第693話 大変な対話


 少し休憩を兼ねて川に立ち寄ったら、黒の統率種のタコの人と遭遇して、ちょっと変な事になってきた。……地味に会話が出来ないって面倒なんだけど、PKでこの状態になるなら会話が出来ない方が相手はしやすいか。変に煽られるような事もない訳だしね。

 まぁ今回については光る進化記憶の結晶が原因みたいだけど、これがデメリットなんだろう。てか、この状態になるって事はこのタコの人って、群集には無所属になるのか。……無所属のタコの人ってちょっと覚えがあるんだけど、まさかね?


 それについては後で一応確認してみるとして、みんなには臨戦態勢を維持してもらっているからこのタコの人との対話は俺が代表してやっていこう。……ま、俺がグリーズ・リベルテのリーダーでもあるしね。


「えーと、とりあえず状況が知りたいしから質問をしていくけど、さっきみたいに○か✕かで答えてもらってもいい?」


 その俺の問いに対して、タコの人はタコ足で○と示してきた。とりあえず俺が質問していくのは了承のようである。さて、それじゃまずは目的から聞いていこうか。


「それじゃまずは目的からだけど、タコの人って無所属だよな? 進化記憶の結晶を受け渡して増援クエストをするのが目的?」


 ん? 少し迷うような素振りを見せてから、✕にしかけて最終的に○にしていた。無所属についてはPKでない限り、否定する要素ではないはずだから、今回は考える内容としては除外して良いとは思うけど……。

 そうなると……ひょっとすると増援クエストも目的の1つではあるけど、本命の目的ではないって事か? よし、次に確認するべき事はそこだな。


「増援クエストも目的だけど、本命の用件は他にある?」


 お、今度は迷う余地なくすぐに○にしてきた。やっぱり他の事が本命の目的なんだな。今の状況で他にある目的といえば……まぁ、大体の想像はつくか。


「本命の用件は、喋れる状態に戻す事?」


 おっと、今度も即座に○にしてきた。ってか、無意味にもう1組のタコ足で○をもう1つ作らんでも良いって!? ……まぁこの状況は意思疎通がどう考えても面倒だから、真っ先にどうにかしたいってとこなんだろうね。

 さて、この状態から元に戻す手段も聞いた覚えはある。確かPKでこうなった人を羅刹が成長体に戻るまでぶっ倒しまくって元に戻したと言っていた。あ、もしかして倒されまくるのが狙いで川を泳いで競争クエストエリアを目指してたのか……? ふむ、ありえそうな話だな。


「タコの人は成長体に戻るまで倒されまくるのでいいのか? その為にこの先の競争クエストのエリアに向かっている?」


 おわ!? 今度は✕にしつつ、他の足で地面を叩きつけ始めていた。え、あれ? なんか怒ってるっぽい? 何か聞き方を間違えたのか、狙いを読み間違えた……?


「え、でも戻す手段は成長体に戻るまで倒すって聞いた覚えがあるかな?」

「私もそう聞いたのさー!」

「……そうだよね?」


 あ、サヤ達の会話を聞いてたタコの人が頭を抱えている。……そういやあのタコの頭っぽいとこって、頭じゃなくて内臓がある胴体なんだっけ? うん、今は全く関係ないどうでもいい話だな、それは。

 どうもこの反応を見る限り、元に戻る条件自体は経験値を減らしまくって成長体まで戻す事ではないようである。んー、でも倒すという点が間違っているとも思えないから、何か他の条件があるのかも?


「……ひょっとしてだが、成長体に戻るまでじゃなくて何らかの進化……この場合は適応進化を発生させる事が元に戻る条件か?」


 おっと、アルのその推論に対してタコの人がタコ足の1本でアルの方を指し示し、それと同時に○を作っている。ふむふむ、この反応を見る限りではどうやらアルの推論が当たっているっぽいね。


「どうやら当たりみたいだな」

「みたいだなー。未成体での適応進化だと……確か死亡100回か?」

「確かそうだったと思います!」


 適応進化の発生に必要な条件の回数は同じ死因で幼生体は25回、成長体で50回と進化階位が上がれば倍の回数に増えていた。ハーレさんから間違っていないという証言も出たので、未成体では死亡100回か。

 Lv低下のペナルティもあるというこの黒く染まった状態では、それだけ死んだらそりゃ元のLv次第では成長体まで戻るよなー。……てか、地味に厳しいペナルティだよね、これ。


 ん? あれ、タコの人が✕を出しながら地面をタコ足で叩きながら何かを訴えようとしているね。……まだ何か間違っている情報があるっぽい?

 あ、そうか。PKに対してはそれくらい思いっきりキツいペナルティでも良いとは思うけど、進化記憶の結晶を持ってただけでこのペナルティは厳し過ぎる。もしかしてだけど、条件が違うのかもしれないね。よし、そこを確認していこう。


「えっと、もしかしてPKの場合とは戻る為の条件が違う?」


 その問いに即座に○を出してきたから、どうやらこの推測は間違っていないようである。いやー、この辺の情報はさっぱりな上に、会話が出来ないとなると面倒だね、本当に……。

 おっと、そうしている内にタコの人が足を3本立てている。……これは何かの数字を示しているのか? てか、この場合だと元に戻る為の適応進化の為の死亡回数?


