第678話 忘れていたスイカ


 思いっきり忘れ去っていたスイカの事をハーレさんが思い出していた。それにしてもハーレさんが昨日の段階で言わなかったのも不思議なもんだね? 何か理由があるのかもしれないし、一応確認しとくか。


「ハーレさん、昨日の夜に言わなかったのなんでだ?」

「昨日の夜はケイさんの闇の操作の直前までは覚えていたのさー!」

「あ、そういえばあの時にケイさんが来たら食べようって話をしてたよね?」

「そうなのさー! でも、サヤが急にケイさんに襲いかかったのと、その後の閃光の合図決めですっかり抜け落ちていたのです!」

「……サヤ?」

「……あはは?」


 ちょっとサヤの方を向いてみると、ちょっとバツが悪いのか思いっきり俺から顔を逸らしている。……まぁ別に責める気もないけど、サヤとしても自分自身が忘れる発端になっていたとは思っていなかったようである。というか、あの強襲自体がサヤの独断だった感じっぽいな。


「……過ぎた事は別にいいか。で、結局スイカはどうするんだ?」

「今日の夜にアルさんと合流してから、移動中のおやつにしたいです!」

「あ、それはいいかな!」

「平原を飛びながら、スイカを食べるんだね」

「……まぁそれでも良いけど、アルはその辺はどうなんだ?」


 アルのクジラの上で戦闘の回復でもないのに、スイカを食べるのはどうなんだろう? あんまり気にしない予感もするけど、勝手に決めるってのもな……。


「それなら昨日の夜にハイルング高原の移動中に食べて良いか聞いたけど、良いって言ってました!」

「既に確認済みかい!」


 というか、完全にみんなしてスイカの存在を忘れ切っていたという事なのか。あれか、閃光の合図を決めるのに色々みんなで考えたので、完全に思考の外へと行ってしまっていたのかもしれない。……何かしようと思ってても、急に別の事に集中したら忘れるって事もあるもんな。

 まぁ、アルが良いと言っているならそれで良いか。今日の夜は昨日の続きで、青の群集の森林エリアまで行く予定だしね。その間に食べれば良いだろう。


「んじゃ、スイカについてはまた夜って事で」

「はーい! 今日は絶対に忘れないのです!」

「おー、ハーレさん、頑張ってくれよ」

「……ねぇ、ヨッシ。スイカは冷やせれるのかな?」

「多分氷を生成すれば冷やすだけなら出来るとは思うけど……アイテムとしての加工はどうなんだろ? やっぱり天然の氷が必要……?」

「あ、凍ったスイカも食べたいです!」

「……それなら後でスイカを1個、灰のサファリ同盟に預けてこよっか」

「ちょうど目的地だから、ちょうど良いのさー!」


 アイテムの加工には天然産のものを使わなくてはいけないから、凍ったスイカを作ろうと思えば雪山で放置しておくのが良さそうではある。ちょうどこれから向かうのも雪山だし、灰のサファリ同盟には桜花さんからの届け物もあるしね。

 ただスイカを食べる際に冷たくしたいだけなら、ヨッシさんが氷を生成すればどうとでもなりそうだけどね。スイカはやっぱり冷やして食べたいもんな。


「……スイカを冷やすなら、氷で直接より氷水に入れるほうが良いか?」

「ケイが水を生成して、ヨッシが氷を生成すれば出来そうかな?」

「あ、確かにそれでいけそうだね。でも割れてる部分は……まぁ、それくらいならそのままでも大丈夫だよね、ゲームだし」

「ゲームだから、多少の衛生面は無視出来るのさー!」

「確かにそうだよなー」


 割れてるスイカを氷水に入れて冷やすのが現実としてはやって良いのかよく分からないけど、ゲームの中ならその辺は気にする必要はなしだな。

 それはそうとして、いつまでもスイカの話をしてても仕方ないか。もう氷結草茶を飲んでるんだし、効果時間が勿体無いしね。


「さて、スイカの話はこれくらいにして、中立地点の灰のサファリ同盟の支部に行きますか!」

「「「おー!」」」


 という事で、本来の目的である雪山へと向かって飛んでいこう。流石にちょっと目立つ形状の岩になってるから、平坦な岩にしとこ。岩の後部にロブスターが埋まって、その上が椅子になってるとかはやっぱりちょっとね?


