


 おー、アルのクジラと川の間に水流が生成されていき、それと同時にヨッシさんが置いたスイカを木の根で絡みとっていく。あ、地味に複数の根で網みたいにしてるんだな。

 そしてそれを生成した水流の中へと浮かすような感じでスイカを冷やし始めていく。ふむふむ、これなら安定してスイカを水流の中で冷やし続けられそうだ。


「それじゃこれからは水流に乗って移動していくぞ」

「「「「おー!」」」」


 スイカを冷やす為に空中浮遊で泳ぐ形ではなく、水流に乗っての移動に変わったけどまぁたまにはそれも良いだろう。移動方向は競争クエストエリアの切り替え地点から少し離れて、森に沿いながら東へ向かって移動だね。

 てか今回は水流の高度は低めなんだな。まぁいつも飛んでばっかだったし、たまには地上付近で水流乗って移動するのもいいか。……でも、一応その理由は確認しておこうっと。


「アル、高度は上げないのか?」

「別に上げても良いが、何か忘れてないか、ケイ?」

「……え、忘れてる? あ、そういやまだ経験値の増加は継続中!?」

「ふっふっふ、見つけた敵は殲滅なのさー!」

「せっかくの効果だし、万全に活用するのは賛成かな!」

「それもそだね。えっと、それじゃちょっと前に決めた組み合わせで交代しながらやろっか」

「それで良いだろうが、とりあえずケイとヨッシさん……あー、ハーレさんも結構行動値を使ってるか? 3人は行動値と魔力値の回復を優先してくれ」


 確かに行動値は結構残ってるけど、魔力値は尽きているもんな。ヨッシさんも俺も物理攻撃は出来るけど、2人組で交代しつつやるという意味ではアルの言うように一度回復に専念した方が良いか。……って、ちょっと待った。


「アルも魔力値、ヤバいんじゃねぇの?」

「それについては根の操作やクジラの攻撃を使うから問題ねぇよ」

「あー、なるほどな。サヤ、アルのサポートを頼めるか?」

「うん、分かったかな!」


 よし、これでサヤとアルが攻撃体勢に移行出来るね。……さて、俺はサヤとの2人組に設定してるし、ここは俺も戦闘に混じっていくかー。


「アル、俺も攻撃に参加するからな」

「……ケイは魔力値を回復した方が良いんじゃねぇか?」

「それについては、とりあえずこれで十分!」


 アルの木から生産されたレモンを取り出して、齧っていく。あー、やっぱり酸っぱいけど、これでそれなりに魔力値は回復した。ま、今回は俺は本格的に前線で戦う気はない! それについては基本的にサヤとアルに任せるつもりである。


「あ、魔力値を回復させるのか。……でもレモン1個じゃ足らんだろ?」

「流石に足りなかったから、もう1個食っとこ。……今回は付与魔法で支援するつもりだし、とりあえずこれで足りるだろ」

「あ、基本的にはケイは攻撃はしないのかな?」

「ま、そういう事」

「……そういう手段もあったか」


 ふっふっふ、初めに攻勢付与をサヤとアルの木にかけてしまえば、それで攻撃支援にはなるもんな。それで敵が集まり過ぎてない限りは後方で待機して回復しつつ、ヤバそうなら飛行鎧を展開して近接で突っ込んで行けばいい。

 その時点でそれなりに魔力値が回復してれば魔法で攻撃しても良いしね。これこそ、物理も魔法も可能な同調への進化した個体の戦い方!


「んじゃ、サヤのクマとアルの木に攻勢付与をしてくぞ」

「ケイ、よろしくかな!」

「あー、その後に可能ならクジラに守勢付与ももらえるか?」

「……すまん、それにはちょっと魔力値が足りない。守勢付与は回復し次第って事で!」

「ま、それは仕方ないか」


 アルのレモンが1個で魔力値を10%回復だから、2個で20%回復している。でも付与魔法は魔力値の消費が多いから、そう何発もは無理なんだよね。ま、とりあえず順番にやっていこうっと。


<行動値7と魔力値21消費して『水魔法Lv7:アクアエンチャント』を発動します> 行動値 63/78 : 魔力値 31/216


 少し自然回復していた分もあるけど、付与魔法は今発動したのともう1発が限界だな。とりあえず先にサヤのクマに攻勢付与をかけて……よし、水の球が3つ漂いだしたから付与は成功っと。


「危機察知に反応です! 狙われてるのはサヤだよー!」

「分かったけど、どっちかな!? 『魔力集中』!」

「左前方、下の方からです!」

「『上限発動指示:登録1』『略:尾巻き』『爪刃乱舞』『連閃』!」


 おー、近くの草むらから飛び出てきた少し大きめのトカゲに対して、小型化してサイズが小さくなった竜で巻き付いて捕縛し、そこから連続斬撃を繰り広げていく。ついでに俺の付与した攻勢付与による水刃による追撃も相まって、あっという間にトカゲのHPは無くなりポリゴンとなって砕け散っていった。

 てか、もう攻勢付与を3つの内、2つを使っちゃったけど倒すのを早いよ!? そもそもこの辺の敵ってLvはどのくらいなんだ……?