「3回……はいくらなんでも少な過ぎるから、30回殺される事が条件か?」


 今度も○という事は条件としてはそれで合っているようである。……それにしても100回よりは相当マシだけど30回でも結構面倒な回数だね。

 黒く染まるという事はそれだけのデメリットを負うって事なんだろうけど、この黒の統率種には俺は絶対に進化したくないな……。


「ねぇ、それって私達が1回倒したところであまり意味はないんじゃないかな?」

「あー、確かにそうだな。ランダムリスポーンになるんだろうし、それを追いかけてというのは現実的じゃないか」

「……それもそうだよね。私達が1回分倒しても、まだ29回は誰かに倒してもらう必要があるんじゃ……」

「申し訳無いけど、追いかけて30回は無理なのさー!」

「……だよなぁ」


 うん、確かにタコの人の状況やそれをどうにかしたいというのも分かったけども、ハーレさんの言うように全部の対応は俺らではし切れない。それこそ、大人数に通達して倒してもらえるように事前に根回しをしておかないとどうしようもないだろう。

 あー、それはタコの人も分かっているようで頭を抱えているね。……ん? でも競争クエストのエリアで倒されるのは否定して……って、さっきのは普通に聞き方が悪かったのかも。成長体にまで戻すのと競争クエストエリアに倒されに行くのを同時に聞いちゃってたし、ここは改めて確認しておこう。


「えーと、さっきは聞き方が悪かったから改めて質問。この先の競争クエストのエリアに行って、倒されるつもりだった?」


 おっと、普通に○を出してきたって事は、やっぱりさっきの聞き方が悪かっただけか。まぁ今の状況を考えるとそれが確実性のある手段だもんな。……ただ、そういう突入をするのなら事前に話を通しておきたいとこだよね。


「あ、もしかして私達に接触してきたのは、青の群集に話を通して欲しいからかな!?」

「おー!? そうなんだー!?」


 そのサヤの発言に即座に反応して、サヤをタコ足で指し示しながら○を出している。なるほど、それが俺らに対する本命の用件か。

 確かに俺らなら青の群集の主力……特に影響力の高いリーダーのジャックさんや、青の群集の策略家であるジェイさんを筆頭に交流のある人は結構いるから話は通せるだろう。その辺の接点は結構知られていそうではあるし、それを期待してというとこか。


 別にそれくらいの話をジェイさん辺りに通しても良いけど、一応みんなにも相談しとくか。これ、場合によっては俺らの利益って何もないしさ。


 ケイ    : みんな、この話はどうする?

 アルマース : ……ちょっと悩ましいとこだな。

 ハーレ   : えー、助けてあげようよー!

 ケイ    : いやまぁ、気持ち的にはそりゃそうなんだけどさ。

 ヨッシ   : この場合、進化記憶の結晶の扱いが面倒になるね……。

 ハーレ   : なんでー!?

 サヤ    : 私達に渡したら青の群集としてはメリットがないし、かといって青の群集に渡すなら私達にとっては意味がないからかな。


 ハーレ   : うー!? よく考えたらそうなのです!?


 うん、そこが問題なんだよね。ここでタコの人の手助けをすること自体は反対ではないんだけど、それをするとこの状況の元凶となる進化記憶の結晶の処遇が問題になってくる。この先が灰の群集の占有エリアだったなら問題にはならないんだけどな……。

 でも、ここで断ったら断ったでタコの人は青の群集の占有エリアに向かうのは確実だろうね。……喋れるように戻ってから事後報告的に進化記憶の結晶を対価とする事も可能なはず。うーん、タコの人には申し訳無いけど――


「……ん?」


 なんかタコの人が近くに来て、こっちを見ろという感じで頭を膨らませて自己主張をしている。まだ何かあったりするのか……? って、あー!? そういう事ってあり!? 


「進化記憶の結晶、2個あるのかよ!」

「……マジか」

「これは朗報なのさー!」

「……あはは、そういう事もあるんだね」

「これで問題は解決かな……?」


 思いっきり2本のタコ足で1個ずつの光る進化記憶の結晶を掴んで、俺らに見せつけるようにしていた。うわー、それなら俺らも問題なく手助けは出来るし、青の群集へも話を通しやすくはなる。っていうか、進化記憶の結晶を2個持ってるとか考えてもいなかったぞ……。

 あれ、もしかして2個持ってるのが黒く染まるのを早めた原因とか言うんじゃないか? ……まぁ、この際それは別に良いか。


 てか、タコの人、自慢げにサムズアップ的な感じでタコ足を動かすな! ……うん、まぁ進化記憶の結晶を出してきたタイミングから考えて、タコの人自身が無条件での手助けを求めようとはしてなかったんだろうね。