「ちょっと岩の形を変えるぞ。このままじゃ流石に目立つし、せめてロブスターは前に向けておきたい」

「了解です!」

「あ、うん、分かったかな」

「確かに今のままは目立つよね」


 さてとみんなの同意を得られた事だし、岩の形状を変えていこうっと。ただシンプルな岩の板にするのも良いけど、何か実用的な形はないかな……? ふむ、アルは空飛ぶクジラだけど、俺は……あ、そうか。ハーレさんがたまに言ってるあれの形なら、ある意味で最適かもしれない。

 よし、方向性は決まったから形を変えていこうっと。えーと、とりあえず俺のロブスターが前方になるようにして……うん、こんな感じだな。


「わっ!?」

「ハーレ、こっちかな」

「サヤ、ありがとー!」


 おっと、みんなが乗ったままの状態で大きく形状を変えたからハーレさんが落ちそうになってしまったか。まぁすぐにサヤが竜で浮かんで、その上に行ったから大丈夫だったけど。


「……これって、船?」

「ふっふっふ、ヨッシさん、大正解!」


 船というよりは小型ボートって感じではあるけどね。船首部分にロブスターの頭やハサミは出しているし、この感じなら岩の内部に収納したコケを増殖させていけばボートの表面をコケで覆う事も出来そうだ。……意味があるかは別としてだけど。

 いや、そうでもないか? ボートの上部には意味がないかもしれないけど、通常発動でボードの下部でコケを増殖させてグリースを発動させれば、下部からの不意の攻撃を移動操作制御の岩に当てずに滑らせる事も出来るんじゃ……? うん、これについては機会があったら試してみよう。


「それじゃ競艇ケイ、出発さー!」

「……これ、俺は誰かと速度を競うのか?」

「言ってみただけなのです!」

「……なるほど」

「でもこの形状って、普通に速そうかな」

「確かにそうかも……」

「やっぱり速度を競うの前提なのか!?」


 いや、形状的にそう言いたくなる気分も分からなくもないけどね。でも、ロブスターの頭やハサミがある分だけ競艇のボートとは違う気もする。

 むしろこれって岩の部分を膨らませたら潜水艦的な感じになりそうだよな。光の操作も含めたら、もっとそうなりそう! ……いいな、それ。どこかで深海エリアでやってみるのも良いかもしれない。


「って、脱線しすぎ!?」

「あはは、まぁよくある事かな?」

「いつもの事なのさー!」

「それはそうだけど、氷結草茶の効果が勿体無いから、そろそろ本当に出発しよ?」

「ですよねー!?」


 ヨッシさんの言う事が当たり前過ぎるので、今度こそ本当に出発となった。……うん、脱線するのは割といつもの事なのは確かでもあるけどね。

 とりあえずみんなは俺のボート状の岩の上に乗り直して、エリア切り替え地点に進んでいく。ふむふむ、飛行鎧は俺のみでの移動用だけど、これはこれでありだな。


<『ハイルング高原』から『ニーヴェア雪山』に移動しました>


 そうして今度こそちゃんとニーヴェア雪山にやってきた。今日は山頂の方は吹雪いている様子もなく、雪山の全体像が綺麗に見えている。

 あ、そうやって雪山を見ていたら結構上の方で雪崩が発生していた。雪崩が発生した場所より上の方にチラホラとプレイヤーがいるようだね。


「あれが氷塊の操作の取得か……?」

「ケイさん、それは多分違うと思う」

「え、そうか?」

「うん、多分だけどね。あれなら氷塊の操作じゃなくて、氷雪の操作だと思うよ」

「あー、そうか。そっちになるのか」


 ふむふむ、確かに言われてみれば雪崩では氷塊の操作は取得出来なかったもんな。実際に雪崩を起こした際に取れたのは氷雪の操作だったしさ。雪崩は規模に関係なく氷の塊じゃなくて、雪という扱いっぽいな。


「ねぇ、ケイ、ヨッシ?」

「ん? どうした、サヤ?」

「サヤ、どうしたの?」

「ふと思ったんだけど、氷の塊で積もった雪を叩いて、雪崩を起こした場合はどうなるのかな?」

「……あー、そういう手段もあるのか」

「……その場合、どうなるんだろ?」


 別に2つの応用操作スキルを同時に取得する事は不可能ではないから、同時に氷雪の操作と氷塊の操作を取得出来る可能性もあるにはあるのか。


「はい! 私は氷雪の操作と氷塊の操作の両方が取れると思います!」

「俺もハーレさんに同意だな。ま、その辺は灰のサファリ同盟の支部に行ったら聞いてみようぜ」

「私は氷雪の操作はもうあるから、氷塊の操作だけで良いけどね。でも、気にはなるから聞いてみるって事でいい、サヤ?」

「うん、それで問題ないかな」


 さて、灰のサファリ同盟の雪山支部での用事がまた1つ増えたし、サクッとそこまで移動していかないとね。なんか、移動しているだけなのに雑談から用事がどんどん増えていくもんだな。



 そうして灰のサファリ同盟の雪山支部……厳密には灰の群集の中立地点の割り当て場所の一部へと到着した。基本的にここは灰のサファリ同盟の雪山支部の人が仕切っているっぽいので、あんまり分けて考える必要もなさそうだけど。