「サヤ、悪い! この辺の敵のLvが知りたいから、次は識別させてくれ」

「あ、分かったかな」

「それじゃよろしく! 次はアルに攻勢付与をかけとくぞ」

「おうよ」


<行動値7と魔力値21消費して『水魔法Lv7:アクアエンチャント』を発動します> 行動値 56/78 : 魔力値 10/216


 これでアルの木の方に攻勢付与の水球が3つ漂い始めた。アルも移動中に魔力値は回復するだろうから、木での物理攻撃以外でも攻勢付与の効果のかかった水魔法も発動は出来るようになるだろう。

 さて、既にサヤが攻勢付与を消費してしまっているけど、ひとまず俺のやる事はこれでいい。……いや、回復する前に1つやるべき事があるな。


「移動しながらだからそれほど効果もないだろうけど、とりあえず近場だけでも敵の位置は探っとくぞ」

「獲物察知だねー! 了解なのさー!」


 敵からの攻撃に関してはハーレさんが危機察知で対応してくれるから、俺の方で相手から攻撃してこない敵の位置とかを探っておこう。まぁみんなが回復するまではこっちから攻勢には動かないけど、回復してからは経験値の為に積極的に倒していきたいしね。


<行動値を4消費して『獲物察知Lv4』を発動します>  行動値 52/78


 えーと、どれもそれなりに距離は離れているけど、赤い矢印も青い矢印も黒い矢印もエリア切り替えになる南側以外は至る所にある。

 ふむ、とりあえずすぐに攻撃してきそうな位置には敵はいなさそうだけど、このまま東に進んで行けば黒い矢印は2つほどあるね。これは戦う事になりそうだな。


「間近には敵はいないけど、少し先の方に2体いるからそのつもりで! ハーレさん、ヨッシさん、2人ともが全快したら交代な?」

「はーい!」

「うん、わかってる」


 ま、その辺は青の群集の森林に到着したらジェイさんもいるだろうし、聞いてみるのもありだよね。……位置的に灰の群集の俺らが気軽に行ける場所でもないけどさ。

 あ、そういえばみんなに聞いておく事があったんだ。発案がフラムだから少し気は進まなかったりはするんだけど、案自体は悪くないからねー。


「接敵する前にちょっとみんなに意見を聞きたい事があるんだけど、いい?」

「どんな内容かな?」

「あれだな、青の群集から貰った中継権の話」

「ほう? 具体的にどんなのだ?」

「それは気になるのさー!」

「確かに気になるね?」

「まぁ俺の考えた事じゃなくて、フラムからの提案なんだがな? 俺ら灰の群集と赤の群集で1人ずつ出て、青の群集の2人組とのタッグ戦にして共同で中継をするのはどうだって言われてさ。みんな、どう思う?」


 ここでフラムの事を隠しても仕方ないので素直に内容を話してみたけど、みんなの反応はどうだろう? ぶっちゃけ組み合わせを考えるのがややこしくはあるけど、俺としてはありだとは思ってるんだよな。


「あー、赤の群集と灰の群集の中継の権利を同時に使ってしまおうって訳か。誰が出るかってのが問題にはなりそうだが、ありといえばありだな」

「はいはい! 大賛成です! その場合、実況をやりたいです!」

「中継はフラムが共同でって言ってたから、それは多分出来ると思うぞ。……まぁ出る人次第だけど」

「面白そうだとは思うけど、それってどこでやるのかな?」

「あー、それについてはまだ全然考えてない。でもやるとしたら中立地点?」

「……アルさんが中継に関われば、この先の目的地でも出来るんじゃない?」

「……ふむ、やろうと思えば出来るのか?」

「いや、流石に俺1人じゃ少ないだろ」


 んー、それもそうだけど元々青の群集の中継の権利を得た時の対決は、赤の群集も灰の群集も中継していたのは1組だけだしなー。そこについては赤の群集と灰の群集で1組ずついれば十分な気はする。


「まぁその辺はジェイさん達とも相談にはなるし、灰の群集のみんなにも聞いてみる必要はあるんだけど、提案をする事そのものには異論ってある? あるなら止めとくけど」

「俺は別に異論はねぇぜ。面白そうだとは思うしな」

「私も基本的には賛成かな? ただ、対戦をする側には回りたくはないかな」

「あはは、それは私も同感。でもやりたがる人はいるんじゃない?」

「いると思います! そして何度も言うけど、私は実況を希望なのさー!」

「はいはい、ハーレさんが実況したいってのはちゃんと考慮に入れとくよ。それじゃジェイさんと合流したら、その方向性で話を進めていくって事で! ……さて、敵も見えてきたし戦闘準備だな」


 少し今後の方針を話している内に、さっきの獲物察知で黒い矢印の出ていた敵が見えてきた。えーと、ライオンとヒョウってこの組み合わせは風雷コンビを連想するね。

 まぁ普通の色だけど、ライオンは爪がサヤみたいに外骨格化してて、ヒョウは牙が異常に長いみたいだな。この感じだとどっちも物理系だろうけど、さっきの反省とこの辺の敵のLvの確認も含めてちゃんと識別はしていかないとね。


「さて、ぶっ飛ばすか」

「アルは移動操作制御が解除されないように気をつけろよー」

「分かってるっての!」

「それじゃ行くかな!」


 さーて、経験値の増加の効果中だし、サクサク仕留めて経験値を稼いでいきますか! ……とりあえずアルに軽口を言ったけど、冗談抜きで守勢付与をかけておかないとね。

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