「念の為、確認だ。その2個の進化記憶の結晶は、1個は俺らに、もう1個は青の群集に渡すつもりという認識で良いか?」


 その問いにタコの人は迷うことなく○を示してきた。よし、そういう事であれば俺らとしては問題はないし、青の群集にもメリットがあるから多分大丈夫だろう。ただ、今の状況では会話が出来ないから、喋れるように戻ってから光る進化記憶の結晶のあった場所を教えてもらう必要があるね。


「もう1つ確認だ。進化記憶の結晶の場所はどうやって教えてくれる?」


 あ、流石にそこは困っている様子だね。……まぁ喋れないとなると、そういう反応になっても仕方はないか。仕方ない、ここはジェイさんにでもフレンドコールして話を通して、タコの人が喋れるようになってから改めて教えてもらう事に……あれ? なんか河原の石を並び替えているけど、これって……。


「えーと、『レナ』……って、レナさんか!?」

「あー! もしかしてネス湖での共同探索の時にレナさんが乗ってきたタコの人ー!?」


 タコの人が○を示しつつ、他のタコ足でまたサムズアップ的な感じの動作をしている。……まさかとは思っていたけど、本当にあの時のタコの人だったのか。


「これは後でレナさんに話を通しておくって事で良いのか?」


 そのアルの問いにもまた○で示してきた。……ここであのレナさんの名前を出して嘘をつくメリットは非常に薄い。それにあの顔の広いレナさんを敵に回すような行動をするのは、無所属といえどもリスクは高いはず。

 これはもうタコの人を信用するかどうかの問題だけど、まぁ騙してきたなら敵認定で後からレナさんを巻き込んで報復でも考えよ。

 

「よし、それじゃジェイさん……青の群集の主力勢の人にフレンドコールをするけど、良いか?」


 返事は○という事なので、異論はないようだ。さて、それじゃフレンドリストを開いて……うん、ジェイさんはログイン中だな。ふー、ログイン中で助かった。って事で、早速ジェイさんにフレンドコールだ! お、すぐに出てくれたね。


「おっす、ジェイさん!」

「ケイさん、どうしました? まだ早いと思っていましたけど、もう辿り着きましたか?」

「あー、それはもうちょいかかる。ちょっと別件で、青の群集に伝えておく必要がある話ががあってさ」

「……お聞きしましょう」

「サンキュー! それでなんだけど――」


 それから手短に黒く染まったタコの人の状況について説明をしていく。もちろん、その手助けの結果として2個ある進化記憶の結晶の1個を俺らが、もう1個を青の群集に進呈するという条件も含めてである。


「……なるほど、そういう事ですか。進化記憶の結晶が手に入るというのであれば、その件は引き受けましょう」

「お、マジか! そりゃ助かる!」

「いえいえ、私達としても得のある話ですし、灰の群集にとっても悪い話ではないですからね。そのタコの方にとってもですので、損している人はいないでしょう? 断る理由もありませんね」

「ま、確かにそりゃそうだ」

「それでは占有エリアの方に通達はしておきますが、タコの方へ伝言をお願いできますか?」

「ほいよ。どんな伝言?」

「……そうですね。『基本的には無抵抗でお願いしますが、対戦を望む人には対戦をしてあげて下さい』とお伝え下さい」

「あー、なるほどね。それはちゃんと伝えとく」

「それでは通達をしてきますので、失礼しますね。あ、もうすぐに入って頂いて構いませんので」

「ほいよっと」

「それではまた後ほど」


 そう言ってジェイさんはフレンドコールを切っていった。ふー、とりあえずこれで青の群集に話は通ったので、問題は解決っと!


「タコの人、青の群集の人から伝言な。『基本的には無抵抗でお願いしますが、対戦を望む人には対戦をしてあげて下さい』だとさ。あと、もう占有エリアに入ってくれて良いってさ。それで問題ない?」


 ジェイさんからの伝言を伝えれば、○を示してきたのでタコの人としても問題はないようである。あ、そこで進化記憶の結晶を持ったタコ足を俺の方に伸ばしてきた。なるほど、受け取れって事だな。


<群集クエスト《各地の記録と調査・灰の群集》の『???』が発見されました> 19/30


 そうしてタコの人から進化記憶の結晶を受け取れば、群集クエストが進行したね。あとまだ11個もあるのか。……あ、そういや光る方の進化記憶の結晶って、他の群集が先に見つけたやつもカウントになるんだっけ?

 あれ、もしかして1個だけでも実は問題なかった……? いやいや、それでも後々に青の群集との交渉が必要になっただろうから2個あった方が穏便に済んだのは間違いないはず。


 あ、そんな事を考えてる内にタコの人がタコ足を振りながら川に飛び込んでいった。そのまま川を流れていって、青の群集の占有エリアに行くつもりのようである。

 まぁ、ちょっと妙な事態ではあったけど、何とか丸く収まって良かったという事にしておこうっと。何だかんだで群集クエストも進んだしね。

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