 氷結洞の入り口の前の大量のカマクラに出入りしている人が結構いるので、栽培している氷結草の採集とかをしてるのかもしれないな。


「……それで、これはどこに行けば良いんだ?」

「えっと、ラックから聞いたけど氷結洞の中の氷柱を集めてた場所から行ける広間が支部の受け付けだって言ってたよー! それか氷柱のある場所に植わってるカグラさんがいる時はそっちでも良いってー!」

「なるほどね。んじゃ、とりあえずカグラさんのとこに行ってみるか」

「「「おー!」」」


 なんというか、この雪山にある氷結洞という場所は思っている以上に重要な場所なのかもしれないね。ま、今は氷属性の松であるカグラさんの方を訪ねてみよう。


<『ニーヴェア雪山』から『ニーヴェア雪山・氷結洞』に移動しました>


 さてと氷結洞の中へと移動してみると、氷柱を採集している人達がいた。お、カグラさんもいるようで……って、何かカグラさんの松の根の先にペンギンっぽいのも採集をしてるな。

 これは、不動種の固有スキルの木で分身体を作るってやつか。地味に初めて見た気がするよ。


「あ、グリーズ・リベルテの皆さん、こんにちは」

「おっす、カグラさん」

「カグラさん、こんにちはー! そのペンギンって不動種の『樹の分け身』での分身体!?」

「えぇ、そうですよ」


 ふむふむ、これが不動種の分身体かー。桜花さんはこの手のは使ってない……あ、違う! 前に桜花さんに見せてもらったから、この分身体を見るのは見るのは初めてじゃないや。


「ケイ、とりあえず届け物を済ませないかな?」

「あ、それもそうだな。えーと、桜花さんから灰のサファリ同盟に届け物があるんだけど、誰に渡せばいい?」

「それでしたら私が受け取るので問題ありませんよ。桜花さんからは連絡は受けていますしね」

「あ、桜花さんからは連絡済みだったか。んじゃ、これはカグラさんに渡せば良いんだな。……数は合ってる?」

「……はい、確かに頼んでいた個数は確認出来ましたので、桜花さんからの瘴気石の受け取りはこれで問題ありません。皆さん、届けていただいてありがとうございます」

「まぁ移動のついでだったし、報酬ももう貰ってるしさ」

「いえいえ、それでも礼を欠いてはいけませんからね」

「……それもそうだな。どういたしまして」


 うん、オンラインゲームだからといって……いや、オンラインゲームだからこそか。相手が自分と同じ人間だという事を忘れちゃいけないよね。

 

 それはそうとして、これでとりあえず桜花さんから頼まれた届け物については完了である。という事で、次の目的をやっていこうじゃないか!


「それでヨッシさんが氷塊の操作を取りたいとお聞きしていますが、間違いはありませんか?」

「あ、はい。そのつもりです」

「そうですか。今は比較的空いていますから、お早めにするのをおすすめしますよ」

「そうなんですか! えっと、ところでその順番待ちはどうすれば……?」

「あ、その説明が必要でしたか。これは失礼しました。皆さんは外に凍っている人工の池があるのはご存知ですか?」

「それなら昨日見たので分かります」


 昨日ネズミの人がスケートみたいにして滑ってたあの人工的な池の事だな。まぁ氷塊を使う必要があるんだから、あそこが関わってくるのは当然ではあるか。

 でも、そこから先はどうすれば良いのか知らないので、ここはカグラさんに教えてもらうのが正解だろう。


「場所が分かっているのなら問題はありませんね。そちらで順番の整理や、取得手段や、山頂への移動を担当している方がいますので、そちらで詳細をお聞きして下さい。あ、今のタイミングでしたら、ラックさんがいるかもしれませんね。少し用事があるとの事で、少し前にそちらへ行きましたから」

「おー! ラックがいるんだー!?」

「知ってる人がいるのなら、心強いかな!」

「あはは、それもそうだね」

「だなー」


 ラックさんがその担当をしているという訳じゃないみたいだけど、よく会う人がいるのであれば気楽ではあるもんな。まぁ何か用事があって行ってるみたいだから、その邪魔にはならないようには気をつけないとね。


「それじゃとりあえず池の方に行ってみるか」

「「「おー!」」」

「先に私の方から、ラックさんに連絡を入れておきましょうか?」

「カグラさん、お願いしてもいいですか!?」

「えぇ、もちろんですよ」

「それじゃお願いします!」


 ハーレさんが即座に反応して、カグラさんからラックさんへと連絡をしてもらう事になった。まぁカグラさんからの折角の厚意だし、素直に甘えさせもらおうっと。

 さてと、それじゃちょっと引き返して氷結洞の外にある凍っている人工の池まで移動だね。そこから順番待ちをして、ヨッシさんの氷塊の操作の取得をやっていこう!

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